すてっぷ・じゃんぷ日記

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自立課題は進化させるもの

N君の机の上に山のように自立課題の課題ケースが積まれていたので、これはどんな目的で積まれているのか職員会議で聞いてみました。いつもやっているもので一人でできるから置いてあるとのことでした。そこで、この先このN君の自立課題はどんなプランがあるのか聞くと、みんな「?」と言う反応でした。

個別課題と自立課題の違いについてよく質問を受けますが、個別課題とは、個人の能力に合わせ大人が教えたり一人で復習する課題を指します。自立課題も個別課題の一種ですが、狙いは作業が一人でできるように、一人で自立的に始めて終了できる、文字通り「自立」のための課題です。つまり、自立課題は課題の内容も変えていくし、作業の進め方も単に課題ケースを積んでおくのではなく指示書に従ったり、自分で準備をしたりして変えていくものです。

もちろん、繰り返し同じ課題をすることで速度が上がったり、正確性が向上したりすることは結果としてはありますが、速度や正確性を目的にしているのが自立課題ではありません。速度が遅いなら、それは量が多すぎたのですし、正確でないなら課題のジグ(自立的に作業ができる仕組み)の工夫が足りなかったと考えます。つまり課題を出した大人の側の問題だと考えます。課題を出す大人はN君ならどの程度の作業量をどの程度の時間で仕上げるのか、休憩を入れたほうがいいか、新しい自立課題をいつ入れるのか考えておく必要があります。

一人でできる課題がたくさんあるからたくさん積んでおくと言うのはあまり意味がありません。もちろんASDの人は繰り返しが好きですから、できるものを繰り返すのはそう苦痛でない場合が多いです。ただ、彼らも飽きたり疲れたりします。そんな様子も観察して、どれくらいの休息をしたらいいのか、何回のインターバルが良いのかも考え、変化をつけ進化をさせていくのが自立課題を提示する大人の役割です。N君には仕事が好きで元気に働く大人になってほしいというのが私たちの自立課題の最終目的です。

 

マッチングの力

X君は言葉のないASDの利用者です。新しい環境では要求がなかなかでないので職員もあれこれ働きかけるのですが振り向きもしてくれません。ところが、他の子のために台の上に積んでおいた自立課題のかごをみてきらりと目の奥が光ったように見えたので、試しにマッチング課題を取り組んでみると、どんどん取り組んでいたという報告がありました。

X君は昔から発達障害のある子どもへの民間療育に通っています。そこで長く「概念学習プログラム」を取り組んでいるそうです。これは、簡単に言えばすてっぷや自閉症の専門療育では良く取り組まれるプットイン教材やマッチング教材、組み立て教材のことです。30年以上前からあるプログラムで主に認知レベルを引き上げ言語に結びつけていくことを目的にしていると聞きます。

すてっぷでは、認知面を引き上げることよりも「一人で取組み完成させる」自立性を大事にしています。これは、就労場面での作業などを意識したものです。もちろん、最初は職員と対面で新しいものに取り組むところは他のプログラムと同じですが、概念形成や言語獲得を狙ってはいません。そして、一人で準備し一人で完成し一人で片づけて「よくできたね」と褒めてもらって自尊感情を高めることを狙いとしているので、つねに職員が付かないとできないような課題はしないことが原則です。

さて、マッチング課題でX君は色マッチングが得意のようで、すぐに仕上げてもっとやりたいという感じです。それならと職員も夜なべしてたくさんのカラーマッチングの教材を作りました。ASDの子どもは目で見てわかるものが好きですから自立課題にはまりやすいです。X君のような子が大勢いると職員も教材開発に俄然力が入るので、ありがたい存在ともいえます。さて来週はどんな新教材ができるでしょうか楽しみ楽しみ。

自立課題と個別課題

支援学校のLさんに、自立課題をしてもらったという報告があったので、「なんのために」と聞くと特に理由はないとのことでした。Lさんは低学年の漢字ドリルや計算ドリルをしている人で、週1回の利用者です。課題が適切であれば宿題は自分でできる人にマッチングや分類、組み立てやパズルが中心の自立課題を提供する意味がありません。意味がないのに時間つぶし程度に与えていることに気付いてほしかったのです。

逆に1年生のM君は、じっとしていることがなく衝動的に動き回っている子どもです。彼には一人で課題を一定時間こなす経験の積み上げが必要です。「なぜM君には自立課題を与えないのか」と職員に質問すると、通常学校の小学生グループだから考えなかったそうです。在籍が通常学校の子どもでも支援学校の子どもでも、一定時間座って課題に取り組むことは必要な事です。M君にはまず自立課題で一定時間一人で課題をやり遂げる経験が必要なのです。

子どもの課題内容は子どもの在籍学校で決まるものではありません。その人の特性や経験そして与えられた利用時間で決めるものです。どちらも、新しい通所者だったので、課題が分からずに与えたのかも知れないですが、そのために支援計画はあるのですから半年に一度見るのではなく、毎回ことあるたびに振り返ろうと話しています。個別課題は子どもの特性に応じた課題一般の事を指し、自立課題は一人で自立達成できる課題のことです。

自立課題と指示待ち

学校が始まった頃から指示待ちが強くなっているJ君に、自立課題に立体パズルのLaQを使ったという報告がありました。「人型モデルでも作れるから」というのが職員の言い分ですが、この間J君の指示待ちについて、やれと言われても出来ない時に怒りが生じやすかったり、指示待ちが多い時にフラッシュバックして他害に及びやすいという話をしてきたのですから、配慮が必要ではないかと話しました。縦横1cm程度のパーツの立体パズルを分かっているけど指示がないとできない事がどれほど苦痛か想像してほしいと話しました。療育で大事なことは、わかるかどうかだけではなく、一人でできるコンディションにあるかどうかを見極めるのがASDをはじめとする発達障害のある人たちの療育なのです。

作り方も手順もみんな理解していていても何度も「これでいいか?」と職員に聞かなければならない強迫性は消えていないのです。そんな状況で職員に1ステップごとに「それでいいよ」と言われて完成しても「一人でできた」感は全く味わえません。自立課題の目的は、一人でできるかどうかです。指示待ちが多いなら、少し簡単でも「キャップ締め」や簡単な「マッチング」でいいのです。一人でできてこそなんぼです。どうして、当事者の気持ちを考えずに課題を与えることが先行するのか、自立課題の意味を職員全体に伝えるにはどうすればいいのか話し合う事が必要だと考えています。

 

自立課題

自立課題に多くの子どもが取り組んでいます。自立課題の報告で一番多いのが「Dさん ◇●△ができるようになりました」という内容についての報告です。こちらから聞かない限り最初から最後まで自立的に作業ができたかということはほとんど報告されません。スタッフの関心が自立課題の中身、つまりプットインであったりマッチングであったり分類であったり文字検索の出来不出来だからです。

自立課題は、認知レベルを上げることを目的にした課題ではありません。自立課題の目的は、将来、就労するにしてもしないにしても、人からあれこれ言われて作業をするのではなく、ワークシステムを整えて工夫さえすれば、一人で作業ができる人になってもらうためのトレーニングなのです。

よく、この人は重度だから横に人が寄り添えばいい、そしていつの間にか寄り添う事が重要だと本末が転倒して考えられるようになることもあります。重度の人でも思春期を境に自尊心が芽生えてきます。しかし、自分でできることがなければ自立に向かうための自尊心のエネルギーは、注目を集めようと不適切な行動で人の気を引いたり、一つ一つの課題が「できないかもしれない」と怖くなって大声を出して拒否したり暴れたりする行動に向かってしまう事があります。或いは、全てを人任せにして気力をなくしてしまったような姿を見せる人もいます。

自立課題で最も重要なのは3つです。いつ自分が課題に向かうかわかって始めようとする事。課題はどこまでやればいいか自分でわかる事。課題が終わったら自分で終了して次のやるべきことに一人で向かうことができることです。「一人で始め、一人で向かい、一人で終わって次に向かう」これができれば、その人のできることに応じて仕事量や時間は違いますが一人で成し遂げることができます。

スタッフに最初に話し合ってほしいことは、一人で始め、続け、終われたかどうかです。内容は自立的にできる内容であったかどうかが大事で、前より難しいものであっても一人でできなければその内容は不適切なのです。このワークシステムに適応する力さえ身につけば「ご苦労さま」「ありがとう」「よくできたね」とねぎらう事ができます。このような毎日があってこそ、初めて自尊心は育てられていくのだと思います。自立課題は、一人で自信をもってやれているかどうかが大事なのです。一人でできていない部分があれば、何故できなかったのかどうすればひとりでできるのかをスタッフで話し合うことが大事です。寄り添うというのはお互いが向かい合う関係ではなく、同じ方向を見て並んで歩む関係だと思います。

自立にむけての作業

V君、2階の事務室に上がってきて、「青いテープください」と要求。何のことかと聞くと作業用の箱が壊れたから修繕するとのことでした。V君は高3生。昨年から自立課題を作業課題に移行しつつあります。それも、スタッフが作業の準備をするのではなく、できるだけV君が自立してできるようにしてきました。そして、困ったことだけスタッフに手助けが要求できるようにしています。なので、今回は作業用の箱が壊れて(破れて)いるのでヘルプをしたのです。V君グッドジョブです。今後は、作業のオーダーシートを渡して、手順書通りに作業が進められるように考えています。私たちは、作業中にあれこれ口をはさむのではなく、自立して作業できた方が達成感は大きいと考えています。なので、あえて、自立してできる簡単な作業や簡単な工程、毎回説明しなくても良い内容を提供して取り組むように進めています。

 

自立課題は何のために?

スタッフ会議でよく「Zさんは自立課題の○○ができませんでした」という報告があります。最近言い飽きてきましたが「自立課題とは何のために提供していますか?」とスタッフに問い返しています。

自立課題とは、子どもに取り組んでもらう課題ですが、ビー玉をケースの穴に入れたり、ビーズを順番に通したりする課題など、一見すると、「何のためにやってるの?」と思ってしまう方もいると思います。自立課題の一番の目的は、自信を持たせるためです。できる課題なので、自信を持って取り組むことができ、「できた!」という達成感も味わうことができます。発達障害の人には褒められることに喜びを感じる人と、そうでない人がいます。しかし、「一人でできた」という事実は自己有能感を育んでいきます。

2つ目の目的は、将来の生活に役立つスキルを身に付けるためです。洗濯バサミで洗濯物を止められることや、コインを自動販売機のお金投入口に入れられるなど、純粋にスキルとしての練習です。将来の就労に向けてのスキルにもなります。3つ目は、余暇活動を含め生活の幅を広げていくためです。興味の幅が広がりにくい子どもには、自立課題を通して、できること、わかることの幅を広げ、自由な時間を楽しむ術を身につけていく必要があります。ぜひ、一人一人に応じた自立課題を準備して取り組んでいただきたいなぁと思っています。

自立課題は一人一人に合わせて作ることができます。まずは、確実にできるものを準備します。例えば、プットイン型の課題なら、少ないスキルでも取り組めるものが多いです。「できる」→「自己有用感」なので、できない課題に一人で取り組ませません。一対一でできない課題を教え、できるようになったら自立課題として取り組ませます。一人で取り組むのが自立課題です。できない課題は本人の学習の課題か、もしくは「スタッフが工夫する課題」として取り組みます。

<自立課題への取り組ませ方>
自立課題の流れ
①自立課題に取り組む合図を渡す。
②自分で自立課題のコーナーに行く。
③棚から自分で課題をとって取り組む。
④終わった課題を箱などに片付ける。
⑤全ての課題を終えて、次の活動へと移動。
一連の流れが、自分一人で自立して行えるのが自立課題です。取り組み方も一人一人のスキルに合わせて取り組みます。数字がわかる人には課題に番号を振って順番に行い、数の概念が難しい人には、実物を順番に並べておいて、上から取り組むようにします。終わったら何をするのか、ということも、文字で示したり、写真カードで示したり、先生に聞きに行くようにしたり、こちらも一人一人のスキルに合わせます。

課題を準備してみたものの、うまく取り組めない場合もあります。そういった場合は、できるように練習させるのではなく、課題を改良していきます。例えば、ビーズをお手本通りに糸に通す課題があるとします。取り組んでもらうと、お手本を見ながら取り組むことが難しいとわかりました。その場合、「お手本を見ながらやるんだよ!」と何度も練習するのではなく、課題を改良します。

例えば、ビーズの型を作って、その通りにビーズを並べ、そのまま糸を通すような課題に変更して取り組ませると、自分でできるようになる場合もあります。課題をどんどん改良し、一人でも取り組めるようにしていくのが自立課題の与え方です。初めての課題は、取り組み方を教えますが、それでも難しい場合は、本人のスキルに合わせて、課題を作り変えていきます。自立して行えることを最優先し、少しずつスキルを高めていくように課題を見直すことが大切です。

一人でできることの大事さ

以前「就労メニューとワークシステム8/9」でプットイン課題について紹介しました。認知の障害の重い人や、目と手の協応が苦手な人でも取り組める初歩の自立課題であることを述べました。

最初は大きな重さのあるものを穴に入れるだけの課題から、徐々に軽いもの、小さいもの、薄いものへと進んだり、大きさの違うものを入れ分けたり、形の違うものを入れ分けたり、時間を長くしたりして発展させていきます。

よくある光景は、プットイン課題を勉強を教えたり指導のように考える方がいます。こういう方は、自立課題の意義そのものを間違えていて、ゴールが見えていません。自立課題は、自立して作業する気持ちよさを教えることが目的であって、ステップアップして難しいことをさせることが第一の目的ではないということです。一人でできる喜び、自分だけの力で達成する喜び、「GOOD JOB!」「おつかれさん」と言ってもらえる喜びを教えるのが自立課題なのです。そのために、子どもにわかりやすい作業をしてもらうために手を変え品を変え課題を作っているのです。

10ピースのパズルができたから20ピースのパズルを与えるのではなくいろいろな種類の10ピースのパズルが一人ででき気持ちのいい終わり方ができることが大事なのです。ゴルフボールが入れられたら、ピン球も入れられ、ビー玉も入れられ、という幅を広げる展開を考えてほしいです。