すてっぷ・じゃんぷ日記

2020年1月の記事一覧

トイレトレーニング

見学で訪れる就学前の子の中には排せつが自立していない子どももいます。保護者の方は保育所で言われた通りしているけどなかなか自立しないと焦られている方もおられますが、焦る必要は全くありません。トレーニングの時機と方法がその子の状態と特性にヒットすればあっという間に自立する子も少なくないです。みんなと同じやり方でうまくいかないなら、別のやり方を選べば良いのです。

下のグラフはトレーニング開始時期の調査ですが、通常でも2年以上の開きがあります。トイレトレーニングでは3歳までにパンツに変えて濡れる感覚を教えるんだという通説がまかり通っていますが、知的な遅れや発達障害を併せ持つ子はそれではうまくいかないことが少なくありません。通常のやり方での成功の原動力は、大人に褒められたい認められたいという動機の強さです。その要求が弱い場合は、別のアプローチを考えれば良いのです。また、濡れた感覚は子どもによって感じ方が違います。特に発達障害の子どもの感覚は過敏すぎたり鈍麻すぎたりで大人が思うような濡れて嫌な感覚を感じてないこともあります。結論から言えば、時機を見定めて短期集中型(3日から1か月程度)で視覚支援(何をどうするか成功したらどうなるか絵にして知らせる)や行動療法(ご褒美作戦)を用いたトレーニングで成功している例も少なくないのです。

時機を見定めるまでは、紙パンツでいいのです。3歳頃から布パンツで始めて1年も2年も失敗を続けている子どもがいますが、本人にとって失敗が当たり前になってかえって成功しにくいです。また、この失敗は時機を見誤っているか方法が間違っているのかもしれないと考えるべきです。子どもの個性は違うのですから、トレーニングも個性に合わせたほうが成功します。以下に通常のトレーニング方法を掲載しました。知的な遅れのある子や発達障害の子にどこが合わないか考えてみましょう。
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通常の場合のトレーニングの考え方はまず布パンツへの移行です。薄いタイプであれば、おしりに濡れた感触がすぐに伝わり、子供も失敗に気付くと同時に、漏れた不快感を感じます。この「不快感」がトイレトレーニングではとても大切で、子どもは不快感を味わうことによって「パンツにおしっこをしたら気持ち悪いんだ、だからトイレにするんだ」ということを学び、早くトイレトレーニングが進むと言われます。そして、水分をよく吸収する分厚いパンツは、洗濯が少なくすむけれど、子どものトイレトレーニングには不快感が少ないので不向きだと言われています。また、トイレトレーニングは子ども自身の意欲がとても大切で、パンツがモチベーションになるので、その子が好きな色やキャラクターのパンツを履くことで、トレーニングに意欲的になると言われます。

トレーニングの時期は「排尿の間隔が2~3時間空いていること」が目安になり、お喋りの早い子は「トイレ行きたい」と言えるのでトレーニングしやすいと言われます。トイレトレーニングは「3歳の誕生日を迎えるまで」を目安に、春~夏の終わり頃までが寒く無くて良いそうです。冬は寒くてトイレの間隔が短くなるので失敗が増えて良くないというのが理由です。
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いかがでしたか?濡れるのが気持ち悪く感じるということや、~だから~するという通常3歳頃の認知や言葉の力、排尿間隔が2時間以上という成功のための前提があるのです。逆に言えばこの前提が揃わなければトレーニング効果が上がりにくいという事です。効果がないのに延々と平均の子どもたちと同じ方法で取り組む就学前施設は、是非工夫をしてほしいものです。そして、別の方法があるのですから取り組んで欲しいものです。就学前児を支援する何とか支援センターはその工夫の助言をするためにあるのですからもっと積極的に支援して欲しいものです。そして、みんな同じ時期や同じやり方でなくても良いし、他にも視覚化や構造化、他の行動療法アプローチがあることを広めて欲しいものです。

転ばぬ先の杖?

「転ばぬ先の杖」とは、失敗しないように前もってあらゆる準備をしておく、前もって準備をしていれば、いざという時も失敗することはないという意味です。普段、歩く人は、まさか、自分が転ぶことはないと思っているので、杖を使うことはありません。しかし、いざ転んで怪我をしてから、杖を持つようになっても遅いので、前もって準備しておくことが大切という注意喚起の意味で使われることが多いです。「石橋をたたいて渡る」も同義です。

私たちの取り組みの場合は、なんでもかんでも失敗しないように準備する「転ばぬ先の杖」「石橋をたたいて渡る」とはちょっと意味がちがいます。しかし、「戦を見て矢を矧ぐ(いくさをみてやをはぐ)」の行き当たりばったりでもありません。S君とT君がカードゲームをしてS君が勝ったのにT君が「自分の知るルールは違うが今回は一番で許す」と上から目線で行ったのが、S君カチンときて席を立つハプニングがありました。あとでスタッフが、最初に「上がり」のルールを確認すればよかったと言うのですが、問題が起こらないのが良い療育でもなかろうと言う話になりました。

今回の問題はルールの問題と言うより、同学年なのに上から目線で言うS君と、それが我慢ならないT君の摩擦です。T君にはS君の何にむかついたのか、S君にはT君がなんで怒ったのかを二人でスタッフと考えれば良いし、今度うまくやるにはお互いどうすればいいのか考えるいい機会です。スタッフには、こういう摩擦が起こったときにどう導いていくか予め準備押しておくのが「転ばぬ先の杖」です。逆にこういう摩擦が想定外だとスタッフが感じるなら「戦を見て矢を矧ぐ」実践となっていることを事業所として反省しなくてはなりません。

表情の絵カード

終わりの会で、今日は何が良かった?と聞きます。お話の苦手なP君には感情カードを提示してみました。すると、「楽しい」表情を選択して、小さな声で「たこやきタノシカッタ」と答えてくれました。ここまでは計画通り、その後が素晴らしかったのです。P君の表現を見ていてた、少しおしゃべりができるQさんもR君も表現カードを見渡して今日の経験について自分の感情を選んで表現してくれました。

表情の絵カードの役割は、自閉症(ASD)のこどもが相手の気持ちを理解したり、自分の気持ちを伝えるために使います。彼らは表情や感情の読み取りだけでなく、表出も苦手な人が多いので、こうして機会を見つけては気持ちを聞いたり伝えたりしています。

でも、今回良いなと感じたのは、それを見ていた、少しおしゃべりができる子どもたちも、感情カードがあったほうが自分の思いが伝えやすいと発見してくれたことです。

絵カードの表情は何気ないカードのようにも感じられますが、感情を伝える最も大切なものであり、円滑な社会性や人間関係を築いていくために役に立ちます。

今家庭でできることをはじめる

「光とともに」
『光とともに… ~自閉症児を抱えて~』は、2001年から10年近くにわたって月刊マンガ誌『フォアミセス』に連載され、その間にテレビドラマ化もされて大ヒットした作品です。コミックスの累計発行部数も全16巻260万部を超え、「このマンガを読んで、自閉症について初めて知った」という読者も多いです。

自閉症の息子(光君)を抱えた1人の母親の姿が描かれていて、診断される前後の苦悩や、障害の特性行動に悩む母親の姿が描かれています。自閉症の母親なら少なくない人が読んでいるという、バイブル的漫画です。1巻の最後の保育園の卒業式の場面。園児がそれぞれ、将来の夢を口にして発表するなか、言葉が話せない光君の変わりに、母親が光君の手を上げて「大きくなったら、明るく元気に働く大人になります」と宣言する姿が感動的です。

作者の戸部けいこさんは、執筆中に病気で亡くなられて物語りは完結はしていないですが、きっと光君が働く姿を描かれたかったんだろうなぁと思います。主人公の母親が壁にぶつかった時に、「だったらどうしよう」と考える姿も感銘をうけます。子育てのゴールは自立。子どもの成長を考えるときに、成人して「就労」ということを基準に、色々なことを選択しようというメッセージが込められた漫画です。

昨年末までに就学先を決めた方は、新しい学校の様子や子どもの状況の情報交換しながら、新年度を迎える準備をされている方も少なくないと思います。行き先の学校ことが気になる時だからこそ、「大きくなったら、明るく元気に働く大人」になるために、学校以外の家や地域で何が必要か、今家庭でできることをはじめる事が大事と、光君のお母さんは描かれています。

自由は不自由

ちょっとした時間が空くと、「ひま~。おもろない」とよく子どもが言います。「ふーん、暇なんや。うらやましいわ。なんでもできるやん」と子どもには返しています。自分の子ども時代と比べても仕方ないですが、「ひまやなー」と自問することはあっても、大人に暇やから何とかしてくれと言うようなことはありませんでした。そんなことを言おうものなら、「勉強しろー!部屋の掃除してー!買い物行けー!庭の草抜きして―!」と矢継ぎ早に指示が飛んでくるからです。暇な時間は、夢想したり友達と何かを見つけたりする大事な時間でした。

もちろんASDの人たちの特性で、自由時間や余暇時間が苦痛な人がいることや、大人になっても休日は一日中家でテレビやアニメを眺めたりゲームをしているだけで家族が心配していることはわかります。だから、スケジューリングで空白時間を埋める支援も行うわけですが、それでも「ひまやー」と言われると「自由は不自由や」と、やるせない気持ちになるのは私だけなんでしょうか。

「自由在不自由中 (自由は不自由の中にあり)」

BY 福沢諭吉

 

食べ物教材

本事業所では、食べ物教材を扱うおやつ作りのプログラムがありますが、利用者の味覚の片寄りは半端ないです。昔ならどんな子どもも喜んだケーキも「甘いの嫌い!」な子どもが増えてきて半数の子どもが食べません。「お誕生日だから今日はケーキだー」と家路をスキップする子は減っているわけです。特にこの事業所では「甘いの嫌!辛いの上等!」派が多いので、たこ焼きなどの粉モンやソース味モンが無難です。

オノマトペ

H君とおにぎりを作ろうと、お手本で掌にご飯をのっけて「ぎゅーっとね」っとスタッフは言います。H君「ギューット…」と復唱はしてくれたものの、手には力がはいりません。ASDの方への擬態語での表現は言葉より伝わるのが難しい場合があります。これは言語が違うと擬音語擬態語が全く違う事からも言えます。川がさらさら流れるようすを、英語圏ではmurmur(マーマー)と言いますが日本人には全くぴんと来ないのと似ています。

オノマトペという言葉の意味は、擬音語や擬態語のことを意味する言葉です。擬音語とは、物や生き物が発する音や声を、文字にした言葉のこと。擬態語とは、心で思っていることや状態など、実際は音のしないことを、文字にした言葉のことです。日本語のオノマトペはフランス語の日本語読みです。ワンワン・ニャーニャー・コケッコッコー・いらいら・うきうき・うとうと・きらきら・いきいき・びゅーん・ぎゅー・ばーん。そもそも、欧米人が虫がすだいているのは雑音にしか聞こえないのを日本人は音にします。漫画を読めば分かるように、日本には欧米よりはるかに多くオノマトペがあるそうです。この音の情景や感覚を伝えるのは大変むつかしいといいます。

指示しない

高学年のM君が怒って文句を言いに来ました。「スタッフは僕には時間を守れとか細々と甲高い声で注意するのに、Nさんが時間を守らなくても何も言わないってどういうこと!」。Nさんが、話し言葉でのコミュニケーションは十分できないことを彼はよく知っています。「君それ本気で言っているの?」「とても残念やわ」と返しました。彼はうなだれてみんなのもとへ帰っていきました。要するにM君はスタッフの自分のへの指示の仕方が気にくわなかったのだと思います。でも、Nさんと自分を比較して不公平と言ったことは自分でも残念だったのでしょう。

小学校高学年に接する場合、叱り方や注意の仕方も重要です。小学校高学年の場合、これまでと同じような叱り方をしていても、言うことを聞かなくなってしまうこともあります。

まず重要なのは、「指示しない」ということ。子どもに叱る場合、小さな頃には「こうしなさい」といって叱ることが多いものですが、小学校高学年になると、命令口調の叱り方は反発につながることがあります。そのため、「こうしなさい」ではなく、自分で解決策を引き出すことができるようなメッセージを伝えるとよいです。たとえば何か失敗したとき「なぜ失敗したの?」ではなく「どうすればよかったと思う?」という問いかけの形でメッセージを伝えることで正直な気持ちを引き出すことができます。また、単に叱るのではなく、「それに対して大人である私はどう思ったか」と、「私」を主体にしてメッセージを伝えると子供にも伝わりやすくなります。

感情の分化

K君が、凧が高く上がって、「怖い」と言ったのはその日風が強くて凧が持っていかれそうになったからだという報告がありました。その日、K君は公園で初めて凧を上げたと言います。ぐんぐん上がっていく凧を見て「すごいなぁ」「かっこいいなぁ」と思ったけど、彼の感情表現は「怖い」が多いのです。これはK君に聞いてもわかりませんが、ドキドキする感情のことを「怖い」にまとまているのではないかなとも推測できます。「怖い」とK君が言った後「でも、高いねー すごいねー K君かっこいいねぇ」とスタッフが言葉を添えてあげても良かったかもと話し合いました。プルチックの感情の輪を見ていると恐れと驚きは隣り合わせです。

 

 

高学年の役割

山登りで、高学年の利用者に光が当たらないと議論になりました。低学年や障害の重い人と同じように歩いているだけでは達成感がないのではなど意見が出ました。高学年には高学年としての役割、みんなの役に立つような演出がいるということになりました。どこの生活型の放デイでも抱えている高学年の支援ギャップについて丁寧に考えていこうと思います。

仲直り

終わりの会がなかなか始まらずGくんがいらいらして、隣に座っているHさんをたたいてしまいました。叩くことの機能分析は、ここから手っ取り早く離れるためには、周囲の人を叩けば「おいおいお隣さん何もしてないでしょ」ということでG君がその場から離され、G君の要求は実現します。

言葉のないG君から叩かれたHさんは意味が分からないから恐怖です。「怖かった」と告げるHさんを「怖かったなぁ」とスタッフは慰めるしかありません。それでもいろいろG君と取り組んでいるうちに思ったほど怖くないことに普通は気づいていくものですが、場面理解が苦手で誤解して決めつけてしまう傾向の強い子どもの場合は一緒にいることが苦痛になるので関係改善が難しくなります。

考えられる解決策は感覚の快状況を自然に共有する空間の提供です。例えば並んでブランコする等が一番いいように思います。動的(働きかけて得られる)快を共有することで関係を改善する方法は結構大きくなっても通用する手段です。ただし、G君の機能的コミュニケーション訓練も日常的に取り組むことが求められています。

負けと癇癪

C君は、ボーガンシュートゲームで得点が最下位になって、ショックで床にひっくり返って泣き叫んで癇癪を起しました。発達に関係なくASDの子どもの中には勝ちにこだわって1番じゃないと嫌、負ける可能性があるから勝ち負けのあるゲームやらないという子が少なくありません。勝ちが優れていて、負けが劣っているというデジタルな価値観でプロセスは関係ありません。自分の感情だけに翻弄されて相手がどう感じているかも無頓着です。周囲が嫌がっているのに大声でつまらない議論の勝ち負けにこだわる人の幼少期も、きっと勝々価値観に支配された子どもだったのかもしれません。

勝ったり負けたり、人によって勝てるものと負けるもの、いろいろあるんだという多様性を学ぶためには、小さい時期から「負けるが勝ちゲーム」をお勧めします。偶然性のあるカードゲームやくじ引きじゃんけんなどがいいでしょう。負けた人から1番。勝った人は最後の順位です。「負けた人いちばーん」とみんなでたたえます。つまり、勝ち負けの基準を変えてしまうのです。こうして負けるが勝ちを経験すると意外に負けに平気になってきます。というか、その程度の価値観しかないのに生死の境目みたいに苦しんでいたという事です。幼少期から「負けるが勝ちゲーム」に色々バリエーションをつけて取り組んでみることをお勧めします。

代替行動分化強化 2

不適切な行動の対応については、何度か書いてきました。子どもが不適切な行動をしたとき、もっとも重要なことは、その行動は罰があるということを教えるより、他の方法で利得が得られることを教えることです。

言葉の分かりにくいA君が、B君の大声がうるさいので叩いた時、スタッフがとるべき行動は、叩かなくても大声を止められる方法をA君に教えることです。でも、もっとも良くみられる指導は「B君にごめんなさいは?」です。音声模倣ができる人なら「ゴメンナサイ」と言うかしれません。でも「ゴメンナサイ」の意味は通じていません。なぜなら、叩けばB君が黙るからです。つまりA君の叩く行動は要求を実現しているからです。学習したことは、叩いた後大人が指示したら「ゴメンナサイ」を言うことです。

発達障害のある人の問題行動に関しては、『機能的コミュニケーション訓練』という代替行動分化強化(DRA=Differential Reinforcement of Alternative behavior)の手続きが有効です。これは、問題行動と同じ機能(目的)を持つ社会的に適切な行動(カードコミュニケーション)を分化強化するという手続きです。(声がうるさいから)助けて」カードを大人に示せば、スタッフがB君を遠ざけてくれるようになれば良いわけです。もちろん、突然の行動ですから少々の代替行動の訓練で、完璧な学習は困難かもしれません。行動問題を予測して予防することも大事です。でも事が起こったら、お詫びの音声模倣をさせるよりは、即座に「助けて」「やめて」カードをスタッフに渡す行動を教えた方が、不適切行動を減らせる可能性があります。

子どもの考え方

ボウガンのおもちゃで的当てをして遊んでいます。空き缶にあてて倒すのですが、空き缶の中に重りを入れておいて倒れにくいものを倒すと高得点が得られます。認知レベルが9歳を超えると、倒れやすい力点は支点(接地点)から最も離れた場所だという事に気が付きます。見えないものを見る力(理屈)です。それより前の段階だと経験数に裏打ちされていきます。てっぺんに当てたら倒れることが多いと学んでいきます。当て方にも子どもたちの考え方が反映されていて面白いものです。

代替行動の分化強化

食事介助の必要なG君はこのごろやたらお腹が減ってくるらしく、ご飯がたりないと、机を蹴って要求します。これに対しスタッフが、「おなか減ってるねーおかわりするねー」と対応するのはアウトです。机を蹴ったら、おかわりが出て来るという行動が強化されるからです。机を蹴ったなら、おかわりカードか「欲しい」カードを持たせて後方から手を介助して介助者に渡させます。その行動ができたら「はいどうぞ」と少量提供して、もう一度カードを手元に置いて要求行動を促して同じ行動ができるように何回も行います。行動を起こして意味を伝えてくる方ですから、行動は必ず代替することが可能です。この方法は色々応用できます。

心の杖

今日のYさんは、一番お気に入りのスタッフなのに、やけに絡んできます。食事中にカレーが付いた口で背中から抱き着いてきたり、あきらかに注意喚起(自分の方を振り向かせる)行動です。おかしいなぁと思っていると、帰宅後に朝持って出た人形が見当たらないとのこと。Yさん人形がどこかに行って不安だったのです。

以前「ライナスの毛布12/3」で心の杖について書きましたが、あの話には続きがあります。心の杖が不可抗力でなくなったらどうするのかということです。きっと今日の状況のように不安でたまらないと思います。それでその不安を色々な行動で表現するのですが、第3者には伝わらないことが多いです。

結局、必要なのは表出のコミュニケーションです。「人形をなくしてしまった」「不安だ」「どうしよう」という発信さえできれば、「よし一緒に探そう」とか「大丈夫かな」とか、もし見つからなくても「困ったねぇ」「悲しいねぇ」と共感のコミュニケーションができます。困ったことがあっても共感してもらう事で心を癒せます。その時、必要なのは自発表出のコミュニケーションなのです。それは話し言葉である必要はなくその人が手っ取り早く伝えられる方法ならなんでもいいのです。悲しいの感情カードを大人に渡せば、周囲にいた人なら察しはつくはずです。そこに「人形」カードが加われば確実です。絵カードコミュニケーションを言葉の苦手な方に薦めるのはこういう理由があります。

社会性の基礎は自分でわかることを積み上げること

当事業所では毎日何かしらの集団遊びを短時間取組みます。ボーリングだったりストラックアウトだったりダーツゲームだったりで、順番などルールがあるものです。認知レベルが高くなると、ルールは複雑になっていきますが基本は適切に遊びが楽しめるように、構造化支援も入れて取り組みます。

子どもは自分のやることさえわかれば、時間はかかっても自然に友達の様子にも関心を持つようになるのですが、自分のやることがわからなかったり、楽しめなかったりすると、そもそも遊びが成立しないので社会性を学ぶのは難しいです。

言葉がよくわからないF君はこういう取り組みになると付き合いはしますが、終わるのを待っている感じで、いらいらしています。たぶん、みんなで何かを取り組む場面は、自分ではよくわからないのにやらされてしまう束縛感が強いのだと思います。できることわかることをみんなとやるから社会性は育ちます。当たり前のことですが、分からないのにみんなでやる事を優先されたばかりに、自立心や自尊感情が傷ついている重度の方は少なくありません。まず、みんなでやる事よりも自分がわかることを積み重ねていくことを優先する事が重要です。

 

届かない気持ち

E君、友達のことについて「文句ばっかり言っていて暗いし、周りへの影響考えてないなあれは」と語り始めます。「ふーん、なんでなんだろうね」との問いに、「空気が読めてないんだよ。もっと、謙虚にならないとね」と言います。この発言のE君「もうおれなんかあかんし」「おらんほうがええし」とネガティブ発信の王者です。「うーん。人のことは良くわかるんだね」と返すと、「そうやで、いつも気を使ってるからね」と返事。そうか、君なりに気を使っているんだね。私たちに君の気持ちが届かないだけなんです。

 

フロアバレーボール

鈴が入っている視覚障害者用のバレーボールを購入して遊んでいます。昔は盲人バレーと言ったのですが今は晴眼者も一緒にプレーできる6人制バレー(前衛選手はアイマスクもしくはアイシェードを着用)=フロアバレーボールという名前になりました。事業所ではみんながアイマスクをすると難しいし面白さがわからなくなるので、みんなで遊べるアレンジを考えています。

視覚障害者用の球技はフロアバレーボール以外にもあり、例えばゴールボール・グランドソフトボール・サウンドテーブルテニス・ブラインドテニス・ブラインドサッカー・ブラインドゴルフとあり、最近はブラインドラグビーと言うのも出てきたそうです。晴眼者もアイマスクをして一緒に取り組めるので、遊びながら障害理解が進む利点があると思います。

 

アイラブユー

D君がいらいらしていて、決められた時間内にPCが終了できませんでした。最初に17時までに終了すると約束したので、スタッフは次回はペナルティーとしてPCは使ってはいけない旨をD君に言い渡しました。

確かに約束を破ったのは事実ですが、そのペナルティーは示していませんでしたし、次回にペナルティーと言うのもD君にしてみれば踏んだり蹴ったりでした。このような時に私たちはどういう支援を行えばいいでしょう。

奇策はありません。基本を貫くことです。不適切な行動は、まず振り返らせます。そして理由があるなら聞いてみます。理由を言い訳と言わずにまずは聞きます。そして、約束を反故にするのはどう思うか聞いてみます。適切な反応がないなら、約束を破られた人は悲しいという感情を伝えます。そして、次回はどうすればうまくいくか考え合います。本人から出てこなければ、いくつか提案して次回にもう一度話し合って決めようと提案します。きっとうまくいくよ応援しているよと伝えて終わりにします。

おおきな声を出したり、感情をぶちまけないで、受容的にうなずき、静かに静かにお話をします。子どもと別れ際の「きっとうまくいくよ。応援しているよ」は重要です。この業界のプロフェッショナルの合言葉です。欧米人の家族への「アイラブユー」みたいなものです。複雑な意味はないけど、使わないとひと騒動起こるワードです。