すてっぷ・じゃんぷ日記

2020年5月の記事一覧

「~してはいけません」はNGです。

先日I君がシュレッダーの破砕ごみを掃除機で全部吸い取ったので、掃除機が壊れてしまいした。そこで、スタッフが「掃除機でゴミは吸いません」と張り紙をしたのです。I君その張り紙の前で固まってしまいました。そして「●★×〇?ɤ!」とパニックを起こしました。

「掃除機はごみを吸うものです!!」と困っているのです。言葉でいうと何ともなかったのは十分に意味が分からなかったからです。ところが文字で書くと何度も読むことができます。しかも「掃除機はごみを吸うもの」と相場は決まっているのに、「ごみを吸うな」と書いているからI君にとっては天変地異が起こったのと同じです。「シュレッダーの粉砕ごみを吸わないでね」というのがスタッフの真意ですし、非自閉症の方なら書いていなくても前の経験からその文脈がとれたかもしれないのです。しかし、I君は字句通りにまっすぐ受止めるのでこうなったわけです。

この場合は、「シュレッダーのゴミ以外を掃除機で吸います」と書けばうまくいったはずです。視覚支援の効力を知ったビギナーが良く起こす間違いが「~してはいけません」です。「~してはいけない」はわかるけど、では何がいいのかわからないのです。だから、ASD支援では「~していいです」風に書くのです。これは4日前にも書いたのですが伝わらなかったようです。

 

主体性を育てるワークシステム

H君がワークシステムを途中で投げ出してしまい、やろうとしないという報告がありました。40ピースほどのピクチャーパズルをやろうとしないので6ピースのピクチャーパズルをかわりにやってもらったというのです。確かに、H君にとっては毎日同じピクチャーパズルは飽きたのかもしれないし、6ピースでもやったからいいじゃないかという見方もあります。

私たちはワークシステムで何を教えたいのか?H君にはどうなって欲しいのかという事を抜きにして、できたかできないかということを議論しても意味がないのです。私たちがH君に望んでいることは、今日のスケジュール内容についてやれるかどうか最初にご褒美も含めて選択し、選んだものは自立的主体的に完成させて達成感を持って欲しいのです。大人が選んだものを機械的にやれば良いとは考えていないのです。

例え構造化して視覚的にやる事がわかっても、やっている意味が分からなければ子どもはワークシステムにやがて従わなくなって当たり前です。しかし、せっかく理解したシステムなのに、本人が途中で投げだしたからと言って、スタッフが忖度して簡単な内容にしてしまうというのは、ワークシステムを続ければいいというスタッフ側の論理であって、そこで彼が何に困っていたのかはわからないので問題は解決しません。

ワークシステムはASDの子どもにとってたいへん便利なシステムですが、「仏作って魂入れず」のワークシステムは子どもの困り感を覆い隠してしまいます。

大人が謝ること

G君が、とても暇なので何かいい遊びはないかなとスタッフに聞いたそうです。するとスタッフが、「何もないね、自分で考えたら」と応えたので、G君は頭にきたそうです。「スタッフをあてにして聞いたのに、なんだよ」と怒っていました。そこは「ごめんなー、良い案おもいつかんわ~」だと思うのです。子どもにうまく謝罪する大人は子どもとの会話もスムースです。ビギナースタッフは余裕がないので一緒に考えたり謝ることができません。

子どもをがっかりさせたのであれば、大人は謝らなければなりません。誰にでも間違いはあることを子どもに手本として教える意味があるからです。子どもに謝れるようになることはとても大切なのに、子どもに謝ることは自分の弱さを示すことだと考えている大人がいます。

間違ったことをしたとき、約束を反故にした時、また衝動的になって相手に失礼なことをしたり危険な状態を作った時、謝ることの大切さを大人は子どもに教える必要があります。

子どもに謝ることを教えると、子どもの共感力が育ちます。そうすることで自分の行動に対し責任を持ち、行動をコントロールできるようになります。謝ることに恥を感じ謝ることを避ける大人の横では、子どもは失敗することができないと考えてしまいます。謝ることは、子どもと大人との関係を改善し、失敗してもいいという価値観の基礎を作ります。

大人の言葉で子どもが傷つけられたのに、子どもが謝罪を聞かなかった場合、子どもは、力をもつ人は、謝る必要はないと考えます。そして、その後も同じ関係を続けても良いと学ぶかもしれなせん。

子どもに謝ることは、人と協力し、人を大切にし、人と共に生きることを教えることでもあります。誰もが失敗はするけれど、謝ることで自分の行動を振り返り、状況を修正することができると教えられるのです。謝る時、誰もが恥を感じますが、謝罪は後で気分の良くなる行動です。誰かに謝ると、それまでよりはお互いに気分は良くなると教えることもできます。

子どもに大声をあげる時はよくあります。大人にストレスのかかる状況では、冷静でいられず、声をあげる時があります。これは避けるべきことですが、やってしまった場合は謝ります。子どもが楽しみにしていたことを忘れた時。子どもと一緒に時間を過ごせない時。間違ったことをしたり、子どもに嫌な思いをさせた時は素直に謝ることが大事です。大人にとっては取るに足らないようなことで落ち込むことが子どもにはあります。子どもの感情を軽んず、自分が間違っていたことを認め、心から謝まることが大事です。

子どもに謝る時は、なぜ謝っているかを説明します。例えば「相談受けたのに、うまく応えられなかったから謝るね。いい提案が思いつかなくてごめんね」などです。子どもにがっかりさせたなと感じたら、すぐに謝ります。不満のある状態や失望を長引かせても事態は悪くなるばかりです。子どもは大人から学び、大人の後に続くのです。

どうすれば伝わる?

高機能ASDのF君、今日も感染恐怖で何度も手を洗い、何枚もペーパータオルを使って手を拭きます。使ったペーパータオルが多かったので、ゴミ箱からこぼれ落ちました。スタッフが拾うように促しても「汚いからダメ」と拾えません。それを見ていてスタッフは拾わないための「屁理屈」と考えているようでした。でも、彼は本当に感染するかもしれない恐怖で、拾えないと思っているので、感染のメカニズムをソーシャルナラティブで伝える必要があるのではないかと話し合いました。

また、今まではコップで飲めたのに、ストローでないと飲めなくなったのはホコリが気になったからという報告がありましたが、むしろ、人の手が触れるコップの縁に唇をつけるのが感染恐怖につながっているのだと思われます。

ペーパータオルの件も、床のものが拾えない件もストロー派になったことも、何一つ理由としては筋が取っていませんから、ASDの障害特性を知らない大人は、屁理屈を言って大人の言う事を聞こうとしない幼稚な言動だと思うのです。

彼らは本当に感染が恐怖なのです。テレビや大人の話は彼らの不安に拍車はかけるけど、感染のメカニズムについては正しい情報は与えてくれません。正しい情報がなければ、人は恐怖をどのように解決するかを考えれば彼らの行動が理解できます。科学的な根拠がなくても自分で作ったルールやルーティンを決めてそれにすがることで安心を得るのです。

彼らに必要なものは世の中の当たり前とされている正しい情報です。奇妙な行動や変な事を言って、言う事を聞かない人なのではなく、当たり前の事が分からなくて困っている姿なのです。

ソーシャルストーリーやソーシャルナラティブがASDの方には必要だと何度言っても真剣に受け止めてもらえないのは、「その程度の事は説明されなくてもみんなは知っている事」という定型発達者の常識をASD者にあてはめているからです。定型発達者は誰も説明しないけど経験を重ねて自然に気付く「暗黙の社会的了解」を山ほど知っています。「親や先生が言うこの種の事は間違いは少ない」とか「みんながとる行動は安全だ」というような基準がASDの方には全く理解できないのです。だから、定型発達者にとっては当たり前のことであっても、論理だてて正確に伝える必要があるのです。

DON'T「~してはだめ」

Eちゃんは、誰かのおもちゃに興味を示すと、見ず知らずの人でも「貸してください」と言って手に取ろうとします。おそらく保育所等で「何も言わないで取るのはいけないよ」ということで教えられたフレーズだと思います。でも、相手が拒否したり大人が「だめだよ」と遮るとすると、怒り出して大声で泣き続けます。「貸してください」は「もし貴方が許してくれるなら」という対人関係上の前提がありますが、Eちゃんにはそれがわかりません。

ASD(自閉症)の人はDON'T、つまり禁止を理解することが得意ではありません。DON'T「~してはだめ」よりも、OKの「これは良いよ」の方が理解しやすいのです。「やめなさい」は、何を、どうすれば良いのかイメージしにいく物です。そこでまず重要な支援としては、「終わり」というOKを伝えることが重要です。さらに、終わったあとに何をするのかを伝える視点が必要になります。まず○○を終わって、次に△△をするが行動の基本になってきます。

「自閉症の人は、禁止が苦手なので禁止を伝えない」という方がありますが、これは極端な考え方です。どんな世界でもやってはいけないことはあります。もちろん、個別化しないで、ただ「ダメ・ダメ」と言っている指導者・支援者も間違っていると思います。個別に階段を上がるように禁止を教えていくことが大切です。

ASDの人は禁止、つまり「DON'T」がイメージしにくいです。それは、様々な事柄の統合の困難さ・想像思考の困難さ・切り替えの困難さがあげられます。「しない」ということが、具体的に何をしたらいいのかイメージが難しいのです。また、今やっている行動をやめ、やるべき行動の切り替えが難しいのです。禁止を具体化すると2つの要素が重要になります。「やってはいけない行動をしない」「やっていい行動をする(はじめる)」ということです。そこで、最初のステップは「ダメ!」ではなく、「いまやっている行動は終わり」「次の活動をはじまり」の2つの提示の理解になります。

「終わり」理解のアイデアの1つが終わりボックスです。「終わり」とシンボルをあわせて教えていきます。「終わり」の理解からはじまり、シンボルの理解、「ダメ(DON'T)」の理解につなげていきます。最初のステップは「終わり」の理解です。何を「やらない(DON'T)」だけではなく、何を「やれば良い(OK)」を明確に伝えることです。

ちなみに、この絵はスタッフ向けのリマインド・シンボルで、「don'tはダメよ」という意味ですのでお間違えのなきようにお使いください。