すてっぷ・じゃんぷ日記

2021年12月の記事一覧

K先生のじゃんぷ通信

K先生のじゃんぷ通信

年末が近づいてきました。
じゃんぷは2020年10月の開所から丸1年、おかげさまで利用者様も職員も増えて、去年よりずっとにぎやかな年末となりました。今年はクリスマスツリーに飾るリースを放デイで作ったり、(まだ年内ですが)書き初め企画をしたりと、利用者さんが増えたからこその学習以外の活動も充実してきました。

個別的な支援の中で、アセスメントをしながら読み書きや学習活動の基本から指導をしていきますが、「本当に力がついてきたなぁ」と感じるのは勉強場面だけではありません。数の理解や読み取りの力が伸びたことで、UNOやババ抜き、神経衰弱といったゲーム遊びの楽しさがわかるようになった1年生、おやつを食べながらのちょっとした読み聞かせを楽しみにしている3年生、ホワイトボードにその日の来所メンバーの名前を書いたり数字のクイズを作ったりするようになった読み書き困難のある2年生。

特に低~中学年さんの時期は、遊びや自由なかかわりの中で自信がついてきた力を、生き生きと発揮していきます。遊びの中味や質も、自分達で変えていきます。そんな子供達の姿が見られるのは、勉強も遊びも一緒の時間に行う放課後デイの醍醐味だなと感じます。

「勉強キライ」「今日はちょっとヤル気出えへん」と本音ももらしながら、やって来る子供達。穏やかな放課後の時間の中で、いざ机に向かえば、できそうなところは「ここは自分でできるし、何も言わんといて」と、一生懸命問題に向かう子供たちを見ていると、できない…難しい…という不安や弱音の向こう側に、やっぱり一人でできる!という実感や自尊心を、どの子も求めているのだなと感じます。

来年も、利用するお子さんにとって、穏やかに自分に向かい合い、適切な手助けを受けながら少しがんばれる、…そんな環境の一つになれますように、と思う2021年の年の瀬です。

 

子どもの最善の利益を考える

放デイにいるとたくさんの相談支援事業所の相談員と話をします。発達障害の事をよく理解されているなと思う人もいますが、知識の少ない人もいます。知識が少ないなら少ないなりに分からないことは保護者や事業所に聞けばいいのに、対象者が多くてそんな暇はないと言われます。いったい何のために相談事業をされているのかなと思う事もあります。

同じことは自治体の担当者にも言えます。子どもの事をよく知らないなら、保護者に電話する前に子どもを見に行くのが先決だと思うのですが、そんなことをしていては時間が足りないと言われます。だったら、事業者の言う事を信じてほしいと思うのですが、そういう方に限ってマニュアルの字句通りに判断しようとします。そして、現場に聞き取りもなく先に判断して支給に関する決定を突然現場に通告してきます。

確かに、サービスの支給量の決定権は自治体にあります。しかし、措置制度から契約制度に変わって20年近くたつのに、いまだに昔の感覚でお上が決めるのだから口をはさむなとばかりの高圧的な方もいます。いったい何時代かと思います。なんのために相談支援事業所がかくもたくさんできたのか、それは行政の仕事を肩代わりするだけの意味ではなかったはずです。

利用者に寄り添い丁寧に話を聞き、サービスの仕組みを説明をして利用者側の理解を得ていく相談のプロセスの中で、これはサービスにつなげる必要があると判断するのは事業者です。個別の理由を行政に説明する中で行政にも理解を得てサービス支給量を決定していくのです。決して行政が一方的に決めるのではなくよく相談をして決めるのです。マニュアル通りにやるなら機械にやらせた方が公平です。なぜそこに相談事業所があり人手を割いているのか考えてほしいです。

相談員は利用者に寄り添い、行政官は規則に寄り添いながらも、双方が話し合うのは利用者ニーズと行政規則の双方をすり合わせて、最善の解決をしていくためです。利用者側に立てない相談事業所は生き残れないし、相談事業者の提案を規則にないからと跳ね返してばかりいる行政官はAIにでも変えればいいのです。誰のために働いているのか、世知辛くなるとそこを忘れがちになるので、いつも原則に立ち返ってほしいと思います。

相談支援事業所とは 相談支援専門員が障害のある方やその 家族から相談を受け、様々な情報の提供や助言、及び福祉サービスを受けるための手続き等をお手伝いします。情報の提供をはじめ、必要に応じて行政機関や障害福祉サービス事業所とも話し合いを行い、子どもの利益を最優先にするための機関です。

ボールのやり取りとコミュニケーションレベル

Tちゃんが対人で向かい合ってボール投げやボール蹴りができないと職員が困っていました。Tちゃんは話し言葉がなく自分のつもりだけで動くので行方不明になりやすい子どもですが、しつけられた衣食のスキルは問題なくできる子どもです。Tちゃんの生活スキルだけを見ていると遊びもそれと相当なことが出来そうに思うのは無理もいないことです。

Tちゃん達は大人とマンツーマンの事が多く集団遊びが足りないので何か取り組めないかと提案されていました。そこで、先輩のU君やR君と一緒にボール投げやボール蹴りに取り組もうとしたのです。しかし、Tちゃん愛想はいいのですが、ボールが来てもそれを弄んでみたり座ってみたりするのでやり取りが成立せず遊べなかったというのです。

実は、コミュニケーションレベルとやり取り遊びは連動しています。コミュニケーションは相手からのメッセージを受信して返信していくというやり取りです。ボールのやり取りも言葉ではありませんが、そこに相手へに向けた意味があります。何も言わなくてもボールを相手に投げることは「うまく受けて返してね」という意味がこめられているのです。この意味を双方でやりとりするのでボールのやり取り遊びは楽しいのです。

この自分に向けてこめられた意味がわからなければ、ただ目の前にボールが転がってきただけなのです。向こうで職員が「こっちこっち」というから投げてはみますが、なんのために投げたか意味が分かりません。だから楽しくないのです。つまり双方のコミュニケーションが成立するには媒体が難しすぎたのです。簡単にするにはボールを相手に直接渡して「どうぞ」「ありがとう」の関係です。これなら渡すと言う意味は分かるし、距離が近いので気持ちも切れにくくなります。

Tちゃんには、PECSを取り組んだ方がいいねとご家族とも話しています。絵カード交換は、意味がカードに書いてあります。ボールに暗黙の意味を込めるのもすぐに意味が消える音声もよく似ています。私たちが絵カードコミュニケーションに力を注ぐ意味はここにあります。そして、Tちゃんに向いた集団遊びはみんなでつながって遊具をはしごしたり、向かい合って遊具で遊んでみる並行遊びが丁度いいかもしれません。楽しいねという情動を共有する場を作ることから丁寧に取り組みたいと思います。

 

支援計画作成の舞台裏

支援計画懇談が年度末にむけて始まりました。30名近くいる利用者の保護者に営業時間の限られた時間(午前中)内に来てもらうとなると、一日一人が精一杯ですから、毎日続けても2か月弱かかります。他にも、見学やら会議が入りますので、3か月弱は考えておくと、春休みに入れば朝から子どもたちが来るのでできないから、今頃から始めないと年度末中に終わりません。

長期休業以外の月に分散させても半年に1回支援計画は見直すので、1か月換算すれば10名にするか7名ほどにするかの違いなので、それなら実践計画や教材づくりに集中できる平日営業日を3か月間を作ろうということで、支援計画と計画懇談の期間を設けています。長期休業で全日忙しい3か月、教材づくりや実践の工夫をすることに集中する3か月に比べ、計画作成に関わる期間は6か月です。現場では計画作成に関わる時期が長すぎると感じています。

さらに、じゃんぷなど個別療育型事業所では週当たりの利用が1回だと、経営を成立させるためには利用者数をすてっぷの3倍程度に増やす必要があります。しかし、利用回数が少ないからと言って、機械的に作成時間や懇談時間を3分の1にするわけにはいかず、計画作成に関わる時間は大して変わらないので、支援時間に比べ計画作成にたくさんの時間をかけることになります。

それでも、利用者の保護者からは、他の事業所には見られないほど丁寧でわかりやすい計画書の説明だと感謝されることは多いです。そして、保護者理解が得られてこそ、全体で取組むことができ、子どもは変わっていくのですから、あまり機械的に時間を減らすのもできれば避けたいです。ただ、時間をかけたから理解が得られるのではなく、優先順位を明示して端的に説明することが大事だと心がけてはいます。

職員にとっても、自分の書いてきた計画やまとめを集団的に議論する中で、新しいことに気づいたり工夫が生まれたりしますから、大事な作業ではあるのです。それにしても、満足の得るものを作ろうとすると時間がかかります。毎回同じ計画を掲げているなぁと反省する子どもも出てきます。堂々巡りに行き詰った時は専門書を読んだり研修会に行ったりする必要がありますが、なかなか経営上難しい課題です。今回は、支援計画の舞台裏、楽屋話を書きました。ぜひ、事業所同士で個別支援計画の作成についての工夫などを交流するために話し合いたいものです。

できるようになっても褒めてあげよう

つい最近まで壁によじ登るわ、思い通りにならなければ叫ぶわ、衣服が少し濡れただけで素っ裸になるわのSちゃんが、最近とってもいい子だと評判です。不適切行動への最後の取組が9月頃、事業所に入る時の「こんにちわー」の大音声を、「2の声でお願いします」とあらかじめお願いして【2の声でお願いします : 10/13】、最近はひそひそ声であいさつをするSちゃんです。そこまで小さな声でなくてもいいのですが、やや小さいの調節はSちゃんには難しいようです。職員はSちゃんの小さな声でも必ずこんにちわと返すようにしています。それでSちゃんは満足なのです。

でも、賢くなったと言われ「普通になった」子どもは職員からの注目を浴びなくなります。特にASD児の場合他児ほど人に関心を示しませんから大人の方も忘れがちになります。しかし、それでは子どもは人に注目を向けないまま育ってしまいます。普通にできたことでも頑張っているんだと理解して、「上手だね」「偉いね」「すごいね」と声をかけてあげて欲しいのです。失敗しても大人の修正支援を受ければ褒めてもらえると言うことが記憶に残れば、今後も支援を受けやすくなります。

支援の「アフター支援」を確実にすれば、支援を享受するための関係性がしっかり結びつけられます。修正支援を受けた後は、しばらく褒めてあげることが大事です。できるようになったから褒めないのではなく、「よく覚えていた」「毎日頑張っている」ことを褒めてあげて、支援を受けて良かった感情をしっかり刻み付けてほしいと思います。そして、褒めている職員を見つけたら、職員の頑張りも褒めてあげて欲しいです。叱る事にはたくさんのリスクが付いて回りますが、褒める事にはリスクもコストもかからないですから。