すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:感情

感情を表現する

Aさんが、水曜の帰りの時間になると「木曜日はすてっぷです」とわざと言います。木曜日は他の事業所なのですが行きたくないようです。自宅に送っていくときは、わざわざお迎えの家族の前で「木曜日は〇△◇事業所行きません!」と訴えています。大人としてはそれは困るので、何も反応せずにスルーしていると職員から報告を受けました。

大人として都合の悪いことは、子どもが上手く話せないからと言ってスルーしても良いものかどうか議論になりました。そうは言っても、理由もなく事業所を替えるわけにもいかないし、「そうだねー」と同意するのはまずいのではないかという意見。だからといって、「つべこべ言わずに行きなさい!」も信頼関係を構築する上ではまずいよなという意見。だとすると、無視する(聞こえていないふり)と言う選択も止むを得ないのではないかと堂々巡りです。

行為は認められないが気持ちは分かるという対応はできないものか検討しようと言うことになりました。以前、室内がうるさくて小さな子どもを叩く子どもに、それ以外の表現方法を教えればどうかということで、「うるさい!苛々する!」感情絵カードを職員に渡すことを教えました。その結果他害が完全になくなったわけではないですが減少させることはできたという経験があります。感情カードを持ってきたら「そうだなーうるさいねー」と同意するだけなのですが、それで少しはカタルシスを得たのかもしれません。

ASDだからと言って、他者の同意や共感は全く影響がないわけではないという事です。伝えて同意を得るのは形のあるお菓子や玩具が欲しい時だけではないと思うのです。「しんどい」「つらい」「悲しい」というネガティブな感情は生活の中で抑え込みがちですが、感じたことを伝えて「そうなんだー」と今の感情を理解してもらう事は大事なことだと思います。Aさんの場合にどうアプローチするかは検討が必要ですが、まずは健康チェック時など感情カードを使う機会を決めて「元気」などポジティブな感情を表出する経験を作り、今回のようなネガティブ感情の機会をとらえて、教えていくことから始めてみたいと思います。

フラッシュバック

X君がしくしく泣いています。どうしたの?と聞くとPECSで「悲しい」「泣いています」と叙述のフェイズ6でしっかり応えてくれました。ただ、原因が思い当たりません。PECSのフェイズ6は叙述ですから、「なぜですか」にも対応はしていますが、ASDの彼にそこまで深掘りして叙述を求めることはないので応えてはくれません。

ただ、これと言った理由がないのかもしれません。感情のスリップ現象とかフラッシュバック現象などと表現されますが、言葉のある高機能の人でも昔感じた負の感情が何かの拍子にわっと押し寄せることがあるといいます。それは酷くいじめられたり、嫌な事や意味の分からないことを強く押し付けられた時の感情だと言います。従って、周囲の人は、そっとしておくしか方法がありません。

「悲しいです」とPECSで教えてくれたX君は、今日もやっぱりトイレで気持ちを切り替えてから、10分後鼻歌を歌いながら帰りの車に乗り込みました。

 

行動と気持ちの翻訳

A君が「B君が乱暴なので怖い」というので、怖いときはスタッフに言えばいいよと言うと、「ちゃんと聞いてくれない」と言います。困ったときは、君が困っていることを大人が気付くまで待つのではなく「~さん」と名前を呼んで、「話したいことがある」と言えば聞いてくれるよ。というと、ちょっと明るくなってくれました。

B君には「もし君が中学生から付き合いたくないのに付き合えと声かけられたら怖くないか?」と聞くと「そら怖い」とB君。それなら、君が低学年の人に同じように声かけたら、低学年の人は君が怖いと思う気持ちわかるかな。「そうやな、俺遊びたいだけなんやけどな」、子どもの間に入ってお互いの気持ちの翻訳をするのもスタッフの仕事です。子どもの心の理論の育ちが未熟であれば尚更のことです。

表情の絵カード

終わりの会で、今日は何が良かった?と聞きます。お話の苦手なP君には感情カードを提示してみました。すると、「楽しい」表情を選択して、小さな声で「たこやきタノシカッタ」と答えてくれました。ここまでは計画通り、その後が素晴らしかったのです。P君の表現を見ていてた、少しおしゃべりができるQさんもR君も表現カードを見渡して今日の経験について自分の感情を選んで表現してくれました。

表情の絵カードの役割は、自閉症(ASD)のこどもが相手の気持ちを理解したり、自分の気持ちを伝えるために使います。彼らは表情や感情の読み取りだけでなく、表出も苦手な人が多いので、こうして機会を見つけては気持ちを聞いたり伝えたりしています。

でも、今回良いなと感じたのは、それを見ていた、少しおしゃべりができる子どもたちも、感情カードがあったほうが自分の思いが伝えやすいと発見してくれたことです。

絵カードの表情は何気ないカードのようにも感じられますが、感情を伝える最も大切なものであり、円滑な社会性や人間関係を築いていくために役に立ちます。

感情の分化

K君が、凧が高く上がって、「怖い」と言ったのはその日風が強くて凧が持っていかれそうになったからだという報告がありました。その日、K君は公園で初めて凧を上げたと言います。ぐんぐん上がっていく凧を見て「すごいなぁ」「かっこいいなぁ」と思ったけど、彼の感情表現は「怖い」が多いのです。これはK君に聞いてもわかりませんが、ドキドキする感情のことを「怖い」にまとまているのではないかなとも推測できます。「怖い」とK君が言った後「でも、高いねー すごいねー K君かっこいいねぇ」とスタッフが言葉を添えてあげても良かったかもと話し合いました。プルチックの感情の輪を見ていると恐れと驚きは隣り合わせです。