すてっぷ・じゃんぷ日記

2021年5月の記事一覧

マッチングの力

X君は言葉のないASDの利用者です。新しい環境では要求がなかなかでないので職員もあれこれ働きかけるのですが振り向きもしてくれません。ところが、他の子のために台の上に積んでおいた自立課題のかごをみてきらりと目の奥が光ったように見えたので、試しにマッチング課題を取り組んでみると、どんどん取り組んでいたという報告がありました。

X君は昔から発達障害のある子どもへの民間療育に通っています。そこで長く「概念学習プログラム」を取り組んでいるそうです。これは、簡単に言えばすてっぷや自閉症の専門療育では良く取り組まれるプットイン教材やマッチング教材、組み立て教材のことです。30年以上前からあるプログラムで主に認知レベルを引き上げ言語に結びつけていくことを目的にしていると聞きます。

すてっぷでは、認知面を引き上げることよりも「一人で取組み完成させる」自立性を大事にしています。これは、就労場面での作業などを意識したものです。もちろん、最初は職員と対面で新しいものに取り組むところは他のプログラムと同じですが、概念形成や言語獲得を狙ってはいません。そして、一人で準備し一人で完成し一人で片づけて「よくできたね」と褒めてもらって自尊感情を高めることを狙いとしているので、つねに職員が付かないとできないような課題はしないことが原則です。

さて、マッチング課題でX君は色マッチングが得意のようで、すぐに仕上げてもっとやりたいという感じです。それならと職員も夜なべしてたくさんのカラーマッチングの教材を作りました。ASDの子どもは目で見てわかるものが好きですから自立課題にはまりやすいです。X君のような子が大勢いると職員も教材開発に俄然力が入るので、ありがたい存在ともいえます。さて来週はどんな新教材ができるでしょうか楽しみ楽しみ。

小さい「つ」の入る言葉 Y先生のアイデア通信3

小さい「つ」の入る言葉、どれぐらい集められる?

Y先生のアイデア通信3

放課後デイ「じゃんぷ」に来ている子どもに、みんなで協力して小さい「つ」のある言葉を集めてくれないかと話すと、3年生の女の子がどんどん集めてくれました。
そして先日100個集めることができて、終了。その女の子が協力してくれたほかの子に手作りメダルを作って渡す用意をしてくれました。一つのことに何日も取り組んでくれた上に、「お母さん、ほかに何かない?」と聞くなど、家でも話題にするほどずっと気にかけていてくれていた、その子のエネルギーにも感動でした。

小学校での読み書きや日記や作文の場面で、よく困るのが小さい「つ」の入る言葉です。
1年生の授業で1~2時間学習するのですが、なかなか定着できず、場合によっては中学生になるまでレポートや感想文を書く際に抜けて記述しているケースもあります。

小さい「つ」音は、ほかの伸ばす音、小さい「や」「ゆ」「よ」等と合わせて特殊音節といって、普段話し言葉では使っているのですが、書く時には特有のルールを知る必要があるのです。
しかし、ルールが定着することなく、経験的にその言葉をみてどっちかなと悩んでいるだけの学習だと、正確には定着されにくいのです。

では子どもたちが、その特殊音節(ほかにもカタカナで書く言葉)のある言葉を日常的にどこまで知っているでしょうか?大人でも小さい「つ」のつく言葉を何個集められるでしょうか?

読み書きのルールと言葉集めが結びついて分かっていくことが大切なのです。繰り返し書いて、プリント学習するだけでは難しいのです。言葉や文を読み書きする時に、こんなルールになっているんだと分かっていることが必要なのです。

言葉が通じない

視覚支援を嫌う支援者が使う常套句に、視覚支援など使わなくても子どもは日課を理解するし、怒ったり泣いたりするのは他に自分のやりたいことがあるときで、そんなことは誰でもある事だから我慢させるのも教育だと説明をする人がいます。たぶん、こういう人は海外等で言葉が通じない体験をしたことがないのだと思います。言葉が通じなくて生活がスムースに行かないと本当に自分が情けなくなり、自尊心が持てなくなり、更にコミュニケーションを避ける悪循環に陥ります。

言葉の通じない環境で最も困るのが相手の誤解です。我々が言語を理解していると現地人に思われることです。そうなると、何の配慮もなくフレンドリーにベラベラ話しかけ、我々がちぐはぐなことをすると逆に怒ったりします。さらに困るのは緊急時です。物をなくした、体の調子が悪い、想定外の事が生じた場合、我々も焦って混乱しているので、いつものカタコトのコミュニケーションも取れなくなります。

誰でも何回か同じことを繰り返せば言葉がわからなくても予測はついてきます。しかし、そのことと今起こっていることを正確に理解したり情報を求められるかどうかは全く違うのですが、言葉がわかってきたと誤解されます。教育や療育の現場で絵カードを使わずに、この子は分かっていると言う人はこれと同じです。「この子はわかっている」と一見子どもを持ち上げたような説明は、機能的なコミュニケーションの困難な子どもには迷惑なだけです。

コミュニケーションは人権だと言われる時代に、機能的なコミュニケーションが困難な子どもに視覚支援をはじめとする代替手段が必要ないと公然と発言する人がいるのはとても残念です。私たちが視覚支援の成果を地道に発信していくしかないと思います。かたくなに視覚支援を拒む人の中には、かつて視覚支援にとりくんでいたのに、周囲の理解がなく傷つけられてトラウマになっている方も見かけます。この国は、同調圧力が強くて事実や内容の議論にならず、自らと異なる意見を認めようとしないくせがあります。それが支援者や保護者を傷つけていくのだとすれば悲しいことです。言葉が通じる人同士でも真意が伝わらないのですから、言葉が通じなければ推して知るべしでしょう。

 

そのタメ口どうします?

低学年のT君がカードゲームの際に、高学年のV君に対してカードを「早よ(早く)配れや!」とため口をたたいたので、指導したという職員の報告がありました。T君は最近仲間とのやり取りの楽しさがわかってきた子どもです。そこで、ASDのT君に今高学年とのやり取りのルールを入れるのは彼のやりとりの自発性を抑制してしまわないか話し合いました。

友達同士で遊んでいる時にため口なのはむしろ自然です。ただ、事業所は年齢の違う子どもたちで遊ぶことが多いので、高学年に対する言葉の配慮が必要となります。しかし、T君にとってはこのルールは結構難しいハードルです。今はT君に「ため口でなく、言葉の最後に「~ね」をつけましょうと教えなくてもいいのではないかと話し合いました。ルールに従順なT君に微妙な対応を教えることで遊びのやり取りの際に混乱して自発性が失われるのを危惧したのです。

ここは、低学年児からため口叩かれても受け流したV君を褒めようということになりました。そして、高学年に憧れる低学年児は言葉まで真似するけど、高学年の人が手本を見せれば、きっとそれも真似をするから長い目でT君らを見守ってやって欲しいとお願いすることにしました。学校では「ちくちく言葉ふわふわ言葉」として通常級でも扱うコミュニケーションルールですが、機械的に教えようとするのではなく、その子によって、所属する集団によって教えるタイミングがあると思います。

子どもの行動に対しての「何故」「どうして」を大事に

S君の支援計画作成会議で行動の切り替えが悪くふてくされていたりしんどそうにすることが多いので、感情の表現カードを教えたいという提案がありました。子どもたちに「うれしい・悲しい・元気・しんどい・好き・嫌い」等の感情の表現を教えることは大事です。その感情を絵で大人に理解してもらい不適切行動を爆発させずに、カタルシスを得ることは、ASD利用者のケースで私たちは経験してきています。

S君の場合、家への帰り際に「帰りたくない」と固まったり、トイレにこもったりするので、同じように感情の表現ができればうまくいくという提案です。でも、S君は「帰るのは嫌だ」と表現しているのですから感情表現ができていないわけではありません。S君は「帰りたくない」その理由をうまく言語化できないことに問題があり、理由を述べる6歳前に芽生える論理力がまだ未成熟だということです。

しかし、S君の言語力を引き上げることは急には難しいです。S君は自力で通所はできるのですが、事業所から一人で帰ると言う切り替え時に、気持ちが行ったり来たりするようです。私たちは、半年間、彼のためらいを見守ってきたのですが、どうも彼だけの力で決断は難しそうでした。5月からは「約束だから、帰りなさい」と促すように変えました。

嫌な理由の言語表出が苦手で「カタルシス作戦」が望めなくても他の方法があります。しんどいと言ったりトイレにこもる彼の行動が、注意喚起だとすれば、良い行動にたくさん注目してその「勢い」で帰宅行動に切り替える、つまり「さすがは高等部!」と褒める事かなと話し合いました。S君はできて当たり前で失敗すると注意を受けるタイプの子どもなので、褒められて注目されることは少ないからです。

何かの手法で成功しても、成功したのはあれこれの手法の前に的確な分析があるからです。間違った手法を使う事で成果が出ないばかりか、子供に悪影響を与える事もあります。支援者の子ども理解が不十分なことが原因なのに、あたかも手法が問題であるかのように「構造化は無駄。視覚支援は意味ない。PECSは効果ない」等と誤解されるのはとても残念なことです。子どもの行動に対して、「何故?」「どうして?」と常に問いかけ最適解に近づこうとする支援者の姿勢が大事だと思います。

ボタンキラキラBOX2号機(改良型)

前回、VOCAが使えるようになるには、まずボタンに興味を持つことが必要で、そのための玩具の開発が必要(ボタンキラキラBOX1号機: 04/22)と書きました。しかし、1号機のボタンはパナソニック製で頑丈ではあるのですが、イルミネーションセットのボタンには適していないオンオフ切り替えのオルタネイトスイッチです。また、Rちゃんは机のものはなんでも投げるので固定しやすい安価なボタンを探していました。

探せばあるものです。アーケードゲーム機用の直径6cmドーム型スイッチが12V LEDランプとモーメンタリのマイクロスイッチ付きで460円という手ごろな値段で売り出されていたのです。ボタン自体も押せば光るパターンと押せば消えるパターンの両方の設定ができます。後者は通常ボタンが光ったままで興味は持たせやすいですが電池がすぐに消耗するので前者にセットしています。そしてかごを机にくくりつければボタンは動かすことができないので投げられることもありません。

さて、これでRちゃんにボタン押しに興味を持ってもらう事はできるでしょうか。これでだめなら部屋中がイルミネーションで光るボタンを考えようかと思っています。法人は大赤字なのにヒットしない玩具開発にいくら注ぎ込む気かと背中に突き刺さる職員の眼差しが痛いです。

 

平等と公平

Pちゃんのお気に入りの紫色のタブレットを高学年のQさんが使っていたので、Pちゃんが「替わってください」と言いました。Qさんは、「まだおやつ食べているでしょ」とPちゃんに言いました。Pちゃんはおやつ食べたら替わってくれるものと思い、おやつを大急ぎで食べて「替わってください」と言いました。「いやや」とQさん。Pちゃんの誤解とは言うもののQさんの御無体な対応に、Pちゃんは大泣きです。その上に、「大声で泣いてはいけません」だのと職員から言われるので、泣きっ面に蜂です。

高学年のQさんには指導が必要でした。言葉が十分伝わらない低学年の子どもには丁寧に伝える工夫やそれが難しいなら譲ってあげることも必要だという事です。そして、誤解を与えたなら謝ってあげることも大事だということです。しかし、小学校高学年の子どもたちの間では、「俺らは、約束を守らされるのに、支援学校の子は守らなくてもいいのは不公平だ」とちょくちょく言っています。私たちは、彼がそう口走ったときはそのまま放置しないことにしています。きっと彼らも他の場面では知らないところで不公平だと誹りを受けているからです。

言葉がわからなかったり、ルールがわからない時期は君たちにもあったはずだし、今だって、漢字が書けなかったり計算が遅かったりする君たちに不公平だからと同学年と同じだけ宿題が出ているかと聞きます。同じように、言葉がわからなかったりルールがわからない支援学校の子どもは、言葉やルールの勉強中だが、その意味がまだ分からない場合に君らと同じルールにすることが公平だと言えるか?と聞いています。

大抵の子どもたちはしばらく考えて「わからん」と言います。それでいいと思います。感情的な平等論が世の中にはあふれかえっています。その中で彼らは生きているのですから簡単に答えは出ないはずです。でも職員は彼らの疑問を聞き過ごしてはいけないし押し付けてもいけないと考えています。平等と公平は考え方の質が違います。民主主義社会は公平を是とする社会です。公平とは何かを何度も考える機会を作りたいと思います。

 

何故調子がいいのか?

「頭打ちの自傷行動も見られるNさんが今日はにこにこして調子が良かった」「発作の続いているO君は今日もソファーの上でじっとしていて調子が悪かった」などと言う調子の良い悪いだけでなくその調子の理由も考えて報告する必要性を前にも書きました。(調子がいい理由: 04/20

調子が良いなら、何故調子が良いのか、悪いなら何が原因だと思うのか、その時の環境の変化や本人の体調の変化(排便・歯痛・睡眠)、支援者の支援の変化なども同時に観察して報告しないといつまでも因果関係がわかりません。喉元過ぎれば熱さ忘れるで、調子が悪い時はあれこれ理由を考えますが、良くなると「調子が良かった」「穏やかだった」で終わりでは支援者の名が廃ります。

理由も想像や憶測ではなく、具体的な事実に基づいた理由が必要です。そのためには、保護者や学校にも協力してもらい、バイタルのチェックリストや人も含めた環境チェックが必要となります。子どもの行動を「何故」と問う姿勢が支援の質を高めていきます。

 

自立課題と個別課題

支援学校のLさんに、自立課題をしてもらったという報告があったので、「なんのために」と聞くと特に理由はないとのことでした。Lさんは低学年の漢字ドリルや計算ドリルをしている人で、週1回の利用者です。課題が適切であれば宿題は自分でできる人にマッチングや分類、組み立てやパズルが中心の自立課題を提供する意味がありません。意味がないのに時間つぶし程度に与えていることに気付いてほしかったのです。

逆に1年生のM君は、じっとしていることがなく衝動的に動き回っている子どもです。彼には一人で課題を一定時間こなす経験の積み上げが必要です。「なぜM君には自立課題を与えないのか」と職員に質問すると、通常学校の小学生グループだから考えなかったそうです。在籍が通常学校の子どもでも支援学校の子どもでも、一定時間座って課題に取り組むことは必要な事です。M君にはまず自立課題で一定時間一人で課題をやり遂げる経験が必要なのです。

子どもの課題内容は子どもの在籍学校で決まるものではありません。その人の特性や経験そして与えられた利用時間で決めるものです。どちらも、新しい通所者だったので、課題が分からずに与えたのかも知れないですが、そのために支援計画はあるのですから半年に一度見るのではなく、毎回ことあるたびに振り返ろうと話しています。個別課題は子どもの特性に応じた課題一般の事を指し、自立課題は一人で自立達成できる課題のことです。

利用回数と支援計画

K君の支援計画について話し合いました。K君は言葉がなくルーティンで生活の内容は理解しますが、絵カードで示してもこれから行う事は理解しにくいようです。でも、マッチングや組み合わせ作業は簡単なものなら一人で行う事ができます。そこでK君の半年の目標を表出のコミュニケーションとしてPECSトレーニングを、理解コミュニケーションとしてスケジュール理解を職員は提案をしました。

そこで、議論になったのがK君の通所回数でした。週1回の2時間程度の療育でその目標が可能かどうかということでした。PECSのトレーニングは他の場所でも短時間でも毎日取り組む必要があるし、できるようになった絵カード交換は生活の中で毎日取り組まないと身につくことはありません。また、絵カードによるスケジュール理解は、まず交渉の理解から始まります。「~したら~」や「~を少し待てば~」という強化子と具体物や絵カードを用いて交渉がわかるようになってから、スケジュールスキルを学びます。これも、別の場所でも構わないですが、毎日使わないと身につくものではありません。学校や自宅で可能かどうかは今のところ未知数です。

そこで、現実的には週1回2時間で何ができるかを職員で議論しました。まず、本人が得意とするマッチングや組み合わせの力を引き出せるような教材教具の用意をし自立的にできることを第一の目標にしました。二つ目は、遊具やおやつにも大好きなものがあるので、日常の生活の中で絵カードで選べることを目標にしました。

重度の方の場合、目標設定は最初は同じ場所同じ支援で実現することがセオリーなのですが、現実はそううまくはいきません。個別サポート加算で重度の方に1日1000円程度の差を作る仕組みでは、事業所全体の障害や年齢などの利用者のバランスをある程度取らないと運営が成り立ちません。また、定員が決まっているので、これまでの利用者を優先すると思ったように利用日が取れないこともあります。本人のアセスメントを行い必要な療育サービスを手配したり、その事業所や家庭、学校連携は本来相談事業所が行う内容です。しかし、手いっぱいの相談事業所にそこまで望めないというのも現実なのです。