すてっぷ・じゃんぷ日記

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何を支援したいのか?

Ⅰ君がスケジュールを見ないので、スケジュールを見るように声を掛けたらいいかどうかが議論になっていました。「ところでⅠ君首からスケジュールぶら下げているけど、あれは何のため?」「Jさんの見通しを戸外でも持たせるために、携帯スケジュールにしてもらったら効果があったから、Ⅰ君にもつけてもらっている」「K君がぶら下げているから自分のも欲しかったようなので作ってあげた」「???」

Ⅰ君のスケジュール支援の今の狙いは、「スケジュールを理解する」ことです。つまり、スケジュールが何の役に立つのかどう使うのかも分かっていないのです。Jさんの戸外の見通しが持てるようにするためのスケジュール携帯とは目的レベルが違います。しかし、こうした目的を理解しないまま使う視覚支援ツールの与え方は「現場あるある」で、あちこちで見られます。

他の人でうまくいったから、この人にも使おうというのはまだいいほうです。目的も分からずに格好だけ真似した「視覚支援」グッズを使う人のなんと多いことかと思います。武漢風邪のマスクと同じです。マスクで感染予防できるとは思っていないのに、みんながつけるから付き合いでつけているだけという現象とよく似ています。

視覚支援のつもりだろうけど、そのグッズの使い方はこの子にあってないよね、という様子はあちこちの学校や園で見受けられます。今回は、I君はまずスケジュールの使い方を理解する事が優先課題です。首からぶら下げていても肝心のスケジュールを見なければ役に立ちません。

スケジュール理解の最初のトレーニングは、子どもが場面の切り替えの度に、カードを貼ったり入れたりする操作をすることでだんだん理解していくのです。与えてすぐに理解できる子は多くはありません。スタッフが何を教えたいのか狙いを持ち、マニュアルに添って子どもの理解レベルにあったスケジュール支援をお願いします。

 

トランジションカード

タブレットを見ていたU君がタイマーが鳴っても終わりの活動に動こうとしないので、「もう終わりだよ、タブレットをかばんにかたずけます」と指示したら、トイレに長く入ってしまったという報告がありました。このU君は以前「席をはずすのはいけない事か? 07/03」で紹介した人と同じ人です。

どうも、トイレに行くことがU君の切り替え場所(トランジットエリア)なのかなと推測しています。すてっぷは静かに(カームダウン)する場所が近くにはなく、行くとすれば目の前のトイレくらいなのです。前回は、終わりの会が彼にとっては意味なく感じてトイレに行ったという推測でしたが、以前から帰り際にスタッフに声をかけられるとトイレに行っている印象があるのです。

前回の掲載は、どうすればいいかは答えは一つではないので機会を見てまたエピソードを紹介したいと書きましたが、今回の場合は、比較的答えがはっきりしています。タイマーが鳴っても終わりとは思っていない事と、スタッフから声をかけられるのはむかつくのでトイレに行きたくなることだったのではないかと思います。

だとすれば、声をかけて終わらせるのではなく、トランジション(スケジュールを見ます)カードを渡して、「カバンにタブレットを入れて帰る準備」のスケジュールの絵を見せようと提案しました。うまくいくでしょうか。機会を見て結果を報告したいと思います。

主体性を育てるワークシステム

H君がワークシステムを途中で投げ出してしまい、やろうとしないという報告がありました。40ピースほどのピクチャーパズルをやろうとしないので6ピースのピクチャーパズルをかわりにやってもらったというのです。確かに、H君にとっては毎日同じピクチャーパズルは飽きたのかもしれないし、6ピースでもやったからいいじゃないかという見方もあります。

私たちはワークシステムで何を教えたいのか?H君にはどうなって欲しいのかという事を抜きにして、できたかできないかということを議論しても意味がないのです。私たちがH君に望んでいることは、今日のスケジュール内容についてやれるかどうか最初にご褒美も含めて選択し、選んだものは自立的主体的に完成させて達成感を持って欲しいのです。大人が選んだものを機械的にやれば良いとは考えていないのです。

例え構造化して視覚的にやる事がわかっても、やっている意味が分からなければ子どもはワークシステムにやがて従わなくなって当たり前です。しかし、せっかく理解したシステムなのに、本人が途中で投げだしたからと言って、スタッフが忖度して簡単な内容にしてしまうというのは、ワークシステムを続ければいいというスタッフ側の論理であって、そこで彼が何に困っていたのかはわからないので問題は解決しません。

ワークシステムはASDの子どもにとってたいへん便利なシステムですが、「仏作って魂入れず」のワークシステムは子どもの困り感を覆い隠してしまいます。

泣く子も笑う絵カード

新入生のEちゃんが事業所に入るなり大声で泣きだしました。別に悲しくて泣いているのではありません。大人がいなくなれば泣かないのです。つまり、泣けば公園に連れて行ってくれるという理解なのです。

スタッフは、どうしたものかと困り顔です。ここは、機能的コミュニケーションを教える絶好のチャンスなのにもったいないと思っていました。そこへ、もう一人のスタッフがやってきて、Eちゃんに公園のカードを持たせて中心指導のスタッフに渡させました。「OK公園行こうね」と公園カードをスケジュールのゲームの後に貼り付けました。「ゲーム終わったら、公園に行こう」

Eちゃん、泣くのをぴたりとやめて、ニコニコしてゲームに取り組みました。そうだよ、大声出さなくても泣かなくてもあなたの思いは伝わるよ。ゲーム終了後、Eちゃんは笑顔で公園に出かけました。

再びスケジュール考

スケジュールについては「9/19効果のでないスケジュール」や「5/30視覚支援」で述べましたが、その趣旨は、大人が子どもを管理するためにするためのものではなく、支援を受ける側の方々が、理解しやすく、不必要な混乱をしない、つまり、生活の主人公になるために行うものです。

そのほかにもスケジュールによる視覚支援は、短期記憶の弱い人の記憶の代わりになり、作業や学習を進めるにあたっていちいち人に頼らなくても、自分で自立してすすめられるという利点があります。つまり便利なのです。

ただし、やりたくもない課題、必要性を感じない内容については、いくら手順を示してもやりたくないものはやりたくないのです。つまり主人公たる本人のやりたいことが、自分の力で実現できるから、スケジュールをはじめとする視覚支援を本人が使おうとするのです。自分にとってメリットがあるから使うのです。座らせたり、片づけさせられたり、準備させられたりするためにスケジュールは使われるのではありません。それは、ABAの理論に基づいた動機付けの工夫が別に必要です。スマートなスケジュール支援はそこまで考えた総合的な教育支援になっているものです。