すてっぷ・じゃんぷ日記

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心の杖2

Dさんがタブレットを持って車に移動しようとしたので、タブレットを置いて車に行くように職員が指示をしました。普通なら正しい指導です。でも、Dさん今日はお気に入りのクマさん持ってきていません。案の定、持って行く持って行かないのやり取りが続き、最後はギャーと大声を上げてパニックとなりました。こうなると、認めるしかなく、認めてしまえばDさんは「要求を通すには大声で叫ぶとたまに認めてくれる」を学習します。

前回(心の杖:2020/01/13)に書いたように、移動など場面の切り替え時に不安になる人は「心の杖」を支えにして行動することがあります。人によっては杖は木切れの棒であったり使い古しのタオルであったり、お気に入りだけどボロボロの人形だったりします。スヌーピーに出てくるライナスがいつも引きずってくる毛布(ライナスの毛布: 2019/12/03)がそれです。これを汚いから等の理由で取り上げてしまうと、子どもは動けなくなってしまうか、うまくしゃべれない人は怒り出すのです。

Dさんは、この日お気に入りのクマさんを持ってきていませんでした。忘れても移動ができるのは良いことなのですが、肝心な場面になると必要な時があるのです。ところがクマさんはいないとなれば、皆さんならDさんがどんな行動をとると予想しますか?何かお気に入りのものを持って移動する可能性があると思いませんか?今回はそれがタブレットだったのです。それが職員に分かっていれば、駆け引きしなくてよかったので二人に申し訳ないことをしました。車に移動したDさんは、移動が終わったので快くタブレットを返してくれました。

心の杖

今日のYさんは、一番お気に入りのスタッフなのに、やけに絡んできます。食事中にカレーが付いた口で背中から抱き着いてきたり、あきらかに注意喚起(自分の方を振り向かせる)行動です。おかしいなぁと思っていると、帰宅後に朝持って出た人形が見当たらないとのこと。Yさん人形がどこかに行って不安だったのです。

以前「ライナスの毛布12/3」で心の杖について書きましたが、あの話には続きがあります。心の杖が不可抗力でなくなったらどうするのかということです。きっと今日の状況のように不安でたまらないと思います。それでその不安を色々な行動で表現するのですが、第3者には伝わらないことが多いです。

結局、必要なのは表出のコミュニケーションです。「人形をなくしてしまった」「不安だ」「どうしよう」という発信さえできれば、「よし一緒に探そう」とか「大丈夫かな」とか、もし見つからなくても「困ったねぇ」「悲しいねぇ」と共感のコミュニケーションができます。困ったことがあっても共感してもらう事で心を癒せます。その時、必要なのは自発表出のコミュニケーションなのです。それは話し言葉である必要はなくその人が手っ取り早く伝えられる方法ならなんでもいいのです。悲しいの感情カードを大人に渡せば、周囲にいた人なら察しはつくはずです。そこに「人形」カードが加われば確実です。絵カードコミュニケーションを言葉の苦手な方に薦めるのはこういう理由があります。

ライナスの毛布

スヌーピーに出てくるチャーリー・ブラウンの友達でいつも毛布を抱えている友達がいます。ルシール・ヴァン・ペルト=ルーシーの弟ライナス・ヴァン・ペルト=ライナスです。いつも「安心毛布」を持ち歩いて、これがないと落ち着かない子です。スヌーピーも安心毛布が好きで、ライナスはこれを奪われることがしばしばあります。安心毛布を奪ったスヌーピーに対し、ライナスは報復としてスヌーピーの皿を取り上げて交換条件とするなど、安心毛布には並々ならぬ執着心を見せます。この安心毛布は「ライナスの毛布」として心理学用語にもなりました。

「ライナスの毛布」は、子どもが「心の杖」として特定のモノを安心のために握っている姿を表現します。それを持っていないと不安になってしまう、いわば精神安定剤といったところです。Yさんの行動に、この「心の杖」の大切さを再認識させられたことがありました。Yさんが心の杖としているのは、1冊の絵本でした。大人は、Yさんにとってそんなに大切な物と思えず、取り上げてしまうのですが、それ以降みるみる不安定になり、皆と一緒に行動できなくなってしまいました。

拠り所としている心の杖を必要としなくなる日は、本人に判断してもらえばいいのです。絵本がなくても大丈夫、心の杖がなくても安心できる環境作りは私たち支援者に求められているものです。私たちが関わる子どもたちは、思いを上手く言葉にすることができない子どもが少なくないです。そんな子どもたちの言葉にできない思いを想像し、日々の支援に生かしたいものです。