すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:メタ認知

字義通り

4年生のY君の検査をしました。基礎的学力を測るものの中に、文章で書いてある通りに振りをする課題での出来事です。検査者が初心者の事もあって、上手く提示が出来なかったこともあったかもしれませんが、「バナナを剥く」を読んで、しばらく考えてキッチンに行こうとしたのです。「振りだけ、エアーでやってね」でやっと提示の意味を理解したのでした。

つぎに困っていたのは、「拳骨を作る」の「作る」に困っているのです。作るには材料が必要という認識なので、身体で作るという意味が取れないのです。私たちは、その言葉を普段使わなくても推測で意味をとっていきますが、彼は使った事がない言葉には躊躇するのです。長考して正解していましたが、これらは低学年の課題です。むしろ中学生や高校生向けの長い説明の文意の方が彼は掴みやすいようで、彼の得点は同年齢で100人中16番の得点でした。

知能検査は認知の力を測るものですが、Y君の同学年でも上位の文の理解得点と、振りをしたり比喩暗喩を理解する、認知することを認知するようなメタ認知の力は知能検査の得点には表れません。発達検査や知能検査の能力の数値プロフィールは子どもの得手不得手の原因を知るのに、多くの子どもには役立ちはしますが完全とは言えないのです。

Y君は「近くの人を指しなさい」という課題で何やら躊躇しながら顔を背けて検査者を指してくれました。「お母さんに人は指すもんじゃないって言われているから・・・」と言うのです。「いやいや、検査は現実とは別でしょう」というのは簡単です。しかし、こうした字義通りの理解がY君の4年生の生活を息苦しくさせているのが手に取るように分かった検査でした。

大丈夫?という言葉

Dさんのトイレの後始末で、Dさんに「あとは大丈夫?」と職員が聞いて、Dさんが「大丈夫!」と答えたので本人に任せたら、トイレは汚れたままで全然片付いていなかったという報告がありました。職員は「大丈夫?」の前に、「トイレが汚れているけど一人で片づけられますか?大丈夫ですか?」と言う意味を込めて「大丈夫?」と聞いたのです。

ところが、Dさんにしてみれば「大丈夫?」は体調の良し悪しの際に使う「大丈夫」と理解していたので、体は元気なので大丈夫と答えたのです。「いやいや、トイレが汚れているから職員がDさんの支援にきたという文脈でわかるでしょう」というのが職員の言い分です。通常は職員の言う通りです。でもASDの人の場合は字句通りか、良くて経験通りにしか理解しないことが多いのです。

女性の場合男性に比べて主語や文脈を省略して話すことが多いように感じます。これは、相手に状況の共有ができていると感じている経験が女性に多く、男性の場合は正確に言わないと伝わらないことがあるという経験に裏付けられるのかもしれません。今回は、女性職員の女子への言葉かけの場面ですから余計に主語や「共有されているはず」の中身が省略されたのかもしれません。

こうした、言葉の背景にある意味を理解するのをメタ認知といいます。自分と他者の関係や状況、文脈を客観的・俯瞰的に理解する力です。ASDの人はこうした言外の意味理解を前提とするメタ認知が弱い人が多いのです。男性が男性に向かって「ライターを持っていますか」と聞くときは「喫煙するのでライターを貸してほしい」の意味ですが、ASDの人はライター所持の有無を聞かれたと思い「はいライターは持っています」と言って立ち去る例が喫煙者が多い昔はよく取り上げられました。

最近よく使われる例では、友達が言いにくそうに「お金持っている?」と聞けば「お金を少し貸してほしい」という意味ですが、ASD者は「お金は持っているよ」でそのあとの話が進まない場面がメタ認知の弱さとして紹介されます。こうしたやり取りが続くと、空気が読めないやつだと卑下されたりしてハラスメントにつながっていきます。主語や内容を省略する「大丈夫?」は対人関係の中では多用される言葉ですが、ASDの傾向のある人には、主語や文脈が共有されていないかもしれない事を留意して、手助けの必要性を具体的に質問することが大事です。