すてっぷ・じゃんぷ日記

2021年9月の記事一覧

約束は守る

言葉のないQ君が通所してきたので、これからすることを伝えました。絵カードで「公園」「ぶらんこ」と「事業所」「おやつ」を示して、公園でブランコした後事業所でおやつにしようという意味です。

公園に行くと、ちょうど雨が降った後だったので、ブランコの下に水たまりができてブランコができずに事業所に帰ってきたそうです。それでは、別の公園でブランコしてきたらどうかと他の職員が指示したそうです。

すると、Q君は事業所を少し出た道路で座り込んでしまいました。それをなだめすかして他の公園まで連れて行きブランコをして帰ってきたそうです。道路に座り込む理由はこの経緯を考えれば明確です。もしもQ君が喋れたらこう言うでしょう。「公園に行って帰ってきたらオヤツだって示したのに、なんでやね~ん!」です。

「いやいや、それはブランコの下に水が溜まってから遊べなかったので、ブランコができる別の公園に行こうとしているわけで・・・」そんな理屈は、すでに事業所に帰ってきたQ君には理解不能です。変更の交渉もなく無理やり連れて行かれたという理解になります。「だから大人は信用できない」とQ君が思っても仕方ないです。

絵カードを示すと言うのは言葉で約束したことと同じです。言葉のわかる子に「公園行って帰ったらおやつにしましょう」と言ったなら、必ず変更の際には、「ごめーん、他の公園行ってからおやつでいいかな?」と聞くはずです。あるいは「なんでやね~ん」と子どもが怒ったら説明して交渉をしたはずです。

言葉だろうが絵カードだろうが約束は守るもので、変更が必要なら交渉するのが世の中のルールです。もちろん変更の交渉をしたからといって、納得してくれるかどうかは分からないですが、それはどの子も同じです。言葉がわからないからこそ、「絵カードを示す大人は信用できるよ」と思ってもらえるように、約束は大事にしてほしいと思います。

 

動画研修と視覚支援

すてっぷでは、今年度になってからパートの方にも支援方法を学んでもらおうとLINEで動画を配信しています。忙しいので編集したものではなく生で1分間ほどの動画をやりとりします。文章であれがどうしたこうしたと書いてもその場の条件や支援者の間の取り方などがわからないので生の動画の方がわかりやすいです。

主にはコミュニケーション場面について動画をグループラインでやり取りしています。Pちゃんのおやつ場面の動画では、Pちゃんが確実なおかわり合図を出してから食べさせる行動を1分ほど撮影したのですが、Pちゃんのおかわりサインがだんだん強化されてきているのが1分間見ててもわかりました。子どものリアクションを待つことが大事と1分喋っても大して重要性を伝えることはできませんが、「目に物を言わせる」と説得力があります。

唸り声でうるさかったQ君の「うるさい+タブレットなし」カードも、ホンマかいなと思うほどの絶大な効果があることが、「論より証拠」でグループライン全員に配信できています。結局、私たちにも視覚支援は有効なのです。音声言語で意味を全部つかみ取っているわけがないのです。ましてや文字言語でも同じです。読むのが苦手な人は何も利用者の小学生だけではないのです。歳をとればとるほど読むのは面倒になってきます。視覚支援最高!

 

暗黙の了解

P君に、「公園に行くから、みんなのおやつとお茶をリュックに入れて用意してね」と職員がお願いをしました。素直なP君は「わかったー!」といそいそと、準備を始めました。職員は、「低学年なのに言いつけたお手伝いができて偉いなー」と公園で褒めようと車に乗り込んだそうです。

公園に着いて、「P君、用意したリュックは?」と聞くと「え?事業所にに置いてきたよ」と平然と答えたというのです。「いやいや、おやつとお茶はどこで飲むと思ったの?」と職員が聞いてみると、P君は「????」と言う感じだったっと職員から報告されました。

つまり、P君にしてみれば確かにおやつはリュックに詰めろとは言われたけど、そのリュックを公園に持っていけとは指示されなかったと言うわけです。職員一同「あるある」と大笑いでした。暗黙の了解がわからないので字句通りに行動してしまいやすいのがASDの特性です。P君が悪いわけではないので、今度からは「リュックを用意して、そのリュックを車まで持ってきてね」と付け加えればいいのです。

大人でも、「その子を見ておいてね」と指示を出すと、子どもが色々不適切なことをしていても「見ておけ」と言われたから見ているだけにしたと平気で言われる方もいます。でも、その人だけが悪いと言うわけではないでしょう。ユニバーサルな指示は、「見ていて危険な行動をしたら、その行動を防ぐか応援を呼んでください」と言うべきなのです。と言っても、またその行動の防ぎ方でトンでも支援がありそうですが・・・。

子どもの目標と大人の行動

Oちゃんの支援計画を考える時に、コミュニケーション支援のところで「手を伸ばすなど自分から要求できるようになる」という自発のコミュニケーションの目標を掲げました。Oちゃんは機能的なコミュニケーションはまだできない子どもです。

自らコミュニケーションの存在を意識していない人に「要求できるようになる」という目標を掲げること自身は問題ないにしても、目標達成しなかったときの原因がはっきりするような、支援方法を書くべきだという話をしました。

大人がOちゃんの表情や素振りを読み取って、その時におやつを食べさせたり、欲しいものを手渡したりするわけですから、支援者の「間」が非常に大事になります。以前にも(スナックタイム改めコミュニケーションタイム: 08/26) で、支援者が「食べさせる時間」だと考えてしまうと、この「間」がなくなってしまうから、スナックタイムではなくコミュニケーションタイムと改名しようと書きました。

つまり、本人の目標が達成できるもできないも、支援者の見立てと対応如何だと言うことがわかるように、支援方法に書く必要があるということです。「おやつは、手がおやつに動くか、支援者に視線を合わせてきたら「おやつだね」と言いながら口元に持って行き最後は自分で口に入れる動作を引き出す」などと具体的に書きましょうと話し合いました。

そうすれば、支援方法が正しかったのかどうかが、確認しやすくなるという事です。重度の人や支援が難しい人の場合、目標自体は正しくても具体的にどう支援するのかと言う方法が書かれていないと、延々と同じ目標が続き、支援計画が形骸化してしまうと思うからです。支援は、大人がどう行動するかがカギなのです。

強化子・動機付け

事後評価の会議でM君に靴を靴箱(段ボールBOX)に入れるように取り組んでいるが全くできないと報告がありました。M君は注意が転導しやすく周囲がざわついていたり好きなものが目に着いたりすると気が散ってしまいます。

けれども、郵便物を二階の先生に渡してきてねとお願いすると、移動中に様々な刺激があるのに郵便物を届ける事ができ、「ありがとう、じゃぁ1階のN先生にこれを渡してきて」と再びお願いしても正確に持帰ることができます。これだけの目的行動がとれる人が本当に目の前の靴箱に脱いだ靴を入れる事ができないのかどうか話し合いました。

話し合った結果、何故郵便物は運べるのに自分の靴は目の前の靴箱に入れられないかの推測は二つでした。一つは、部屋に入るときは全員が入ってきて、玄関口がざわつくので気が散りやすいことです。この際、玄関口の子どもたちがいなくなってから、プレイエリアが視界に入らない場所で取組むことにしました。

もう一つは、郵便物が一人で運べるのは、人が好きなM君にとっては二階の先生の場所に行くこと自体が動機になり、先生に会う事が強化子になっているということです。靴をBOXに入れても彼にとっては利得はないので学習しないという推測です。したがって、彼のお気に入り絵本を通所後はすぐに手に取ろうとするで、これを強化子にして、BOXに靴を入れる→絵本を与えるというルーティンで支援すればどうかという話をしました。

障害の重い人にはマンツーマンで介助をすることが多いので、できそうなことでも介助者がやってしまいがつです。実際にできるように支援しようとすれば、動機や強化子を把握して自発行動を引き出す必要があります。支援学校の子ども中心につけられる「個別サポート(Ⅰ)」とは介助行動の加算ではないのですが、日常生活動作が全介助を要する人が対象とあるので、障害を固定化して見てしまいがちです。