すてっぷ・じゃんぷ日記

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神支援 視覚支援 分化強化

L君はタブレットで遊ぶ時に、「うーうー」と自己刺激の低い声を出しながら遊びます。最近特に声が大きくなってきたので、本格的に唸り声の消去に取り組むことにしました。本人に自覚がないとはいえ、集団生活をする場合は他の人の迷惑も考える必要があります。また、唸り声があるだけで皆から遠ざけられるのは、L君にとってもマイナスだからです。以前にも耳障りな声については(奇声を減らす支援 : 08/06)で掲載しました。

言葉のないL君に自覚してもらうためには「うるさいからやめて」と言葉でお願いしても意味が分かりません。「うるさい」というのは他者の気持ちですから見えません。また「うるさい声」そのものも見えません。これを言葉でお願いしてL君に理解してもらうにはハードルが高すぎます。視覚支援にして絵にするにしても、「うるさい」をどう表現するか「唸り声」をどう表現するか難しいですが、言葉よりは理解してもらえる可能性は100倍あるとは思います。

そこで、L君がタブレット遊びで「うーうー」唸っている時に、タブレットを取り上げて「うるさい顔✕」と「静かにシー顔〇」カードを渡します。絵カードを見て声がなくなったタイミングで、タブレットを返すというやりとりを何回か続けました。すると、タブレットで遊んでいても、ほぼ声がでなくなったのです。「神支援でした」と職員は言います。

視覚支援が功を奏したと言うよりは、応用行動分析で考えると、唸り声を出すと強化子(タブレット)が取り上げられ、唸り声をやめると強化子が与えられるという分化強化※が成功下のだろうと考えています。しばらくこの対応を続けてみようという事になりました。

※分化強化とは、心理学、行動学用語。複数の反応が出現した際に、片方の反応は強化し、もう片方の反応を弱化する事を指す。正しい反応だけを強化していくことで、その行動はより確実になる。

小学生の悪態への対応

小学生集団がゲームをしていてC君があまりにうるさいので、職員が「レベル2の声でお願いします」と正したそうです。それに腹を立てかC君は「俺はこの声しか出えへんし!」と悪態をついたそうです。「その後、どう指導をされましたか?」と聞くと、自分は距離を置いた方がいいと思って、口ごたえをスルー(無視)したというのです。

スルーを繰り返すとどうなると思うか職員で話し合いました。効果のある無視は本人が職員を引きつけたい注意喚起の場合に限るので、この場合は職員を避けたい言動なのでかえって悪化してしまいます。つまり、悪態をつけば職員が黙って離れていくという理解になるからです。

おそらく、職員の言い分は単なる無視ではなく、自分が腹を立てしまい冷静になれないので子どもと距離を置いたと言われたのだと思います。ただ、そうであるにしても、子どもの行動の原因は職員の言動がスタートですから、今更スルーはできません。子どもは職員の注意行動を避けたいから悪態行動を繰り返しているのです。そこで職員がスルーしてしまえば子どもの悪態行動を強化することになります。

ここは、セオリー通り、悪態をついても職員の注意行動は終わらないという、行動の弱化を行わなければいけません。同時に、この事態を解決するには「こうすればうまくいく」方法を子どもに教えて強化します。つまり適切な分化強化を行うのです。ただ、職員が冷静でいられないなら、第三者の職員を入れます。

「二人とも、こちらに来てください」と別の職員が登場して、双方の言い分を公平に聞きます。そして、現在のお互いの誤解を解いたうえで、今後は注意する人は何のために声を下げて欲しいのか説明して注意すること、注意された方は、それに気づかなかったことを詫びて指摘に対しては「教えてくれてありがとう」と答えれば「わかってくれてありがとう」と職員からもお礼ができることを話します。

そして、念のために同じようなことがまた起こったら、今回のように第3者を入れて解決する手続きを約束します。最後に、今日の解決ロールプレイをして終了です。家庭では、第3者がいないこともあるので難しいかもしれませんが、学童保育や学校では、このやり方で解決できることは少なくないと思います。

ASDの人の場合は、他意がないのでこのやり方が理解してもらいやすいです。愛着の課題が大きい人の悪態は、注目が目的ですからこれではうまくいかないことが多いのですが、適切な方法ならば、受け入れられて注目をしてもらえるという意味で分化強化の原理は同じです。

※レベル2の声:すてっぷでは声の大きさのフィードバックができるようにレベルメーターを示して指導しています。

こうした方がうまく伝わるよ

スタッフ会議の「あるある」は、子どもの不適切な行動はあれこれ報告し合うのですか、その行動を子どもが起こした後スタッフは何をしたのかという事はあまり報告されません。実際にはここが重要です。「I君がビデオが見たかったので大声を出して壁を蹴りました。」「J君がこの遊びは嫌だと頭を叩きました。」この次が重要なのです。「それで、スタッフのあなたはどうしたのですか?」と聞くと「へ?」という顔をされることが少なくありません。

その後を聞くと「ビデオが見たいの?と聞いたら頷くのでビデオを見せました。」とか、「外に行きたいのだろうと外に連れ出すと頭叩きがなくなりました。」と不適切行動へのNG行動がとられていることが少なくないのです。「I君はビデオをつけてもいいかと大人に聞きたいのですが、適切なコミュニケーション手段がわからないので、皆が気付くように壁を蹴ったらスタッフが振り向いてくれてビデオが見たいことに気づいてもらえてビデオが見られました。」という文脈になります。とすれば次もI君は壁を蹴ってスタッフに気付きを促すだろうと容易に想像がつきます。J君も頭を叩けば嫌な事から逃げられると理解します。次はもっと強く頭を叩けば早く要求が実現すると考えるかもしれません。

この場合にスタッフがとるべき行動は、分化強化を促す(本日のコラム=みんなちがってみんないいに掲載)ことです。確かに不適切行動は、その人にとっては必要な行動ですからそう簡単に代替できるのものではないかもしれません。放デイのわずかな時間で代替行動が定着するほど甘いものではないかもしれません。それでも、あきらめないで、こうした方がうまく伝わるよと教える中で、適切な行動のきっかけを作るのが私たちの役割でだと思うのです。

 

代替行動分化強化 2

不適切な行動の対応については、何度か書いてきました。子どもが不適切な行動をしたとき、もっとも重要なことは、その行動は罰があるということを教えるより、他の方法で利得が得られることを教えることです。

言葉の分かりにくいA君が、B君の大声がうるさいので叩いた時、スタッフがとるべき行動は、叩かなくても大声を止められる方法をA君に教えることです。でも、もっとも良くみられる指導は「B君にごめんなさいは?」です。音声模倣ができる人なら「ゴメンナサイ」と言うかしれません。でも「ゴメンナサイ」の意味は通じていません。なぜなら、叩けばB君が黙るからです。つまりA君の叩く行動は要求を実現しているからです。学習したことは、叩いた後大人が指示したら「ゴメンナサイ」を言うことです。

発達障害のある人の問題行動に関しては、『機能的コミュニケーション訓練』という代替行動分化強化(DRA=Differential Reinforcement of Alternative behavior)の手続きが有効です。これは、問題行動と同じ機能(目的)を持つ社会的に適切な行動(カードコミュニケーション)を分化強化するという手続きです。(声がうるさいから)助けて」カードを大人に示せば、スタッフがB君を遠ざけてくれるようになれば良いわけです。もちろん、突然の行動ですから少々の代替行動の訓練で、完璧な学習は困難かもしれません。行動問題を予測して予防することも大事です。でも事が起こったら、お詫びの音声模倣をさせるよりは、即座に「助けて」「やめて」カードをスタッフに渡す行動を教えた方が、不適切行動を減らせる可能性があります。