すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:スケジュール

信頼関係を作るとは?

Tちゃんが、怒ってヘッドホンを破壊したと報告がありました。理由を聞くと、Tちゃんのスケジュールを無視して公園に連れて行こうとしたのが原因です。何故スケジュールを無視したのか聞くと、タブレットで遊んでばかりさせないで公園で体を動かした方が良いと職員が思ったからだそうです。そして、ヘッドフォンを壊した後はやり直し行動(別の穏やかな方法を教える)もさせなかったと言います。不適切な行動をしたTちゃんには、エラー修正より謝らせることが大事だと言いたそうです。

これをTちゃんの視点から考えてみます。「通所してきたら先生がスケジュールを示して今日の内容が分かったので嬉しいな。他の場所では、何が起こるかわからないので、好きな事だったらいいけど突然嫌なことが始まるとドキッとしてムカムカするからいやなの」「今日は公園に行って遊んで、帰ってきておやつを食べて、タブレット遊びだ、わたしタブレットで踊りの動画見るの好きなんだ楽しみー」。

タブレットで動画を見ていると突然職員が公園に行こうと言います。「えーっ!来た時にスケジュールでタブレットって約束して貼ってあるじゃん。なんで約束やぶるのー?しかも突然だし、交渉もないし、あムカムカしてきた!えーい ヘッドホン潰しちゃえ!」

「なんか外に連れ出されてヘッドホン潰したらだめっていうけど、ごめんなさーいって言ったら中に入れてくれた。そうか、ごめんなさーいと言うと中に入れるんだ。いいこと覚えたっと」「ヘッドホン潰したら、またタブレットで動画見る事ができたよ。うれしーなー。これから、タブレットを止めさせられてムカムカしたらヘッドホン潰せばいいんだ」

私たちは、子どもとの信頼関係を結んでこそ療育成果があがるとよく言います。子どもとの信頼関係とは指導者の一方的な思い込みではありません。子どもとの約束を守る中でしか信頼関係は結べません。大人が一方的に決めるのは約束ではないのです。子どもに説明し子どもが理解をしてこそ約束なのです。どんなに素晴らしい療育も子どもとの信頼関係が崩れてしまっては効果は上がりません。逆にやればやるほど子どもの信頼を失います。スケジュール指導は子どもとの信頼関係(お互いの約束・交渉)の中で成立するものですし、ASDのスケジュール表は信頼関係そのものと言っても過言ではありません。

ベテランは道具のせいにはしない

中学生のR君、昨年までは学校でスケジュール表を使っていたけど、予定変更でパニックを起こすので今年度はスケジュール表を使っていないと職員が聞いて返す言葉がなかったそうです。でも、それは、学校ではあるある事例です。他にも、絵カードスケジュールを使っていたら、気にいらない絵カードを捨てるようになったから、せっかく作ったのにもったいないから絵カードはやめたとか、勝手に好きな絵カードをスケジュールに入れてかえって教員との摩擦になるのでやめたなど、スケジュールを使ったけど諦めたというケースはたくさん聞きます。

でも、それは、スケジュール支援をしたから生じているのではありません。このブログでは何度も書いていますが、スケジュール支援は、PECSでは交渉スキルのかなり後の方のスキルなのです。また、ASDの子どもはビジュアルドライブと言って、見たものに従属しやすい傾向があって、自分は嫌なのに従う事があって後で怒り出す事例があります。つまり、これは自閉症のビジュアルドライブの特性や、スケジュール支援は交渉スキルの積み上げがないと躓きやすいことを、知らないまま指導して起こっている事がほとんどです。

私たちの事業所でもこうしたケースは何度も出会しますが、先の2つの原因がほとんどです。原因を調べる時に必ず職員に聞くことがあります。それは、子どもの自発表出の要求スキルを鍛えないまま、子どもの理解スキルばかりに注目していなかったかどうか、2つ目は子どもの「些細なお楽しみ」の後回しや変更について、大人との交渉トレーニングを地道に積んだかということです。つまり、子どもが絵カードで驚くほど従うようになったのを良いことに、子どもが要求を伝えるトレーニングや交渉トレーニングを抜きに、大人の思い通りに動かそうとしていなかったか聞くようにしています。

絵カードスケジュールのせいにするのは、腕の悪い職人が道具のせいにするのとよく似ています。道具が悪いからいい仕事ができないと言うのです。良い職人は、どんな道具でも上手に使いこなして、一人前の仕事をするものです。そして、ベテラン職人は半人前の職人に向かって「道具のせいにするより、テメーの腕を鍛えやがれ」と檄を飛ばすものです。ベテランはこうも言います。すぐに何かを作ろうとせず、まずはカンナが曳けるように何度も何度も取り組めと、一人前はいきなりなれるものではないと諫めます。道具のせいにするとは、困ったものです。

そうだったのかプールパニック

昨日朝からプールと思い込んで大声を上げて怒っていたいたOちゃん(言葉と機能的コミュニケーション: 07/29)が今日は落ち着いて通所してきました。朝からプールに入ろうともしないし、お昼から粛々とプール遊びをしたのです。何故だと思うか職員に聞いてみると、朝から全体にスケジュール発表をしたからだと言います。でも、毎日年がら年中、全体へのスケジュール発表はしているのです。スケジュールが朝に発表されるとOちゃんが認識しているなら、そもそも昨日のような見通しと食い違ったようなパニックを起こすはずがありません。

他の職員にもう少しよく聞いてみると一昨日も家庭の都合でお昼からお父さんが連れてきたと言うのです。ちょうどお昼からはプールだったのでOちゃんは楽しかったわけです。

「そうか!そういうことだったのか!」やっとOちゃんのプールパニックの原因が分かりました。時間やスケジュールがよくわからないOちゃんは状況でこれからの出来事を予測しているのです。「一昨日は【昼に】お父さんと事業所に来てプールでご機嫌だった→昨日もお父さんと【朝に】一緒に来た→お父さんと一緒に来たら昨日通りすぐにプールがあると思ったのにプールがないので怒った」というわけです。Oちゃんには朝も昼もないのです。「お父さんと通所すればプールがあり、職員と通所すればプールはすぐにはない」という理解だったのです。

職員は毎日毎日全体のスケジュール発表をしているから、それくらいOちゃんは理解しているだろうと思っていたのですが、見事に外れました。「昨日プールに入ったのが嬉しくて、今日は朝から入ろうと思い込んできた」という前回の読みも違ったのです。Oちゃんの中にはOちゃんの秩序があったのです。こんなふうに世の中を理解しているとなるとOちゃんの日常はハプニングだらけです。そして周囲の人もOちゃんの苦しみがわからないまま毎日を過ごすことになります。スケジュール支援は家を出る時に示す必要があると思います。「午前公園 お弁当 午後プール」程度の簡単な日課でいいのです。そして日によってスケジュールを変え、ルーティンな日課にしない工夫が必要だと思います。

 

 

ホワイトボード

Bちゃんが、全体のスケジュールを書いたホワイトボードの前でゴソゴソしているので見に行くと、帰りの配車表を並べ替えていました。C君はD先生の車、EさんはF先生の車でと自分の思いついた配車に変更しているのです。(スケジュールの間違った使い方 : 06/17  )で紹介した子はBちゃんの事です。つまり、相変わらずスケジュール表が自分で貼り替えれば思った通りになる魔法の表と理解しているようです。でも、不思議なことに、今回は自分の配車は触らないのが、新しい変化です。これは何故だかわからないのです。

 Bちゃんの様子を非常勤の職員が報告してくれたのですが、その時どう対応したのか、職員はBちゃんの行為をどう思ったのかは送迎時間の最中なので聞くことができませんでした。子どもたちの様子を事細かに報告してくれることは大事ですが、職員の対応や考えも教えてもらえると、さらに助かりますとお願いしています。それは、職員の対応次第で気になる子どもの行動の多くが強まったり弱まったりする原因になるからです。

 Bちゃんの今回の行動についてはどう対応すればいいのか、正解はわからないです。しかし、職員のリアクションが分かっていれば次のBちゃんの次回の行動が分析しやすくなります。現段階の推測では、これはBちゃんの再現遊びの一種で、不適切行動とまでは言えないと考えられます。また、自分の配車を触ると注意されたので他の子どもの配車を変えているのかもしれません。

しかし、ホワイトボードを触られるのは他の子どもの支援や業務上問題があります。どう対応すればいいのか、Bちゃんの支援にアイデアが求められていると思います。すぐに思いつくのは、配車はパーソナルな情報だから全体に示す必要はなく個人スケジュールにする事です。しかし、それでは理解できる子には誰と乗って行くのかの情報が提供できません(そこだけ口頭報告という手はありますが)。貴方ならBちゃんや他の子をどう支援しますか?

 

スケジュールの間違った使い方

新しい子どもに見通しをつけさせたいと、貼り付け式のスケジュールを使う人がいます。子どもは日課に見通しを持ちますが、このスケジュール表を「魔法の表」と勘違いする子どもがいます。対人相互性(対人関係)が弱いASDの子どもはこのスケジュールが大人との関係性で契約された表だとは微塵も思っていないのです。

スケジュールを最初に教えられた子どもたちは、この表に自分の好きな玩具遊びや公園行きのプログラム絵カードを貼り始めます。そして、嫌いなプログラムを捨てます。職員は「だめでしょ」と注意したり、動かせないスケジュール表(印刷したり上から透明板で固定する等)を使わせようとします。(使えんちゅーねん!)

スケジュールスキルは、PECSでは文フレーズを作って要求するフェーズ4以降に登場する高度な社会的適応のスキルです。PECSではコミュニケーションのトレーニング段階と並行させて移動スキルや交渉スキル、要求スキルについて段階を追って教えるようにしています。「~したら~しようね」の交渉が通じない子どもに気に入らないスケジュールを示せば、スケジュール上で混乱が起こるのは自明の理です。PECSマニュアルの243ページから30ページほどは、子どもと交渉をどう成立させるか目から鱗の落ちるアイデアが満載です。ぜひお読みください。