すてっぷ・じゃんぷ日記

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あの人・・・

「先生、あの人のドリブルうまいな」「あの人、まだおやつ食べてはれへん」「あの人」を連発するA君はここの放デイにきて3年たちますが、友達の名前もスタッフの名前もほとんど覚えていません。「先生」と「あんた」「あの人」で不便を感じなかったからと思います。

実はA君顔と名前がなかなか覚えられないのです。このことは前回(相貌失認 2020/12/19)でも書きましたが、これが友達に中途半端に分かってしまうと「A君とは長い付き合いなのに、まだ僕の名前知らない」という誤解を作ってしまいます。

でも、A君はいっこうに困らないのでこちらから声をかけることにしました。「あの人って、この中の誰の事かな」と玄関に貼ったスタッフ利用者顔写真まで連れて行って聞くようにしています。屋外で「あの人」がでたら、「A君、あの人の名前がわからなければスタッフに聞いてね」というワンセンテンスを入れるようにしています。

相貌失認

今日はお天気がとてもいいので西山歩きにいってきました。L君は久々の運動が西山歩きだったので帰ってくるころにはスタミナ切れで、青息吐息でぐったりしていました。そのL君にM君が矢継ぎ早に漫画の話題を話しています。M君は一つ年上のL君がとても気に入っていて、L君が来るととても嬉しいのです。それがわかるL君はぐったりしながらも「うんうん」とM君の話に頷いています。L君の優しさには頭が下がりますが、M君はそんなL君のしんどそうな表情がまるで認識できないようなのです。

相貌失認(そうぼうしつにん、Prosopagnosia)とは、脳障害による失認の一種で、特に「顔を見てもその表情の識別が出来ず、誰の顔か解らず、もって個人の識別が出来なくなる症状」を指すそうです。これは頭の怪我などからわかってきた障害ですが生まれつきの人もいます。ブラッド・ビットが2013年に相貌失認かもしれないと告白しましたが、ASDの人たちの中にも程度の差は人によってそれぞれですが少なくないようです。

M君は3年ここに通所してますが、いまだに「あの人」と名前が覚えられない子どもやスタッフがいます。人に興味がないというより、顔が覚えられないのかもしれません。そして、大好きな人の表情も読みにくいので、しんどそうに頷いているL君に自分のお気に入りを話し続けているのです。こんな時、どんな支援がいいのか考え込んでしまいます。表情が見えないのに見ろというわけにもいかないからです。

この場合は、まず自分が他者の顔や表情が読みにくいことを知り、そこから起こりうるリスクとそのリスク回避の方法(謝り方等)を学んでもらう事と、極身近な人たちにはカミングアウトして援助を求めていくのが良いかなと考えています。筆者も相貌失認の傾向があり、スーパーなどで買い物をしていて親しげに声をかけられても誰か思い出せず「急いでいるので」と買うものも買わずにその場を逃げ出すことがたまにあります。研究によると人口の2%にこの傾向が確認されるそうです。