すてっぷ・じゃんぷ日記

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楽しくなくても笑ってしまう

PECS課題をしようとしてもM君はけらけら笑ってスタッフをおちょくっているようで課題に取り組もうとしないという報告がありました。こちらが態勢を整えようとまじめに正してもいう事を聞かず笑ってばかりいるそうです。

同じ話はN君が学校から帰って来る時に、担任の先生が「N君ゲラゲラ笑って調子は良さそうなんですが、私の顔をしょっちゅう叩いてきます」というのがありました。

子どもが笑っている時は、調子がいいんだろうなぁ、楽しいんだろうなぁと思うのは当たり前です。しかし、ASDの人たちの場合、見通しがなかったり、訳が分からなくなっていたり、不快な状況の時に笑ってしまう人がいます。

M君はPECS手続きを身体プロンプトで教え、要求カードを相手に渡すことを思い出したあたりから、行動が穏やかになったそうです。N君も学校で水遊びなど好きな活動をスケジュールに入れることでゲラゲラ笑って叩くことは減ったそうです。

ASDの人たちの混乱時の笑いの原因はよくわかっていませんが、視床下部に笑いのツボがあり、感情中枢の偏桃体とも近いことが何らかの関係をするのだろうと推測されています。

「相手の気持ちをうまく推し量れない」「その場にあった行動ができない」などの症状は、障害が原因であっても、見た目からは判断しにくいため、周りの人から気づかれにくく、理解されないことも多く、周囲からは本人の性格の問題と思われたり、親の育て方がわるいなどと誤解され、本人も家族もつらい思いをすることが少なくありません。私たちは、子どもが笑いながら不適切な行動をとる時、その心理的背景をよく考えていく必要があります。

笑いあえる時間

支援学校の利用者のE君とF君がホワイトボードの後ろに貼った仲間の写真をみていつまでもゲラゲラ笑っています。何が面白いのか周りのスタッフにはさっぱりわからないのですが、一人が楽しいともう一人も楽しいと言う相互作用のようです。それまではゲーム遊びのやり取りで超緊張していた二人でしたが、友達の顔写真が並んだのを比べているだけで楽しいのです。

最初は、写真を比べるのが楽しかったのですが、笑っているE君の楽しい気持ちがF君に伝染して笑いを引き起こし、F君の笑いを見たE君がまたつられてさらに笑うという無限ループを繰り返すのです。この現象は、ミラーニューロン仮説として説明されています。

ミラーニューロンとは、鏡を見ているかのように、他の個体の行動を見て、自分自身までも同じ行動をとっているかのように反応をする、高等動物の脳内の神経細胞またはその機能を指します。ミラーニューロンの発見には、サルの脳が実験に使われており、サル以外には、鳥類や人間にも存在しているのではないかと推測されている段階で、人間の脳内にミラーニューロンが存在するという確証はまだありません。

ミラーニューロンとは脳内にある神経細胞のひとつです。この細胞は自分がなにか行動をするときだけでなく、他者がする行動を見たときにも活性化することが分かっています。たとえば、相手が泣いているのを見て自分も涙が出たり、反対に相手が笑っていると自分も楽しい気持ちになる仕組みです。

スポーツなどで、上手な人のお手本を参考にして練習して効果が出るのも同じ理屈です。相手の動きをじっくりと観察することで、脳内では自分が相手の動きをしているときと同じように細胞が活性化します。その上で模倣することで、練習の効果が身に付きやすくなるのです。逆に言うと、ヘタな人といると自分もヘタになるなどと言いますが、これもミラーニューロンの働きといえます。

二人の笑いを見ていて、こういうほっこりした午後のひと時、正の方向でミラーニューロンが活性化するべく環境を作るのことが大事だなぁと思います。