すてっぷ・じゃんぷ日記

2021年7月の記事一覧

自立課題は進化させるもの

N君の机の上に山のように自立課題の課題ケースが積まれていたので、これはどんな目的で積まれているのか職員会議で聞いてみました。いつもやっているもので一人でできるから置いてあるとのことでした。そこで、この先このN君の自立課題はどんなプランがあるのか聞くと、みんな「?」と言う反応でした。

個別課題と自立課題の違いについてよく質問を受けますが、個別課題とは、個人の能力に合わせ大人が教えたり一人で復習する課題を指します。自立課題も個別課題の一種ですが、狙いは作業が一人でできるように、一人で自立的に始めて終了できる、文字通り「自立」のための課題です。つまり、自立課題は課題の内容も変えていくし、作業の進め方も単に課題ケースを積んでおくのではなく指示書に従ったり、自分で準備をしたりして変えていくものです。

もちろん、繰り返し同じ課題をすることで速度が上がったり、正確性が向上したりすることは結果としてはありますが、速度や正確性を目的にしているのが自立課題ではありません。速度が遅いなら、それは量が多すぎたのですし、正確でないなら課題のジグ(自立的に作業ができる仕組み)の工夫が足りなかったと考えます。つまり課題を出した大人の側の問題だと考えます。課題を出す大人はN君ならどの程度の作業量をどの程度の時間で仕上げるのか、休憩を入れたほうがいいか、新しい自立課題をいつ入れるのか考えておく必要があります。

一人でできる課題がたくさんあるからたくさん積んでおくと言うのはあまり意味がありません。もちろんASDの人は繰り返しが好きですから、できるものを繰り返すのはそう苦痛でない場合が多いです。ただ、彼らも飽きたり疲れたりします。そんな様子も観察して、どれくらいの休息をしたらいいのか、何回のインターバルが良いのかも考え、変化をつけ進化をさせていくのが自立課題を提示する大人の役割です。N君には仕事が好きで元気に働く大人になってほしいというのが私たちの自立課題の最終目的です。

 

言葉と機能的コミュニケーション

Mちゃんが大声で「いやだー」と叫んでいたので理由を職員から聞くと、昨日プールに入ったのが嬉しくて、今日は朝から入ろうと思い込んできたら、朝からプールはないのでつもりが崩れて大声で叫んでいたというのです。Mちゃんの大声は要求のサインなのですが、別に誰かに向かって言っているわけではないのです。大声で叫んでみたらたまたま実現したことがあったのだと思います。Mちゃんは喋るのですが、それが機能的コミュニケーションに結びついていません。

Mちゃんは冷蔵庫に向かって「ジュース」と叫んでみたり、天井に向かって「タブレットー」と叫ぶことが多く特定の人に要求することがありません。気づいた大人は、それに応えて要求を叶えるのですが、特定の大人が要求を叶えていると理解していないので大声で誰かが反応するのを待っている感じなのです。コミュニケーションは伝える人を特定することから始まります。言葉は喋れても機能的に使う事ができないのでMちゃんはとても苦労をしています。

言葉が喋れても、機能的に使う事が難しい人には絵カード要求が効果的です。渡す人を特定するからです。そして渡された人は要求を叶えるだけでなく、交渉もしてきます。「~してから~しよう」「今日はできないけど明日やろう」等の交渉を同じように絵カードで伝える事ができます。一方的な大声を出さなくてもお互いが共有できる視覚情報を使って社会ルールを教えていくことができるのです。PECSは言葉のない人だけでなく言葉はあるけどうまく使えない人にも社会ルールを教えていく第一歩になるのです。何より穏やかに伝えられるのでお互いにとって有益です。この夏はMちゃんの大好きなビニールプール遊びを使っていろんな交渉ができそうです。

 

川遊び

小学生は毎日川遊びに出かけています。近くでは小泉川、遠くでは水無瀬川まで出かけます。水無瀬川の方は少し遊泳ができるのでわかったのですが、ほとんどの子どもが浮くことができず泳げないのです。仕方がないのでフローティングジャケットを装着させて浮遊感(水面に浮かぶ)の楽しさを体験させることにしました。今後は、ゴーグルで顔つけに慣れさせ、そのまま頭をつけて流されていく楽しさを経験させます。その後ジャケットを外して伏し浮きから吐き出して吸う呼吸法ができたら、あとは勝手に泳げるようになります。

しかし、揃いに揃って支援学級の高学年子どもが泳げないのが気になります。支援学級にもプール指導の時間はあるので、交流学級とダブルで泳ぐ機会があり、しかも、人数が少ないので呼吸法までの指導ならひと夏で教えられるはずです。コロナの影響があったにせよ、呼吸法は低学年で教えられたはずです。水泳はDCD(発達性強調運動障害)の子どもでも、呼吸法さえ身につければ前に進めるようになるので彼らに向いているスポーツと言われています。川遊びでぼちぼち指導していこうと話しています。

嫌な理由

夏と言えば水遊びプールの季節です。子どもたちは水遊びが大好きです。ところが、感染の恐れがあるとして学校プールは全滅です。このブログで何度も書いているように、学校プールの水は塩素殺菌されていますから、その塩素水飛沫が飛び散るプールで感染するなら、外を歩くなと言うに等しいです。さて愚痴はこの辺にして、すてっぷでは大好きな水遊びを実現するために大型ビニールプールを購入しています。小さな子どもたちはみんな大喜びです。みんなキャーキャー騒ぐので近所迷惑を気にしながらの毎日です。

ところが、Lちゃんがビニールプールに入ろうとしないのです。確か昨年は何ともなかったのに、後ろから押しても頑として跳ねのけて入ろうとしません。仕方がないのでプール横で水遊びをして過ごしました。職員で話し合ったところ、他の元気すぎる子どもと一緒にいるのでうるさすぎて入る気がしないのだろうという結論に至り、奮発して静かに遊ぶ人用のビニールプールをもう一つ購入しました。

早速新しいプールに一人で入ってもらおうと車いすから降ろそうとすると、Lちゃんはプールに足もつけようとせず、入らないのです。水が多いのが不安なのだろうかと減らしてみても入らないので、次は何も水の入っていない状況で先にLちゃんに入ってもらいました。そうすると難なく入れたと言うのです。そこに、徐々に水を入れていくとニコニコして水遊びをするのでした。

つまり、Lちゃんは水の入っているプールが嫌だったのです。空っぽで入って水を入れると何ともないことがわかって、次の日からは水が張ってあっても入れるようになったのです。Lちゃんには言葉がないので推測するしかないのですが、おそらく水の入ったプールで嫌なことがあったのかもしれません。水温が低すぎて驚いたとか、何らかの感覚的なトラブルがあって恐怖感が焼き付いて入れなくなっていたのかもしれません。言葉のない子どもが何をどう感じ取っているかを把握するのには、時間を取って様々な工夫や働きかけが大事だねと話し合いました。

集団遊びに熱中

K君が帰ってきて顔をほてらせて「今日はめっちゃ面白かったわ!」と職員に言うので、何のことかと振り返ってみると、職員入れて7名ほどで手つなぎ鬼ごっこをしたことらしいのです。暑いのに走り回ってどこが面白いのだろうと大人は思うのですが、K君には「最高!」だったのです。

学校でも地域でも集団遊びを普段しないので、みんなでギャーギャー騒ぎながら走るのが楽しかったようです。そういえば、最近暑いせいもありますが、公園で徒党を組んで遊んでいる子どもたちを見たことがありません。多くても3人程度でこじんまり遊んでいます。

サッカーチームや野球チームで大勢で練習することはあっても、集団でただ大声を上げながら走って遊ぶという経験はほとんどの子どもたちにありません。ただ職員にしてみれば「暑いから、1回だけにしてくれー」と切にお願いしたようではあります。今日も外気温は日なたは35度を超えています。集団遊びに熱中はいいけど熱中症には厳重警戒です。

 

身辺自立 夏の陣

夏休みに入ったのでIちゃんとJ君の身辺自立について本格的に取り組むことにしました。J君は食事、そして二人とも紙おむつに排泄という行動を便器に変える課題です。J君はおうちと同じようにすれば食べられると考えたので、トースターを持ち込んでトーストにするとすぐ食べました。今後はトースターをフェードアウトして家庭からのお弁当が食べられるように様々な工夫をしてみようと思います。外ではジュースしか飲まないと思っていたのが、この暑さで喉が渇くらしく、持ってきた水筒のお茶も難なく飲めたので、飲食の問題は早く解決するかも知れません。

問題は、紙おむつ排泄の連合をどう便器に変えるかです。事業所の横にビニールプールを設置しているので、プール大好き少年少女の二人をしっかり水遊びさせ、下半身に冷水刺激を与え、トイレで着替える前にビデオタイムにして便器に3分ほど座る中での尿意や便意の偶然性にかけています。この夏中に成功しないと、他の方法が思いつかない限り次の取組は来夏になるので、職員一同ビニールプールに願をかけています。

忘れ物リベンジ

不注意傾向の強い小学生の利用者の忘れ物防止策として(お忘れ防止チェックリスト : 06/29 )を実施しています。前回は、具体物と見合わせずチェックマークだけつけている子どもがいることを発見しましたが、今回は帰宅担当の先生にチェックリストを渡した際にOKをもらうと、「注意の武装解除」をしてしまって、結局事業所に忘れてきてしまう子どもがまだいるのでこれをどう解決するかを職員で話し合いました。

これから、水遊びが多い季節なので、家から水着や着替えを持ってくることになり荷物が増えます。この荷物の増える時期に、どうすれば子どもが自立的に忘れ物ゼロを達成していくか考えました。チェックリストは確かに効果があるのですが、先の「注意の武装解除」を防ぐ手立てが必要ですから、今後は送迎車の前で子ども自らがチェック表を再確認してもらうことにしました。つまりチェック表を車の中に持ち込むのです。

そして、送迎車から降りて自宅に向かう際にもう一度自分で確認して、問題がなければ運転していた先生に返すのです。このほかにも学校から忘れ物がある子がいますが、これは車に常設したチェックリストで子どもが確認申告してから発車するルールにしました。とにかく、忘れ物がないように大人が介入せず、子どもが自発的に行う事が重要なのです。もちろん、目標を決めて忘れ物0シールがチェックリストにたまったらご褒美にします。満を持しての新ルールで子どもたちの成果を待ちます。

注目要求と自立

H君は半年前まで逃げる子でした。目を離したすきに、ドアから飛び出して事業所の前のマンションのエレベーター遊びに行くのです。「エレベーターが好きなのでエレベーターに逃げていく」と当初は職員から聞いていたので、H君が来たときは事業所は施錠していました。それでもダイヤル式のカギは番号を盗み見して覚えて開錠して逃げていくことが何度もありました。

それが、最近では自分から好きな活動の準備をしたり、嫌いではない作業をしたりしてドアが開いていても、飛びだそうとしなくなりました。その理由は、H君の見立てを変えたからだと思っています。H君はエレベーター遊びは好きですが、逃げていくのは注目要求からだと考えたのです。それまでの事業所の子どもの不適切行動への対応は「見ないふりをする」スルー行動でした。しかし、それではどうすれば正しい注目をしてもらえるのか子どもにはさっぱりわかりません。注目しない職員のスルー行動は支援上役に立たないと修正したのです。

「適切な行動をすれば先生は見ているよ」というメッセージを出し続ければ子どもは逃げたりして注目を集める必要はありません。(注意喚起行動 : 2020/09/03)や(注意喚起も強化子に: 2020/09/18)で述べてきたように、注目要求には正しい行動を教えれば子どもは適切な行動を学習していきます。H君は(逃げる子 : 06/24)で書いたように注目要求が高い人なので、それがスルーされ続けた結果バースト(飛び出し行動)してしまった子どもだったのです。

ただ、良い行動を大人が見ている時は適切な行動ができるのですが、大人が注目しないと不適切な行動が呼び起こされるという心配があります。注目要求が続くという事は見守る大人と活動の提供がいつも必要で、余暇を一人で過ごすと言う課題は残っているのです。これは、賞賛やご褒美契約で消えるように思えないのです。H君の一番の強化子は大人の注目だからです。でも、適切な行動がどんどん増えているのだし、注目要求が本当の賞賛要求に変わらないとも言えないし、そもそも一人で過ごす好きなことが見つからない原因もわからないのだから、焦らないで見守ろうという事になりました。

要求の自傷とどうしてもダメなもの

G君が頭を床にたたきつけて怒って(表現して)います。G君とは以前(電池が切れて困っています。:2020/07/17)の言葉のない人です。G君の前にタブレットを持って行き写真を示して何が欲しいのか探りました。扇風機の写真の上でG君の眼差しが光ったように思ったので「扇風機ですか?」と聞くと手を上げてくれました。

困りました。扇風機遊びが好きなのは知っているのですが、G君は危険がわからないので事業所では扇風機遊びは禁止しようという話を昨日したところなのです。「ごめん、G君扇風機はないのよ」と示すと、猛烈に怒りだしてまたまた床に頭を叩きつけます。職員もどうしたものかと、頭を打ち付けないようにG君の体を支えて途方に暮れていました。

G君は、頭を打ち付けるか大声をあげるかして大人を引き付けて要求を叶えてきました。PECSに取り組んで今では数十種類の要求ができるようになってきました。また、機能的コミュニケーショントレーニングと合わせて「待って」や「~したら~」と言う契約にも応じられるようになってきました。

しかし、今回のようにどうしても困るものについては、契約がなりちませんでした。「USB電源で動くパーソナル扇風機ならいいよ」と示しましたか、そんなおためごかしで騙されないぞと拒否されてしまいした。もとはと言えば、昨日までは玩具として職員が彼に与えていたものを今日から手のひら返しにダメだと言っているわけですから、怒るのは無理ないのですが、怒りが沸騰すると最大の要求武器の自傷で訴えてくるので困ってしまいました。

今回は、時間が解決してくれましたが、本人がどうしても手に入れたいものが、何かの問題で禁じなければならなくなったり無くなったりしたとき時、どんな説得の方法があるのか考えてみたいと思います。禁止を伝えるために本人のブックに扇風機を入れておくかどうかも思案のしどころとなっています。しかし、本人の認識できるものをブックの中から削除するのは、表現の自由から考えて違法行為でもあります。しかし、ASDの支援の場合「ダメ」や「NO」表現はご法度です。「こうすればOK」「いいねYES」を使ってルールは教えるものなのです。それが私たちのいう「契約」支援なのです。そうはいってもどうしてもダメなものが世の中にはあります。どうしたものか、G君と一緒に途方に暮れています。

 

夏休みと身辺自立

昨年は感染防止の学校休業が先制パンチになって、夏休みだかなんだかわからない短いお休みでしたが、今年はしっかり1か月間の休みがあるので、「すてっぷ」としても一日プログラムを充実させようと考えている最中です。朝から夕方まで支援ができるということは、生活上の様々な問題に一貫してアプローチすることができます。

身辺自立の課題では、食事や排せつについて計画的に取り組めます。学校で給食を食べない子どもや、排泄は紙おむつにすると決めている人など、1日プログラムの日は食事や排せつの機会が多くなります。毎日とは言わずとも、長い時間職員も本人の様子が観察できますから手立ても打ちやすくなります。

このブログでは、食事のこだわり問題は平日では機会がないのであまり書いていませんが、ASDの子どもの強い偏食は少なくありません。筆者は焼きそばだけで成人した人を知っていますが、他にもふりかけなしの白飯だけでは絶対に食べない人や、炊き立てでないと食べないので炊飯器を持ち込んで毎日昼食をしていた人等ハードな人を体験しました。

これらの人はどちらか言うと味や食感のこだわりで家庭でもどこでも食べないと言う偏食です。ただ、小さい時期の食の問題は、かなりの割合で場所のこだわりがあるようです。これは食に関わらず排泄でも起こり得ます。つまり、家ではできているのに学校や施設でできないというものです。ほとんどの原因が、そこで食や排せつについて本人には嫌な出来事があったというものです。

つまり場所と食事や排せつやが結び付いて、恐怖感や不安感が高まってできない場合が多いです。もちろん、大人には悪気はありませんが、食事や排せつへのアプローチが本人には理解できず、ほとんどの子はコミュニケーションに課題がありうまく表現する力がないので怖い体験となって記憶に焼き付く場合があるのです。

ですから、そうした原因を抱えているかもしれないと慎重にアプローチすることが大事です。すてっぷでの昼食が初めての人は最初の環境設定やアプローチが重要なので保護者の方の協力がいるかもしれません。一度口にしてしまえばほとんどの子どもは食べられるようになるので、食事は最初の準備が重要です。逆に言えば、最初で失敗すると長い取り組みになる事が多いです。

オムツへの排泄を便器に誘導するのも同じようなことを留意しておく必要があります。こちらは定時排泄ではほとんどうまくいかないことをブログに書いてきました。(紙おむつトイレ:04/05)(トイレ考:05/07)こちらは、便意の神様が味方に付いてくれないとなかなか難しいものがあります。ご家族と連携しながらどうすればうまくいくのか、職員一同今頭をひねっている最中です。気張りたいと思います。

 

ホワイトボード

Bちゃんが、全体のスケジュールを書いたホワイトボードの前でゴソゴソしているので見に行くと、帰りの配車表を並べ替えていました。C君はD先生の車、EさんはF先生の車でと自分の思いついた配車に変更しているのです。(スケジュールの間違った使い方 : 06/17  )で紹介した子はBちゃんの事です。つまり、相変わらずスケジュール表が自分で貼り替えれば思った通りになる魔法の表と理解しているようです。でも、不思議なことに、今回は自分の配車は触らないのが、新しい変化です。これは何故だかわからないのです。

 Bちゃんの様子を非常勤の職員が報告してくれたのですが、その時どう対応したのか、職員はBちゃんの行為をどう思ったのかは送迎時間の最中なので聞くことができませんでした。子どもたちの様子を事細かに報告してくれることは大事ですが、職員の対応や考えも教えてもらえると、さらに助かりますとお願いしています。それは、職員の対応次第で気になる子どもの行動の多くが強まったり弱まったりする原因になるからです。

 Bちゃんの今回の行動についてはどう対応すればいいのか、正解はわからないです。しかし、職員のリアクションが分かっていれば次のBちゃんの次回の行動が分析しやすくなります。現段階の推測では、これはBちゃんの再現遊びの一種で、不適切行動とまでは言えないと考えられます。また、自分の配車を触ると注意されたので他の子どもの配車を変えているのかもしれません。

しかし、ホワイトボードを触られるのは他の子どもの支援や業務上問題があります。どう対応すればいいのか、Bちゃんの支援にアイデアが求められていると思います。すぐに思いつくのは、配車はパーソナルな情報だから全体に示す必要はなく個人スケジュールにする事です。しかし、それでは理解できる子には誰と乗って行くのかの情報が提供できません(そこだけ口頭報告という手はありますが)。貴方ならBちゃんや他の子をどう支援しますか?

 

子どもの言葉

A君が今日は公園に行きたくないというので職員が理由を聞いてみました。ただ、A君が言葉を思いつかないので、職員が当てることになりました。「タブレットがしたいの?」ときくと「ちがーう!」と言うので何だろうとあてずっぽうに言っているうちに、もしやと思いタブレットの中に入っているアプリの名前を言ってみました。

「数字の歌?がしたいの」「そう!数字の歌がしたいの」な~んだ、やっぱタブレットかぁ、という事でA君はタブレットで遊べたわけです。職員会議では、でもそれって「子どもあるある」だよねという話になりました。大人の「タブレット」の概念は、タブレット本体だけでなく、タブレットの中にあるゲームアプリも、それで遊ぶ行為もすべて総称しています。でも、子どもによっては「タブレット本体」しかイメージできないことがあるのです。「タブレット」と特定のアプリで遊ぶことは結びついていないことがあるのです。

普通は、「タブレットしたい?」から類推してそのアプリで遊ぶことと同義だと考えていくものですが、厳密にアプリ名で言わないと遊ぶことと結びつかないこどもがいます。状況や場面から言葉の言外にある意味をつかむ力を、メタ認知と言います。言葉は教えられますが、言外の意味は文字通り言外なので教えることができません。「違う」と言う子どもの言葉を大人が「真に受けた場合」は、提示したものと別の類型のものを提示していくので、余計に通じ合えない時間が長引いてしまう場合が良くあります。

でも、この子はメタ認知が弱いなと知っていると大人側の修正は早くなります。子どもの受け止める言葉も発する言葉も、その子のメタ認知レベルをとらえるスキルを大人が持っていれば、案外スムースにコミュニケーションができると思います。

 

内省と自尊感情

職員会議で「今日は感動しました」とY君の報告がありました。Y君はこれまで人が困っていても我関せずで、友達のために助けてあげてと言っても「なんで俺がやらなあかんねん」と文句を百倍にして返して、自分が客観的にみんなにどう見えるかなど考えもしてないようでした。そしていつもぼやいているのは「俺なんかあほやし」「働くところも将来ないし」と自己イメージも大変悪い子どもでした。

ところが、先日1年生のZ君がお気に入りのタブレットをしようとしたらみんな貸し出していてなかったので、職員が誰かZ君に貸してあげて欲しいと全体に声をかけたのです。結局、他の子どもが使い終わったのでZ君は泣かずに済んだのですが、Y君があとで職員に向かって、しみじみと呟いたそうです。

「あんな、Z君にタブレット貸してくれる人って聞こえた時、6年の俺が貸してあげなあかんと思ってん。思ってんけど、でもまだ使っている最中やったし、『貸してあげる』って言えなかった。あかんなって分かっているのにできなかった」と職員に伝えたそうです。「君の揺れる気持ちは良くわかったよ。今度頑張ろう」と職員は言葉を返したそうですが、Y君はまだ内省を続けている感じでした。

Y君は近頃「ありがとう」をいつも言うようになっているのが職員の間でも話題になっていました。「Y君、ディスるのがなくなって柔らかくなったね」と言われていたのです。これまで叱られてばかりだったのが、簡単な約束でいいので、できたらご褒美あげるのと同時に思いっきり褒めようと言うのがこの半年の支援方針でした。それが効果があったのかどうかは分からないですが、環境変化として大きく変わったのは約束した行動を褒めることを半年積み重ねたことです。

自尊感情の低い人は、そもそも褒められ経験がありません。しかも、発達障害があると、他の子どもには簡単なことでも、不注意や忘れ物で悪気はないのにいつも叱られる事が続きます。そんな彼らに、活動の前に「○○をしよう」と約束をして成功したらご褒美と共に強く褒める事を続けていくと、自尊感情は少しづつ高まっていくのです。ただ、年齢が高くなればなるほど、叱られ体験が多ければ多いほど自尊感情の積み上げに時間がかかる人は多いようです。

ご褒美について訝られる方もいますが、他者感情の読み取りの苦手な人にはご褒美の嬉しさ(感情)と褒め言葉を結びつける連合の過程が必要だと考えられます。これは失敗に罰や叱責を与えるより、永続的な効果があることが科学的に証明されています。褒められて嬉しい感情体験で徐々に彼らの心は快復していきます(感情を学ぶ:2019/11/05)。そうして自尊感情が高まれば、「良き自分」がどういう自分なのかわかってきますから、自分の課題も見えてくることになります。Y君の言葉は「良き自分」を目指した内省の言葉だったのだと思います。

終了の伝え方

X君が休憩時間にパソコンでYoutubeを見ている時、休憩時間の終わりをどう伝えればいいかという話を職員でしました。X君はスケジュール操作ができる人ですから、スケジュールに移動するきっかけをどう作るかという話です。これまでは、一律にタイマーを使っていたのですが、タイマーでも声掛けでも本人がわかるなら、声掛けをすることにしました。タイマーセットしても準備ができていない場合が多いからです。

本来タイマーは、時間の見通しを数字のカウントダウンで知らせるところに意味があります。タイマーで時間経過が読めないなら、アラーム音が声掛けに変わるだけで終了のキューとしては違いはありません。X君には、次の作業が始まるよと、Youtubeを見ている本人の目の前に作業の手順表も示して知らせているとのことでした。「休憩終わりだよと言うだけでは伝わりませんか」と聞くと、試したことがないけど多分わかるはずという事でした。

視覚支援としては次にすべきことを示すのは間違いではないのですが、スケジュール行動が確立している人なら作業手順表を目の前に示さなくても、自分からスケジュール表に向かえばわかる事です。必要以上の支援はおせっかいかも知れません。なんでも目の前に出せばいいわけではなく、本人に視覚的にもうるさくない程度に、自発的に日課を知る支援をするのが、青年期の配慮としては大事です。そして、もし本人がもうちょっと待ってという素振りを示すなら、交渉する良い機会ができたと考えればいいと思います。

 

絵カードを指で叩く

W君は公園でブランコを先生に押してほしいので、ブランコ横に貼ってあるブランコカードを剥がして先生に渡し、「ブランコ押してください」と自発の要求コミュニケーションが何度でもできるようになりました。お母さんも公園で写した動画を見て、こんなことができたんですねと喜ばれています。

ところが、事業所に帰ってきてジュースの絵カード要求ができません。絵カードを用意しても机の上に置いた絵カードをトントンと指でたたき続けているのです。「おかしいなぁ、公園ではきれいに絵カード要求ができるのに何故かな」と職員は不思議がります。

自分の欲しいものを絵カードを渡して伝えるPECSのフェイズ1は、できない時は子どもの後ろにプロンプターと言って、身体プロンプト(手を持って絵カード要求の行動をさせる)を行います。受け手のコミュニケーターは子どもの欲しいものを持って、手の中にカードを渡してくれたら、欲しいものをあげるという行動をします。

この時に、プロンプターやコミュニケーターのトレーニングを受けていない大人は、子どもが絵カードに気付くように絵カードを指さしたり、叩いたりして子どもに教えようとする人が多いのです。そもそも、子どもには指差しの意図がわかりませんから(わかっている子は言葉が出ている子が多いです)、同じように絵カードを叩きます。そして、そのあと手を持たれてカードを渡し、好きなジュースが出てくるのです。

つまり、ジュースが欲しい時は、カードを叩けば、そのあとは自動的に大人がやってくれるとW君は思ったのでしょう。けれども、まだ疑問が残ると職員はい言います。「ブランコはプロンプターもいないけどできています。ジュースのストローも自分でストローカードを取ってきて要求します。」ジュースだけができない理由がわからないと言うのです。

「もしかして、フェーズ1だから、絵カードは「ください」カードを使っていないですか」と聞いてみました。その通りだと言います。それが原因でした。「ください」カードは手を伸ばしている様子のカードです。それを示されたW君は「ブランコ」や「ストロー」や「自動車」でもないこのカードは何だろうと思い、躊躇したのです。そこへすかさず、大人の「絵カードトントン」です。そらそうなるよねと全員納得でした。

W君は絵カードの弁別ができるのです。弁別の出来る子に、意味不明のカードを渡せとやっていたわけです。フェーズ1は絵カードの弁別ができなくても取り組むので、私カードはなんでもいいと言うのがマニュアルには書いてあります。しかし、弁別ができるW君には「なんじゃこれ?」だったのだと思います。今日はジュースの絵カードを準備しました。

将棋ブーム

すてっぷの小学生らの間では、ちょっとした将棋ブームになっています。S君はおじいちゃんから定石を教えてもらい結構強いです。T君はNHKの将棋番組を見るのが趣味のようで、誰に教えてもらったわけでもないのに指し方は完璧で、相手をさせられた将棋初心者職員の指し方が違うと怒られて恐縮しています。他の小学生たちは、STコンビも師匠にして指し方から教えてもらっています。

ただ、二人が毎日来るわけではないので、一人づつ教えてもらう事になります。じゃんけんで勝った子が「師匠」から手ほどきを受けます。「あー、僕も将棋したかったなぁ」とU君がいうので「誰と?」と聞くと「Vさんと将棋したかった」と言います。「ところで、U君将棋知っているの?」と聞くと「全然知らん」というのです。なんだVさんと一緒に遊びたいってことだねと大笑いでした。

この頃はタブレットのAI将棋ソフトもあるので、コンピューター相手で覚えてもらおうとしたのですが、誰と指すかでモチベーションが違うので、そういう気持ちは大事にしていきましょうと職員間で話し合いました。ひょっとすると、すてっぷの藤井聡太が出てくるかもしれません。子どもの才能は引き出してみないとわからないものです。

今日 1000万ビュー達成!!

このブログの閲覧数が1000万ビューを達成しました。昨年の12月に指数関数的に閲覧が増えている(祝500万ビュー!: 2020/12/09)と書きました。前回は500万ビューに到達するのに20か月間、今回は500万増えるのに7か月間とどんどん加速しています。現在1日に約3万回の閲覧数で1か月に90万ビューですから、来年の今頃には2000万ビューに達する勢いです。

毎日の子どもの事や職員の気づきを掲載する「すてっぷ・じゃんぷ日記」は、じゃんぷが開設してから、学習障害や読み書障害の子どもたちの事についての内容が新たに加わっています。すてっぷは主にASDや機能的コミュニケーション、知的遅れのない発達障害の子どもの社会性が記事になっています。放デイであればどこの事業所でも課題になりそうなことが掲載されているので関係者にはよく読まれているのかもしれません。学習障害の放デイの対応はいまだに「補助学習」と認識している関係者も少なくないですが、学習障害には専門的で日常的、継続的な療育支援が必要です。地域総ぐるみで支援してこそ効果が表れることを発信していきたいと思います。

「みんなちがってみんないい」は発達障害に関する福祉や教育に関係するニュースや書籍の感想をコラム風に掲載しています。こちらは、保護者の方や教育関係者の方もよく読まれているのかもしれません。メディアのニュースは最近はほとんどがウィルス関連の記事ばかりで、選択にとても苦労しています。ここでは、もっと発達障害に関する、就学前や成人期のニュースをとり上げていきたいと考えています。引き続き皆さんの応援をよろしくお願いします。

 

共同作業

大人が声をかけてくれるまで動けない症状、指示待ちの強迫性については、(自立課題と指示待ち:05/15)に書きました。このブログの検索窓で、「指示待ち」で検索をかければ、この記事を合わせて10件ほどの記事がヒットします。指示待は受動型のASDの人に多く、表出コミュニケーションの不全から生じる事が原因としては多いのですが、これが強迫症状と結びつくとお箸の上げ下げまで指示を待つようになったりするものもあります。ただ、強いこだわり(強迫性障害)の場合は薬物治療での対症療法しかなく、長い時間がかかるケースも少なくないので、あまり本人を急がせたり否定したりせず受容的に対応することが大切だと書いてきました(指示待ちとカタトニア:02/25) 。

R君の指示待ち傾向は、さらに強まっていて、最近では缶潰し作業でも、空き缶を足でつぶすきっかけの言葉を求めるようになっています。おやつの時間でも「食べていいよ」と本人に声掛けするまでは、ひたすら待つようになっています。職員によって声掛けのタイミングが違うので余計に困っているようでもあります。職員会議で相談した結果、R君に一工程づつ声掛けをするような作業では自立性を目標にしているとは言えないので、この症状が収まるまでは、声をかけなくていいい取組にしようということになりました。

缶潰しは職員が行うことにして、R君は箱の中にある空き缶を職員に渡すという共同作業にしました。彼が促すたびに「つぶしていいよ」と一回一回声をかけるより、「空き缶取って」と声掛けするほうが、同じ行動のキュー(合図)を出すにしても自然だと考えたのです。この作戦は今のところ成功していますが、もう少しこれを工夫した形で共同作業にならないかどうか検討中です。

プログラミング学習

今年度より、小学生を対象にプログラミング学習に取り組んでいます。プログラムソフトは、学校でも使うスクラッチです。スクラッチ(Scratch)は、マサチューセッツ工科大学(アメリカ)メディアラボによって開発された、8歳から15歳の子供向けプログラミング開発環境です。

通常、プログラミングといえば構文、アルゴリズムを覚えながらひたすらキーボードを叩いてコードを書いていきます。しかし、プログラミング自体未経験な子どもにとっては、このような作業は覚えることが多く、学習の難易度が高いという問題があります。そこで開発されたのがスクラッチです。

スクラッチでは、命令が書かれたブロックを組み立てながらプログラミングしていきます。操作はドラッグ&ドロップが基本で、キーボードを使うことはありません。また、プログラミング言語特有の構文をいちいち覚える必要がなく、難易度が低いので子どものプログラミング教育として人気を集めています。

すてっぷでは、3人程で学習会をしてますが、自分のプログラムは真剣に作るが人のプレゼンは全く聞いてないとか、取り組み方が3人3様で面白いです。スクラッチは学校でも取り組んでいるものですが、プログラミングの難易度に合わせたカリキュラムまでは提供されていないので、それこそ実施機関の職員の指導力量が試されます。すてっぷでも、子どもたちと遊びながらカリキュラムを整えていきたいと思います。

当事者(小6)支援計画面談

1年のうちの前半が終わり後半が始まりました。6年生にとっては1~3月は移行期ですから、12月までを目途に中学移行前の6年生の時期の過ごし方を考えていく必要があります。すてっぷでは、通常学校の6年生は卒業です。その理由は、通常学校の中学での生活パターンは小学生と変わりますし、遊びや趣味のニーズも違います。また中学生は学習を中心に据えた生活に変わっていくからです。

すてっぷでは、以前は必要に応じて行っていた、6年生の支援計画会議への参加を、今年度より企画しようということになりました。中学でどうなりたいのか、そのために小学校の最終学年で何を目標にするのか、職員の支援計画の提案も聞きながら6年生にも考えてもらう機会です。保護者とともに話し合い、夏と冬に実施して中学の支援につなげていけたらと思います。何よりも、「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」が権利条約の根っこですから大事に扱いたいと思います。

以前にも、小学生の先輩から「俺ら障害があるからここに通所しているのやで」という発言を聞いて、「えー俺障害ないし、違うしー」と真剣に驚いていた様子(障害告知のタイミング: 2019/08/2)を書きました。自分とは何者かを考える時期に入っていく彼らには、学習の事だけではなく、学習も遊びも生き方も一緒に考えていくもので、切り離せないものだということを伝えていきたいと思います。そして、支援を享受してうまく生きていく方法を掴むことこそ、自分を生かす方法だという事に気付いてほしいと思います。