すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:コミュニケーション

「自分で注文できたよ」

 すてっぷに通う支援学校の子どもたちは、おやつやおもちゃで遊ぶ時間など、動機付けがしやすい機会でPECS(絵カード交換式コミュニケーション・システム)の練習に取り組んでいます。そして、よりコミュニケーションを取る機会を増やせるよう、それ以外の場面でPECSに取り組むことがあります。その一つが買い物学習です。

 普段から買い物学習に取り組んでいるコンビニやスーパーなどでも、「温めますか?」「おはしをつけますか?」などのコミュニケーションの機会はあります。ただ事前に練習し、また「○○ください」と伝えやすいのはやはり、食べ物を注文するお店です。その中でも多くの子どもが大好きなのがマクドナルドです。

 先日も支援学校のQくんが、トークンを貯めたごほうびに、職員と一緒にマクドナルドに行きました。事前に何を注文するか、メニューで確認していたQくん。ブックから「ソフトツイスト」「ポテト」「メロンソーダ」を文カードに貼り、最後に「ください」を貼って、レジカウンターに置きます。そして一つずつ指差しをして、「ソフトツイスト、ポテト、メロンソーダ、ください」と店員さんに伝えることができました!

 店員さんはQくんの注文したものを確認し、「サイズはどうされますか?」と聞いてきます。このときの対応は子どもによって、また状況によって変わってきます。事前に値段を計算したうえで「ポテトMサイズ」「メロンソーダMサイズ」などのカードを用意した方がいい場合もありますし、職員がメニュー表を見ながらどれにするか子どもに尋ね、子どもが答える場合もあります。後ろに並んでいる人がいるときなど、職員で答えることもやむを得ない場合もあります。

 このときは職員がメニュー表のМサイズを指差し、Qくんが「Мサイズください」と伝えて、無事商品を受け取ることができました。アイスから一つずつ、ゆっくり味わったQくん。次のトークンの目標は買い物学習にしたいそうです。いろんな場面でコミュニケーションができた経験を積み上げていきます。

「そんなこと言わないでよ」

 「ぼく、卒業しようかな」(2023/10/20)で紹介した小学生のIくん。この数か月で目まぐるしい成長を見せてくれています。

 Iくんはすてっぷに来始めて、もうすぐ2年になります。怒りっぽく、人の話を誤解しやすいところもあり、来始めた頃はトラブルがあればその中心にいることがよくありました。自分のしたいこと、したくないことがはっきりしていて、友だちと相談したり譲り合ったりということが難しく、「じゃあ遊ばない!」と友だちから離れることも珍しくありませんでした。

一方で賢いところがあり、大人が以前話したことを覚えていて、「こういうときはこうしたらいいんやんな」と確認しながら、よりよい行動をしようと意識することがありました。そしてこの1年間は特に、年下の小学生メンバーが増え、また支援学校の友だちとの活動も活発になってきました。そんな中でIくんは、持ち前の優しさを年下の子や支援学校の友だちに発揮したのです。

 この時期にはみんなで決めた遊びにほぼ入れるようになってきていたIくん。参加する友だちのことを考えて職員がおにごっこのルールを決めたりする中(もちろんIくんを考慮したこともありました)、次第にIくんは自分から「○○さんはタッチ返しありがいいよね」など、友だちをおもんばかった提案をしてくれるようになりました。また帰宅時の送迎車の中では、誰もが前の席(助手席)に乗りたがります。Iくんも初めは自分が助手席に乗りたい!と口論になることもしばしばありました。ですが今では、「前は○○さんが後ろだったから、今日は○○さんが前ね。僕たちは後ろ!」と自分から提案します。運転する職員がOKを出すと、Iくんは友だちにも提案し、友だちも受け入れられるようになりました!

 衝突しがちだった同級生や年上の友だちにも、最近は優しい言葉を返せることが増えてきたIくん。友だちが違う友だちとの雑談で「死ね」と(もともとよくない言葉ですが)言ったとき、Iくんは自分に対して言ってきたと勘違いしてしまいます。昔なら怒って叫んだIくんですが、今は違います。「そんなこと言わないでよ」と友だちに落ち着いて伝えました。友だちがキャラクターに対して言ったんだよと説明すると、「そうなんだ」と切り替えられたIくん。確かに卒業が近づいているかもしれません。

「楽しかった」よりも「ドキドキ」

 小学生のOさんはすてっぷに来始めてもうすぐ1年。少しずつですが、友だちと談笑するなど、笑顔を見せることが増えてきました。遊びのこだわりがあり、来た当初はしないことは絶対にしないと固いところもありましたが、最近は苦手な遊びでも参加するようになっています。

 そんなOさんの課題の一つがコミュニケーション表出、つまり自分の思いや気持ちを他人(職員や友だち)に伝えようとすることがまだまだ少ないことです。上記の通り、「しない」ことは伝えられますが、どうしてしないのかという理由や、では代わりに何をするかという代案を、自分から伝えることはまだできません。他にも感想を聞かれても「楽しかった」と答えるのみで、他の感想、特に自分の気持ちを他の言葉で表現することはなかなか見られませんでした。

 そこで活動選択からコミュニケーションの表出に少しずつ取り組み始めました。Oさんは好きな活動は「する」、したくない活動は「しない」と答えるので、好きな活動を保障しながら、「しない」と答えた活動を一部だったりルールを変えたり(おにごっこをふえおににするなど)といった交渉をしました。そして少しずつ見えてきたOさんが「しない」という理由を、職員からOさんに聞いてみて、うなずいたことを言語化して伝えていきました。

 また同時に、感情カードを使って振り返りをすることも始めました。言葉で聞いても「楽しかった」と答えるだけだったOさんですが、感情カードはイラストと文字とを見てマッチングできるので、他の感情も少しずつ分かるようになってきたようです。先日初めて行った公園で友だちといっしょに、遊具やボールでアグレッシブに遊んできたOさん。すてっぷに帰ってきた後、感情カードで振り返りをすると、初めて「楽しかった」ではなく、「ドキドキ」を選びました! そして別の日は、宿題をしているところに「その問題はこう解くんだよ!」としきりに声をかけてきた友だちに、初めて「イヤ」と言うことができたのです。まだまだ「ドキドキ」の理由が言えたり、自分から「イヤ」と伝えたりすることは難しいですが、感情カードを使うことで、少しずつ表出が増えてきたOさん。「伝わってよかった」「伝えてよかった」となることで、より表出を増やしていけるよう、丁寧に支援していきます。

「行けないの、かなしい」

 「○○くんたちと遊びたい!」(2023/11/4)で紹介したJさん。週間スケジュールで見通しが持てることで、落ち着いて過ごせることが増えてきましたが、自分の要求が伝わらないと泣き叫ぶような大きな声を出すことがまだ見られます。

 そういうときは感情カードで、落ち着いて他人(はじめは職員から)に伝えていくことに替えていきます。ただ感情カードを見せるだけでは、なかなか自分から伝えることにはつながりません。実際にJさんも、感情カードを見て絵の意味は分かっても、使う(伝える)ことの意味はなかなか分かりませんでした。

 そこで職員がJさんの気持ちを受け止めることからはじめました。先日「公園に行きたくなーい!」と叫びながら帰ってきたJさん。まずは職員が「お話しよう」と向き合っていっしょに座ります。職員が「どうしたの?」と聞くと、「公園行きたくない!」とJさんは答えます。すかさず職員は「行きたくないんだね」とJさんの気持ちを受け止めます。次第に落ち着いてくるJさん。職員が「どうして?」と聞くと、「寒いから」とJさんは答えました。職員が「そうだね。寒いね」と共感し、「ジャンパー着ていこううか」と言うと、Jさんはジャンパーを取りに行き、着るとそのままお出かけに向かっていきました。次のときも同じように「寒いから」と公園に行きたくないことを伝えるJさん。ですが前回よりも穏やかにやり取りでき、この日は室内での勉強に活動を変えました。

 そうしておだやかにやり取りすることが増えてきた中で、「(小学生グループの)買い物、行きたい」と伝えてきたJさんに、気持ちを受け止めながら感情カードを見せると、Jさんは自分から「かなしい」と感情カードを示しながら答えました! 今では「かなしい」や「ざんねん」などおだやかに自分の気持ちを伝え、気持ちを受け止めてもらうことで、交渉や切り替えに向かえることが増えてきたJさん。この数か月で一気に成長した姿を、日々見せてくれています。

「ぼく、卒業しようかな」

 放課後等デイサービスに通い始める小学生の中には、失敗経験を繰り返してきた子どもが少なくありません。すてっぷに来た小学生のIくんも「ぼくはコミュニケーション障害があるからすてっぷに来てる。」と受け止めていました。

 すてっぷに来た頃のIくんは、自分本位の言動がよく見られました。その言動から、友だちから反感を受けてしまい衝突することが毎日のようにありました。また集団遊びをするときも、Iくんは「(友だちが提案した○○は)ぼくは絶対にしない。嫌だ!」と強い拒否感を示し、泣きだして怒ることもありました。

 そこでまずは、Iくんが集団で一緒に遊べる経験を増やしていきました。そのために、「どういうルールならできるの?」、「何分(何回)だけしてみよう。」、「後でIくんのしたい遊びもするから、まずはこれをチャレンジしてみよう。」など、職員から声を掛け、交渉することを続けました。また上級生の友だちにも働きかけ、Iくんが友だちと交渉する機会を増やしました。次第にIくんは、「おにごっこしようよ。」と誘われると、「僕がおに役なると誰も捕まえられないから嫌だ。したくない。」と答えるなど、理由を言えるようになっていきました。職員が、「じゃあおに役が固定のおにごっこやおに役が増えるおにごっこは?」などと交渉し取り組みを続けていると、同じような状況になったときに職員がいなくても、上級生の友だちが、Iくんに同じように交渉し、子ども達だけで集団遊びを作ることが出来てきました。すると、Iくんからも「じゃあ、けいどろならいいよ。ふえおには絶対嫌だけど。」など自分から交渉することが出来たのです!。

 最近のIくんといえば、上級生のお友達と何して遊ぶかを相談・交渉するだけでなく、同級生の友だちと遊ぶ時に「○○君は何して遊びたい?」と尋ねたり、年下の友だちと遊ぶ時には、「○○君と○○ちゃんはおに役になったらタッチするの大変だろうから、あの二人はタッチ返しありにしようよ。僕たちはタッチ返しなしのルールのままでいいから。」など提案したりするなど、どの友だちとも交渉したり配慮したりできるようになりました。1年半前と比べると、穏やかに遊んで過ごせる日がとても多くなりました。

 先日、Iくんがふと言いました。「ぼく、来年、すてっぷ卒業しようかな。すてっぷに来た時は、コミュニケーション障害あったけど、もうなくなったと思う。」 職員が、「Iくん、みんなと仲良く遊べてるもんね。」と言うと、Iくんは、「うん!」と言いました。実際には卒業までの課題がまだあると職員は考えていますが、少なくともIくんの中で、これまでの失敗経験を超える数の成功体験を積めたのだと思います。

「わかってくれた!」

 支援学校高等部のTくんは表出が弱く、自分の思いが伝わらないと注意喚起行動や他害行動が出ることがありました。すてっぷでは絵カードコミュニケーションの練習に取り組み、トレーニングの場面(おやつ時)では自分のほしいものを要求できるようになりました。ただそれ以外の場面では自発的な表出が難しく、『暑い』や『うるさい』などTくんが苦手な状況になったときでも、自分からは伝えられません。職員が「暑いね」「うるさかったね」と声をかけると、Tくんは「暑い」「うるさい」と返事をして、共感してもらえたと落ち着くのですが、自分からしんどさを伝えることが当面の課題でした。

 また昨年度から、Tくんは選択の練習に挑戦しています。以前も取り組んでいたのですが、『どっち』という言葉にこだわりが出て、選択の場面になると「どっち!?」と叫んで選択できないという状況が続きました。そこで選択の練習はいったん控え、こだわりが薄くなってきたころを見計らって、練習を再開しました。選択の練習は、休憩時間の過ごしを選ぶことに取り組んでいます。休憩時間になったら、スケジュールで休憩の代わりに貼ってある『えらぶ』カードの色を見て、同じ色の選択ボードから『ごろん(横になる事)』や『かるた』などのしたいことを選びます。したいことを選べる候補やタイミングを明確にすることで、自分で選んで向かえるようになってきました。

 この選択の練習を続けてきたことで、伝わった実感が積みあがってきたのかもしれません。次第に、表出できる種類や機会が増えてきました。そして先日、なんと自分から『しんどい』カードを職員に渡し、「しんどい」と言ったのです! 熱を測ると37度以上で、その日は保護者の方がお迎えに来ることに。保護者の方といっしょに帰るTくんに、職員は「しっかり伝えられたね」と褒めて見送りました。

 今では「うるさい」「あつい」と自分から伝えるようになってきたTくん。Tくんとずっと絵カードコミュニケーション練習に取り組んできてよかったと職員みんなで振り返りました。まだコミュニケーションパートナーは限られていますが、今後誰にでも伝えられるように、練習を続けていきます。

人差し指は『もう1回』

 支援学校小学部のSくんは、すてっぷでPECSの手法での表出トレーニングに取り組んできました。おやつや遊びでほしいものを伝える練習から始め、公園ではブランコ遊びをするときには「押して」、公園から帰りたいときは「てをつなぐ」カードを渡すなど、職員とコミュニケーションを取ってきました。

 そうして伝わったという実感が積みあがってきたおかげか、日常生活の中で手ぶりや行動での表出がだんだんと増えてきました。以前は拒否のサインと言えば寝転ぶことが多かったのですが、最近は手をパーにして『バイバイ』と同じように左右に振ります。よく見られるのが送迎時で、車のソファが心地よいSくんは家に着いても『降りたくない』と手をバイバイします。そして続けて人差し指を突き出してきます。これは『もう1回』のサイン。実際にこのサインが出た時、職員が「じゃあ友だちを先に送ろうか」と言って、一緒にもう1回ドライブしてから帰ってくると、今度はすっと降りることができました。

 また先日、Sくんが公園から帰ってきたときのことです。スケジュールでは次が自立課題で、その次がおやつになっていました。ところがSくんは自立課題のカードを自分で外し、おやつを次に貼り替えたのです。それを見た職員が修正し、「自立課題ができたらおやつだよ」と伝えました。するとSくんは『はい』と言わんばかりに手をパーにして上げました。そして自立課題に取り組み始めました。

 いろんなコミュニケーションが生まれてきているSくん。どういう表出なのか分かれば、絵カードでの表出に変えることで、誰にでも伝わるようにすることができます。ですが、どんな形であれ表出してきたらまずは受け止めること。Sくんが自分から表出できたことを褒め、どんどんコミュニケーションできる機会を増やしていきたいと思います。

新しい仲間

 出会いの季節と言えば春。ですが、まだ肌寒かった2月に、すてっぷへ新しい仲間がやってきました。小学生のAくんは活発な子で、年上の友だちにも物怖じせず、元気に話しかけます。声が大きくなりがちで、職員が声のレベルを提示することで、小さな声で話せるように練習をしています。

 もう一つ職員が気になったのは、友だちへの誘い掛けの言葉。「○○くんはこっち、△△くんはあっちをして」と、誘うというよりも、なかば指示のような声掛けになってしまいます。年上の友だちにも同じように声をかけてしまい、「なんで決められな、あかんねん」と反発の声が返ってきます。そこで職員から、「~しよう?」や「~はどう?」といった、相手が受け入れやすい誘いの言葉に言い換えられるように練習してきました。

 先日は年上の友だちたちといっしょにボードゲームで遊びました。人数が多かったので2グループに分かれることに。Aくんははじめ違うグループだったのですが、他方がしていた『スライドクエスト』というゲームに興味を持ちました。『スライドクエスト』は箱の四方にレバーがあり、そのレバーを動かすことで箱の中のステージを傾け、駒をゴールへ動かしていくというゲームです。レバーは4つですから、当然一人ではできません。2~4人が協力してレバーを動かすのです。

 「『スライドクエスト』したい!」と伝えたAくん。グループみんなもしたいとなり、他方のグループと交代して『スライドクエスト』をすることになりました。早速Aくんは「○○くんはそっち、△△くんはこっちのレバーね。僕は2つする!」と宣言します。そこで職員が「他の子が2つしたかったらどうする?」と聞くと、Aくんは「あっ、そうか! どうする?」と自分から2人に聞くことができました。Aくんすごい!と内心驚きの職員。日々の成長が現れた場面でしたが、Aくんがやりたい!と思える遊びだったからこそ、発揮できたのだとも思います。毎日の取り組みが面白いと思えるよう工夫して、支援の機会を作っていきたいと思います。

子ども同士の「良い影響」

ある曜日のじゃんぷの子ども達は休憩時間、ままごと遊びに興じています。ある子どもの「みんなでままごとしよー!」という言葉をきっかけにして遊んだところ、ものすごく楽しかったようです。それからそのメンバーではままごと遊びをするのが定番となりました。

そのメンバーは以前までは一緒に遊んだり、それぞれで遊んだりとバラバラでした。遊びの時間が終わると切り替えが上手く出来る時とそうでない時と、そこもバラバラでした。今、みんなで一緒にままごとをしていると片付けも遊びの中に入っています。「〇〇君これおねがい~!」「〇〇さんこれどこに片付けるの~?」と遊びの中で片付けもし、それが終わると全員が次のことに向かいます。こちらが意図していないことではありましたが、子ども達のまとまりが上手く組み合わさり、お互いに良い影響を与えた結果なのでしょう。

また、別の曜日はけん玉遊びがブームになっています。一人の子がけん玉達人で、一人で技をしていたのですが周りの子がそれに興味を持ち、「教えて~!」と聞くと拙いながらも教えてくれています。あまり人に興味を持たず、「教えるのめんどくさい~」と言っていたのがなかったことのように楽しそうに教えてくれています。また、教えられた子はほとんどけん玉が出来なかったのに今では家でも隙間時間があればけん玉の練習をしているようで、かなり上達しています。(筆者は完全に追い抜かれました。)その子もコミュニケーションが苦手な子でしたが、教えてもらって上達することが本当に嬉しいようです。積極的に技のコツを聞き、教えてもらっています。

子どもたち同士の関わり合いの中で良い影響があるのはこのブログで何度も書いてきたことですが、良いエピソードがあったので今回も書かせていただきました。また何かあればお伝えしようと思います。

 

 

「前よりも分かることが増えたよ」

 支援学校中学部のLくんと高等部のMくんの二人で、先日『街コロ』に取り組みました。二人で設定遊びに取り組むことは久々でしたが、支援学校で同じクラスだったこともあってか、何をするかスムーズに相談を始めました。Mくんははじめ、「『ワードバスケット』はどう?」とLくんに聞きました。そばにいた職員は、Lくんはどう答えるだろうと不安げに聞いていました。

 Lくんが小学生の友だちとボードゲームで遊んでいたときに、小学生の友だちがよくリクエストしていたのが『ワードバスケット』。言葉やアイディアを発想・表出したり、1ゲームの時間が短かったりという理由で小学生は『ワードバスケット』が好きだったのですが、Lくんは反対に発想・表出が苦手、でもじっくり考えて積み上げていくゲームが好み。でもLくんは小学生の友だちのリクエストを断れず、「いいよー」と受け入れて遊んでいくうちに、しんどさが積みあがっていってしまったということがありました。

 さてMくんにはLくんはどう答えるだろうと職員がそばで見守っていると、Lくんは「それはぼくは苦手だからできないよ」と答えたのです! 職員はその成長に驚きました。Mくんはその言葉を聞き入れ、「じゃあ『街コロ』は?」と聞くと、Lくんは「それならいいよ」と答え、『街コロ』をすることに決まりました。

 一方のMくんはボードゲーム自体が久々。高等部ということもあり、パソコン課題や作業課題など、個人の課題を優先してきました。ただ数年前に当時の小学生たちとボードゲームに取り組んだ時は、負けることへの耐性が低く、また運が悪いと投げやりになってしまいがちだったため、勝ち負けのあるボードゲームを避けていたという経緯がありました。『街コロ』はサイコロを毎回振るので運のよしあしがあり、また勝ち負けがはっきりつくゲームです。ですがMくんは、サイコロの運一つ一つは気にせずゲームを進め、落ち着いて最後までできたのです! 結果はMくんの勝ちだったので、負けのしんどさはなかったかもしれませんが、それでも終わりの振り返りのときに、「前にしたのは2、3年前だったし、前よりもわかることが増えててよかった。作戦も考えることができるようになってるし、理解もできるようになってて嬉しかった。2人だけど、このメンバーで出来てよかった。」とコメントしたことに、職員はMくんの成長を感じずにはいられませんでした。

 すてっぷの1年目から在籍しているLくんとMくんの日々の頑張りが、積み重なった成果として表れたんだと職員全員が感じられた取り組みでした。

「iPad代えて」

 すてっぷでの休憩の楽しみの1つがiPad。支援学校の子も小学校の子も、多くの子が、休憩のときに時間を決めてiPadを楽しんでいます。動画を見て過ごす子もいれば、ゲームが好きな子もいます。そのためiPadには、職員が許可したゲームアプリをいくつか入れています。ゲームアプリの中には、前回の続きが同じ端末でしかできないものもあります。iPadを導入した初期は、前回の続きがしたい、でもどれかわからないということがありました。

 そこでiPadのカバーの色を端末ごとで固定するようにしました。どの端末か、子どもでも分かりやすいようにしています。そうすることで、子ども達もストレスなく、どの端末だから、どの続きをしようかと見通しを持てるようになりました。さらに「黒いタブレットください」といった属性の要求や、「他の子がしたい色のタブレットを使っているから終わるまで待とう」といった交渉も起きるようになってきました。中には子ども同士で「○時になったら交代」といった交渉をすることも。「友だちとの約束」(2022/2/7)で紹介した友だち同士での交渉も、こうした経緯があり、交渉の経験を積み重ねていきました。

 ただ、友だち同士の交渉が、必ずしもうまくいくとは限りません。交渉の意味自体が分からない子もいますし、交渉の意味が分かる子でも、交渉が成立するには職員の支援が必要ということも多いです。先日、黒のiPadが使いたいUくんも、考えを巡らせていました。そのとき黒のiPadで動画を見ていたVくんは、今までUくんが交渉してもうまく交換できたことはありませんでした。ただVくんは、他の色のiPadを使っていたこともあります。Uくんもそれを覚えていて、交渉の方法を工夫したら交換ができるんじゃないかと考えたのかもしれません。Uくんは別のiPadを借りて、そのiPadでVくんが見ている動画と全く同じ動画を検索して表示しました。そしてその画面を見せながら、Vくんに「代えて」と伝えたのです。するとVくんは、そのiPadを受け取って、黒のiPadを手放しました。Uくんの工夫は功を奏し、見事VくんとiPadを交換できたのでした。

 Uくんが工夫して交渉し、VくんとのiPadの交換がスムーズにいったことは、Uくんにとって何よりの成功体験になったと思います。放課後等デイサービスだからこそ起こった、子ども同士のコミュニケーションの機会。UくんにとってもVくんにとっても、コミュニケーションが育つ場面がいっぱいです。どんな日常にも起こるそのチャンスを、損ねないよう気を引き締めて支援していきます。

おやつでもPECS

 支援学校高等部のSくんは、2週間ほど前から、机でおやつを食べることにチャレンジしています。Sくんは高等部生ですが、背丈が小さく、おやつのときはずっと座椅子を使っていました。ですが成長期と言うこともあってかこの半年で、ぐんと身体が大きくなりました。そこで、机でおやつを食べることにしたのです。

 飲み物もペットボトルからコップに変えてチャレンジ中。1年前まではトレーニング用のマグカップを使っていたことを思ったら、驚くほどの成長です。スプーンは以前から使うトレーニングをしていましたが、この1年は、自分の指で食べるもの(せんべいなど)をつまむトレーニングもしています。

 そんなSくんですが、食べる姿の成長もさることながら、おやつ時に行っているPECSトレーニングでも目覚ましい成長を見せてくれています。慣れているおやつ、飲み物なら絵カードの弁別もばっちりで、絵カードをしっかり見て要求したいものを確認してから、職員に手渡すことができています。「まって」カードをもらって椅子に座って待ち、ふたのあるミニゼリーをもらうと、ふたを開けてほしいと「てつだって」とカードで伝えることもできるようになりました。

 同じように、PECSトレーニングの成長が目覚ましいのが、小学部のTさん。Tさんは2語文(○○+ください)にチャレンジ中です。タイミングが合えば、SくんとTさんとで、同じ机に並んで座り、いっしょにおやつでPECSトレーニングをすることも。1年前の2人のおやつの様子を思い出してみると、考えられないくらいの成長を見せてくれている2人ですが、そんな成長した未来のことを思いえがいて、毎日コツコツとトレーニングを続けてきた日々の積み重ねの結果だと考えると、支援の重要さを実感します。

 

メリットのないコミュニケーション

 半年前のTくんは、自分なりの理由やマイルールでよく動いていました。同級生とテレビゲームで遊んだ後、帰る時間になってからの片づけではいち早く抜けて、ほかの子がまだ片付けているのにも関わらず、先に帰る準備を始めます。職員が「まだ片付け終わってないよ。他のみんな片付けているよ。」と伝えると、Tくんは「片付けたよ。」続けて、「だって俺が準備したの、あれとこれの2つだけだし。これ以上片付けると俺が片付けすぎて損や。」と言うのです。下級生とも、「えー俺は別に遊びたくないから。」と言って、関わろうとしませんでした。

 メリットとデメリットを考えて行動するTくん。友だちと上手に関われる機会を増やすために、まずはTくんがメリットのある自分のしたい遊びから支援していくことにしました。具体的には、Tくんがしたい遊びができることを保障し、「でもその前に下級生を誘ってほしい」ということを伝えるようにしてみたのです。自分がしたい遊びなので、Tくんは進んで、「〇〇くん、〇〇ちゃん遊ばへん?」と下級生に声をかけるようになりました。最初は下級生も乗ってきません。Tくんとの関係性がまだできていないからです。でも職員は「遊びに誘うことできたね。偉いね。また今度も誘ってみようよ。」と褒めました。そうして下級生を誘う練習を繰り返し実施していくうちに、Tくんも自信をつけていき、下級生との関係性もできてきました。

 半年後の今では、Tくんの伝え方も上手になりました。声のかけ方が優しくなるとともに、言葉だけでなく身振り手振りを混ぜて、わかりやすく伝えられています。下級生も遊びの誘いに乗ってくれるようになり、Tくんも一緒に遊べて嬉しそうでした。公園から帰る時も、その子の落ち着きがなかったのですが、「△△ちゃん、俺と手を繋いで帰ろうよ。」と気遣って、優しいお兄ちゃんの一面も見せてくれました。手を繋いでいると、○○君が、「ぼくともつなごうー。」とTくんの手を握ってきました。両手を下級生のお友達に奪われたTくん。照れくさいようでしたが笑顔いっぱいで帰路につきました。

 この半年間で、Tくんは「下級生に優しくしたら、下級生と仲良くなれた。」という経験を積めました。メリットに思っていなかった下級生に優しくするという行動が、結果として下級生が自分から近づいてきてくれたというメリットになったことをフィードバックできたのではないかと思います。テレビゲームの片づけも、今ではメリットを気にせず同級生とも協力してできるようになったTくん。「すごいね!」と毎日のように職員から褒める言葉が積み重なっています。

「リクエストは『ハッピーバースデイ』だね」

 支援学校高等部のHくんは音の鳴るおもちゃが大好きです。特に好きなのが、音の出る絵本。ボタンを押すと、様々な楽曲が鳴ったり、ものによっては鍵盤がついていて、押した音階の音が出るようになったりしてします。Hくんはそれを耳に当てながら、ボタンの位置も覚えているようで、ボタンを見ずに押して、曲を変えながら楽しんでいます。すてっぷには音の出る絵本が6種類くらいあるのですが、Hくんはそれぞれの写真を見分けて、カードで職員に「ください」と伝えます。職員が間違って違う絵本を取り出しても、以前のように怒るように激しく拒否するのではなく、手でそっと押しのけて「違う」と伝えられるようになりました。

 Hくんは、3年ほど前まで、自発的なコミュニケーションと言えば、実物を手に取ることが結果的に要求だったり、座り込むことが結果的に拒否だったりでした。それがPECSの練習を続けることで、この1、2年でコミュニケーション能力がぐっと伸びました。今では歌の出る絵本やおやつ・ジュースなどさまざまなカードを使い分けて職員に伝えられるようになり、拒否も落ち着いて伝えられることが増えています。

 要求や拒否など自発的なコミュニケーションが増えると、職員にもチャレンジする余裕が生まれます。先日、たまたま友だちが「今日は僕の誕生日やで」と職員に言っているところに、歌絵本を持ってやってきたH君。職員がHくんに「ハッピーバースデイかけて」とお願いしてみました。職員は拒否するかな?と待ち構えていたのですが、Hくんはボタンを見ずにポチッ。「ハッピーバースデイ~トゥユ~♪」と曲が流れました。Hくんが「ハッピーバースデイ」が分かってリクエストに応えてくれたことに、職員はびっくりしながらも、いっぱい褒めました。

 他にもHくんは、半年ぶりにキーボードで遊んだときに、以前約束した通りの準備を自分ですることが出来ました。半年前の約束を覚えていたことに驚いた職員。職員側が全部準備していた3年前では気づかなかった強みを、今のHくんはいっぱい発揮しています。

なんでイヤなの?

 支援学校高等部のIくんは、最近スケジュール支援が功を奏し、自立的に次の活動に向かえるようになっています。先日は、自立課題のあと、公園へのお出かけの予定になっていました。Iくんは自分でスケジュールに向かい、「お出かけ」カードを次にやることの枠内に貼って、玄関に行こうとしました。すると、「じーっ」という機械音が。Iくんは大の機械好き。そこに他の子のおやつを準備しようと、職員がトーストを焼き始めたのです。Iくんはもうオーブントースターに釘付け。遠巻きにじっと眺め、玄関へ向かいません。担当の職員がIくんといっしょにスケジュールに戻り、次の予定の「お出かけ」カードをもう一度示します。ところがIくんは納得せず、好きなことができる時間のシンボルの「?」カードを取り出そうとします。職員がまた外出を示すと、Iくんは怒ったように、「外出」カードをおしのけ、自分を叩こうとします。

 そこで職員から、「トーストが焼けるまで、オーブントースターを見ますか? 見たら、お出かけします」と伝えました。すると、Iくんはうなずきます。すかさず職員は「じゃあオーブントースターを見ていいよ。ただし、この椅子に座って見てください」と、オーブントースターに手が届かない位置に椅子を置いて、Iくんを誘導しました。Iくんは椅子に座ってじっとオーブントースターを眺めます。「チン」と音が鳴って、職員がトーストを取り出すまで、Iくんは座ったまま。「焼き終わったね。じゃあ、お出かけに行こうね」と職員が伝え、オーブントースターが片づけられて目の前からなくなると、Iくんは切り替えて、職員と一緒に玄関に向かいました。

 Iくんは言葉が出ません。最近になってようやく、やさしく手を払いのけるようにすることで、穏やかに拒否を伝えられるようになってきました。ですが、一度怒りだすと、拒否が激しい動作になり、ときには自分を叩いてアピールしようとします。言葉もないので、慣れていない職員だと、どういうことか訳が分からなくなってしまうでしょう。しかし、その理由を考えると、次の対応が見えてくるかもしれません。今回の場合は、オーブントースターがきっかけの1つでした。それに気づいた職員が、オーブントースターを見てから、お出かけにしようと交渉したのです。

 交渉に応じることができ、落ち着いて切り替えられたIくん。玄関でも職員に、ピアノ本を持って行きたいと交渉します。職員は「持って行っていいけれど、車の中で見てね」と伝えると、Iくんは少し怒ったようでしたが、職員に「さあ、どっちの足から履く?」と言われ、すっと右足を差し出しながら、靴下を手に取ります。職員がすかさずほめると、Iくんは自分で靴を履いて、気分良く公園に出かけていきました。

坊主めくりで大盛り上がり!!

先週のじゃんぷでは休憩時間,坊主めくりが盛り上がりました。「坊主めくりって何?」と聞く子も多く,そういった子は知っている子から教えてもらったりロールプレイをしながらルールを覚えてから遊びました。

じゃんぷでは低学年から高学年まで入り混じって遊ぶので,簡単なルールで遊んでいます。3年生のK君が「俺知ってるで!」と少し複雑なルールも教えてくれました。

「初めて遊ぶ子とか1年生の子もいるし簡単なルールでもいい?」と聞くと「全然いいで!」とあっさり承諾してくれました。同法人の「育ちの広場すてっぷ」でも,遊びの時はこういったコミュニケーションや交渉の練習の場面が出てきます。

下の画像に載せている通りのルールで遊びましたが,(というか筆者自身このルールしか知りません。)視覚的にわかりやすいということと,単純なルールなこともあり,どの年齢の子も盛り上がって遊びました。

普段学習を頑張っている子ども達が,ほっこりしながらも友達と遊んでいる姿が見れた場面でした。

「いっしょゲームせん?」

 小学生のA君と中学生のB君は、休憩時間に話すことはほとんどありません。ですが共通の趣味がありました。それは「マイクラ」です。どこかで2人が関わり合える機会を作れないかな、と職員で話し合っていました。

 先日、A君とB君を含めた3人の子どもと職員で、黒ひげ危機一髪とジェンガをして遊びました。3人とも楽しく遊べていた様子で、振り返りでもそれぞれ「楽しかった。」と言っていました。そこで職員はこの機会を逃すまいと、A君に話しかけました。職員がA君に「もしB君からゲームしようって誘われたらどうする?」と聞くとA君は「してみたい。」と答えました。「じゃあA君がB君と一緒ゲームしたいと思った時に自分から誘えるように誘う練習してみようか?何っていう?」と職員が聞くと、A君は「B君、いっしょにゲームせん?」と職員に伝えました。職員は「上手に言えたね。したくなった時に、B君にそう言ってみたらいいと思うよ。」と返しました。

 

 すてっぷではいろいろな活動や設定遊びをしていますが、休憩時間にも子ども同士でコミュニケーションを取れる機会があります。コミュニケーションをとるのが苦手な子でもその機会を逃さないように、職員はいろいろと働きかけています。例えば、子どもたち同士をお互いに認識させることです。外でパスサッカーをする時はパス先の相手の名前を呼ぶルールを入れたり、振り返りをする時はどの友だちと一緒に活動したか名前を想起させたり、顔写真カードを用意しておいて話をすすめたりしています。

 また、「こうしたら上手くいく」という見通しを持たせています。今回のケースで言うと、A君とB君は同じゲームをして楽しんだ経験が出来ました。そこで休憩時間のマイクラでもお願いしたら一緒に遊べるかもしれない、と前向きに考えられるようにします。そして職員相手に事前に伝えることで見通しが持て、抵抗が少なくなったり自信が持てたりするようにシミュレーションをしてみました。

 

 「千里の道も一歩から。」A君とB君が一緒にゲームできる日はまだ遠いかもしれませんが、毎日の休憩時間にその機会があります。その機会を逃さないよう、自分でつかめるように、職員も働きかけていきます。

スナックタイム改めコミュニケーションタイム

Hちゃんのスナックタイムを動画で撮り検討会をしました。Hちゃんには言葉だけでなく機能的なコミュニケーションスキルが確立していないので周囲の大人がHちゃんの気持ちを読み取って日常生活を送ることになります。最近は職員が差し出した二つゼリーの一つを指で触れて選んでいるような仕草が見られるという報告がありました。

今回の動画では選ぶ場面は撮れず拒否の場面でした。職員が喉が渇いたただろうと慮ってスプーンでお茶を口に運ぶと、大きく口をひらいて受け入れるのですが、そのあとすぐに口からお茶を出しています。次に勧めてもコップをはねのけて拒否しているようです。では、何故口を開いたのか議論になりました。

この前のシーンで市販のボトルからコップに注いでいる様子をHちゃんは見ているので、好きなジュースと勘違いしたから口を開けたとする意見と、Hちゃんはスプーンを口元に近づけると反射的に開けてしまう癖があるという意見です。いつも職員から嫌そうに見えても勧めれば食べますというふうに誤解されているのはこの癖のせいだと言うのです。

一旦食べたものを口から出したりしなくても、いらないという意思が見えたならやめるべきだと話し合いました。何より、おやつの時間は「おやつを食べなくてはならない時間」ではないということです。すてっぷでは食べるのがとても早い子も半数以上いるので、どうしても早い子どもに日課の速度が引きずられがちです。

けれどもHちゃん達にはこの速度は早すぎてついていけないから、わざわざマンツーマンにしてゆったり表情を見ながら、食の時間を過ごせるようにしているのです。他の子どもに合わせて慌てる必要は全くないのです。そもそもスナックタイムと言うネーミングがいけないという事になり、おやつを用いたコミュニケーションタイムとして考えようという事になりました。

いるい・いらない、これほしい・あれがいや、ちょっと一服、また欲しくなった、と様々な表情や動作を読み取ってやり取りをするコミュニケーションタイムとして考えれば、もう少し本人の気持ちが尊重される時間になるのではないかと思います。おやつは残したって全くかまわないですが、気持ちは全てかなえてあげて欲しいのです。きっとそれが、適切な機能的コミュニケーションにつながっていくはずです。

通じ合うための工夫

Y君が通所時にオムツからパンツに履き替えてくれなかったので事業所で履き替えるようにしてほしいとの連絡がありました。Y君は言葉はうまく通じませんが、最近二つ提示の絵カードスケジュール支援がわかるようになってきた子です。好きなタブレットで遊んでいる時も、「勉強→タブレット」と二つの絵を示すと、タブレットを置いて学習机に向かえるようになっています。

絵の二つ提示は「交渉」の初期段階のトレーニングです。「~したら~(強化子)」という交渉で今していることを中断して指示に従う交渉です。これが、様々な場面で受け入れられるようになると、次は時間や時間がわからなければトークンで強化子を待つトレーニングをしていきます。こうした絵カードによる交渉ができるようになってからスケジュール操作を教えていきます。

今回の家庭での拒否はY君のいつもの手順と違ったのかもしれません。何か朝のルーティンが欠けたりしてもY君は「違うでしょ」とは言えないので、その後の指示「パンツをはいて」を拒否したのかもしれません。例えばこの時に好きなものを示して、「パンツはいたら~」と提示したらどうなったでしょう。

お互いに確認しあうものがなければ交渉はもちろん分かり合う事すらできません。言っても理解できないなら見せたらできるようにならないか工夫が必要です。家庭で絵カードに取組んでみると意外に本人の考えていることがわかるようになったという報告は少なくありません。いつでもどこでも分かり合えることを目指し、手話と同じように絵カード利用も「コミュニケーションは人権です」と広げていきたいと思います。

PECSワークショップ

すてっぷではPECS(絵カード交換式コミュニケーション)の手法を使ってコミュニケーションの支援をしていますが、保護者の方が家で取組んでこそ効果が上がるので、今年度から支援計画の際に保護者の方にPECS支援についてのレベルを確認をするようにしました。

1 保護者がPECSのレベル1ワークショップを受けて家でも子どもに取り組む場合は、事業所でも子どもにPECSトレーニングを実施していく。

2 保護者がワークショップを受けていない場合は、事業所でのコミュニケーション支援はPECSの手法を使うのみとする。

つまり、保護者のワークショップ受講をされている利用者にはマニュアルに沿ってトレーニングを実施します。それ以外の方は、これまで通りPECSやピラミッドアプローチ(応用行動分析に基づいたアプローチ)の手法を使って療育を継続します。

現在、当事業所でワークショップに参加されている利用者は4名です。また、新入会の方が新しくワークショップを希望されています。常勤職員は法人全体で9割の方が受講しています。

学校ではPECSに取り組んでくれないとお悩みの方や、子どものPECSを使う機会を増やしたいとお望みの方は、当法人の事業所までご連絡ください。また、保護者の方でピラミッド社で講習希望の方もご連絡お待ちします。現在は全てリモート学習ですので講習会に出かけずWi-Fi環境のある場所ならご家庭でもお友達と一緒の場所でも受講することができます。土日2日間受講(平日午前4日間受講有)教材付きの受講料は一般: 39,000 円,3人以上団体 : 34,000 円,保護者 & 学生: 29,000 円,PECSサークルメンバー: 34,000 円となっています。

●ワークショップ

1 コミュニケーション
 PECSレベル1ワークショップ
 ASD学習者に上級のコメントや言語概念を教える指導法
 「ダメ」って言っていいの?どう伝えるの??
 PECSレベル2ワークショップ
 9つの重要なコミュニケーションを教える
 一日の中にPECSを組み込む
 お家で楽しくレッスン!
 PECSリフレッシャーセミナー
 PECSスタートアップ?
 PECSから音声表出コミュニケーション機器への移行

2 PECS
 PECSレベル1ワークショップ
 ASD学習者に上級のコメントや言語概念を教える指導法
 ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン PECSフェスティバル2021
 PECSレベル2ワークショップ
 一日の中にPECSを組み込む
 PECSの概要
 PECSの復習と問題解決
 PECSリフレッシャーセミナー
 PECSスタートアップ
 PECSから音声表出コミュニケーション機器への移行

3 行動
 応用行動分析入門(PAE®︎ =The Pyramid Approach to Education®︎)リフレッシャーセミナー
 応用行動分析入門(PAE®︎) 教育へのピラミッドアプローチ®️
 お家で楽しくレッスン!