すてっぷ・じゃんぷ日記

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メリットのないコミュニケーション

 半年前のTくんは、自分なりの理由やマイルールでよく動いていました。同級生とテレビゲームで遊んだ後、帰る時間になってからの片づけではいち早く抜けて、ほかの子がまだ片付けているのにも関わらず、先に帰る準備を始めます。職員が「まだ片付け終わってないよ。他のみんな片付けているよ。」と伝えると、Tくんは「片付けたよ。」続けて、「だって俺が準備したの、あれとこれの2つだけだし。これ以上片付けると俺が片付けすぎて損や。」と言うのです。下級生とも、「えー俺は別に遊びたくないから。」と言って、関わろうとしませんでした。

 メリットとデメリットを考えて行動するTくん。友だちと上手に関われる機会を増やすために、まずはTくんがメリットのある自分のしたい遊びから支援していくことにしました。具体的には、Tくんがしたい遊びができることを保障し、「でもその前に下級生を誘ってほしい」ということを伝えるようにしてみたのです。自分がしたい遊びなので、Tくんは進んで、「〇〇くん、〇〇ちゃん遊ばへん?」と下級生に声をかけるようになりました。最初は下級生も乗ってきません。Tくんとの関係性がまだできていないからです。でも職員は「遊びに誘うことできたね。偉いね。また今度も誘ってみようよ。」と褒めました。そうして下級生を誘う練習を繰り返し実施していくうちに、Tくんも自信をつけていき、下級生との関係性もできてきました。

 半年後の今では、Tくんの伝え方も上手になりました。声のかけ方が優しくなるとともに、言葉だけでなく身振り手振りを混ぜて、わかりやすく伝えられています。下級生も遊びの誘いに乗ってくれるようになり、Tくんも一緒に遊べて嬉しそうでした。公園から帰る時も、その子の落ち着きがなかったのですが、「△△ちゃん、俺と手を繋いで帰ろうよ。」と気遣って、優しいお兄ちゃんの一面も見せてくれました。手を繋いでいると、○○君が、「ぼくともつなごうー。」とTくんの手を握ってきました。両手を下級生のお友達に奪われたTくん。照れくさいようでしたが笑顔いっぱいで帰路につきました。

 この半年間で、Tくんは「下級生に優しくしたら、下級生と仲良くなれた。」という経験を積めました。メリットに思っていなかった下級生に優しくするという行動が、結果として下級生が自分から近づいてきてくれたというメリットになったことをフィードバックできたのではないかと思います。テレビゲームの片づけも、今ではメリットを気にせず同級生とも協力してできるようになったTくん。「すごいね!」と毎日のように職員から褒める言葉が積み重なっています。

「やったねBくん!」

 すてっぷの活動で作業課題というのがあります。手指の操作の力を高めること、見本や指示に合わせて作業する力を育てることを狙いとし、就労支援に繋がることを願って取り組んでいます。すてっぷには現在、空き缶潰し、ペットボトル分解、箸の袋詰め、醤油さしやナットの組み立てなどの課題があります。

 先日、BくんとCくんが協力してペットボトルを分解する作業に取り組みました。作業課題に入る前のおやつの時間でも楽しそうに笑いながらおしゃべりするほど仲の良い2人。作業前も爆笑するほど楽しんでおしゃべりしています。職員が説明に入り、Bくんにはペットボトルのラベル剥がしとキャップ分けの役割、Cくんにはプレス機でペットボトルを潰す役割を任せると伝えました。すると、さっきまでの様子と打って変わって、「はい」と真剣な表情で返事をしてくれました。まだ作業に入る前なのに、職員は二人の返事だけで感動してしまいました。

 協力作業が始まると、Bくんは苦悶の表情を浮かべます。ペットボトルのラベルが中々剝がれないのです。時間をかけて少しずつ剥がすBくん。ラベルが剥がれたペットボトルを受け取ってプレスするCくんは、受け取り待ちの状態でしたが、Bくんを急かすことも集中を切らして他の事をするわけでもなく、Bくんの方に姿勢を向けていつでも受け取ることができるようにじっと待っていました。そして、Bくんが剥がし終わり、「はい。」とCくんに手渡すと、Cくんも「はい。」と言って受け取ります。そして、作業が完了し、職員が二人に「これで作業は終了です。BくんもCくんも頑張っていましたね。」と伝えました。すると直後に二人はハイタッチをしたのでした。そして、Cくんが言いました。

「やったねBくん!」

 Bくんが苦労しながらも、Cくんに渡そうとあきらめずに作業を続けられたこと。そんなBくんをじっと待ち、終わってから称賛したC君。そんな2人の姿を見て、人が協力して働くことの尊さを思った職員。子どもたちから学ばせて貰えてよかったと感じる時間になりました。