すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:不適切行動

学習成立条件と途切れない堤防

Wちゃんは最近ご機嫌斜めです。今日も送迎車に乗車する時に、今までは前に座っていたのに、ちょっと乗っているお友達が違ったせいかつもりが崩れて、後部座席に勝手に行こうとするので「後でお出かけする時に後ろに乗れるからね」とその場は制止しました。しかし、乗っているうちにやっぱり後部座席に行きたくなって騒ぎ出しました。最近はすてっぷ以外の事業所では騒ぎ立てて要求を実現することが多いらしく、交渉が成り立たなくなっていて、それがすてっぷの場面でも多く見受けられるようになってきました。

制止され要求がこれまで通り叶わなくなるとさらに大きな声で騒いだりするのをバースト現象と呼びます。Wちゃんにとって交渉などのめんどくさい関係性が分からなくなった混乱時はこれが最も高い確率で要求が実現する方法なのです。職員もバーストに対応してしまったら今後防ぎようがないと思ったのか、その後はWちゃんを完全スルーで事業所にたどり着いたと言います。泣き叫ぶWちゃんの声の大音響の車内で職員も子どもたちも疲弊して降りてきました。Wちゃんもパニックが収まらず、事業所でカームダウンするのに半時間程度かかりました。

確かに、バーストしているWちゃんの要求を認めると、今後も同じことを繰り返すと心配する職員の気持ちは分かります。しかし、パニック中には学習は成立しません。学習はトレーナーもトレーニーも最高の状態で最高のパフォーマンスが実現し学習効果が上がります。混乱して最悪の気分の時に何を教えても学習は成立しません。逆に関係性を悪化させるだけです。Wちゃんが落ち着いているときに簡単な課題から交渉練習のやり直しで学習を積みなおすしかありません。

また、例えその場をしのいだとしても全体が一致して支援しなければ不適切行動は繰り返します。今回の行動は、事業所や学校、家庭が一致していないことから生じている行動ですから、一つだけ穴をふさいでも別のところから漏れ出すのでは解決にはつながりません。不適切な行動を洪水に例えるなら、1か所だけどんなに高く強靭な堤防を作っても、堤防は一つでも穴があればそこから決壊していきます。今は全体の協力で低くてもかまわないから途切れない堤防を作ることが課題です。

 

事業所によって子どもの様子が違うのは何故?

Rちゃんは二つの事業所を利用しています。すてっぷでは最近めきめきと成長が感じられるRちゃんで、他の子どもたちと仲良く遊べたり、予告と褒める事を繰り返す事によって不適切な行動はほとんど見られなくなりました。ところが、別の事業所では職員が困るくらい不適切行動が多いと言うのです。

子どもが、場所によって違う姿を見せるのはよくあることで、その原因のほとんどは対人関係を含めた環境の違いです。見通しのある環境では安心して過ごせるので、少々のイレギュラーな事態も乗り越えてしまいますが、見通しや自分の要求が他者に伝わらずイライラして不安が多い場合は、ちょっとしたことでも爆発してしまうのです。

つまり、同じようなハードルであっても、本人の安心感の度合いによって反応は全く変わってくるという事です。今回は、別の事業所の方からRちゃんの様子について事業所職員が相談を受けて工夫していることを伝えましたが、そもそもの対応が違えば小手先の工夫は効果がないし、すてっぷでも1年かかっての今の様子なので、総合的に比較してもらって療育方法を考えてもらうしかないと思います。これは、すてっぷだけで不適適切行動を起こして、他の事業所や学校ではうまく過ごせている例でも同じことが言えます。

他の事業所や研究会に行って、同じようにやってみたけどうまくいかないので、学んだメソッドは効果がなかったという支援ビギナーの意見を耳にすることがあります。見た目同じことをしても、先述したように本人のメンタルが安定するような環境や対応の蓄積がなければ、同じ反応が得られるはずがありません。もしも、相談を受けるなら、百聞は一見に如かずで数回見学に来てもらい、総合的に検討してもらう事が大事ですねと話し合いました。

 

 

伝聞情報と正しい情報

J君が不適切な行動をするのはJ君の内面のコンディションがさらに悪くなっているからだという報告がありました。根拠を聞くと、いつもと同じように指示をしたと担当の職員から聞いたが不適切行動が2度続いたと言うのです。J君はこの間排泄のこだわりがあり、大人が見ていないと便意もないのに無理やり排泄しようとして、汚れた手を壁で拭く行為が続いていました。

症状から言うと強迫性障害と言うべきですが、ASDの思春期以降にもたまに見られる症状です。普通は手洗いやカギ閉め食事への強迫感が多いのですが、これが排泄に向かう時もあります。原因としては強い不安からの行動ですから、脳内ホルモンの中でセロトニンと言う伝達物質が何らかのトラブルで不足した症状だと言われます。そこで、セロトニンをうまく働かせる薬物療法が通常はおこなわれます。併せて行動療法も使われます。これは不安なままにしていても何も起こらなかったという経験を積み上げる認知行動療法です。

さて、J君には理解できる言葉が多くないので通常の認知行動療法は使えませんが、トイレに行って不適切行動をしなくても、注目されたり褒められたりする経験を重ねることで改善しないかどうか取り組んでいます。トイレの前に正しく利用する写真を示し、成功したら褒めたりご褒美をあげたり注目をしてあげる事です。今回、支援をした職員がいつもと同じように指示をしたと伝聞していますが、適切な行動をした時に褒めて注目したかどうか、失敗を叱責しなかったかどうかも聞けていないと言います。

不適切行動には関係性の原因が少なくありません。本人の内面の問題にしてしまうのは簡単ですが本人から理由を聞くこともできないので根拠がありません。担当者の責任にしたいのではなく、何か大人とのその場のやりとりの関係性でイレギュラーがなかったかどうか調べてみることで支援の道が広がることがあります。失敗を成功の元としたいのです。

2の声でお願いします

Mさんは、最近送迎車から降りて事業所に入る時「コンニチワー!」と絶叫します。2学期になってからですが、うるさくて聴覚過敏の子の攻撃ターゲットにならないかヒヤヒヤしています。すてっぷでの対応はとりあえず強化はしないという消極的な意味でのスルー作戦です。しかし、他の場所で大声に反応して強化してしまうこともあるし、反応がないとさらに行動が激しくなるバースト行動を誘発する可能性もあります。案の定、日に日に絶叫挨拶は大きくなっていきました。

そこで、事業所の玄関に入る前に職員が予告をすることにしました。「Mさん、こんにちわは2の声でお願いします」と声のレベルメーターでの提示をしました。職員の声も2の声よりもさらに落としてヒソヒソ声でお願いしてみました。すると、玄関に入るとMさんは職員と同じように小さな声で「コンニチワ」と言ったのです。つまり、Mさんは玄関に入ったら「コンニチワー!」と絶叫するのが、お決まりの行動になっていただけだったのです。何か特別な思いがあって絶叫していたわけではなかったのです。

私たちは、不適切な行動には私たちに何か訴えるものがあるという対人関係上の理由を想定してしまいます。しかし、「2の声で」とお願いすれば従ってもらえるくらいの行動だったということです。「こんにちわ」と玄関で言うのは間違った行動ではありません。ですから、私たちは、この行動を止める理由はありません。ただ、適切な音量というものがMさんにはわからないので、皆が反応する大音量になったのではないかと推測しています。

つまり、挨拶したら反応が返ってきて1セットだという認識です。このセットを完成させるために大声を出せば何らかの反応が大人からあったと言うことかもしれません。ASDの子どもたちの世界は、よく考えてみると、なるほどなぁと頷かされるとてもシンプルな理由があります。明日のMさんの挨拶対応は2の声作戦で行きましょう、適切な音量なら視線を合わせて優しくコンニチワを返しましょうと、全員で意思統一しようと思います。

 

 

 

逃げる子

注意喚起行動については何度も掲載し、この予防方法は機能的コミュニケーションのトレーニングが有効と書いてきました。しかし、言うは易し行うは難しです。今年も利用者の注意喚起行動が生じています。新入生のOさんは、喃語様の発声はありますが機能的なコミュニケーションができません。でも、視覚的な認知は優れていて、構造化された環境では自分がすべきことを理解できます。通所して荷物を置いたり、外から帰って来て手洗い行動などルーティンな行動も教えれば正確にできます。

ところが先週頃からたて続けに注意喚起の逃げ出し行動が始まりました。担当者の視線が外れたとわかるとその場から逃げ出すのです。逃げる行先を考えているわけではありません。追いかけてくれるのを期待した注意喚起行動です。これは、大人に気持ちが向いてきている成長の証拠でもあるのですが、表出言語がない場合に起こりやすい行動で、長い人は思春期くらいまで続く人もいます。こうした不適切行動が起こる前に適切な要求方法を教えられれば良かったのですが、間に合いませんでした。

子どもと長く付き合う人には「本人の言いたいことはだいたいわかるから」となかなかトレーニングの必要性に気付いてもらえません。大事なのは、受け手が子どもの要求を理解することではなく、本人自身が言葉でなくても伝わって便利だと感じて使ってくれる本人側の伝達手段なのです。玩具で遊ぼう・ブランコで遊ぼうと伝えられたら、逃げる必要はないのです。ただ、逃げる行動は遊ぼうと言う表現だけでなくて、子どもにとってはとても魅力的でエキサイティングな遊びですから、注意喚起行動とセットになるとそう簡単には消去できないです。でも体が大きくなってどこまでも逃げられるようになると魅力的だから仕方がないとは言っていられません。

大人と遊びたいときに逃げれば、大人が振り向いてくれる確率は高まりますが、戸外や道路では危険な行動です。室内でも外に逃げる方が大人のリアクションが大きいので強化されやすいです。しかも、分化強化されやすい(たまに逃亡が成功するから何度も繰り返す)行動なので、大人は四六時中注目せざるを得なくなり、更に悪循環を形成していきます。Oちゃんには、PECSを導入しましょうと御家族と話していた矢先なので、家族の方にもトレーニングを受けてもらい、取り組みを開始したいと思います。

子どもの行動に対しての「何故」「どうして」を大事に

S君の支援計画作成会議で行動の切り替えが悪くふてくされていたりしんどそうにすることが多いので、感情の表現カードを教えたいという提案がありました。子どもたちに「うれしい・悲しい・元気・しんどい・好き・嫌い」等の感情の表現を教えることは大事です。その感情を絵で大人に理解してもらい不適切行動を爆発させずに、カタルシスを得ることは、ASD利用者のケースで私たちは経験してきています。

S君の場合、家への帰り際に「帰りたくない」と固まったり、トイレにこもったりするので、同じように感情の表現ができればうまくいくという提案です。でも、S君は「帰るのは嫌だ」と表現しているのですから感情表現ができていないわけではありません。S君は「帰りたくない」その理由をうまく言語化できないことに問題があり、理由を述べる6歳前に芽生える論理力がまだ未成熟だということです。

しかし、S君の言語力を引き上げることは急には難しいです。S君は自力で通所はできるのですが、事業所から一人で帰ると言う切り替え時に、気持ちが行ったり来たりするようです。私たちは、半年間、彼のためらいを見守ってきたのですが、どうも彼だけの力で決断は難しそうでした。5月からは「約束だから、帰りなさい」と促すように変えました。

嫌な理由の言語表出が苦手で「カタルシス作戦」が望めなくても他の方法があります。しんどいと言ったりトイレにこもる彼の行動が、注意喚起だとすれば、良い行動にたくさん注目してその「勢い」で帰宅行動に切り替える、つまり「さすがは高等部!」と褒める事かなと話し合いました。S君はできて当たり前で失敗すると注意を受けるタイプの子どもなので、褒められて注目されることは少ないからです。

何かの手法で成功しても、成功したのはあれこれの手法の前に的確な分析があるからです。間違った手法を使う事で成果が出ないばかりか、子供に悪影響を与える事もあります。支援者の子ども理解が不十分なことが原因なのに、あたかも手法が問題であるかのように「構造化は無駄。視覚支援は意味ない。PECSは効果ない」等と誤解されるのはとても残念なことです。子どもの行動に対して、「何故?」「どうして?」と常に問いかけ最適解に近づこうとする支援者の姿勢が大事だと思います。

不適切な行動とやらされ感

M君がスタッフを叩いたと報告を受けました。ところがスタッフは叩かれることに身に覚えがないというのです。M君は感情を貯めるタイプで、その場にいても原因がわからない他害があります。以前は、やらされ感が強かったのではという後に出ています。どこかで、納得がいかない関係性がありストレスをためていたのだと思います。これは前回(指示待ちとカタトニア: 02/25)でも触れています。

子どもがしんどくなる時はどんな時か考えてみると、意味が分からないのにやらされる時です。やりたくないとは表現できず、自分を抑えて従ってしまった時です。言葉の喋れる人は、家族や友人に「今日こんな理不尽なことがあった」と人に聞いてもらって気持ちを整理しようとします。それがない人は、自分で余暇時間を管理して好きなことや運動に没頭してストレスを発散しようとします。その両方がない人は貯めこむしかないのです。

言葉でのコミュニケーションが苦手な人や、好きなことや余暇の自由がない人は、本人にしてみれば理不尽なことがあってもそれを解消する方法を持っていません。したがって、その気持ちを外に爆発させるか、内部に向かわせるしかありません。他害や自傷、強い指示待ちのある人には、そんな感情のマグマが適切に処理できていないと考えます。もちろん、コミュニケーショントレーニングや感情表出の練習はしますが、全ての支援者が足並みをそろえ、長い時間が必要です。

それでも、苦手なものは苦手ですから、こういうことで苦しんでいる人たちのルーティンを安易に崩したり、構造化支援は面倒だからとさぼったりして、「そんなことしなくてもできるでしょ」とやらせてしまうと、本人の苦痛を強め感情のマグマを蓄積させます。遅延する不適切な行動は、させる大人とやらされ感の強い(拒否できずにやってしまう)子どもの関係性の結果の行動だと考えようとスタッフで話し合いました。

 

友達がほしい

I君が砂場でJ君とKさんで作ったものを壊すとKさんが訴えてきました。スタッフがI君に理由を問いただすと「壊すのが好きだから」といいます。スタッフはJ君もKさんも、I君にこれまで遊びやゲームを優しく教えてくれて、I君もそれを楽しみにして来ていたのだから、このI君の言う理由は奇妙だと言います。

実はその前の様子を複数のスタッフに聞いてみると、K君が来た時J君が他の子どもとタブレットゲームで遊んでいて、K君は一人でつまらなそうだったというのです。その後K君はやることがなくて教材室に入っていますが、本当はJ君と遊びたかったはずです。しかし、スタッフに「ここに来ちゃダメ」と注意をされてふてくされた感じだったと言います。

ここで、K君のスイッチが入ったのだと思います。注意されることは他者の注意を引く行動です。本当は友達と遊びたかったのにそれが切り出せずに、不適切な行動で大人の気を引いて注目してもらう。ただ、これでは「なんでそんなことするの」と問い続ける大人の反応だけで友達とは遊べないです。でも彼にしてみればせめてそうしてでも大人の注目は集めたいのでやめられないのかもしれません。そして、その混乱の中で、当初の友達と遊びたい気持ちは失っているかもしれません。

本当に大事なのは、みんなと遊んで楽しかった経験の蓄積です。そして、楽しい経験のきっかけになった友達の誘いや自分から関わって成功した経験の蓄積です。彼はまだその方法もタイミングも知りません。「遊び仲間に入れて欲しい!」そんな彼の強い思いを「壊すのが好きだから」の言葉に感じています。でも、こういうナチュラルな関係性は訓練では作れません。そのきっかけができる時間の長さ、そこに導くタイミングが必要だと思います。

こだわりと不適切行動

L君には場所のこだわりがあります。事業所は狭いので利用者30名分のカバン置き場は作れないので、毎日利用する約10名分の棚に毎日氏名を貼り替えて利用してもらっています。L君は上の段に置くと決めているようでこちらも彼のこだわりを知っているスタッフは上段に名前を張るようにしていたのですが、たまたま知らないスタッフが下段に貼ったので、L君は大声を上げて「上段がいい!」とスタッフに怒鳴ったのです。それを見た他のスタッフが事を収めようと上段に名前を貼り替えたのです。

反省会で「それって良い支援なの?」と今度はまた他のスタッフが質問しました。事業所にしてみれば利用者の毎日入れ替わるロッカーが上段でも下段でもどっちを使ってもいいことだけど、指定された事が気に入らないと怒鳴って言い分が実現するのはいかがなものかと言う意見でした。その通りです。ロッカーはどっちでもいいけど不適切な行動をスルーして要求を実現してしまえば、怒鳴れば事が実現すると理解してしまいます。不適切行動はやり直しが大事です。

「○○さん、僕は上段にカバンを置きたいですと2の(大きさの)声でいいます」とやり直させて言えたら、良く言えたねと上段に置いてあげればよいのです。すてっぷは女性スタッフが多いので子どもの大声等不適切な行動に驚いてしまい、その行動をスルーしてしまうスタッフも少なくないのですが、みんなで協力して正しい行動を引き出し、双方が終わり良しにしましょうと話し合いました。その際に、こだわりについて認めるのかと言う意見がありましたが、それは時と場合や内容にもよるし、もしも変えなければならないこだわりなら、本人が荒れている現場で「勝負」すべきではなく、その場はうまく「折り合い(交渉)」をつけて終わらせ、計画を練って穏やかに行動変容させていく手段をとるべきだと話し合いました。

 

 

 

指示待ち

H君が、ワークシステム(自立課題の行動支援システム)にとりくんでいました。内容はプットイン課題3つですから重度の子どもです。でも左から課題をとり、課題が終われば右のおしまい箱に上手になおしていきます。動画を撮影していたこともあり、H君は終了すると撮影者におわったよとモーションをかけてきます。

撮影者は「ワーク中には声をかけてはいけない」と思っているので、しばらく反応せず撮影を続けていたのですが、申し訳なくなって「グッジョブ」サインを送りました。H君はいつもどおりに「よくできたねー」の反応をしてほしいのに「親指立てても意味わからんし」とばかりにせっかく片づけたおしまい箱をけって課題をひっくり返して大人の反応を引く行動に出ました。

要するに、終わったら、大人はいつも頭をなでて褒めると共に次の行動を指示してくれていたので、その大人の行動と指示をひたすら待っていたというわけです。通じなかったら不適切な行動でとりあえず注意を引くというH君のこれまでの姿がでてしまいました。

表出コミュニケーションが弱いことと指示待ちと不適切な行動はトリプルセットなのです。でも、どうすればいいかというスタッフへの次の課題をH君は提示してくれています。がんばります。