すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:表出

「楽しかった」よりも「ドキドキ」

 小学生のOさんはすてっぷに来始めてもうすぐ1年。少しずつですが、友だちと談笑するなど、笑顔を見せることが増えてきました。遊びのこだわりがあり、来た当初はしないことは絶対にしないと固いところもありましたが、最近は苦手な遊びでも参加するようになっています。

 そんなOさんの課題の一つがコミュニケーション表出、つまり自分の思いや気持ちを他人(職員や友だち)に伝えようとすることがまだまだ少ないことです。上記の通り、「しない」ことは伝えられますが、どうしてしないのかという理由や、では代わりに何をするかという代案を、自分から伝えることはまだできません。他にも感想を聞かれても「楽しかった」と答えるのみで、他の感想、特に自分の気持ちを他の言葉で表現することはなかなか見られませんでした。

 そこで活動選択からコミュニケーションの表出に少しずつ取り組み始めました。Oさんは好きな活動は「する」、したくない活動は「しない」と答えるので、好きな活動を保障しながら、「しない」と答えた活動を一部だったりルールを変えたり(おにごっこをふえおににするなど)といった交渉をしました。そして少しずつ見えてきたOさんが「しない」という理由を、職員からOさんに聞いてみて、うなずいたことを言語化して伝えていきました。

 また同時に、感情カードを使って振り返りをすることも始めました。言葉で聞いても「楽しかった」と答えるだけだったOさんですが、感情カードはイラストと文字とを見てマッチングできるので、他の感情も少しずつ分かるようになってきたようです。先日初めて行った公園で友だちといっしょに、遊具やボールでアグレッシブに遊んできたOさん。すてっぷに帰ってきた後、感情カードで振り返りをすると、初めて「楽しかった」ではなく、「ドキドキ」を選びました! そして別の日は、宿題をしているところに「その問題はこう解くんだよ!」としきりに声をかけてきた友だちに、初めて「イヤ」と言うことができたのです。まだまだ「ドキドキ」の理由が言えたり、自分から「イヤ」と伝えたりすることは難しいですが、感情カードを使うことで、少しずつ表出が増えてきたOさん。「伝わってよかった」「伝えてよかった」となることで、より表出を増やしていけるよう、丁寧に支援していきます。

「わかってくれた!」

 支援学校高等部のTくんは表出が弱く、自分の思いが伝わらないと注意喚起行動や他害行動が出ることがありました。すてっぷでは絵カードコミュニケーションの練習に取り組み、トレーニングの場面(おやつ時)では自分のほしいものを要求できるようになりました。ただそれ以外の場面では自発的な表出が難しく、『暑い』や『うるさい』などTくんが苦手な状況になったときでも、自分からは伝えられません。職員が「暑いね」「うるさかったね」と声をかけると、Tくんは「暑い」「うるさい」と返事をして、共感してもらえたと落ち着くのですが、自分からしんどさを伝えることが当面の課題でした。

 また昨年度から、Tくんは選択の練習に挑戦しています。以前も取り組んでいたのですが、『どっち』という言葉にこだわりが出て、選択の場面になると「どっち!?」と叫んで選択できないという状況が続きました。そこで選択の練習はいったん控え、こだわりが薄くなってきたころを見計らって、練習を再開しました。選択の練習は、休憩時間の過ごしを選ぶことに取り組んでいます。休憩時間になったら、スケジュールで休憩の代わりに貼ってある『えらぶ』カードの色を見て、同じ色の選択ボードから『ごろん(横になる事)』や『かるた』などのしたいことを選びます。したいことを選べる候補やタイミングを明確にすることで、自分で選んで向かえるようになってきました。

 この選択の練習を続けてきたことで、伝わった実感が積みあがってきたのかもしれません。次第に、表出できる種類や機会が増えてきました。そして先日、なんと自分から『しんどい』カードを職員に渡し、「しんどい」と言ったのです! 熱を測ると37度以上で、その日は保護者の方がお迎えに来ることに。保護者の方といっしょに帰るTくんに、職員は「しっかり伝えられたね」と褒めて見送りました。

 今では「うるさい」「あつい」と自分から伝えるようになってきたTくん。Tくんとずっと絵カードコミュニケーション練習に取り組んできてよかったと職員みんなで振り返りました。まだコミュニケーションパートナーは限られていますが、今後誰にでも伝えられるように、練習を続けていきます。

人差し指は『もう1回』

 支援学校小学部のSくんは、すてっぷでPECSの手法での表出トレーニングに取り組んできました。おやつや遊びでほしいものを伝える練習から始め、公園ではブランコ遊びをするときには「押して」、公園から帰りたいときは「てをつなぐ」カードを渡すなど、職員とコミュニケーションを取ってきました。

 そうして伝わったという実感が積みあがってきたおかげか、日常生活の中で手ぶりや行動での表出がだんだんと増えてきました。以前は拒否のサインと言えば寝転ぶことが多かったのですが、最近は手をパーにして『バイバイ』と同じように左右に振ります。よく見られるのが送迎時で、車のソファが心地よいSくんは家に着いても『降りたくない』と手をバイバイします。そして続けて人差し指を突き出してきます。これは『もう1回』のサイン。実際にこのサインが出た時、職員が「じゃあ友だちを先に送ろうか」と言って、一緒にもう1回ドライブしてから帰ってくると、今度はすっと降りることができました。

 また先日、Sくんが公園から帰ってきたときのことです。スケジュールでは次が自立課題で、その次がおやつになっていました。ところがSくんは自立課題のカードを自分で外し、おやつを次に貼り替えたのです。それを見た職員が修正し、「自立課題ができたらおやつだよ」と伝えました。するとSくんは『はい』と言わんばかりに手をパーにして上げました。そして自立課題に取り組み始めました。

 いろんなコミュニケーションが生まれてきているSくん。どういう表出なのか分かれば、絵カードでの表出に変えることで、誰にでも伝わるようにすることができます。ですが、どんな形であれ表出してきたらまずは受け止めること。Sくんが自分から表出できたことを褒め、どんどんコミュニケーションできる機会を増やしていきたいと思います。

しんどいの伝え方

 先日、支援学校高等部のWくんのおやつを食べる手が止まりました。見るからに元気がなくなっている表情のWくん。職員が「大丈夫?」と声をかけると、Wくんは「しんどい・・・。」と小さな声で答えました。職員が「どうしんどいの?何かあった?」と聞いても、Wくんは「うーん・・・。」と言葉にできないようです。まわりがうるさいのかな?と考えた職員が「別室で休憩しようか?」と提案すると、Wくんは「うるさいわけではないし、嫌なきもちでもない。」と始めは答えましたが、「先生も一緒に行く?」と職員に尋ねました。職員が「行くよ」と答えると、Wくんは「じゃあ行く」と別室に移動しました。

 別室に行き、座って休憩を始めたとき、Wくんは「紙をください」と職員に伝えました。職員が紙を渡すと、紙に言葉を書きだしたWくん。書き終わると職員に渡してきました。そこには「うるさいわけではない。気持ちがしんどいわけでもない。しゃべるのがしんどいほど体がしんどいことをわかってほしい。」と書かれていました。読んだ職員が「うるさいわけじゃないんだね。体がしんどいんだね」とWくんの気持ちを受け止めると、Wくんは頷きました。そして職員が差し出したお茶を飲んで、リラックスして過ごしました。帰る前に、「気持ちをわかってくれてありがとう」と職員に伝えてから、送迎車に乗って帰りました。

 送迎車の中でも「さっきよりはしんどくなくなってきた。」と職員に伝えたWくん。「声を出して話をするのが面倒なくらい、さっきは体がしんどかった。」と、紙に書いて伝えたことを、今度は言葉でも職員に伝えられました。そして、Wくんがふと、「今日、学校でもしんどい時間があったけど伝えられなかった。声を出すのがしんどい時は紙に書いて伝えるといいんかなぁ。学校でも使えるかなぁ。」と言いました。職員は、「そうだね。話をするのがしんどい時はその手もいいかもしれないね。」と伝えると、少しほっとしたようでした。

 Wくんが「紙に書いてみたらよかったのでは。」と自分自身で使える伝え方(気持ちの表出方法)に気付くことができたことに、職員はWくんの成長を凄く感じました。アンガーマネジメントでも言える事ですが、子どもたちが興奮しているときや困ったときなど何かを伝えたいときに、自分自身で気持ちの表出方法を身に着けているのはとても重要なことだと思います。Wくんが自身で気づけたことに習い、年下の子どもたちも身に付けられるように支援していきたいと思います。

表情の絵カード

終わりの会で、今日は何が良かった?と聞きます。お話の苦手なP君には感情カードを提示してみました。すると、「楽しい」表情を選択して、小さな声で「たこやきタノシカッタ」と答えてくれました。ここまでは計画通り、その後が素晴らしかったのです。P君の表現を見ていてた、少しおしゃべりができるQさんもR君も表現カードを見渡して今日の経験について自分の感情を選んで表現してくれました。

表情の絵カードの役割は、自閉症(ASD)のこどもが相手の気持ちを理解したり、自分の気持ちを伝えるために使います。彼らは表情や感情の読み取りだけでなく、表出も苦手な人が多いので、こうして機会を見つけては気持ちを聞いたり伝えたりしています。

でも、今回良いなと感じたのは、それを見ていた、少しおしゃべりができる子どもたちも、感情カードがあったほうが自分の思いが伝えやすいと発見してくれたことです。

絵カードの表情は何気ないカードのようにも感じられますが、感情を伝える最も大切なものであり、円滑な社会性や人間関係を築いていくために役に立ちます。