すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:スルー

見ざる聞かざる言わざる

支援学校にお迎えに行ったら、D君が他の事業所の送迎車を叩こうとしていました。なのに、明らかにその行動を見ていた送り出しの担当教員は知らん顔して教室に引っ込もうとするので驚いたと職員が言います。子どもを手渡したら、あとはお迎えに来た人の仕事でしょという意味だろうかと職員は首をかしげます。

たぶんそれは、自分には対応不可能な行動問題なので「見なかった」ことにしているのだと思うのです。それは、事業所の中でも多かれ少なかれ見られることです。自分の担当でない子が不適切な行動をしていても、「見なかった」ことにする様子はあちこちで見かけます。

それは、善意にとらえれば、担当の職員の方針があるだろうから自分は口出ししないということでしょう。でもこれは、善意ではありません。先の支援学校の対応と同じだからです。「ここからはあなたの仕事、私は責任がない」と目の前で生じている事態に向かい合おうとしないのです。相手はモノではなく子どもです。障害がなんであれ、不適切な行動をしているのに修正がされなければ、それは認められたことになります。或いは、「君のことは気にかけない」というメッセージを送ることになります。

もしも、修正の方法が分からなければ、最低とるべき行動は一つです、近くの人と自分には対応が分からないけどどうしようと相談することです。スルーして逃げてはいけないのです。少なくとも、その場での最良策を話し合って、お互いが持つ情報を交換し合うのがプロの対応の仕方です。厄介な行動問題から逃げ出したくなる気持ちは分かりますが、私たちは行動問題にも向き合うことで口に糊する職業です。「見なかったこと」にしたりスルーするのは許されません。

 

適度な距離感を

4月はスタッフが大幅に入れ替わる季節です。これまで息の合っていた支援のタイミングがずれたり、支援の意図そのものが伝わっていなかったりしやすい時期です。当然、子どもたちも違和感から様々なサインを出すことになります。この場合、子どもたちの新参者に対する洗礼(おちょくり)と通常は見えやすいのですが、実は子どもの側も心配になったり、不安になったりしていることが多いです。表現レパートリーが乏しいので、笑っているように見えて、からかわれていると大人は判断するのですが、不安で笑っていることもあるのです。その証拠に支援の揺がない子どもはそんなに笑ったり泣いたりせず淡々としている人が多いです。

最近、表出のコミュニケーションの伸びが素晴らしいN君ですが、新しいスタッフに変わって挑発行動が絶えません。スケジュールへ向かう身体プロンプトをされては大声を出し、物を投げては大声を出したりカードを投げ飛ばしたりして笑っています。こんな時むきにならずに、慣れているスタッフに変わって距離を開ければいいと申し合わせています。新人スタッフは子どもとの距離が縮まりやすいです。それは通常は、熱心にフォローしようとする表れなのですが、子どもの側からすると刺激や変化が強すぎることがあります。新入生ではないのですから子どもはルーティンワークは分かっています。だとすれば不適切行動の原因は新人スタッフの存在が考えられます。別に嫌っているわけではないのですが、いきなり距離を詰めると子どもが不安になることがあると考えればいいのです。

また、子どもの不適切な行動があったとき、何も気づかなかったようにスルーする場合がありますが、このスルー技術は実はとても高度な支援スキルで、これを使って成功している人を見たことがありません。何故かと言うと間違いなく子どもの行動はさらに激しくバースト(爆発)するからです。通常の場合、この爆発に耐えきれる支援環境ではないからです。周囲に多くの人がいて結局誰かが反応してしまうので、不適切行動の利得は必ずゲットできるからです。行動が爆発してから応じていたのではどんどん行動はエスカレートするばかりです。

すてっぷでは、スルーは効果なしとして代替強化をすることにしています。いわゆるやり直しです。正しい方法で要求するようにやり直しをしてもらいます。それが通用しない場合は、良いアイデアが浮かぶまでは先取りして不適切行動が出る状況を回避することにします。無視をして子どもと我慢比べをしたり、マウンティング(強圧的に従わせる=行動の弱化)をしてもよいことは何もないと説明しています。

こうしたことを的確に伝える職員への研修が重要です。実践系の研修は現場から離れて話を聞くようなOff -JTはほとんど効果がありません。実践しながらその経験に基づき細切れに立ち位置や声のかけ方のコツを学ぶ研修方法(コーチング)が大事だと思います。現場を離れて体型的に理論を学ぶのは、ある程度自分の中で問題意識が整理されてから自己啓発的に自発的に学ぶのが効果的だと思います。このブログはそのきっかけになればと思って書いています。

挑発行動の見極め

前回K君の不適切な行動を紹介しましたが、高学年の行動は低学年には憧れとなり、不適切な行動の真似は集団のモラルの低下を招くというお話をしました。案の定、前回K君の行動を見ていたM君が「僕は公園なんか行きたくない」と挑発行動に出てきました。どうしようとスタッフから相談がありました。挑発行動の対応は、理を尽くして説明してもあまり効果がないです。理由なき憧れの不適切行動はスルーするのが原則です。そしてブロークンレコード「今日のみんなの予定は公園です」の繰り返しです。公園に行ったら、M君は声を上げて楽しそうにみんなと遊んでいたそうです。人の心情を理解していない場合の行動と、人の心情を試す挑発行動の見極めは支援者にはとても大事です。