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1. 模倣と発達

投稿日時: 2019/11/21 staff2

支援者は良かれと思ってスポーツやゲームの様々な模倣を子どもにさせようとしますが、子どもにとっては時として意味不明なリクエストを支援者から求められていることになる場合があります。子どもに模倣で獲得させようとする時、子どもの発達段階を良く見極めておく必要があります。

模倣には、大きく分けて2種類の模倣があります。音や声を聞いてその通りに発声する「音声模倣」、人の動きを見てその通りに身体を動かす「身体模倣」と整理することができます。身体模倣は、発達の初期には、他者が楽器やおもちゃを操作するのをみて真似る(例:太鼓をバチでたたくなど)ことから始まります。まねっこ遊びが難しい子どもの場合は、いきなり身体の動きを真似させようとするよりも、道具の操作模倣から始めるようにします。

発達において、模倣が未形成な段階だった子どもが、次第に模倣の能力を高めていくことはとても重要な意義をもちます。
(1) 人の動きをもっとよく見ようとする認知が育つ
(2) 動きや音の細かな違いを見分けよう、聞き分けようとする弁別の力が育つ
(3) 動きの速度や強さ、身体部位の位置関係などをコントロールする運動調整力が育つ
(4) 他者を意識し、他者に合わせようとする社会性が育つ
(5) 日々のできごとをあとになって模倣表現したり、生活場面のみたてあそびをしたりするようなイメージする力の基礎的条件が培われる

テレビ番組の参加などで出て来る子どもは、モデルとなる動きを見て、その場ですぐに新しい形を真似をしていますが、あれはオーディションがあります。できる子やまぁまぁの子、できないけど場の共有ができる子を選んでいます。全く関心のない子は選んでいません。予備選考ではテレビの前で一緒に模倣したり体を揺らすなどして興味深く見ているかで選考しています。従って、そこまで対応の力が育っていない子にとっては、あの模倣は難しすぎる課題になります。療育現場などで模倣を学習させる場合には、模倣の内容の難易度をおさえて指導を行うことが大切です。
(1) 身体接触型から非接触型へ
「頭、肩、膝、ポン」の歌遊び、拍手、ちょうだいのサインなどは、身体部位に直接触れる動作を模倣します。これは、運動の終わりを伝えやすく、姿勢も保持しやすいため、非接触型の動作(両手を「前へならえ」の姿勢に保つなど)よりも早くから真似しやすい動作であると考えられています。
(2)座位模倣から立位模倣へ
いすに着席した姿勢で模倣をさせたほうが、立位で模倣させるよりも簡単です。これは、姿勢保持の面で安定しやすいということと、モデルとなる人の動きを目で追うときに視線が安定しやすいということが関係しています。
(3) 左右対称模倣から非対称模倣へ
両手を同時に挙げる、両足を同時にひらくなどといった左右の手足を同側的に動かす模倣は、左右が別々の動きをする模倣よりもやさしくできます。左右で別々の動作を行う非対称型の模倣は、運動の方向性を調節するという身体機能の発達だけでなく、2つことを同時に考え続けるだけの記憶や注意といった認知機能の発達が必要になります。
(4) 正中線を越えない肢位から越える肢位の模倣へ
右手で左耳をさわるなどのように、正中線(身体の中央を頭から縦にとおる線)を越えるような動きが入ると模倣は一気に難しくなります。まずは、正中線を越えない動きの模倣から始め、つぎに片手だけが正中線を越えるような動き、そのあと、両手が正中線を越える動きや交叉がある動きなどのように難易度を上げます。
(5) 静止姿勢の模倣から連続動作の模倣へ
静止する姿勢の模倣のほうが、連続動作の模倣よりも早く獲得され始めます。ただし、ジッとしていることが苦手で多動傾向が見られる子どもの場合は、静止姿勢のほうが困難であるということもあります。連続動作が全般的に苦手な子どもであっても、大好きなヒーローの変身シーンのような意味をもつ動きの模倣は得意という子どもがいます。音楽や映像などを用いるとイメージが浮かびやすくなりますので、支援の手立てのヒントにします。
(6) 左右の広がりから前後の奥行を用いた模倣へ
前後、左右、上下などの空間・位置関係を模倣に用いる場合は、いすを用い、自分といすとの位置関係を模倣させることから始めると理解がすすみます。特に前後の奥行を教える場合は、左右よりも見分ける力が必要になるため、いすを基準にすることで自分の立ち位置、姿勢、動きが伝わりやすくなります。
(7)記憶した動作を再生する模倣へ
モデルの動作を一度記憶し、モデルがない状態でも再現ができるようになると、より高度な模倣が可能な段階に入ったということになります。

身体の動きの不器用さがみられる子どもたちの中には、まねっこあそびを嫌がる子どもがいます。嫌がり方もさまざまです。うまくできないことを隠すかのように、わざとふざけることもありますし、他児のじゃまをするような行動をとることもあります。みんなの前で失敗することを恥ずかしいと思う気持ちが強い場合、子どもがモデル動作を示す役になり、大人が失敗してみせるなど、上手に笑いのタネに変えていきながら、楽しんで取り組める雰囲気が必要です。でも一番大事なことは子どもがわかる段階の模倣を選ぶことです。