すてっぷ・じゃんぷ日記

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こつこつトレーニング

 支援学校中学部のVくんは、なかなか待つことができませんでした。友だちといっしょに山登りに行けば、どんどん先に歩いて行きます。友だちと協力して空き缶つぶしの作業をするときも、先に先にと箱から空き缶を取り出してどんどんつぶし、プルタブを外す友だちが間に合わずに箱の中が空になるということがよくありました。

 そこで、Vくんに「まって」のトレーニングをすることにしました。ただ、山登りや作業といった、Vくんが大好き!というわけではない活動から取り入れても、うまくいくとは限りません。そこでVくんが大好きなおやつの場面から練習することになりました。ちょうどおやつのときも、待てないことが課題にあがっているときでした。

 PECSの「まって」トレーニングの方法に従い、初めは「ください」を言ってから数秒待ってもらうところからスタート。待つ時間を少しずつ長くしていきました。そしてタイミングを見計らい、作業でも「待って」トレーニングに挑戦! 友だちがプルタブを外すまで、「まって」カードを渡すと、Vくんは見事待つことができ、友だちから空き缶を受け取ってからつぶすことができました。

 驚いたことにトレーニングはその1回だけ。以降は「まって」カードがなくても友だちを待って、作業ができるように。また山登りでは友だちと同じペースで歩いたり、遅い友だちを休憩場所で待ったりできるようにもなったVくん。いきなり変わることが難しくても、毎日少しずつトレーニングすることで、できることが増えていきました。すごい!

待つことで見えてくること

 好きなことをしている時間というのは格別のものです。大人になると、なかなか好きなことに没頭できる時間はありません。何かしら他のことをしなければいけない時間がやってきます。そんなときは時計を見たり、タイマーをかけたり、アラームをセットしたりと自分なりの方法を大人の多くは見つけています。子どもたちはまだ見つけている最中。自分で見つけられる子もいれば、大人の支援があって見つける子もいます。

 高等部のW君は、DVD鑑賞が大好き。DVDエリアを使っていた友だちが先に帰ると、DVDカードを職員に渡して、DVDエリアに行きたいことを伝えてきます。W君の最近のお気に入りは「風立ちぬ」。以前は「紅の豚」が好きだったりと、無類のプロペラ飛行機好きのようです。ほかにも室外機のファンをずっと眺めたり、停まっている車の下をのぞき込んでシャフトを見ようとしたりします。皆さんの周りにもそんな子がおられるのではないでしょうか。じっと回るものを眺めている様は、まるで工学博士か修理工場の大ベテランのよう。いったい回るものの何が、彼らを引き付けるのでしょうか。

 さて、好きなことをしているとあっという間に時間は過ぎるもの。DVDを見ていたW君も帰る時間になりました。まだ時計やアラームの意味が分からないW君。職員が彼とモニターの間に手を入れて、「終わります」のサインを出しました。するとW君は、自分の手をモニターの電源の上に置きながら、まだDVDを見続けています。一見すると「止めないで」と言っているようです。どうしようかと職員が逡巡していると、あることに気づきました。W君は手で電源を覆っているのではなく、電源ボタンの上に人差し指を置いているのです。まるで「自分で止めるよ」と言っているかのよう。本当にそんなことを思っているのかはW君にしかわからないことですが、職員は待ってみることにしました。すると、2分ほどでW君は自分で電源を切ったのです。すかさず職員は「自分で電源切れてえらいね」と大いに褒めました。そのままW君は自分でスケジュールに戻り、トイレに行って帰る準備を始められました。

 W君のように、タイマーやアラームの意味が分からない子どもには、職員が1対1でつき、切り替えも大人主導でしてしまいがちです。実際W君も、放っておいては切り替え出来ない場面がまだまだ多くあります。しかし、W君も知らず知らずのうちに、自分なりの方法を見つけているかもしれません。今回で言うと職員にきっかけはもらっていますが、その後、自分で切り替えることが出来ました。「待つ」ということも、成長の機会を保障する方法の1つになりますね。

子どもに待たせること

昨日のIちゃんは、うろうろして落ち着かず調子が悪かったという報告がありました。高いところには上がるし、外に出ようとするし、言う事をきかないので職員から叱られていたというものです。こういう、現象だけを捉えた子どもの報告は良くあることです。私たちは、そこで必ず「なぜだと思うか」と職員間で話し合う事にしています。

現象だけ聞いていると、子どもの不適切な行動が、あたかも偶然そうなったかのように受け止められるからです。しかし、それでは、職員間で報告している意味がありません。調子が悪いので子どもが不適切な行動をしたというのは「天気が悪いから雨が降った」という表現と同じで、理由になっていないのです。子どもの不適切な行動の引き金を引くのは、ほとんどは職員側にあるという仮説に立って、「なぜそんな行動をしたと思うのか」を職員間で話し合うことが大事です。

その日Iちゃんは、みんなより早く帰ってきて、スケジュールの提示もなく、これをしてみんなが来るまで待とうという提案もなく職員と待っていたと言います。タブレットを触ると「もうすぐみんな帰ってくるからダメ」、2階へあがろうとしてもダメと言われれば、窓によじ登るか、外に飛び出すかしかHちゃんには残されていません。

待つと言う意味が分からない子どもに待って欲しいなら、子どもが好きそうなことで「待つ」(~するまでは~して待つ)約束を提案することが大事だと言うことを話し合いました。よくタイマーを提案する人がいるのですが、タイマーを使っても意味もなく待てないし、嫌なことを知らせる(好きなことをやめる)タイマーも「待つ」練習の導入にはふさわしくありません。

自分のことは自分で

高学年が「先生次何するの~」「どうすんの~」{~君が~してはる~」「何したらいい?」と放デイで話すを、「知的な遅れもないのに、自分で考えて行動しないっておかしいと思いませんか?」と男性スタッフが言いました。ごもっともです。ついつい、支援と過保護を勘違いしてしまうのが放デイです。

以前も、高学年のT君が公園に水筒を忘れてきた時、スタッフに取ってきてほしいと言うので自分のものは自分で管理しましょうとスタッフが言うと逆切れされた話昨日はすみませんでした 2020/12/23を掲載しました。でもT君が大人がやればいいと思うのはT君のせいではなく、周囲の大人の問題です。子どもに任せて忘れ物で保護者にクレームをもらうくらいなら、大人が子どもの持ち物をすべて管理して家に送り届けようと考えてしまうのです。子どもに任せれば忘れたり落としたりするものですが、それも自立のプロセスの中では必要なことです。大事なことは、そのあとあきらめるのか、工夫するかの違いです。

しかし、それを避けるために大人がやってしまっては、子どもは伸びる可能性を失います。最近やっと子どもたちが、自分で考えられるようになってきたとそのスタッフは言います。「ノープランで大人に聞くだけではなく、自分はこうしたいがどうかなと大人に聞いてみよう」と「何したらいいのじゃなくて、これをしたい、これをやろう」という風に変わってきたそうです。子どもが自立できそうなことは失敗しそうでも工夫して自立してもらうことが放デイの療育です。すぐに声かけない、すぐに手を出さない、すぐに失敗をフォローしようとしない、1分だけ待つ余裕が大事です。

カタトニア

J君に、大好物のおせんべいをメニューに示しているのに「おやついりません」といいます。どうも調子が悪いようです。顔色もよくありません。他の様子を観察すると、自立的なスケージュール行動はできていたはずなのに、その日はスタッフが誘導しないとなかなか動けませんでした。

J君にはカタトニアが時々出ます。カタトニアが出ているなと判断した際は、J君のタイミングで行動が切り替えられるように、いつもより本人と距離を取って待つようにしています。ただ、どれくらい待てばいいか、状況を見ていつ声掛けをするかは、本人の状態もあるしスタッフによって差があるもの事実です。

ASDにカタトニアの症状が出るのは、10代中盤の中学生ぐらいから20代前半ごろと言われ、期間も数ヶ月程度のものから数年間にわたる物まで幅広いです。カタトニアと思われる症状には、動作の停止、動作の遅れ、行動のやり直しなどが有ります。

飲食時の動作では、飲食の際に自分から動き出せずに止まってしまったり、摂取する動作が非常に遅く定められた時間内に食べられない事があります。本人のお腹の調子が悪かったり食べたくないのかと思い片付けると、「食べる」と訴え最後まで食べることもあります。場合によっては自分ではお皿から口まで食べ物を運べなくなってしまい、周りの大人が介助をして食べさせることもあります。飲食の遅れがあると時間内に食べ切れず、体重が減ってしまう事もあり注意が必要です。

室内の移動や屋外への移動、車に乗り込む際などに動けなくなったり、移動がとても遅くなる事があります。動けなくなってしまったときにカウントダウンや様々な声かけで促したりしても動くのが難しく、移動するのにとても時間がかかる事があります。自宅でも外出時には1時間ぐらい前から移動を促したりしても、学校のスクールバスなどに間に合わない事もあります。また、移動の際に部屋の敷居や段差などがあると、そこをまたごうとする行為で止まったり、何度もまたぐ動作をやり直したりする行動が見られる事もあります。

トイレで排尿の際に便器まで行きズボンとパンツを下ろしますが、そこで止まってしまい排尿をする事もパンツやズボンをあげる事もできなくなることもあります。また、本人は既に何度も行って理解している作業や動作にもかかわらず途中で止まってしまい、周りからの指示や促し、場合によっては体を押して前に進ませたりさせないと次の動作が行えなくなってしまう事もあります。

カタトニアは、指示をしても抵抗して嫌がる場合もある(周囲には嫌がっていることも伝わらない時がある)ので穏やかにかかわる必要があります。治療方法には薬(向精神薬等)による治療方法があります。カタトニアの原因や症状により治療方法や服薬する薬が変わってくるため、専門の医療機関での診断が必要です。