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感染再拡大 新学期迎えた学校 感染対策を徹底して授業再開

感染再拡大 新学期迎えた学校 感染対策を徹底して授業再開

01月12日 【NHK】

新型コロナウイルスの感染が再拡大するなか、東京都内の学校では新学期を迎え、受験を控える6年生の児童もいることから、感染対策を徹底して授業を再開しています。

このうち、東京・大田区の区立出雲小学校では11日から3学期が始まりました。学校では、登校時の感染対策として、昇降口で教師がサーモグラフィーを使って児童の体温を測定し、発熱している人がいないか確認しています。

また、中学受験を控えた児童がいる6年生をはじめ、各教室では担任が1人1人、児童とその家族の体調に問題がないかどうか聞き取ったあと、児童は消毒して入室していました。12日は毎年この時期に行われている学校の開校記念の催しもありましたが、リモートでの開催となり、児童たちは教室の前の大画面を通じて校長の話を聞いていました。

また、毎年恒例の新年の書き初めの授業は、日にちを分散したうえで、スペースを確保しやすい体育館を活用し、できるだけ間隔を空けて行われていました。

学校行事にも引き続き影響が及んでいて、去年9月からことし3月に延期された6年生の1泊2日の校外学習も今後の感染状況を見ながら実施の可否を判断したいとしています。

中学受験を控えた6年生の男子児童は「受験まで1か月を切っているのでコロナだけでなく風邪などをひかないように引き続き気を引き締めて感染予防に努めたいです。行事が開かれない可能性もありますが、日頃からの友達と過ごす今の時間を大切にしていきたいです」と話していました。

関眞理子校長は「オミクロン株は感染力が強いとのことなので、小さな症状でも配慮するよう家庭に声かけしています。コロナ禍の生活に子どもたちも不安を感じているのでケアをしていきたい。健康で安全安心な学校生活を送れるよう、先生を含め、健康管理や感染対策をしっかり行うことを心がけています」と話しています。

文部科学省は厚生労働省とともに大学受験を控える受験生向けに作成した「受験生のみなさんへ」という文書をホームページに掲載していて、感染リスクをできる限り減らすための対策を紹介しています。

このなかでは体調がおかしいときには外に出ない自主的に検温をする外出は最小限にとどめるこまめな消毒といった受験生本人がとる基本的な感染対策のほか、受験生がいる家庭内で心がけることも掲載されています。

まず、家庭内で普段から心がけることとしてはお互いに体調を確認しあって症状がある場合は早めに医療機関を受診すること受験生の家族は会食など、外出先で感染リスクのある行動をできるだけ減らすこと家族での食事の際にも可能な範囲で距離を確保することなどをあげています。

また、もし、体調が悪い家族がいる場合には同じ部屋での食事や睡眠を避け、難しい場合は距離を保つ工夫をすること家族での会話の際にもマスクを着用することなどをあげています。

そのうえで文書では新型コロナウイルスは誰でも感染する可能性があり、感染した人を責めることなくみずからを守る行動を心がけるよう呼びかけています。

首都圏の1都3県の私立中学高等学校協会などによりますと、埼玉県では今月10日から千葉県では今月20日以降、東京都と神奈川県では来月1日以降、それぞれ私立中学の一般入試が行われます。

中学受験の模試や受験情報のとりまとめを行っている「首都圏模試センター」の調べによりますと今月6日の時点で、首都圏の1都3県の私立中学校の少なくとも70校以上が、新型コロナウイルスに感染するなどして試験を受けられなくなった人のため、追試を予定しているということです。

また、およそ18校は追試などの対応が可能かどうか学校に相談してほしいとしているということです。

首都圏模試センターは「今後の感染状況によっては、追試などの対応をとったり、入試について変更する学校も出てくると思うので志望校のホームページをこまめに確認してほしい」と話しています。

今月15日からは2日間の日程で「大学入学共通テスト」が行われるなど、首都圏では今後、高校入試や大学入試もピークを迎えます。

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中学受験まで感染リスクの管理を行う、これが今の東京の実情だと言う事がよくわかる記事です。東京では平均2割程度ですが文京区や港区では4割ほどの子どもが私立中学に行くので中学受験は珍しいことではありません。全国平均で1割程度ですから、乙訓地域では各クラスで3~4名が東京港区のクラスでは15名以上が私学に進学する感じです。

大学入試では、感染や濃厚接触で共通テストが受験できなければ各大学で試験をするように通達した事が不公平になるのではないかという議論が起こっています。理由は共通テストの点数で各大学は足きりをするのに対象者はそれをスルーできるからだそうです。筆者も含め昭和生まれの約半数は試験一発勝負の世代なので事態の重大さがわからないのですが、平成生まれの人たちはすぐに気づいたようです。

それにしても、オミクロン株の症状は風邪引きと酷似していると症例も集まってきているのに、感染者数ばかりを強調しNHKも事実上他のメディアと同じく煽っている感があります。一気に広がると入院施設が対応できないからと言いますが、次の山が来ると専門家も政治家も一様に表明していたのに、以前と全く同じ発言をして無策に悪びれる様子もありません。

そもそもエボラ出血熱と同じ扱いの2類相当を、インフルエンザ並みの5類相当に修正すれば通常の対応に戻せたはずでした。結局、重症化しないという症状に関係なく制限を強くすればするほど支持率が上がるというポピュリズムがそれも許さなかったということです。沖縄はオミクロン拡大で緊急事態宣言の要請をしていましたが、重症者は僅かでした。この騒ぎ方も、世界中で広がっている感染を米軍基地の責任にして政治的に煽っている感じがします。必要以上の制限をして必要のない休校休所で子どもを巻き込まないで欲しいと思います。

学校ができることは手洗いうがいを励行することです。重症例がほとんどないのに、新しい株が出るたびに行事を止めたり特別な措置をしていては、この先教育も福祉も成り立ちません。メディアの取り上げ方も、感染者が増えた増えたと騒いで不安を煽るのは、そろそろ終わりにしてほしいと思います。大事なのは症状と予防法をデータを示して正しく説明することだと思います。

「助言しない」意識変革を

「助言しない」意識変革を

2022/1/12 【産経WEST】

「私は臨床心理士なので、具体的なアドバイスはしない」。困難を抱える子供や保護者の支援を担う心理の専門職、スクールカウンセラー(SC)への取材を重ねる中で、何度も聞いたセリフだ。だが文部科学省は問題解決のため、SCに対して保護者に助言をするよう明確に求めている。それが、なぜそうなるのかと驚いた。

SCという名称の固有の資格はなく、文科省によると、現在のSCの大半は臨床心理士の有資格者だ。臨床心理士が心療内科などで行うカウンセリングでは、相談者が自分の考え方のクセといった問題に自ら気づけるよう、本人の話に傾聴して共感を示し、内省を促す手法が主体とされる。この一面においては、「臨床心理士はアドバイスはしない」のだろう。

だが臨床心理士の資格は個人的な背景にすぎず、自治体から採用されてSCになったのなら、「SC」としての責務を全うしてもらわなければならない。文科省の有識者会議によるガイドラインは、子供にはカウンセリング、保護者には助言をするよう明記している。このガイドラインを基に各自治体が作成する活動指針も、同様のはずだ。

保護者は悩みや不安を抱え、すがる思いで相談に訪れる。それなのに、カウンセリング手法で話を聞いて共感されるだけでは、解決の糸口すらつかめない。中学生の長女が不登校になった愛知県の女性(53)は、SCから「本人が登校する気になるのを待ちましょう」と言われるばかりで、何をして待てばいいかの助言もなく不安を募らせたという。だが、取材に「臨床心理士として言えるギリギリが、『待ちましょう』だ」と答えたSCもいた。

もちろん取材では、子供の抱える問題の原因を見立て、積極的に助言するSCにも出会った。メールで連載への感想を寄せてくれたSCの女性(56)も、保護者との面談のたびに必ず助言をするといい、「子育て期はあっという間。保護者の悩みに今、対応して解決しなければならない」と話した。だが、そんなSCはむしろ少数派だとの声もあった。

SCには心理分析の知識だけでなく、教員と連携するためのコミュニケーション能力などさまざまな資質が求められる。財務省は今年度、各省の事業の有効性や効率性を調べる「予算執行調査」で、SCについて「資質の向上が最需要事項」と指摘した。

だが、「うまく助言できない」のではなく「助言しない」と決めているのであれば、資質以前の問題だ。文科省と自治体は今一度、SCの職務内容を周知徹底してほしい。SC側も、学校にかかわる専門職として求められている役割が何かを改めて考え、意識を変える必要があるのではないか。(藤井沙織)

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傾聴して指示はしない、カウンセリング理論の基本です。ただ、保護者は生徒と親子関係にあり保護者が影響を与えている場合があるとは言え当事者ではないですから、「助言しない」という理由が不明です。「子どもに助言しない」と言う助言はありですが、親にも教員にも助言しないと頑なに拒むカウンセラーがいるとすれば、その方自身が社会性の課題を抱えていると考えるべきです。そもそも導入時から臨床心理士を学校に迎え入れるのに、傾聴だけするカウンセラーで教育相談に役に立つのかと言う議論がありました。

この懸念を抑えて押し切ったは、かつての文化庁長官河合隼雄さんの力が大きいです。不登校や引きこもり相談のパイオニアであった河合さんが臨床心理士会をてこにSCを定着させたという経緯があるのです。秘密を守ることは子どもとの信頼関係を築く第一歩ではありますが、全てではありません。他の大人とも情報共有することを子どもが安心して理解できるようにするのもSCの仕事です。

SCには生徒のカウンセリング業務以外にコンサルテーション(助言)業務が課されています。対象は保護者と学校関係者です。ところが、この人たちに向かって「助言しない」と言ったら業務放棄です。一度決めたら修正できない「お役所仕事」で全ての公立学校にSCを文科省は置いたのですが、とうとう現場の不満が爆発し、財務省の経費削減路線と合わさって「SCは役に立たない」大合唱が始まったわけです。

SC採用の際に臨床心理士会の心理士ならフリーパスと言う採用の仕方にも問題があります。今は少なくなりましたが、子どもの特性によっては傾聴が役に立たないことを知らない臨床心理士もいるのです。そして、子どものカウンセリングと関係者への助言はセットにして効果が上がるのは当たり前のことです。助言しないと言うSCは辞めてもらえばいいのです。制度そのものと運用(採用方法)の問題をすり替えないでほしいと思います。

ボードゲームの「先生」に転身 元小学校教員が専門店

ボードゲームの「先生」に転身 元小学校教員が専門店 三郷

2022年1月11日 【朝日新聞】

大人も子どもも楽しめるボードゲームの魅力を発信する店が埼玉県三郷市にある。店主の小野貴弘さん(48)は元小学校教員。クラス活動にボードゲームをとり入れたことがきっかけで「どっぷりはまって店まで出してしまった」。各地の愛好者が店に集まり、交流の場にもなっている。

みさと団地センターモール商店街の一角にある「さいころテーブル」。棚には約300種類の国内外のボードゲームやカードゲームが並び、購入したり有料で遊んだりできる。「ゲームというと勝敗を競うイメージが強いけど、一緒にミッションを達成する全員協力型もある。自分に合ったゲームを案内します」と小野さん。

2019年6月に開店する前は、約20年間、都内の小学校に勤めていた。ボードゲームとの出会いは8年前。発達障害などのある子どもが通う少人数学級を担任した時、ボードゲーム好きの同僚に勧められてクラス活動にとり入れてみた。すると、「子どもたちが見違えるように生き生きしたんです」。

推理系のカードを使って駆け引きする「ハゲタカのえじき」では、勝ち負けで驚くほど盛り上がる。それだけでなく、感情の起伏の激しい子どもでも、ルールを学んで気持ちを抑えられるようになる。コミュニケーション力と社会性を育む効果を実感し、「こんな面白いものがあったのか」と小野さん自身が夢中になった。

やがてボードゲームを紹介するブログを開設し、豊富な知識と解説がネットの話題に。「自分のやりたいことを追求したい」と思い切って19年3月に教員を辞め、3カ月後には自宅近くの団地の空き店舗を見つけて開店にこぎつけた。

異例の転身から2年半余り。この間、コロナ禍で休業した時もあったが、看板に「3さいから99歳まで」と掲げた通り、客層はじわじわと拡大しているという。

土日祝日は親子連れ客が多いが、平日の夜は大人の客が中心となる。いつしか愛好者が連絡を取り合って毎週金曜日に集まるようになった。

昨年12月17日の夜は30~40代の男女11人が参加。小野さんお勧めのボードゲームを楽しんだ。

話をやりとりしながら違うお題のカードを持つ人を当てるコミュニケーション型ゲーム「ワードウルフ」では、プレーヤー同士の心理を探り合うスリリングな会話が熱を帯びた。

春日部市から参加した30代男性は「初めてのゲームでも、店主がわかりやすく説明してくれる。気配りも上手で、さすが元小学校の先生です」と話す。

小野さんにとっても、店が小さな社交場となることは想定外だったそうだ。「ボードゲームは人が顔を合わせてはじめて成立する。ある意味でぜいたくな時間を提供しているのかもしれませんね」

店は通常、火・水定休。詳細はホームページ(https://saikoro-table.com/別ウインドウで開きます)。(米沢信義)

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良い先生だったのだろうという事がよく分かります。40代前半で教員に見切りをつけて店を出すあたりがかっこ良すぎます。ボードゲームやカードゲームにはまり込む大人は結構いますが、感心したのはボードゲーム屋一本で店を開いたところです。場所代一人15分100円で20席程、平日は16時から22時までの6時間、席稼働率が3分の1なら1日2万円の売上です。20日間営業で40万円、固定経費と新しいボードゲームを仕入れたら一人でギリギリ生活の勘定です。教員時代の収入は得られません。それでも店を開くなんてかっこいい!

放デイで、ボードゲームをたくさん用意して社会性を育みますというキャッチはあちこちで見かけますが、ボードゲームだけで社会性が育めるなら苦労はないです。ただ、子どもが自発的に興味を持つ遊びは学びが多いというのは事実です。そして最も必要なのは、子どもが興味のあることを度真剣に取組んでいる大人の存在です。子どもは遊びでも仕事でも真剣な大人が好きです。ジャンルはそれがボードゲームだろうがサッカーだろうがなんでもいいのです。その大人がやる事喋ることが全て憧れになります。

こうした大人の存在をカリスマティックアダルトと呼びます。ちょっと性格変だけど岩石にめちゃくちゃ詳しい先生や、Nゲージを語らせると一日中しゃべっている爺さんや、野山に行くと滅茶苦茶元気になる野外親父とか、引きこもっているけどファイナルファンタジーの生き字引と言われるおっちゃんなどはその道の子供の絶大な支持を受けています。そうですか小野先生やっぱり学校やめて道を究めますか。そうだろうなぁ。

国立に立ち上がったスカイツリー パラ閉会式「多様性の象徴」に

国立に立ち上がったスカイツリー パラ閉会式「多様性の象徴」に[連載・ツリーとともに](2)

2022/01/07 【読売新聞】

昨年9月5日午後8時、新宿区の国立競技場。13日間にわたって世界中の人々を魅了した障害者アスリートたちによる祭典・東京パラリンピックの閉会式が始まった。

国旗の掲揚や君が代の斉唱が厳かに終わった後、各国選手団の旗手が入場。横たわった東京スカイツリーのオブジェに近づき、手のひらサイズの円形の鏡を次々に貼り付けていく。

無数の鏡でキラキラ光るスカイツリー。パフォーマーたちが引っ張り起こそうとするが、あえなく倒れてしまう。多くの人たちが加わり、さらに選手たちの声援が後押しとなって、スカイツリーはついに立ち上がった。全ての違いが輝く街「ダイバーシティー」の完成。それを祝うように、スタジアムから一斉に花火が打ち上がった。

鏡は大会で輝きを放った選手たちの象徴で、選手たちが東京の街に輝きを与える――。総合演出を手がけた小橋賢児さん(42)は式を見届けると、「あらゆることをやりつくした。みんなの願いが通じたようだ」と感涙にむせんだ。

考え抜き行き着いたのは「調和のとれた不協和音」
パラリンピック閉会式の演出依頼は突然だった。本番まで1年もない時期、スマートフォンに大会関係者からメッセージが届いた。「まさか自分が……」と鳥肌が立った。

子役の頃から俳優として活躍してきた。ただ、俳優業をこのまま続けることに不安を抱き、27歳で休業。米国へ留学した。大陸を横断中、フロリダ州で野外コンサートに出掛けた時のこと。みすぼらしい服装の人もそうでない人も、いろんな肌、いろんな国の何万という人たちが体を揺らしてともに音楽を楽しんでいた。「違いを持つ人たちも、互いに共鳴しあえる場が作れるんだ」。演出の世界へ進み、10年あまりの歳月が過ぎていた。

パラリンピックという、異なる障害を持つ選手たちが競い合う場をどう表現するか。数週間考え続け、たどりついたテーマが「調和のとれた不協和音」だった。強さや速さを追い求めるだけではなく、個々の違いをありのままに出すことで、人々が感動を共有できる場になるはず、とのメッセージを込めた。

東京スカイツリーなら国立のフィールドで
このテーマを国立競技場のフィールドで形にする方法は、大道具の職人にいたるまですべての制作スタッフから意見を募った。

あるスタッフが口にした「東京スカイツリーなら、高いところから広く選手の活躍を届けられる」というアイデアに思わず膝を打った。

新型コロナウイルス感染防止のため、海外からやってくる選手たちは、競技以外は選手村から出ることさえ許されない。閉会式で東京の街並みを出現させれば、選手たちをそこへ案内できる。ツリーの白いフォルムは、何色にも染まる「多様性の象徴」にも見えた。ツリーのオブジェの周りにカラフルな毛糸やフリル、バルーンでビルや花々、橋を作り、個性を表現した。

本番を迎えるまで、ゲストの出演交渉が決裂したり、コロナ禍で出演者が大勢集まる機会が減ったりと多くの困難に直面した。それでも「楽しむことが大切」という信念は曲げず、現場のスタッフたちには笑顔で接することを心がけた。

スタッフや出演者らは、障害者のために振り付けを工夫し、夜遅くまでパフォーマンスの練習を繰り返すなど、要求に応えてくれた。「違いを認め合い、心からやりたいことができるのは素晴らしい」と心の底から感じた。

大会後、3年後に催される大阪・関西万博のイベント統括を任せられた。「また人生を豊かにするような、出会いが生まれるといいな」。どうやってもう一度、世界に日本をアピールしようか、心を躍らせている。

歌舞伎にも 絵本にも
東京のシンボルとなったスカイツリーは、イベントにとどまらず、舞台や書籍など幅広い分野で登場するようになった。

ツリー開業を前に、浅草の隅田川沿いに仮設された芝居小屋「平成中村座」では、歌舞伎の演目中、舞台奥の大扉が開くと、隅田川越しにスカイツリーが借景になる演出が行われた。

また、2012年出版の絵本「ゆめのスカイツリー」(金の星社)では、子どもたちが夢で見たという、パリのエッフェル塔を肩車したり、月に届くほど背が伸びたりするツリーが描かれている。16年リオデジャネイロ五輪の閉会式では、東京をPRするショーでツリーの模型が登場した。

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オリパラ閉幕からほんの3か月程しかたたないのに、遠い過去のように感じます。それでも、競泳男子100平山口の世界新金メダルやボッチャ杉村の金メダル、メダリストにはならなかったけどパラアスリートの奮闘に対する感動は鮮明に覚えています。パラの開会式も閉会式も世界的に高い評価を得たのも嬉しいことです。

裏舞台で懸命に働いていた関係者の方々の思いもこの記事で知ることができました。オリパラ開会前は、障害者いじめに関与していたという演出者の話で炎上して開催そのものが危ぶまれていましたが、パラのイベントでしっかりリカバリーできて胸をなでおろした関係者は少なくなかったと思います。

思えば開催を前にして、オリパラの開催を危ぶむような報道が続きました。森会長の不適切発言も議事録をよく読むと、女性は優秀な方が多いので、今度も女性理事を入れてほしいという趣旨の発言でした。女性の話が長いという旨が趣旨ではないことは全文を読めば分かることですが、メディアはこれを切り取って書き立て、オリパラ反対の政治家たちも後に続きました。

気になるのは、フェミニズムや少数民族擁護、少数者の権利擁護の看板が大きな政治家ほど、20世紀にあり得ない女性権利の侵害や民族弾圧、人権侵害について批判の発信が弱いことです。たかがオリパラの会長発言とは言いませんが、森会長を罵ったメディアや政治家が、アフガンのアクンザダ師や中国の習近平について執拗に批判している姿は見たことがありません。タリバーンや中国共産党の人権侵害を暴き非難しても視聴率や支持率向上にはつながらないからだと思います。こうして、同じ事でも一方を非難し、他方は非難しないことを二重基準=ダブルスタンダードとか二枚舌とかいいます。

オリパラをはじめとするスポーツ競技は多様性社会を保障する民主主義の象徴でもあります。冬季北京五輪は来月ですが、パラ開催式に中国がどんな演出をするのか見てみたいものです。片方で人権蹂躙や国際法を平気で破りながら、もう片方で民族自決と国際平和などと嘯く二枚舌は共産主義国家や独裁国家のお家芸です。多様性社会を映し出したスカイツリーはこうした二枚舌の言動も包み隠さず映し出します。

伴走者が陸上トラックの内側を走る理由 ~パラ陸上伴走者・中田崇志

伴走者が陸上トラックの内側を走る理由 ~パラ陸上伴走者・中田崇志

1/5(水) 【ニッポン放送】

黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(12月29日放送)にパラ陸上伴走者・パラスポーツメッセンジャーの中田崇志が出演。伴走者として走る楽しさ、また気を付けていることについて語った。

黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。12月27日(月)~12月31日(金)のゲストはパラ陸上伴走者・パラスポーツメッセンジャーの中田崇志。3日目は、伴走者として走る楽しさ、また気を付けていることについて―

黒木)伴走者としての楽しさはどういうところにありますか?

中田)「選手が力を出し切れるように走れたな」と思えたときは嬉しいです。自分1人であれば、自分がいま苦しいかどうかは自分でわかります。でも選手が苦しいかどうかは外から見るだけなので、難しいです。「いまここでスパートしても、選手は最後まで持つかな」などと思うのですけれど、そこをいつもの練習のなかで、「こうなれば選手が苦しい」ということが感じ取ることができると、本番でもうまく行きます。

黒木)そのときの阿吽の呼吸みたいなものはどうやって培うのですか?

中田)伴走ロープが2人の呼吸を合わせてくれるのです。伴走ロープが、あるとき「グッ」と固くなることがあります。選手が疲れて来ると、腕の振りが小さくなり、「あれ、いつもと変わった」ということが、その瞬間に感じるのです。

黒木)固くなったときに。

中田)伴走ロープはただの「もの」ではなく、2人の間をつないでくれるものなのです。

黒木)走っているとき、中田さんの場合は、選手の内側に入るというころです。選手が縁石を踏むのが怖いと伺いましたが、それはどういう意味ですか?

中田)400メートルの陸上競技場のトラックは、内側に10センチくらい出っ張っている縁石があるのです。

黒木)10センチもあるのですか。

中田)そうなのです。踏んでしまうと転倒する可能性もあります。だから視覚障害の選手をあえて外側にして、私が縁石のギリギリを走るようにしています。そうすると選手は安心して一歩を踏み出せるのです。内側を走る方が距離は短くなるのですが、外側であれば安心して走れます。どちらがいいかは、選手によって異なります。

黒木)縁石は10センチもあるのですか、怖いですね。

中田)私たちがメダルを獲ったアジア大会でも、1位の選手が最後の200メートルで内側に一歩入ってしまって失格になりました。

黒木)そういうこともあるのですね。

中田)ですので、私たちは伴走者が内側を走ることにしています。

黒木)日本では、伴走者が内側を走ることが多いのですか?

中田)世界では半々くらいです。意外なことに、短距離の選手は伴走者が内側の方が多いです。ものすごいスピードで走るので、一緒にコントロールするのが難しいのですね。

黒木)そうでなくても危険を伴う、早さを競い合う陸上競技ですからね。

中田)早さも大切ですが、何よりも選手が安心して安全に走れるということが最も求められることです。

黒木)中田さんはいろいろな経験をなさったアスリートでいらっしゃるのですけれど、どなたでも伴走者になれるのですか?

中田)伴走者に資格はありません。黒木さんもいま、視覚障害の人と走ろうと思えばすぐに走れます。大会も出られます。

黒木)具体体に、どういうことを声かけなさっているのですか?

中田)走るときには大きく2つあります。まずは安全面。コースで、「30メートル先、右90度カーブです。20メートル、10メートル、5、4、3、2、1。はい曲がります。はい曲がり終わりました」というような声かけが1つです。

黒木)コースの状態ですね。

中田)もう1つは、周りの選手の状況を伝えています。「ケニアの選手があと10メートルまで迫って来ましたよ。ちょっとずつ迫って来ました。もう少し、ジワジワ追いかけて来ますよ」というように実況する場面もあります。


中田崇志(なかた・たかし)/ パラ陸上伴走者・パラスポーツメッセンジャー

■1979年・宮城県仙台市出身。
■中学時代に陸上競技を始め、大学時代には日本インカレ・3000m障害で7位入賞。
■東京学芸大学卒業後、NTTデータに勤務しながら、陸上競技を継続。
■2003年にパラ陸上長距離の伴走に取り組む。
■2004年、高橋勇市選手と共にアテネパラリンピックに出場。マラソンで優勝。
■2012年、ロンドンパラリンピックでは、和田伸也選手と共に出場。5000mで長距離立位初となる銅メダルを獲得した。
■2021年の東京パラリンピックでは、パラ陸上にかかわるきっかけとなった髙橋勇市とともにパラトライアスロンの伴走者として出場を目指した。
■パラ陸上における百戦錬磨の伴走者であり、パラ陸上のスペシャリストである。

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この記事を読んだとき、聴覚的支援も視覚的支援も同じだなと感じました。聴覚的支援は視覚に比べ聴覚が相対的に優れた方に、視覚的支援は聴覚に比べ視覚が相対的に優れた方に行う支援です。感覚的には真逆の支援ですが、認知的には同じ支援です。声掛けをするとありますが、要するに周囲の状況や今後の見通しを聴覚で伝えるか視覚で伝えるかの違いで、伝えていることは同じです。

伴走者が内側を走って縁石で躓かないようにというのも、環境の調整として構造化したり嫌な刺激を少なくする配慮を支援者が先回りしているASD支援に似ています。視覚障害者への伴走ロープの役割は、ASD者にとっては支援者への発信です。表出コミュニケーションの絵カードであったり感情表出であったりするのかもしれません。ASD者の表現で支援者は適切な支援が提供できます。逆に言えば、伴走ロープや表出コミュニケーションツールがなければ相手の体調や思いを知る術もないということです。

「伴走者に資格はありません」「視覚障害の人と走ろうと思えばすぐに走れます。大会も出られます」とは言いますが、それは中田崇志さんが縷々説明したように、支援を提供する人に適切な支援ができ、伴走ロープがあってこそだという事を忘れてはならないと思います。もちろんその他の障害の支援でもこれは同じ事です。誰でも支援はできますが、前提条件は個性に合わせた環境調整と支援を受ける側に表出手段があることです。

凍える心、温め解かした感謝の言葉 駿府学園で矯正教育を受ける少年

凍える心、温め解かした感謝の言葉 駿府学園で矯正教育を受ける少年 高齢者と交流【幸せまでの距離③】

2022年1月5日(水)【静岡新聞】

「自分はずっと社会の邪魔者だと思っていた」。県内唯一の少年院「駿府学園」(静岡市葵区)で矯正教育を受ける少年(17)は、高齢者からの感謝の手紙と写真を見て自らを振り返った。他人のために尽くし、感謝されたのは初めての経験。「自分もこの社会で生きていける」。更生を信じる周囲の支えが、凍り付いていた少年の心を解き放った。

同学園で暮らす少年たちが週1回ほど、食事介助やリハビリの手伝いなどに通っているのは、近くの特別養護老人ホーム「楽寿の園」。コロナ禍が拡大してからは訪問活動を休止している。寝たきりや障害のあるお年寄りらは、少年たちを孫のように思い、再会を待ちわびている。

交流を始めたのは43年前、高齢者との関わりが更生の手掛かりになればと、学園側から相談したことがきっかけ。力仕事も快く引き受ける少年たちに、言葉がままならない入所者が「ありがとう」を伝えようと涙を浮かべて声を震わすこともあった。今では互いになくてはならない存在になっている。

少年(17)は幼い頃に両親が離婚し、父の下で育った。兄妹はそれぞれ障害を抱え、少年自身も発達障害がある。高校までバスケットボールに打ち込んでいたが、コロナ禍で部活動が思うようにできず中退し、不良仲間と一緒に知人を殴って逮捕された。

「どんな顔をして生きていけば良いのか分からない」。目標を失って自暴自棄だった少年を変えたのは、楽寿の園の利用者との交流だった。「自分を必要としてくれる人がいる」と実感し、前を向くことができた。

敬老の日に合わせ、少年は学園内のグループ7人でプレゼントする貼り絵を制作した。デザインや色使いを決め、仲間と協力して仕上げた作品のタイトルは「支え合い」。コロナ禍で閉められたカーテンが開き、少年とお年寄りが再び交流する姿を表現した。

貼り絵を受け取った有馬良建理事長(64)は「お年寄りに心を寄り添わす彼らは、純粋な心を持っている。犯した罪の痛みを知っているからこそ、他人の痛みが分かるはず」と更生に期待を込める。

少年は2021年11月、ハローワークでとび職の仕事が見つかった。内定を出した建設会社の会長が身元引受人になってくれる。「楽寿の園のみなさんを裏切りたくない。人に役に立つことができた喜びを忘れず生きていきたい」。進むべき道は開けた。困難があっても、今度は逃げないと誓う。
(社会部・崎山美穂、写真部・小糸恵介)

<メモ>駿府学園は関東甲信越と静岡県の家庭裁判所で短期間の処分を受けた、主に14歳から17歳3カ月未満までの少年が暮らす。2021年12月24日現在、定員90人に対して入院する少年は14人。多くは窃盗や傷害・暴行、詐欺容疑で、高齢者をだました特殊詐欺の受け子もいる。

少年犯罪の背景にはさまざまな要因が複雑に絡む。学園が力を入れるのは、再犯・再非行を防ぐための居場所づくり。地元企業を招いた資格取得授業などを展開する。「楽寿の園」での職業体験は矯正教育の最終段階。43年間でトラブルはなく、連携して少年の立ち直りを支えている。
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少年犯罪を繰り返す子どもの多くが発達障害を持つと言われています。吟味しないで行動してしまう。感情のコントロールができない。何度も同じ失敗を繰り返して学習効果があがらない。相手の感情がわからない。いずれも発達障害のADHDやASDに見られる特徴です。低学力の原因が文章がすらすら読めないことで学習が苦痛になるLDの子どももおり、やってもやっても成果が上がらないので学習性無力感を持つ子どもや自尊感情の低い子どもが多いです。

そして、これまでの研究では安心できない家庭環境が、幼い子どもの脳にダメージを与え、感情をコントロールする前頭葉・言葉や文字を認識し変換する部位の機能等が著しく低下し発達障害の脳と同じようになってしまうという報告がされています。この研究は脳画像の研究から明らかになったものですが、古くはチャウシェスク症候群として知られています。

1960年代後半、ルーマニア社会主義共和国の国家元首となったチャウシェスクは人工妊娠中絶や離婚を禁止した結果、貧困と育児放棄によって産後間もなく貧困な環境の養護施設に引き取られる子どもが増えました。1989年社会主義政権崩壊後、子ども達は先進国で育てられますが、その多くは発達障害と診断されました。6カ月以上施設にあずけられた子どもには自閉症のような症状がみられ、見知らぬ人にまったく警戒心を抱かずに接近する、不注意で多動といった症状が成人期まで一貫してみられたといいます。

逆に、親子分離が6カ月以内であり、里親が育児を引き継げば、子どもは問題なく育ち、失業率も10%でした。愛着に関するもっとも感受性の高い時期は、子どもが安定した情緒的関係を築きつつある時期で、およそ6カ月から2歳頃までです。この時期に母親(養育者)との関係が断ち切られてしまうと、その影響は後々まで外傷体験として残ることは多くの専門家が知るところです。幼少期に負った心的外傷=脳機能の低下で触法行為に至った子どもたちが治療的教育で回復するのは大変険しい道のりです。しかし、駿府学園のような取組の成功例を見ると、子どもの可塑性とそれを信じて長年こつこつと実践を積み上げる関係者の愛情の深さに感動をおぼえます。

学校でのいじめ厳罰化へ 自殺なら禁錮10年 仏

学校でのいじめ厳罰化へ 自殺なら禁錮10年 仏

2021/12/29(水) 【時事通信】

フランスのマクロン大統領=17日、ブリュッセル(AFP時事)
【パリ時事】フランスで、学校でのいじめを厳罰化する動きが進んでいる。

国民議会(下院)は11月、いじめ被害者が自殺または自殺未遂した場合に最大で禁錮10年と15万ユーロ(約2000万円)の罰金を科すことなどを定めた法案を可決。来年1月には上院の審議が始まる。

現行法では、いじめ加害者が13~17歳の場合は最大で禁錮2年6月と7500ユーロ(約100万円)の罰金、18歳以上の成年なら最大で禁錮5年と7万5000ユーロ(約1000万円)の罰金が定められている。被害者が自殺または自殺未遂した場合に刑が最も重くなる。刑事責任を問われない13歳未満の加害者は罰則の対象外。

教育省報道官は時事通信の取材に対し、今回の法案について「罰則の適用年齢など詳細は今後の審議で決定される」と説明した。

ここ数年はインターネットを通じたいじめが増加している。政府は来年2月、いじめ被害者のスマートフォンに届いた嫌がらせメッセージの画面内容を保存した「スクリーンショット」などを送信できる通報アプリの運用を開始予定。子供のパソコンやスマホなどを親が管理できるようにする措置も検討している。

教育省の発表によると、フランスでは全児童・生徒の6%に当たる年間約70万人がいじめの被害に遭っている。報告されていないケースも多く、今回の法案によると、実際の被害者は80万~100万人に上るとみられている。

10月には、東部アルザス地方で14歳の少女がいじめを苦に自殺した。地元メディアによれば、同性愛者であることやモロッコ人の母親を持つ人種的ルーツに関して、女友達のグループから2年にわたり暴言を受けていた。

マクロン大統領は事件を受け、11月にインターネット交流サイト(SNS)上に投稿した動画で「いじめの被害に遭っている全ての若者へ。われわれは君たちの味方だと知ってほしい」と支援を表明した。

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日本のいじめ認知件数が50万人でフランスは70万人ということは、人口比で考えると日本の3倍近い認知率となります。フランスの深刻さはそれが移民に向けてのものが多いという事です。多様性社会のトップランナーともてはやされるフランスですが、社会の鏡と言われる学校でこの有様ですから、現実にはさらに深刻ないじめや差別が存在することは容易に推察されます。

中世から近世にかけて経済でも芸術でも世界に影響を与えたフランスのプライドは今でもフランス人の中に息づいています。未だにパリでは英語が話せてもフランス語でしか応えない年配のパリジャンは少なくありません。フランス語も話せないくせにパリに来るなと言葉では言わないかわりに、こうしたイケズをするのです。こうした古い慣習の滓と、大量の移民問題を抱えているフランスの政治的な課題が合わさって差別やいじめが起こっていることが深刻なのです。

その政治的課題が学校生活にまで及んでいるゆえに、日本からすれば考えられない量刑が課されようとしているわけです。中2(コレージュ3年)で禁固2年半ですから在学中は塀の中となります。それが少年院なのか刑務所なのかはこの記事ではわからないですが、多様性社会を守り抜くためとは言えフランスの民主主義への向かい方は半端ではありません。

中国共産党によって思想弾圧や女性の凌辱という人権弾圧が今起こっているのに、糾弾する「タイミングではない」と言う政党幹部や国会議員を見ていると情けなくなります。人権侵害を知ればその非難はタイミングで発言するようなものではなく、リスクを背負ってでも声を上げるべきものだと子どもにも教えるのが人の道です。

ハンディある人の夢かなえたい 日本科学未来館館長・浅川智恵子さん

ともに・共生社会めざして
ハンディある人の夢かなえたい 日本科学未来館館長・浅川智恵子さん

2021/12/28【毎日新聞】

日本科学未来館(東京都江東区)の館長、浅川智恵子さん(63)=IBMフェロー=は全盲の研究者だ。今春に就任し、未来館を「アクセシブル(利用しやすい)なミュージアム」として世界のロールモデル(模範)にすることを目標にする。障害者などマイノリティー(少数者)の生活に科学技術がどう貢献するのか。ダイバーシティー(多様性)との関連について、浅川さんに聞いた。【聞き手・明珍美紀】

――日本科学未来館は、新館長のもと、2030年に向けたビジョンに「あなたとともに『未来』をつくるプラットフォーム」を掲げました。

◆一方的に科学技術を享受するだけではなく、利用する方それぞれが、テクノロジーの進歩によって実現される新しい生活を想像し、社会実装に向けた活動に関わっていく。そんな思いが込められています。

――利用者自ら、実用化のために参加するのですね。

◆どんなに素晴らしい技術が発明されても利用されなければ、価値が失われてしまいます。私自身、長い間、視覚障害を中心に、アクセシビリティーの分野で研究開発に従事してきました。研究者という立場だけでなく社会実装を促進するために未来館の館長を引き受けようと決意しました。

――障害者にとって科学技術とは?

◆できなかったことを可能にするツール(道具)です。視覚障害を例に取ると、音声合成という科学技術がなければ、本を読む時は点字か録音されたものを聴く、あるいは人に読んでもらうことになります。実際にそういう時代が長く続いていました。それが、インターネットの普及でコミュニケーションの手段が変わりました。パソコンの画面の情報を音声で読み上げるソフトが開発され、目が見えなくてもキーボードを操作して文章を書き、メールで送ることができます。

また、携帯電話で写真を撮れるようになった時、それまでは周囲の人に聞くしかできませんでしたが、周りの風景を撮影して友人に送り、自分がいる場所を教えてもらうことができるようになりました。これからは、センサーを駆使することで、街を一人で歩くことが可能になるかもしれない。その一歩手前まで技術が進んできました。

――ご自身が開発中の「AIスーツケース」はその一つですね。

◆これは、視覚障害者の移動を補助するスーツケース型のロボットで、スマートフォンの専用アプリケーションを使って、目的地や途中経路を音声で案内します。ロボットにはセンサーが付いていて、危ない場所を回避したり、周囲の人と適切な距離を保って移動したりする機能を備え、未来館でも実装する準備を進めています。

年齢や国籍、障害の有無にかかわらず、まずは未来館が誰でも楽しめるアクセシブルなミュージアムとなり、展示を見に来た来館者が交流し、議論するような場にしたいと思っています。

多様性支える科学技術
――かつては日本では、女性の研究者は少なかったのではありませんか。

◆私がプログラミングの専門学校を経て日本IBMで学生研究員として研究を始めた1980年代半ばは、女性の研究者はごくわずかでした。仕事と生活の調和を図る「ワーク・ライフ・バランス」や女性の視点はほとんどなく、女性の管理職も少ない。そうした環境で、点字のデジタル化などの開発に取り組んでいたところ、当時にすれば(会社側も)大変な決断だったと思いますが、正式な研究員として採用されました。

入社後、米国IBMに出張する機会が多くありました。米国で驚いたのは、管理職に女性がいるのは当たり前だったこと。同僚には、さまざまな障害者やLGBTQなど性的少数者がいたので、視覚障害者の私が仕事に加わることを当然のように受け入れてくれました。ダイバーシティーに関しては日本よりはるかに先を行っているという印象を受けました。

――未来館は、国立研究開発法人の科学技術振興機構が運営しています。今回は、国が関わる施設のトップに女性が就いたことでも話題を呼びました。

◆女性であるというよりは、目の見えない自分が館長を引き受けることの方が大変ですし、新たなチャレンジです。見えない分を補うためには、周囲とのコミュニケーションを図り、多くの人々から意見を聞く。これらは同時に、これからの研究に役に立つことです。

――どのような未来を求めますか。

◆国連がSDGs(持続可能な開発目標)に掲げる「誰一人取り残さない」という理念のように、誰もが社会の一員として、自分らしく生きる権利を保障されることです。

私は目が見えないことは、自分の個性だと受け止めています。世の中にはいろいろな人がいて、そうした多様性によって社会が成り立っていることを理解してもらいたい。

科学技術は、ハンディキャップのある人の自立生活に役立つだけでなく、さまざまな困難を抱えた人の夢を実現できるツールになる可能性があります。その意味で、科学技術とダイバーシティーは密接なつながりがあるのです。

■人物略歴

浅川智恵子(あさかわ・ちえこ)さん
1958年大阪府生まれ。プールでの事故がもとで14歳の時に視力を失う。追手門学院大、専門学校を経て85年日本IBM入社。92年日本語デジタル点字システムを開発。97年視覚障害者向けにウェブページを読み上げる「ホームページ・リーダー」を開発し、世界の視覚障害者の情報アクセス向上に寄与。2004年東京大大学院修了、博士号(工学)取得。09年IBMの最高技術職であるIBMフェローに就任。14年米国赴任。19年全米発明家殿堂入り。21年4月に日本科学未来館の初代館長だった宇宙飛行士、毛利衛さんに続く2代目館長に就任。

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我が国は古から海外の文化を吸収して、日本風にアレンジしてその文化を我が国のものとして長く後世に伝えると言う文化スタイルをとり続けてきました。遣隋使や遣唐使は今から1500年も前に当時の中国へ派遣されました。隋や唐の先進技術や優れた社会制度を求めて、西暦600年頃から894年のおよそ300年間、計23回に渡り日本から遣わされたのです。帰ってきた彼らは、大和政権で古来の八百万神に仏教を同居させた「神仏」を文化とし、農耕・土木・加工技術をはじめとする当時の我が国にとってのハイテクを発展させたのです。

先日終了した大河ドラマ『青天を衝け』の渋沢らが駆け抜けた時代もまた、わが国独自の社会体制に西洋の民主化の流れを輸入して和製立憲君主制と言う独自の政治スタイルを作り上げました。他国の侵略を防衛するために海外技術を取り入れ生産力を高め、国防に多くの国家予算をつぎ込んで、アジアで唯一植民地化を免れて主権を守り抜きました。明治維新を前後する我が国の歴史に多くの人が共感を寄せるのは、古いものを変えていくために必要なものを吸収しアレンジして独自のものにして新しいパワーにしていく姿を分かりやすく表現しているからだと思います。

1980年代の日本のデジタルテクノロジーは国内でWindowsと競り合っていたトロンOSが開発され、日本が世界に先駆けてネットワーク化したマルチプラットホームOSの花開かせるはずの時代でした。残念ながら国防力の弱い我が国は米国との同盟関係強化と引き換えに、米国経済覇権の政治圧力に負けてしまいます。しかし、そんな時代にも米国に渡って多様性社会の洗礼を受け障害者のためのAIプログラミングを学んでいた若き研究者がいました。先進国に渡り多様性を活かす社会制度とそれを支える最先端技術を学んだ浅川館長をはじめとする現代の遣唐使が子どもたちに伝えてくれるものは、我が国の古からの伝統であり未来の可能性だと思います。

浦安市議会「手洗い条例」可決 コロナ禍長引く中で環境整備を

浦安市議会「手洗い条例」可決 コロナ禍長引く中で環境整備を

12月23日【NHK】

千葉県浦安市の市議会は、コロナ禍が長引く中、効果的な手洗いの習慣と環境を整えたいと今月、「手洗い条例」を可決しました。

浦安市の「より良い手洗い環境づくりの推進に関する条例」では、「手洗いは誰もが容易に実践できる効果的な感染症などの予防策」だとして市や学校の役割などを定めています。

具体的には、小中学校の手洗い場で直接、手で触れずに水道が使える「自動水栓」が現在は38%の普及にとどまっているのを拡大させていくことや毎月15日を「手洗いの日」と定めて手洗いへの関心を高めることなどに市が取り組んでいくとしています。

そして、条例をつくる際の調査の中で、遊びたい気持ちが先立って手洗いがおろそかになったり、見ていないときちんと手洗いをしなかったりする子どもたちがいることがわかったとして、学校などが感染症や食中毒を防止するための手洗いの重要性を伝えていくことで、学級閉鎖などにより学びの場が失われることを防ぐとしています。

手洗いに特化した条例は全国初とみられるということで、提出者の西川嘉純議員は、「新型コロナの影響が長引く中であらためて市全体で手洗いへの意識を高め、感染拡大防止につなげたい」と話しています。

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さらっと聞けば、ごく普通のニュースに聞こえますが、よく考えてみると市議会で議決して地方の法律にするようなことだろうかと思いました。予防のため手洗いはエチケットなのだからそんな大げさにと言われるかもしれません。しかし、この2年間、感染予防をめぐっての建前と本音の乖離が政治とメディアの中に何度も見られました。オリパラの観戦では千葉県は教育的な意味で積極的に児童に観戦を進めてきましたが、スタジアムなど屋外観戦に近い状態でも、児童が感染したら責任が取れるのかとメディアは世論を誘導し、結局途中で感染源は分からないままですが感染者が出て断念した経緯があります。そのオリパラの取材打ち上げで報道クルーが酒場で騒ぎ批判を浴びると言う事件がありました。

また、同じ千葉で副知事をはじめ県会議員らがスポーツ懇親会の忘年会で、酒場に長居した事が発覚してわざわざ陳謝する報道がありました。オミクロン型の拡がりはあるが重症化例はないし、感染は収まってきたと言うのが大方の本音だからという向きもあるでしょうが、公の建前に晒されると本音は言えない状況です。このように、建前と本音がかけ離れた状況で、建前をさらに突き進めるような条例制定は相応しくないと考えるのが政治の役割だと思います。

予防啓発を推進すること自体に異存はありません。しかし、エチケットやマナーに属する事柄が「地方の法律」と言える条例になじむのかということです。手洗いは予防のためのエビデンスもあり、建前とは言いませんが、家庭や学校での躾に関する内容まで、議会で条例化する必要があるのかどうか考えた議員はいたのでしょうか。啓発するだけなら、役所や学校のトップダウンで十分ですし、水栓の自動化の予算は議会で議論すればいいことです。罰則はないから良いという事ではなく、条例はそれなりに市民の意識や行動を拘束する法律であることは間違いないです。

条例制定は地方自治の権限ですが、だからと言ってなんでも条例化すればよいと言うものでもありません。先日否決となった外国人投票条例も、公平や平等という建前ばかりが前に出ていますが、外国人を入れて国防を左右する意見決議を地方議会に要請されてはまずいと、本会議になってはじめて気が付くと言う頼りない地方議会もあるのですから、市民の監視は欠かせません。政治家は市民にばかりあれこれお願いするのではなく、どこの病院でもワクチン接種ができるように医療に働きかけ、行政はその施策が速やかにできるようにすることこそ、最も予防効果があがるのではないかと思います。

「不登校の子が学校に関心」 eスポーツの教育活用、米領事館が発信

「不登校の子が学校に関心」 eスポーツの教育活用、米領事館が発信

2021年12月22日 【朝日新聞】

eスポーツと聞くと、テレビゲームのプロが高額賞金の大会で技を競うイメージがある。だが、米国の高校や大学では、チームスポーツとして採り入れ、教育ツールにしているという。この取り組みを紹介するウェブセミナーを開いた名古屋米国領事館EducationUSAアドバイザーの田中里佳さんに聞いた。

――eスポーツと教育。どう結びつくのですか。

eスポーツはテレビゲームと思われがちですが、デジタルコンテンツと考えれば教育とつながるのではないかと思います。

教育ツールとしてのeスポーツは、チームスポーツであることが前提です。生徒や学生がチームを組み、コンピューターゲームでどう攻略して成果を上げるか、ほかのチームとどう競うかを考え、議論しながら取り組む。先生やコーチがサポートします。野球のような、ふつうのスポーツと一緒です。

例えば、米国務省と北米教育eスポーツ連盟(NASEF)によるプログラム、ファームクラフト2021では、子どもたちは農場をつくるゲームに挑戦します。土地を整備し、種や苗を育て、収穫までを競います。農業生産技術をゲームで疑似体験をしながら、アグリビジネスの進め方を学ぶことができます。その他にも文化遺産を保護しながらゲームスキルのレベルアップも出来るような国際ビデオゲーム開発競技大会「ゲームジャム」なども開催されました。

ゲームに挑戦することで、チームの仲間やサポートする大人たちと関わりながら、論理的な思考(クリティカル・シンキング)やコミュニケーション能力、協調性、自分の感情をコントロールする自律や自己管理能力を育てていく。さらには、プログラミングなどのITに触れる入り口になればと考えています。

――ウェブセミナーでは米国の大学や高校が積極的にeスポーツを採用していることが紹介されました。どんな効果を期待しているのですか。

一つの例ですが、不登校の子どもがeスポーツのチームに参加することで、学校生活に関心が持てるようになりました。ふつうのスポーツや勉強が得意でなくても、ゲームなら入りやすい。家にいてもできるし、学校へ行く動機付けにもなる。チームで人間関係も学べるし、自信も持てるようになり自己肯定感が高まる。北米にはeスポーツの公認クラブがある大学も多く、奨学金もありますから、ITやAIに携わるデジタル技術者、ウェブのデザイナー、ゲームの開発者など、キャリア選択や自分自身の可能性を広げることにつながります。

一人で引きこもってテレビゲームをやっているのではなく、社会に積極的に関与できる人材を育てることが狙いです。

――なぜ名古屋米国領事館がeスポーツと教育のセミナーを開いたのですか。

米国政府はeスポーツを進める目標として「世界的な共感を高め、地域や国のつながりや理解を築き、深める」「クリティカルシンキングのスキルを奨励することで民主主義の原則を強化する」ことなどを掲げています。eスポーツが、民主主義の根幹を支える能力を育むという考え方です。

日本ではセミナーが最初の取り組みですが、米国政府はすでに台湾、インド、韓国、ニュージーランド、メキシコなど多くの国で教育eスポーツの交流に取り組んでいます。

教育eスポーツは、これまで紹介してきた効果にとどまらず、英語を習得するのにも役立つことも強調しておきます。今回のセミナーは学校の先生向けに教育eスポーツを知ってもらうことが目的でしたが、今後は日本と海外の学生がeスポーツで交流する機会をつくっていきたいと思っています。(聞き手・鈴木裕)

◇教育ICTツールとしてのeスポーツ・ウェビナー

9~11月に計3回、教員や教育行政の担当者らを対象に開かれた。名古屋米国領事館と北米教育eスポーツ連盟(NASEF)日本本部が主催。米国の高校や大学での教育eスポーツの現状や可能性、eスポーツのフィジカルとメンタルケアなどについて専門家が話した。

11月14日には、米国大使館が後援して「eスポーツ国際教育サミット2021」(主催・北米教育eスポーツ連盟日本本部)が開催された。国内の高校での教育eスポーツの取り組みの紹介のほか、高校生たちが現代社会が抱える様々な課題をeスポーツを活用し解決するアイデアを発表する「eスポーツ・クリエイティブ・チャレンジ」があった。
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デジタル王国のアメリカは百歩先の感があります。日本も半導体産業が伸びている頃は、破竹の勢いでコンピュータ産業もあらゆる分野に伸びて米国ゲーム界まで進出していました。ところが、30年前頃を境目にして、貿易摩擦の名のもとに米国に開発や進出を阻まれ、国内産業は日銀の異常な金融引き締めと政府の借金キャンペーンで産業活動そのものが30年間足踏みしました。その結果、日本の未来を背負うデジタルベンチャー企業は息の根を止められたと言っても過言ではありません。

その証拠に、日本に圧力をかけた米国はGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)というベンチャー巨大企業を登場させ中国を除いて世界制覇を成し遂げようとしています。キャッシュレス化をはじめとしたデジタル化をいつまでたっても先導できなかった役所にも責任があります。従来通りこれまで通りの役人根性が、既得権益を結果として擁護してしまい、社会のデジタル化を遅らせてしまいました。未だに、デジタルゲームの善悪を論じているのも、デジタル先進国から三十年間遅れをとった証拠とも言えます。

そんな日本でアメリカ大使館による教育eゲームのサポートとは、何とも情けない気もしますが、気を取り直して追い付け追い越せの大和魂と言うと古臭いですが、ここは日本の教育界とeスポーツ界に奮起してほしいと思います。「クリティカルシンキングで民主主義を育てたい」とすっと表現し、民主主義は論理的なものというのも言い得て妙です。ちょっと日本の教師には真似できそうにない台詞ですが、次世代の子どもたちが表現してくれることを期待して、学校公認のeスポーツクラブがあちこちに誕生すればいいなと思います。

「勉強ばかりしてないで、ゲームしなさい」四国新聞のメッセージ広告が話題

「勉強ばかりしてないで、ゲームしなさい」四国新聞のメッセージ広告が話題 「最高にロック」「凄い勇気」

2021/12/21【神戸新聞】

「勉強ばかりしてないで、ゲームしなさい」。香川県の地元紙、四国新聞の12月20日付朝刊にこんなメッセージ広告が掲載されました。子どものスマートフォンやゲームの利用時間を制限するとした香川県独自のネット・ゲーム依存症対策条例(ゲーム条例)を念頭に置いたもので、広告出稿元のゲムトレ(東京都渋谷区)は「子どもたちがサンタさんに欲しいものを「ゲーム」とお願いできるように、ゲームが障害ではなく、教育としての魅力があることを伝えたいと考えました」「ゲームを障害と考える一側面だけではなく、クリアすることで育まれる自己肯定感や世界中のユーザーとつながり感じる多様性など、正しくゲームと向き合うことで生まれる学びがあります」としています。

同社の小幡和輝代表が広告にふれたツイートには「最高にロックですね!」「かなり挑戦的な広告だなぁ」「香川県で広告出す勇気も凄いです」など賛同の声が上がり、いいね!は1万5千超。香川県民はこのメッセージ広告をどう受け止めたのでしょうか。

ゲムトレはゲームを使った教育事業を手掛け、主力事業の「ゲムトレ」では、ゲームを「楽しく脳を鍛える習い事」と位置づけ、子ども向けのゲームのオンライン講座を提供しています。同社サイトによると、例えばオンラインゲームの「FORTNITE」(フォートナイト)では、過度なグロテスク表現がなく、認知力や情報処理能力が向上するとしています。

話題になった15段の新聞広告は、文豪夏目漱石が東京帝国大学(現在の東京大学)を卒業後、当時、低俗と見られていた小説家としてデビューし、代表作『吾輩は猫である』などで文化人になったことに触れ「ゲームの捉え方も変わりはじめた」と述べています。続けて、ゲームのプレイを通じて得られる試行錯誤や仮想空間上での達成感の分かち合いを挙げ、「ゲームは人生を豊かにする力がある」と訴えています。小学低学年も読めるよう漢字にふりがなも打っています。

香川県のゲーム条例は家庭内でのゲームの利用時間を制限する全国初の条例として2020年4月施行。罰則規定はありませんが、18歳未満のゲーム時間は平日1日60分、休日90分、スマホの利用は中学生以下が午後9時まで、それ以上は午後10時までという目役を定め、保護者にルールを守らせる努力義務を課しています。報道によると、この条例の内容や制定過程に問題があるとして、県内外から反対の声が上がっており、香川県弁護士会は廃止を求める会長声明を出している他、県内の大学生が「条例は憲法違反」として、県を相手に損害賠償を求めて提訴しています。

ゲムトレのサイトによると、小幡代表は10年間の不登校を経験しましたが、その間、ゲームを通じて多くの友人に恵まれ、大会への出場を通じて自己肯定感を高められたといい、それが起業につながったと記しています。今回のメッセージ広告については、「ゲーム好きならば誰もが一度は言われたであろう、この言葉を反転させました。伝えたいメッセージは、世代間の価値観や文化の違いにより子どもたちが苦しめられているということ。子どもは野球を頑張ることと同じようにゲームを頑張っています。なぜ、野球は評価されるのに、ゲームは悪とされるのでしょうか」などとコメントしています。

メッセージ広告は、東京メトロ丸ノ内線新宿駅メトロプロムナード内でも12月26日まで掲示されています。

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<広告掲載文 全文>【ゲムトレHP

「勉強ばかりしてないで、ゲームしなさい」
と言われる未来があるかもしれない。

かつて、小説や漫画は毒と捉えられていた時代があった。あの夏目漱石も、小説家デビュー当時は「帝大出身のエリートが低俗な職業に就いたもんだ」と嘲笑されたと言う。しかし、今はどうだろう。人々の心を掴み、人生の糧となっている。

同様にゲームの捉え方も変わりはじめた。プレイしながら試行錯誤を繰り返して、自分の成長を実感。難しいステージをクリアすることで、自己肯定感が高まる。仮想空間上で世界中のユーザーと分かち合う。ゲームは、人生を豊かにする力がある。

日本初のゲームのオンライン家庭教師「ゲムトレ」では、特別な体験で子どもの成長をサポート。楽しみながら、力を伸ばせるように心がけています。成長の新しいステージへ一緒に進みませんか。

②東京メトロ丸ノ内線新宿駅メトロプロムナード内
掲載期間:2021年12月20日(月)~12月26日(日)
※駅係員へのお問い合わせはご遠慮ください
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香川県のゲーム条例は、昨年大阪市も巻き込んで話題になりました。大阪市松井市長がすでに規制を始めるかのような報道内容でしたが、松井市長は「現場からの声はあるけど、まずは専門家を交えてエビデンスを検証してから」と答えており、記事のミスリードだったようです。「ゲーム障害」が国際診断基準に収載される予定ですが、最近になって国際的にも、その妥当性に疑義が投げかけられています。現実に治療介入が必要なゲーム依存の患者もいれば、問題なくゲームと共存する人が圧倒的多数であることも事実で、「障害」の原因だと煽ることで新たな差別・偏見の起源になる恐れもあります。

しかも、この広告自身はゲムトレ社の学習ソフトの宣伝なのですから目くじらを立てるような話ではありません。しかし、コロナ禍の下、ゲームに向かう時間が増え運動時間や学習時間が減ってて困っている家族がいることもまた現実です。引きこもりのトレードマークのようにゲームが受け止められているのは問題ですが、一概にゲーム万歳とは言えない人たちもいることは忘れてはいけないと思います。

とは言え、ゲムトレ社の社長自身も10年間の不登校経験者ですから、彼の言う事にも説得力があります。なんでも新しい娯楽は批判されるけど、確かな文化や職業になっているものは小説だけではありません。高速大量印刷社会から、世界を駆け巡るデジタル情報社会の中で、遊びもまた、テクノロジーによって高度化し、時代の人々のモノになっていきます。テレビの見過ぎが自閉症や微細脳損傷を誘発すると真面目にいわれた昭和の頃を思い出します。

昭和の子どもたちにテレビは害だと言ってきた今の高齢者かつての親たちが、毎日テレビ漬けで、テレビの垂れ流す情報を鵜呑みにしてコロナ禍で煽り報道の片棒を担がされたのも事実です。その結果、公園遊びも野外活動も、競技場でのオリパラの観戦すら否定され家籠りを余儀なくされた子どもたちに、今度は「ゲーム障害」だとエビデンスもなく煽るこの循環はどこかで断ち切る必要があります。そういう意味でゲムトレ社のメッセージは、子どもたちへの救いの言葉にも読めるのです。

発達障害の子が相談に回答…ネットで開設、悩む親に

発達障害の子が相談に回答...ネットで開設、悩む親に「当事者の思い」代弁

2021/12/20 【朝日新聞】

発達障害がある子どもが「先生」となって、同じ特性の子を育てる親の悩み相談にネットで応じる「でこぼコ・ラボ」が、今秋始まった。我が子には聞けない当事者の思いを知ることで、特性への理解を助け、親子間の関係をさらに深めてもらう狙いがある。

「ゲームがやめられず、取り上げるとけんかになる」。発達障害の息子を持つ親が「でこぼコ・ラボ」のウェブページに投稿すると、「先生」から「ちゃんと勉強した時間の分、ゲームができるルールを作る」「取り上げるのではなく、他のもので興味を引く」などの助言が返ってきた。

回答するのは、発達障害の子どもの学習支援教室「よつばCOLORS」(奈良市)に通う児童・生徒約100人。教室のスタッフだった 綾(あや) 美津子さん(53)らが今年10月、親が子どもの気持ちを理解するのを支援しようと、会員制ウェブサービスとして始めた。

背景にあるのは、発達障害のある子どもが周囲の理解が得られにくく、親も孤立しがちという現状だ。綾さんは「親は我が子の特性を自分で何とかしないといけないと、思い詰めてしまう」と指摘する。

全国の自治体では、発達障害の子を育てた経験がある親らが相談を受け付ける「ペアレントメンター」制度を導入しているが、綾さんは「子どもから思いを聞くことで、納得できることもある」と、サービスを思いついたという。

多く寄せられるのは、宿題や不登校など、学校や日常生活に関する悩み。子どもたちの回答は、それぞれの心情や経験に基づいたもので、利用した親たちからは「元気が出た」などの声が上がっている。

回答する子どもは、学習支援教室の言語能力トレーニングの一環として、質問に答えている。回答に「いいね!」と反応を返す機能もあり、「人の役に立てた」という達成感から自信を得る効果もあるという。

 綾さんは「子どもたちもしっかりと考えていることを知ってもらい、子どもの主体性に任せてみようと思ってほしい」と期待。発達障害に詳しい楠凡之・北九州市立大教授(臨床教育学)は「子どもの意見を聞くことで、我が子への見方や関わり方を冷静に振り返る機会になる」と評価している。

会員登録は無料。問い合わせは「でこぼコ・ラボ」を運営する「アンラベル」(06・6136・5609)。

発達障害  脳機能の障害で、対人関係を築くのが苦手な「自閉症スペクトラム障害」、衝動的に行動しがちな「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」、読み書きや計算が難しい「学習障害(LD)」などがある。「こだわりが強い」「順番を待つのが難しい」などが特性。文部科学省の2012年の調査では、公立小中学校の通常学級に通う児童生徒の6.5%が、発達障害の可能性がある。

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事業所の中でも、大人にとって困った子ども行動の原因を、あれこれ大人の立場から話し合うのではなく、本人はどう思っているのか聞いてみるようにしています。とても、いい取り組みだと思います。もちろん、回答する子どもは当事者ではないので確実な答えではないけれども、子どもがどう考えるのかという視点に立ち戻れるので、とても参考になると思います。

回答する子どもは子どもで、親と言うものはそんなことを心配したり、考えたりするものかと第3者的な支援で考える事ができます。普段は自己フィードバックの弱い子どもで、家ではうまく行かない事でも、このサービスでは上手く回答できるかもしれません。そういう意味で双方で学び合えると言う対等の関係がとても素敵だなと思います。

こうした関係は、事業所内でも作れたら良いなと思います。利用者の親子の考えていることが全然違う事は良くあることです。これは別に障害のありなしは関係ないことですが、親同士で話すと少し客観的に子どもが見られたり、子ども同士で話し合うと「うちの母親もいっしょや」という共感も得られます。それが他人の子だが、よく似た特性の子どもならその論理は参考になるし、腹を立ててばかりいたのが冷静に見られるなと思います。こんな素敵なシステムを考え出した綾さんも素晴らしいと思います。

放課後デイ再編 子ども本位のサービスに

社説:放課後デイ再編 子ども本位のサービスに

12/19(日) 【京都新聞】

障害のある子どもが通う「放課後等デイサービス」などの通所支援について、厚生労働省が事業所のタイプの再編など制度の見直しを進めている。保護者のニーズの高まりを受け、事業所数、利用者数は近年、ともに急増している。半面、質が低かったり、習い事のような特定のプログラムに偏ったりしたサービスも問題となっている。

支援を受ける子どもの視点に立った見直しとなるよう議論を深めてほしい。

障害児通所支援サービスには、未就学児向けの「児童発達支援」と、小中高生向けの「放課後等デイサービス」がある。関連法の改正で2012年度に制度化された。療育手帳や身体障害者手帳が必須ではなく、発達障害などの子どもも受け入れる。全国で計約40万人が利用している。事業所の設置基準が緩やかで株式会社など営利法人も参入し、子どもが身近な地域で支援を受けられるようになったのは歓迎されよう。

一方で、利益優先の事業者や不適切なケアが後を絶たない。給付金の不正受給や、職員による子どもへの虐待行為も発覚している。サービスの質の向上に向け、厚労省は、事業所のタイプを、運動や認知、コミュニケーションなど多様な面で発達を促す「総合支援型」と、理学療法士によるリハビリなど専門性の高い「特定プログラム特化型」の二つに再編する方針だ。

テレビを見せるだけなどの単なる預かりや、塾やピアノなどの習い事のような支援は公費の支給対象から外すという。ただ、事業所からは「サービスからの除外の線引きはどうするのか」「必要とする保護者もいる」などと困惑の声も上がっている。ジム機能や音楽療法など独自の特徴を打ち出したサービスを提供し、子どもの発達支援につなげている施設もある。適切な支援の在り方について、現場の実態や専門家の意見も踏まえて判断する必要があろう。

国や自治体による継続的な監視、指導も求められる。

今回の見直しでは、サービスの利用上限日数に自治体間でばらつきがあるのを是正する方向だ。現在は、障害の状態などに応じて市町村が判定しているが、平均で月5日しか認めない自治体もあれば、20日以上のケースもあり、不公平感が出ている。このため、全国共通の判定の指標やガイドラインを新たに設けるという。

負担額は、児童発達支援が19年10月から無料化され、放課後デイサービスも原則1割で上限が決められている。学校や自宅との間の送迎を行っている事業者も多く、利用しやすい。そうした背景もあってサービスの需要が高まっているとみられるが、保護者の意向だけでサービスを多く利用することは子どもの主体性を損ねてしまう、との指摘もある。子どもの利益のため、家庭と事業所、計画作成の担当者が連携をより深められる制度を目指してもらいたい。

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地元紙も社説で取り上げるくらいですから、先日の厚労省の検討会議の報告は通常の改定を通り越えた提言だったのだと思います。しかし、まず改定ありきという焦りが見え具体性に乏しいので、地方行政にしてみれば、類型をどこで線引きするのかはっきりしません。放デイ利用者の中に占める理学療法士を必要とする肢体不自由児の絶対数そのものは少なく、最も多いのは発達障害の子どもです。ここへの、専門的なプログラムができるのは理学療法士ではありません。行動療法士や言語聴覚士も必要な職種だとは思いますが、子どもに対応する人材を育てる養成学校は少なく、そもそも児童に対応するにも、教育や保育の専門性に対応した経験をもつ人材は少ないです。いったい何を想定して専門的プログラムと言っているかはっきりしないままです。

放課後デイは、小規模ですから何人も専門家は雇用できないので大きな発達療育センターのように先輩からノウハウを教えてもらう機会もありません。検討会の言っていることは理想的ではありますが、絵に描いた餅とも言えます。専門的な療育を提供するうえで資格は確かに必要ですが、資格があれば適切な療育が提供できるわけではないからです。こうした、専門家周りの環境も同時に考慮していく丁寧さが必要です。そして何よりも、給与が低すぎる事が、専門性の高い人材が集められない理由でもあります。

学習塾と学習障害支援の違いをどう見極めるのかも不明です。そもそも、学習の問題は学校に任せるべきだと言う、発達障害に学習障害が明記されていることも知らないような自治体職員もいる中でこの区別が科学的な視点で行えるとは思えません。学習障害支援は、自前で知能検査や発達性読み書き障害の検査を行ったアセスメントを前提にして、個別に療育の支援計画が実施されていることが最低条件だと思います。こうした障害支援のルーティンを踏まえたうえでの適切な線引きが行われることを期待します。

一番の問題は、9割は税金を使う公的な支援なのに、サービス利用回数があまりにも違う不公平と、その違いについて地方行政が説明責任を果たさないことです。利用者増が先か新規事業者参入が先かは鶏卵の堂々巡りですが、質の良い支援ならニーズに応じてどんどん提供すれば良いのです。児童期の質の良い投資は必ず未来に納税で返ってくるからです。

大事なことは監督する行政が低品質な放デイを認めず、質の高い放デイを優遇する方略を持つことです。国のレベルで言えることはせいぜい専門資格を持つものがいるかどうかまでしか言えません。しかし、現場を知る行政なら、何が適切な支援かどうかは見ればわかるはずです。現場に足を運びマニュアルの字面に頼らない確かな視点が行政に求められています。質が低い放デイがあるのは民間参入が原因ではなく、行政に見抜く力が不足していたと言うべきです。

障害者のスポーツ取り上げて

障害者のスポーツ取り上げて

2021/12/18 【産経WEST】

東京パラリンピックでお世話になったNPO法人「アダプテッドスポーツ・サポートセンター(ASSC)」の高橋明さんに誘われ、大阪市舞洲障がい者スポーツセンター(大阪市此花区)で開かれた「i-ボッチャ ぷっちょ杯2021」をのぞいた。

改めて簡単に説明すると、ボッチャはジャックボールと呼ばれる白い目標球に向けて赤と青のボールを投げ合い、より近づけた方が勝者となるルール。もともとは欧州で、脳性まひなどの比較的重度の障害者向けに考案されたが、年齢や障害の有無に関係なく誰でも参加できるインクルーシブ(包括的)なスポーツとして注目されている。

大会は今回が4回目。インクルーシブを示す「i」が大会名の冒頭についている通り、障害者だけで編成したチーム以外にも、健常者のチームや混成チームも参加。選手3人の合計年齢が約250歳のチームもあり、東京パラで脚光を浴びたボッチャの盛況ぶりを肌で感じることができた。ASSC副理事長で「愛ボッチャ協会」代表の岡田良広さんは「東京パラが終わってから、学校や自治体からの問い合わせが増えている。協会の審判を派遣し、体験学習会などを開催している」と話す。

今年話題になった言葉に贈られる「現代用語の基礎知識選 2021ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞には、米大リーグ、エンゼルスで活躍した大谷翔平選手の「リアル二刀流/ショータイム」が選ばれたが、東京パラのボッチャ個人で金メダルを獲得した杉村英孝選手の必殺技「スギムライジング」もトップテン入りした。

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オリパラ開催の効果で、全国各地でパラスポーツの普及が大々的に言われ始めています。ボッチャの金メダリスト杉村選手の活躍も国民にスポーツが引き出す人間の可能性を見せつけてくれました。先ごろは京都府議会で京都府ボッチャ協会のプレゼンテーションが行われ、いわゆる障害者のスポーツではなく障害のある人もない人も一緒に取り組めるユニバーサルスポーツとして普及を議会に説明がされました。

スポーツを国を挙げての取組にすると、スポーツを政治利用する危惧が言われますが、一方でスポーツにアクセスしにくい障害者や身体の弱い方にも参加できるようにすることは、公共の福祉の役割でもあります。ボランティアはどんなスポーツにも必要ですが、障害者が参加するスポーツにはたくさんのボランティアが必要です。

しかし、ボランティアや個人寄附だけでは競技場や競技場への移動支援の整備までは資金的に手が届きません。欧米では、資金力のある企業や篤志家がスポンサーになって障害者スポーツは支えられていますが、企業が巨額の寄付をして民間団体を支援する土壌は我が国には十分育っておらず公的な支援がもっと必要で議会や各自治体の力量が問われています。

障害者スポーツは民主主義の花開く中でこそ育つものです。冬季五輪の北京開催について、民族弾圧やジェノサイドを隠す中国共産党に民主主義国から批判が続いています。誰もが公平にスポーツに参加するためには思想信条、性別や民族、障害のあるなしで政治的に差別されることがあってはなりません。いったい、中国政府は北京冬季五輪のパラリンピックをどんな思いで開催するのでしょう。パラリンピックの開催で人権弾圧を覆い隠すようなことは許されません。障害者スポーツは民主主義の最高レベルの到達点でもあるからです。

 

特別支援教育の教職課程 コアカリ作成へ議論始まる

特別支援教育の教職課程 コアカリ作成へ議論始まる

2021年12月16日【教育新聞】

特別支援学校の教師の専門性向上のため導入が検討されている、特別支援学校教諭免許状の教職課程コアカリキュラムについて、文科省の「特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議」の下に設置されたワーキングループ(WG)が12月16日、初会合を開き、コアカリキュラム作成に向けた議論を開始した。今後、障害種ごとに設けられたサブWGでの議論を踏まえ、来年3月をめどに素案を取りまとめる。

今回のコアカリキュラムは教育職員免許法・同施行規則に基づき、全国全ての大学の教職課程で共通的に履修すべき資質能力を示すもので、特別支援学校学習指導要領を根拠とする自立活動、知的障害のある子供のための各教科等、重複障害者に関する教育課程の取り扱い、発達障害を位置付ける。

その中では、「心理、生理及び病理」「教育課程及び指導法」といった内容について、障害の領域ごとに、学生が理解すべき内容を示した目標を設定する。その際、全国の大学で共通的に修得すべき資質能力を示すという目的に照らし、統一感のある表現とする、達成してほしい目標をできるだけ具体的に示すなどの工夫を行う。来年2月の第2回会合では、障害種ごとのサブWGが検討結果を報告し、意見交換や調整を行う方針。

樋口一宗委員(松本大学教育学部学校教育学科教授)は「特別支援教育制度が始まって10年以上がたつが、そもそも導入の背景には、障害の重度化、重複化、多様化が挙げられる。免許制度は障害種別に構成されており、各障害種についての専門性はもちろん必要だが、重複、多様の結果としての子供たちの困難に、臨機応変に対応できる教師の姿が求められている」と、これからの課題を述べた。

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今頃、特別支援学校教諭の共通カリキュラムを検討しているとはびっくりしました。だから、支援学校や支援学級の教員に、発達障害や構造化支援の基本的な中身を知らないような方が多いのだと思います。それにしても、特別支援学校教諭免許は存在するわけですから、これまでこの免許をとった方は大学でどんな授業を受けていたのかと思います。

教育とも免許とも関係ないですが、京都府で強度行動障害の研修会報告を見ていて感じたことがあります。報告している、京都ライフサポート協会は京都の中でも自閉症支援・構造化支援の老舗の拠点事業所とも言えます。福知山学園もそれを追いかけている入所を中心とした事業所です。この報告では、構造化支援や表出コミュニケーション支援(PECS)を重視しているのです。

行政と先進事業所がタイアップして、毎年こうした研修を重ねているのですが、一向に地域に広がる気配がありません。教育も同じです、行政と先進実践校がタイアップして、全国で毎年何百回と公開授業や研究会が開かれますが、構造化支援も表出コミュニケーション支援も広がる気配がありません。つまり、行政も教委も笛吹けど現場は踊らないという図式があるのです。

それぞれの職員が、科学的な根拠を知り、実践の常識だと考えられることが必要です。そういう意味では免許の基礎となるコアカリキュラムを検討することはとても重要です。今の香港は知りませんが、10年前までの香港の学習指導要領にはPECSに取組むことと書いてあったことを思い出します。結局、公的に必要な事として新しい支援が認められることが大事だと思います。現場で科学的な根拠のあることについて、その是非を再び問うようなことは子どものためになりません。

障害者雇用した芽ネギ農園の気づき・驚き・感動…絵本に

障害者雇用した芽ネギ農園の気づき・驚き・感動…絵本に

12/16(木) 【日本農業新聞】

静岡県浜松市で障害者を積極的に雇用して芽ネギなどを生産する京丸園での実話を基に描いた絵本「めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!」が発売された。題名の「ガ・ガ・ガーン」とは、代表の鈴木厚志さん(57)が障害者と出会っての気付きや驚き、感動を表している。

京丸園は、高齢者や障害者など多様な人がそれぞれの役割を発揮できる「ユニバーサル農業」を実践する。従業員94人のうち、22人が障害者だ。

絵本は、特別支援学校の先生が、障害のある生徒を「働かせてほしい」と連れてくる場面から始まる。鈴木さんは障害者に農作業は難しいと考え、ある職人技を見せて断ろうとする。だが先生は、生徒でもできるようにする工夫を提案する。これが最初の「ガ・ガ・ガーン」で、その後も鈴木さんはさまざまな気付きや発見を基に、誰もが働きやすい農園を作り上げていく姿を描いている。

鈴木さんは「親子で障害について考えるきっかけになってほしい。農業者に向けてのメッセージも込められている」と話す。

著者は絵本作家の多屋光孫氏。合同出版、48ページ、1980円。17日に、鈴木さんや多屋氏が出席してのオンライントークイベントを開く。

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支援学校の作業場面では当たり前の課題分析を用いた支援方法ですが、伝統を重んじる農家には革命的なアイデアだったのでしょう。もともとはファーストフードなど熟練者でなくても言葉がわからない外国人労働者でも働けるように開発された手法です。仕事はいくつかの作業で構成されています。業務を構成する作業工程を明確にし、支援対象者がどの工程でつまずいているのかなどを把握、分析することを課題分析といいます。工程の分け方は、業務の複雑さや支援対象者の理解度により異なります。

鈴木さんは、支援学校の山田先生が二人の生徒を連れてきたことによって、自分の農場の合理化にも気づいていきます。障害者を雇用することが職場の効率を高める事と結びついているのです。この絵本は、障害者雇用とは何かを端的に表現して大変分かりやすい物だと思います。子どもと一緒に障害理解やノーマライゼーションを知る機会として読むのもいいし、個人経営者など自営業の方に読んでもらって障害者雇用を考えてもらうきっかけを作るにも良い本だと思います。

合同出版社のWEBにこの本のサンプルがあるので、お読みください。

めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン! 
多屋光孫 (著, イラスト)
出版社 ‏ : ‎ 合同出版 (2021/12/3)
発売日 ‏ : ‎ 2021/12/3
大型本 ‏ : ‎ 48ページ
寸法 ‏ : ‎ 18.2 x 0.5 x 23.7 cm

京丸園株式会社
〒435-0022 静岡県浜松市南区鶴見町380-1

 

 

チーム学校 独自予算でAI活用、学校で子供支援 神戸市が全国初

チーム学校 独自予算でAI活用、学校で子供支援 神戸市が全国初 

12/14(火) 【産経新聞】

福祉的な支援が必要なのに見過ごされている子供の存在を人工知能(AI)を使って可視化し、具体的な支援につなげる取り組みが一部の自治体で始まっている。神戸市は全国で初めて独自に予算を付け、今月から本格的な活用をスタートした。鍵を握るのは、教員と教員以外の専門職が連携する「チーム学校」の取り組みだ。支援が必要とされた子供については専門職が集まる「チーム会議」で検討し、知恵を出し合う。

神戸市が活用するのは、大阪府立大の山野則子教授(児童福祉)らが開発した「AIスクリーニングシステム(YOSS)」。複数の教員が、欠席・遅刻▽身だしなみ▽健康▽いじめアンケート-など約40項目について、気になる程度を点数で入力する。データをもとに全員の状況を「スクリーニング会議」で確認し、チーム会議で検討するかを判断する。

AIはあらかじめ、全国の支援の成功例やうまくいかず事件化した事例の特徴を学習。会議での判断をサポートするとともに、必要な支援のレベルについて①学校内での支援②子供食堂など地域資源の活用③行政機関や福祉制度の活用-の3パターンから提案する。

神戸市ではYOSSを18の小中学校で試験導入し、今月から来月にかけて約7千人を対象にスクリーニング会議を実施する。教育委員会の担当者は「支援が届いていない子供がいるなら、きちんと把握すべきだ。まずは継続し、効果を検証したい」と話した。

背景には、学校で「ちょっと気になる」程度の子供が見過ごされがちだという現実がある。同府泉大津市立戎(えびす)小はAIは使わないものの、神戸市と同じ40項目のスクリーニングシートを活用し、教員の経験や勘に頼らない丁寧な検討が行われている。

「友人とのトラブルが多く、よく怒られている。無気力で自己肯定感も低く、『先生はいつもおれを悪者にする』と言っている」

今年7月に同校で行われたチーム会議。ある男子児童について担任が相談すると、教頭や生活指導担当の教員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー(SSW)らが、よりよい関わり方の検討を始めた。

会議で決まったのは、児童に「頑張っているな」などのポジティブな声かけを学年の教員全員で意識的に行うこと。出席したSSWの神谷直子さんは「子供は『いろんな大人が自分を見てくれている』と感じることが重要。あいさつや声かけだけで、ガラッと変わることも多い」と話す。

同校では低めに設定された基準点を超える児童を幅広くチーム会議で取り上げ、問題が深刻化する前に「予防」することを目指している。同校の男性教員(34)は「しんどさが表に出ていなかった子供に目が向くようになった」と手応えを口にした。

■「チームで決定」へ意識改革を

山野教授らの研究によると、小中学生のうち約30%が虐待や非行、不登校などにつながる要因を持っている。だが実際に自治体の支援対象となっているのは10%ほど。問題はあっても深刻化はしていない「グレーゾーン」にいる残りの子供を発見し、最初に手をさしのべられるのは学校だけだ。

だがこうした支援を多忙な教員だけが担うのは困難で、スクールソーシャルワーカーら専門職と協力する体制が必要だ。しかし、多くの学校では専門職の配置が不十分で、山野氏は「対応をチームで決定する文化が学校組織にないことも問題だ」と指摘する。

一方政府では、自治体の教育・福祉・医療部門などが持つ子供たちの情報をデータベース(DB)で共有し、支援に生かすことを視野に、11月にデジタル庁など4府省庁によるプロジェクトチームが発足した。組織間の連携がないために虐待などが見過ごされた事例は後を絶たず、DBは子供の状況を可視化する「スクリーニング」の切り札として期待されている。

ただ、現場で支援を行う「人」が育っていなければ情報は生かせない。山野氏は「目の前の問題への対応だけでなく、10年後、トラブルを予防できる社会になるよう考えてほしい」と話し、まずは専門職と協力する「チーム学校」の意識を学校現場に根付かせることが不可欠だと訴えている。(西山瑞穂)

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学校の不祥事続きの神戸市は、学校の力だけに頼るのではなく機械も使って学校改革に立ち上がろうとしていることは、良いことだと思います。もちろん端末処理する教員の問題意識の持ち方には左右されるとは思いますが、それは今までも同じですし、記録が残ることで状況をどう見ていたかが記録に残って次に生かせます。また、現場が正しい評価をしている証拠も残るので、管理職や上層部が見落としたり隠蔽した場合も明らかになります。このデータ管理は、校内管理ではなく、教員のオンラインシステムにのせて教委が管理すべきかと思います。

ただ、一つだけ心配なのは、AIが判定していないが気になる子どもがいるとき、近未来ドラマのように人間以上にAIを信用してしまう事が起こらないかどうかです。もちろん、このAIの導入は、失敗事例データをプログラムに学習させて手作業のスクリーニングの穴を埋めるものですからより精密なものにはなるのでしょうが、精密に疑わしいものをピックアップするので、件数が増えてしまい再確認に手間取り、教員が直感的につかむ緊急性のあるものを見落としてしまうことになっては本末転倒です。

それでも、学校現場がAIを通じて専門家とチームを組んで、学校の風通しを良くしていくことにつながれば素晴らしいことです。機械の力を借りてでも、虐待や非行、不登校につながる子どもをあぶり出して支援しようとすれば、特別な事でなく日常に必要な支援として定着し、発達障害の特性を起因とした行動問題への支援にも生かされていくものと思います。

知的障害のある長男殺害 母に懲役3年執行猶予5年

知的障害のある長男殺害 母に懲役3年執行猶予5年 京都地裁

12月13日 【NHK】

去年7月、京都市で重い知的障害のある17歳の長男を殺害した罪に問われている母親に対し、京都地方裁判所は「長男の受け入れ施設が見つからず、将来に絶望を抱きかねない状況だった」として執行猶予のついた有罪判決を言い渡しました。

京都市左京区の無職、坂山文野被告(54)は、去年7月、自宅のマンションで重い知的障害があり、総合支援学校高等部に通う長男のりゅうさん(17)の首をベルトのようなもので絞めて殺害したとして、殺人の罪に問われています。

裁判の中で、母親は長男を殺害したことを認めましたが、弁護側は当時、精神障害の影響で心神喪失の状態だったとして無罪を主張し、検察は懲役5年を求刑していました。

13日の判決で、京都地方裁判所の増田啓祐 裁判長は、「将来に大きな可能性のある17歳の尊い命を奪ったことはあまりに痛ましい結果だ。ノートに犯行をためらう内容を記すなど、限定的とはいえ、犯行を思いとどまる能力は残っていた」と述べ、心神喪失の状態ではなく、心神耗弱の状態だったと指摘しました。

そのうえで、「重い障害のある長男の介護に疲弊し、さまざまな手段を講じたが、卒業後の受け入れ施設が見つからず、将来に絶望を抱きかねない状況だった。動機の形成過程には同情の余地が大きく、自らも殺害を認めて反省している」として、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡しました。

【事件の経緯】。
事件が起きたのは去年7月17日の夜、京都市の自宅マンションで、母親の坂山被告が17歳の長男に睡眠薬を飲ませ、ベルトのようなもので首を絞めて殺害したとされています。

検察や弁護側の陳述によると、被告はひとり親で、自らもうつ病を患いながら、重い知的障害のある長男に加え、認知症の兆候のある高齢の母の介護もしていたということです。

被告が事件の前に悩んでいたのが、総合支援学校高等部を卒業したあとの長男の進路です。事件の2週間前、卒業後の就職先を探すため、京都市内の就労支援施設を見学しましたが、1人でのトイレが難しいなどの理由で、受け入れは困難だと断られました。

事件前日には、支援学校の担任と進路について面談しましたが、具体的なアドバイスが得られなかったと感じ、将来への不安を募らせたといいます。事件当日にも別の就労支援施設を見学しましたが、送迎に対応していなかったため、利用を断念しました。

その日の夜、風呂を出たあとの着替えの際に、長男が服を破いたり、被告を抱えて放り投げようとしたことで将来への絶望感をさらに深め、犯行に至ったとみられています。事件のあと、自殺未遂を図った被告はノートに遺書を書き残していました。

そこには、「何かもう疲れてしまいました。将来のことを考えると、誰に託したらいいか答えが出ず、連れていきます。ごめんなさい。ちゃんと育ててあげられなくてごめんなさい。残ったお金は少しでも障害者のためになる何かに使ってください」と記されていました。

【同級生だった保護者は】。
裁判を傍聴した子どもが同じ支援学校の同級生だった竹口宏樹さんは、「事件は起こるべくして起きたのかも知れないし、なんとかできたのかなとも思うので、僕自身、後悔や反省があります。判決の中にもご家族ご友人の名前が出てきましたが、そういう人たちとなんとかつながって、今後の人生を、しょく罪もありながらも全うしてほしい」と話していました。

また、卒業を来年3月に控える竹口さんの息子の進路もいまだに決まっていません。竹口さんは、「大変な家はたくさんありますが、もう無理となったときに、安心して暮らせる体制がつくれる、何も情報が無い人にもアクセスできる福祉がどこでも行われることがいいのではないかと思います。進路について、どういう支援ができるか考え続けてほしい」と話していました。

【専門家“支援体制づくりを”】
今回の事件について、国の障害者支援施策の調査や研究に携わってきた社会福祉法人「横浜やまびこの里」の志賀利一 理事は、「命が失われた事実を重く受け止め、福祉、医療、教育の立場からしっかりと事件を振り返って検証し、予防策を考えていくことが大切だ」と指摘しています。

そのうえで、「障害者福祉の現場で専門的な支援が提供できる施設や事業所を増やすことが必要で、都道府県や政令指定都市単位で計画的に整備していくなどの体制づくりを進めていくことが求められている」と話していました。

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30年前社会福祉の基礎構造改革が議論されていたときに懸念されたことが起こっています。戦後、長い間続いていた措置制度を契約制度に転換し、国民の自助と事業所など民間のサービスを活用し、少子高齢社会の進展に伴う社会福祉の支出の増大を抑制し、民活導入によって社会福祉の制度を構造から改革しようとしたのがこの政策です。

確かに、財政的な問題も背景にありましたが、行政が全て引き受けてしまう事によって、既得権限の中にいて競争のない世界ではサービスの中身が良くならないと言う問題がありました。民間企業が参入しやすくすることによって利用者目線で経営が行われるようになり、サービスは量的にも質的にもかなりの改善がなされたのは事実です。児童通所についても放デイ利用者が爆発的に増えているのは、民間を参入しやすくした結果です。

ただ、その一方で、障害者も地域で暮らすというノーマライゼーションの名のもとに、障害者の入所施設を経営しても収入が増えないような傾斜政策で、家族では支えきれない重度の方たちの行き場がなくなる現象が起こっています。つまり、儲けの薄いところ、儲けが今後見込めなくなるところはサービスが減るという問題が起こるのです。もちろん措置制度の時代も重度の方の施設は恒常的に不足していました。民間が参入できるようになってから障害者サービスは量的に増えているのは事実です。しかし、市場原理が働いて障害の軽重によって格差が拡がっているのは事実です。

また、重度の方にはデイサービス事業がありますが、これは10時から16時までのサービスで、就学期のように放デイサービスがないので夕方や休日は家族が介護しなければならない問題があります。そして、儲けの薄いところ、つまり行動障害など重度の利用者の入所施設は公立経営をするとか補助金を出すなどの施策を政府がさぼってきた結果が今回のような事件の背景にはあります。

また、基礎構造改革の一番大きな間違いは、我が国の家族の自助力はどんどん核家族化によって低下しているのにこの政策を進めていることです。一人親家族や家族の高齢化、家族の収入の減少などにより、とても成人の障害者を扶養するような余裕がない家庭が増えているのです。児童一人当たり10万円を家庭に給付をするくらいで「分配した」などと言っている場合ではありません。必要なのは僅かな分配ではなく、児童がいてもいなくても、障害者が家族にいてもいなくても、同じように暮らせる公平な社会です。

障害福祉、「聖職」の使命感では燃え尽きる 補助金で確実な賃上げを

障害福祉、「聖職」の使命感では燃え尽きる 補助金で確実な賃上げを

2021年12月10日 【朝日新聞】

岸田政権は介護や保育、看護、障害福祉で働く人たちの賃金を3%程度引き上げる方針を掲げています。これらの分野における待遇の低さといった問題は改善されるのでしょうか。連載の7回目は、社会保障法が専門の伊藤周平・鹿児島大教授に障害福祉について話を聞きました。

伊藤周平さんの三つの視点
1)障害福祉の人材不足を解消するには、賃金の引き上げとともに人員基準の改善が必要
2)福祉職の専門性は高い。「聖職」という考えで使命感に頼っていては燃え尽きる
3)福祉は公共財。公的責任として、国の補助金で人件費を確実に上げるべきだ

――政府は、障害福祉の職員の賃金を3%、月額で9千円程度引き上げる方針です。人材不足の解消につながるでしょうか。

人手不足の背景には、賃金の安さだけではなく、労働のきつさがあります。特にコロナ禍になってからは、職員が少ないなかで、マスクを障害のある人につけてもらったり消毒をしたり、感染症対策をしながら障害のある複数の人を支援しなくてはならず、さらに仕事がきつくなっている。賃金を上げることが効果がないわけではありませんが、一番の問題は、国が定める職員の人員基準が低いことです。

例えば、障害のある人が入所する施設で、日中の生活介護を行う場合、支援を必要とする程度が低い利用者では、6人に対して支援員1人以上。支援の程度が高い利用者でも3人に対して支援員が1人以上という基準になっています。これでは一人ひとりへのきめ細かなケアや、外出まで手が回らない、という声を聞きます。障害のある人は世代が広く、障害の特性も多様で個別性が高く、なかにはパニック障害などを伴う人もいて、高齢者介護や保育よりも体力的にきつく、人手不足は深刻かもしれません。

人件費だけに使える国の補助金の仕組みを
せめて、職員1人が利用者2人を支援する基準にすべきでしょう。もちろん、国の基準よりも手厚い配置にすることはでき、実際そうしている事業者も少なくありません。ただ、独自の財源からの持ち出しで職員の賃金を支払うため、経営が苦しいのが実情です。国は人員基準を見直し、必要なお金を投入すべきだと思います。そうしなければ、賃金を上げても抜本的な人材不足の解消にはならないでしょう。

政府が障害福祉の職員を、障害のある人が基本的な生活をするのに不可欠な「エッセンシャルワーカー」と認識しているなら、賃金の引き上げと同時に人員基準を改善することが必要です。

――政府の会議の資料では、介護分野の職員の賃金は29万3千円、全産業では35万2千円(いずれも基本給に残業代や手当、賞与を含めた月収換算。役職者を除く)とされ、大きな開きがあります。

待遇を考えるのであれば、基本給で比較すべきで、仮にこの数字で比較するとしても29万円は平均でしかなく、実態とかけ離れているように思います。また、手当や賞与をひっくるめての数字で、高齢者施設などで働く介護職員も含まれています。きちんとした基礎統計を土台に議論を進めてほしい。

今回の賃上げは、まずは来年2月から9月までといわれていますが、時限付きなら一時金くらいにしかならないのではないでしょうか。少なくとも、全産業並みにすべきで、上げ幅が1けた少ないといってもいいでしょう。今回の経済対策は場当たり的な印象をぬぐえません。

――高齢者介護については、賃金の引き上げが保険料や利用者負担に跳ね返りかねないとの指摘もありますが、障害福祉についてはどうなのでしょうか。

原則65歳以上の人がサービスを利用する介護保険制度の総費用は、国・都道府県・市区町村が負担する公費と、40歳以上の国民が払う保険料、利用者が事業者に払う利用料から成り立っています。一方、障害福祉は、保険料はなく、公費である税金と利用者の自己負担からなっています。ただ、自己負担は軽減措置もあってほとんどない状況で、利用者への負担につながるのは一部です。賃金アップをしやすいともいえます。

――賃金を上げれば公費負担が増えることになりますが、財源はどこから捻出すればいいのでしょうか。

福祉は、それがなかったら生きていけない人の暮らしを保障する公共財です。保育も介護もそうですが、人の命を守る仕事は本来、市場原理に任せず、公的責任のもとで提供されるものです。障害福祉は、2003年3月までは「措置制度」で、自治体がサービスを提供し、措置費で人件費を出していました。支援者の賃金も公務員並みでした。

しかし、財源不足などで、市場原理が導入されると、利用者と事業者の契約でサービスが提供されることになり、自治体の責任が縮小されました。民間事業者の参入が悪いとは思いませんが、報酬が「売り上げ」という仕組みになり、人件費を抑制し、結果的に労働条件を悪化させた一面も否めません。

そこで私が提案するのは、報酬ではなく、人件費だけに使える国の補助金の仕組みをつくり、賃金を保障することです。報酬の中から事業者の判断で人件費を決めるわけではなく、また、すべての事業者が等しく人件費を受け取れます。一般的に人件費は、報酬の7~8割ですが、4~5割という例もあるのです。

また、今の報酬制度では、資格や職種など一定の要件を満たした事業者への処遇改善加算はありますが、すべての事業者には該当しません。事務も煩雑で申請を控える事業者もあります。

「財政が厳しい」といわれますが、命を守る仕事です。政治の決断と政治家の覚悟が問われています。

――障害福祉の職員の待遇が低いのはなぜなのでしょうか。

障害者支援は、女性や家族が無償で担ってきた歴史があり、だれにでもできると思われがちだからでしょう。障害者への差別や偏見もあって、家族自身が、家族が行うものだという意識も強い。でも本当は、コミュニケーションをとり、マニュアル通りにはいかない一人ひとり違う個別性にどう対応するかが問われます。その人らしい生活を維持するという専門性の高い仕事です。

ただ、医療のように疾病が治るという明確な物差しがなく、目に見えづらく数値にもしにくいので、評価が難しい。経験がものをいう仕事ですが、経験を積む前にやめていく現状では、専門性の検証もできない。専門性を高めるために研修に参加したり、制度を勉強したりする余裕がないのも問題です。

――今後の政府の議論に求めたいことはありますか。

(政府が11月に設置した)公的価格評価検討委員会で、現場で働く職員の意見を直接きちんと聞くべきです。その上で、なぜ障害福祉の現場で、労働環境が貧しい体制になっているのかを分析し、人員基準を見直してほしい。

福祉職は聖職ともいわれ、お金ではなく使命感で仕事をする意識が強い。新型コロナウイルスへの対応も、献身的な努力で乗り越えていますが、それだけでは限界です。職員の使命感や情熱に頼っていては、燃え尽きてしまう。命を守る人たちの待遇を上げるために集中的に公費をつぎこむべきで、それが政治家の務めではないでしょうか。(聞き手・森本美紀)

いとう・しゅうへい 1960年生まれ。専門は社会保障法。88年、労働省(現厚生労働省)入省。鹿児島大学法科大学院教授などを経て2017年4月から同大学法文学部法経社会学科教授。鹿児島市障害者自立支援協議会委員も務める。著書に「社会保障法 権利としての社会保障の再構築に向けて」など。

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例えば当法人の常勤職員の賞与を入れた今年の給与平均額は税込33万円ですから全職種の平均まであと一息です。ところが利用者をこれ以上増やすとなると職員をもう一人必要としますので、ほぼこれが上限という事になります。ここ1年は発達障害のニーズに合わせた新事業所を立ち上げましたがコロナの影響で利用が伸びなかったために人件費分が回収できず夏のボーナスは見送られています。法人の利益はなく赤字ぎりぎり経営でも全産業の平均給与額に届きません。人材は地域福祉・児童福祉の財産と思い、無い袖を振るようにして捻出しているのが実情です。

同情するなら金をくれとはよく言ったものです。3%アップを岸田首相が施策にしているそうですが、9千円上昇したところで、高騰する燃料代に消えていきそうです。この賃金は、日本の未来にまで深く関与しています。低賃金で福祉業界に寄り付く若者はよほど志が高い人で、多くの人は敬遠していきます。その結果、低賃金でも働いてくれる外国人の導入がもうそこまで見えています。

先月、岸田政権はいきなり外国人労働者の受入れを緩和する方針を打ち出しました。低賃金でも働く外国人を様々な力仕事=エッセシャルワークにつかせることは、産業界全体の賃金も抑え込んでしまい、賃金が上がらなければ消費も生産量も伸びず、20年以上続いたデフレからも脱却できません。その結果、求人倍率が下がり労働市場は買い手市場になりさらに賃金が抑え込まれる結果になります。せめて、この業界の平均賃金が1割アップすれば若者はもう少し流れ込んでくるでしょうが、3%アップではそれは望むべくもないというのが現場の感覚です。

オンラインは苦痛…発達障害抱える学生の“コロナ禍の学び”守るには

オンラインは苦痛...発達障害抱える学生の''コロナ禍の学び''守るには

2021/12/9 【西日本新聞】

「雑音が多くて苦痛」「情報を整理できない」...。新型コロナウイルスの感染拡大でオンライン授業が普及する中、感覚過敏などの特性から困難を感じている発達障害の学生は多い。大学側には障害者の生活上の障壁をなくす「合理的配慮」が求められるが、対応の格差は大きく、学ぶ権利を保障する取り組みは道半ばだ。 (斉藤幸奈)

「授業に付いていけなくて、昨年は1年間で8単位しか取れなかった」。そう肩を落とすのは福岡県内の私立大に通う注意欠陥多動性障害(ADHD)の20代の男子学生。好奇心旺盛でやる気はあるが、時間の管理が苦手。オンライン授業になってリポートによる評価が増え、授業ごとに締め切りも提出方法も異なるため混乱し、提出が間に合わないことが多かった。

対面授業では集中して話を聞くことができ、単位も取得してきた。オンラインだと、教科書とパソコン画面両方に目を向けるのが難しく、双方向性もないため内容がなかなか頭に入らない。大学の相談窓口に障害の特性を伝え、課題は授業中に口頭で知らせるだけでなく、メールでも伝えてほしいと要望したが「実行してくれた教員は少なかった」という。

こうした学生は各大学で目立つようになった。熊本大大学院教育学研究科の菊池哲平准教授らが3月に発表した全国の大学に対する調査(回答率31・5%)では、オンライン授業の影響で発達障害がある学生からの相談が例年より増加していると回答した大学は28・4%に上った。

「大学からのアナウンスに一貫性がなく情報の整理ができない」「画面に並ぶ友達の顔が気になって集中できない」などの相談があった。半面、必要な配慮について「全教員・職員に周知した」大学は13・9%にとどまる。

日本学生支援機構の調査(昨年度)によると、障害がある学生を支援する専門部署がある大学は全体の2割程度で、支援体制のばらつきも課題だ。福岡県の大学でこうした学生の相談に応じる公認心理師の入濱直美さんは「相談先が分からず支援につながっていない学生もいる。専用の窓口と専門知識がある担当者を置くことが望ましい」と話す。

一方、大教室での集団授業が苦手な学生らは、ストレスが減って成績が上がった事例もある。菊池准教授は「発達障害がある学生が抱える悩みは多岐にわたり、それぞれに応じた対応が必要だということがコロナ禍で改めて分かった。理解を深めるきっかけにしたい」としている。

合理的配慮 障害がある人にとっての社会的障壁を取り除くために、過度な負担にならない範囲で変更や調整を行うこと。障害者差別解消法で規定。国公立大では「義務」、私立大は「努力義務」だが、今年5月に法改正され、2024年までに私立大でも義務化される。公共交通機関や行政、災害時の避難所などでも提供が求められている。

授業録画を許可、提出期限延長…迅速だった九大の対応
発達障害がある学生への支援に力を入れるのが、九州大(福岡市)だ。「インクルージョン支援推進室」が専門窓口となって学内の調整や授業の担当教員との橋渡し役を担い、成果を上げている。

コロナ禍でも迅速に対応した。オンライン授業では集中力の持続が難しいという学生に、録画を許可、録画した教材の配布も行った。感染が拡大する以前から、授業内容の事前伝達▽視覚的に情報が取得しやすい掲示の工夫▽提出期限の延長-など、特性に応じた合理的配慮に取り組んできた。

コミュニケーションや雑談が苦手な学生は、友人や先輩からのアドバイスを受ける機会が少ないことから、学生による支援組織「ピア・サポーター」も活動。リポートを書くときの“力の抜き方”など、教員では教えられないことを助言している。

同推進室長の田中真理教授(教育心理学)は「合理的配慮に関する取り組みは『支援』と捉えられがちだが、教育の一環。共に学ぶことで他の学生も実体験として多様性を感じ、学びになる。こうした考えを学内に根付かせることが最も大事だ」と強調している。

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リモート学習は発達障害の人には教室講義より集中しやすいだろうと思っていたら、私たちには気にならない音声ノイズが気になって集中できない人もいると言う話から、そう言えば教室の蛍光灯のノイズが嫌だと言っている子がいた事を思い出しました。気になったのは、教科書と画面を見比べるのが苦痛と言う話ですが、教室で黒板やホワイトボードと手元の資料やノートを見るのはもっと大変です。おそらく、共有画面を使って巧みにプレゼンができない教授の教科書や資料だけを読んでいるような授業が頭に入らないと言っているのでしょう。それは、どんな人だって頭に入らないです。

他の学生の視線が気になると言うのも、学生PCからギャラリー画面をOFFにできないならわかりますが、通常のリモートソフトは発言している人だけを写すことは可能ですから、予めリモートソフトの使い方を教えていないのではないかと思います。発達障害の学生の相談やニーズに対応する、大学の支援室はこの10年でどんどん増えていますが、教員の頭が追い付ていないとも言われています。たしかに高齢になってからリモート操作がどうのこうのといわれても、助手が手伝ってくれないとリモート講義がうまくできないのは無理ないなとも思います。

ただ、大学には年間100万を超える授業料を納めているのですから、教授がPC操作が苦手だから我慢してほしいではすまされない話です。オンライン授業になってレポートが増えて書けない問題は発達障害の学生にとっては深刻です。好きな事ならいくらでも書けるけど、興味のないことについては全く欠けない人から、定型の設問に答えるテストは得意だが、持論もおりまぜて論じることは高校時代に教えてもらっていないので融通が利きにくい人は大変です。何から書いていいかわからないという理由で、書けないまま放置して最後に首が回らなくなって留年・退学という学生はこれまでも少なくありません。

九州大のように支援室が機動的に動いて、画一的でなく個性に合わせて支援を打ち出してくれると、発達障害学生にとっても心強いです。助けを求める事が苦手な彼らには、プッシュ型でオーダーメイドな支援が求められています。オーダーメイドとなると「合理的配慮」とは言えないという学校がありましたが、合理的かどうかは金銭的時間的な枠組はあるでしょうが、工夫の度合い、アイデアに枠組などありません。何がヒットするか当事者だってよくわかっていない場合も多いのですから、様々な工夫の手数が必要です。そして、発達障害の彼らに分かりやすい授業に工夫することは必ず学生全体の利益にもなります。診断がなくても段取の悪い学生や、不注意の多い学生はたくさんいます。大学教育のユニバーサルデザインはみんなの役に立つはずです。