掲示板

みんなちがってみんないい

ミラーニューロン

ミラーニューロンとは、自分が行動する時だけでなく、他人が行動するのを見ている時にも活動電位を生じさせるニューロン(神経細胞)です。鏡のような反応を示すことから、「ミラー」ニューロンという名前がついています。ミラーニューロンは、視覚情報に反応しているだけでなく、他人の行動の意味や意図を理解する機能を果たしていると考えられています。

ミラーニューロンは、1996年、イタリアのパルマ大学のジャコーモ・リッツォラティによって発見されました。リッツォラティは、対象物を掴んで操作する手の運動に関する神経細胞を研究するために、マカクザルの下前頭皮質に電極を設置して、マカクザルがエサを取ろうとする時の神経細胞の活動を記録していました。その途中で、実験者(人)がエサを拾い上げるのを見た時に、マカクザル自身がエサを取ろうとする時と同じ活動を示す神経細胞を発見しました。これがミラーニューロンです。つまり、まったく別の研究をしていて偶然発見されたのです。実験を重ねた結果、マカクザルの下前頭皮質と下頭頂皮質のうち、約10%の神経細胞が、マカクザル自身が手を動かした時と、自分以外が手を動かすのを見た時の両方で同じ反応を示すことを明らかになりました。

人の脳にミラーニューロンが存在するという確実な証拠は得られていません。ただし、MRIを利用して脳の血流動態反応を視覚的に見る方法(fMRI)により、自分の手や指を動かす時と、他人が手や指を動かすのを見る時の両方で、下前頭回が活動することは確認されています。また、自分の口を動かす時、他人の口の動きを見る時、他人の口の動きを真似する時のいずれでも下前頭回と下頭頂小葉が活動することも分かっています。そのため、人の場合、下前頭回にミラーニューロンシステムが存在していると考えられています。

人の場合、新生児から生後12ヶ月頃までに発達すると考えられています。ただし、ミラーニューロンがどのようにして「自分が行動する時にも、他人の行動を見る時にも反応する」機能を備えるのかについては、明らかにされていません。ミラーニューロンが発見されて以降、その機能についてたくさんの研究結果が発表されています。現在、ミラーニューロンの機能と考えられている主なものは、次のとおりです。
他人の意図の理解:他人の意図を理解して、次の行動を予測する機能
共感:他人の動作を見て、自分のことのように感じる機能
模倣の獲得:他人の行動を真似する機能を得ること
言語:言語を獲得する機能
心の理論:他人の心を推測する(感情を察する、目的や意図を見透かす、信念や疑いの心を感じ取る)機能

ミラーニューロンの欠如とASDの関係を指摘する研究者はいます。また、ASDの人の脳は、健常な人の脳に比べてミラーニューロンに関わる脳の領域が薄いという解剖学の研究結果もあります。しかし、ミラーニューロンの欠如が自閉症の原因の一つだと言えるだけの根拠はなく、今後の研究の進展を待ちます。ニューロン(神経細胞)は、単体で特定の反応を生じさせるのではなく、ニューロンネットワーク全体が、ある行動を行う時に活性化すると考えられています。そのため、ミラーニューロンが存在するとされている下前頭回のニューロンを活性化させて、神経回路をつなげることが重要ということになります。

しかし、下前頭回の鍛え方(ニューロンを活性化させる方法)は確立されていないのが現状です。一般的には、色々な経験をさせてあげることや、相手の気持ちを察して行動すること、モデルとなる人を見つけて真似することなどが効果的だと言われていますが、そうした方法で下前頭回のニューロンが活性化するかどうかは推測の域を出ません。知育分野でも、「ミラーニューロンを鍛える」という文言をよく耳にします。ミラーニューロンの鍛え方として紹介されている方法は、子どもの共感性や社会性を育む上では役に立つこともありますが、ミラーニューロンを鍛えているかどうかは不明です。

『ケーキの切れない非行少年たち』新書部門年間1位

『ケーキの切れない非行少年たち』が3冠達成! 2020年の新書部門年間1位・・・累計65万部

2020年12月02日14時30分【J-CASTニュース】

昨年は第3位
本のベストセラーは、おおむね前年の11月から翌年の11月までのおよそ1年間の累計で算出している。そのため毎年12月初めにベストセラーランキングが発表される。

同書は児童精神科医である著者の宮口幸治さんが、医療少年院で出会った「非行少年」たちの衝撃的な実態を明かしたもの。「丸いケーキを3等分してみてください」と言って丸い紙を少年に渡すと、普通は円の中心から放射状に線を引くが、それができない子どもたちが少なくないことをタイトルにしている。

19年7月に発売され、すでに昨年の年間ベストセラーランキングで新書(ノンフィクション)部門の3位にランクインしていた。20年2月に発表された「新書大賞2020」でも、大賞となった『独ソ戦』(岩波新書)に次いで2位。その後も売れ行きが落ちず、今年のトップになった。オリコンのデータによる同書の期間累計部数(2019年11月18日~2020年11月22日)は 44万4815部。これまでの発行総部数は約65万部。新書としては驚異のロングセラーになっている。

「境界知能」がテーマ
本書は、人口の14%程度いるとされる「境界知能」をテーマにしている。「境界知能」とは、IQが70~84程度で、いわゆる「知的障害」(IQ69以下)とまでは言えないが、現代社会で生きていく上では相当程度の困難に直面していると考えられている人たちのことだ。「丸いケーキの3等分」ができないのは、境界知能ゆえなのだという。

いわゆる「非行少年」たちの中には、境界知能なので物事の認知能力が低く、幼少期からさまざまな困難に直面して「傷ついた子どもたち」がかなりの数含まれているという。本書は、「『僕はやさしい人間です』と答える殺人少年」「非行少年に共通する特徴」など7章からなる。彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドも公開している。
価格は720円+税。

受刑者の2割は知能指数が69以下
ちなみに、大人の犯罪者と「知能」の問題は、以前から指摘されていた。『刑務所しか居場所がない人たち――学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(大月書店)は、実際に服役し、出所後は高齢者や障害者の受刑者の社会復帰に取り組んでいる元衆議院議員の山本譲司さんの報告。刑務所に入るときは必ず知能検査を受けるそうだが、2016年に新たに入った受刑者約2万500人のうち、約4200人は知能指数が69以下、知的障害があるとみなされるレベルだったという。

ある知的障害者の場合、神社の賽銭箱から200円を盗み執行猶予。外に出られたんだから悪いことをしたんじゃないと思って、また100円盗んで今度は実刑判決。裁判では「まだ神様に700円貸している」と主張した。どういうことかというと、むかし母親と一緒に神社に行ったとき、母が1000円を賽銭箱に入れたことをしっかり覚えていた。だから差し引き700円の貸しがあると思い込んでいる。

「少年」よりもさらに低年齢層に目を向けた本では『漂流児童』(潮出版社)がある。社会から切り捨てられ置き去りにされた低年齢層の子どもたちを扱っている。中学校を長期欠席している生徒は全国で約20万人、生徒の15人に1人が発達障害・・・。著者のノンフィクション作家、石井光太さんは、「レールからこぼれ落ちた人々を社会がきちんと支えてこなかったことが、今の社会問題を生んでいる側面があるのだ」と強調している。

-------------------------------
境界知能に固定されてしまうかどうかは、小学校中学年から高学年までに本人の特性に合わせた学習アプローチが重要だと言われています。そういう意味では、生まれつきの知能ではなく環境要因が大きいと言えます。学習障害は、知的遅れを伴わない認知のゆがみだと言われてはいますが、適切な支援を行わないことで境界知能として扱われている子どもは少なくありません。

また、ここでいわれるIQが70~84程度というのは全検査IQと言って知能を構成する各領域の数値の平均値であり、知識の数値が高くても、ワーキングメモリーの数値や、書字の速さや正確さの数値が著しく低くければ平均値としては境界知能域を示します。つまり発達障害の子どもがここに入りやすいのです。知識は知的好奇心と関係がありますが、字が読みにくければ知識欲も削がれてきます。境界知能は小学校時代の周囲の大人の気づき次第で大きく変わる子どもも少なくないという事を忘れてはならないと思います。

 

障害者のスポーツ取り上げて

障害者のスポーツ取り上げて

2021/12/18 【産経WEST】

東京パラリンピックでお世話になったNPO法人「アダプテッドスポーツ・サポートセンター(ASSC)」の高橋明さんに誘われ、大阪市舞洲障がい者スポーツセンター(大阪市此花区)で開かれた「i-ボッチャ ぷっちょ杯2021」をのぞいた。

改めて簡単に説明すると、ボッチャはジャックボールと呼ばれる白い目標球に向けて赤と青のボールを投げ合い、より近づけた方が勝者となるルール。もともとは欧州で、脳性まひなどの比較的重度の障害者向けに考案されたが、年齢や障害の有無に関係なく誰でも参加できるインクルーシブ(包括的)なスポーツとして注目されている。

大会は今回が4回目。インクルーシブを示す「i」が大会名の冒頭についている通り、障害者だけで編成したチーム以外にも、健常者のチームや混成チームも参加。選手3人の合計年齢が約250歳のチームもあり、東京パラで脚光を浴びたボッチャの盛況ぶりを肌で感じることができた。ASSC副理事長で「愛ボッチャ協会」代表の岡田良広さんは「東京パラが終わってから、学校や自治体からの問い合わせが増えている。協会の審判を派遣し、体験学習会などを開催している」と話す。

今年話題になった言葉に贈られる「現代用語の基礎知識選 2021ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞には、米大リーグ、エンゼルスで活躍した大谷翔平選手の「リアル二刀流/ショータイム」が選ばれたが、東京パラのボッチャ個人で金メダルを獲得した杉村英孝選手の必殺技「スギムライジング」もトップテン入りした。

---------------------------------
オリパラ開催の効果で、全国各地でパラスポーツの普及が大々的に言われ始めています。ボッチャの金メダリスト杉村選手の活躍も国民にスポーツが引き出す人間の可能性を見せつけてくれました。先ごろは京都府議会で京都府ボッチャ協会のプレゼンテーションが行われ、いわゆる障害者のスポーツではなく障害のある人もない人も一緒に取り組めるユニバーサルスポーツとして普及を議会に説明がされました。

スポーツを国を挙げての取組にすると、スポーツを政治利用する危惧が言われますが、一方でスポーツにアクセスしにくい障害者や身体の弱い方にも参加できるようにすることは、公共の福祉の役割でもあります。ボランティアはどんなスポーツにも必要ですが、障害者が参加するスポーツにはたくさんのボランティアが必要です。

しかし、ボランティアや個人寄附だけでは競技場や競技場への移動支援の整備までは資金的に手が届きません。欧米では、資金力のある企業や篤志家がスポンサーになって障害者スポーツは支えられていますが、企業が巨額の寄付をして民間団体を支援する土壌は我が国には十分育っておらず公的な支援がもっと必要で議会や各自治体の力量が問われています。

障害者スポーツは民主主義の花開く中でこそ育つものです。冬季五輪の北京開催について、民族弾圧やジェノサイドを隠す中国共産党に民主主義国から批判が続いています。誰もが公平にスポーツに参加するためには思想信条、性別や民族、障害のあるなしで政治的に差別されることがあってはなりません。いったい、中国政府は北京冬季五輪のパラリンピックをどんな思いで開催するのでしょう。パラリンピックの開催で人権弾圧を覆い隠すようなことは許されません。障害者スポーツは民主主義の最高レベルの到達点でもあるからです。

 

ワーキングメモリトレーニング

コグメドジャパンのHPに、ADHD等のワーキングメモリーは、彼らが開発したトレーニングによって改善される旨を書いた文章があったので少し読みやすくして掲載します。-----------------------------------

ワーキングメモリは、情報を数秒間くらいまでの短い時間保ち、処理する能力で、多くの高次の認知機能の鍵となる、誰もがいつも使っている重要な能力です。読んで理解する、計算をする、相手や文脈に即して会話する、作業に集中する、衝動に対して状況を見て抑制する、いくつもの料理を同時に作ることや電話にでながらメールに目を通すなどの同時作業や、最後までの段取りを考えながらひとつひとつの作業をしたり、多くの諸条件の中で最適な答えを見つけるのにワーキングメモリは不可欠です。

知能の中心である一般知能のなかでも、記憶に頼らない問題解決能力または流動性知能や、学校の成績とワーキングメモリについてこれまで多くの研究がなされ、強い関係が明らかになっています。特に注意や集中力とワーキングメモリの関係について従来から多くの研究報告がありました。認知心理学においては、ワーキングメモリの容量をみると、通常群とADHD群でおよそ標準偏差1つ分の差があることが報告されています(Westerberg et al. (2004) Child Neuropsychology)。これは、脳科学的に活動部位が重なっていることや、ドーパミンシステムの関与が示されています。

しかし、従来は、ワーキングメモリは個人の固定した能力として、自然成長以外の方法で改善したり、個人差を解消することはできないと思われてきました。

ところが、スウェーデン、カロリンスカ大学のクリングバーグ教授をはじめとするコグメド(WISC等の版権を持つ英国ピアソン社の子会社)とその創業者メンバーは、ワーキングメモリは伸ばすことが出来るか、そして能力を増したワーキングメモリはそれによって、知能、問題解決力や集中力など関係する能力や行動・症状に影響を及ぼすか(汎化)という研究課題に取り組みました。

このチームは、1999年から2001年まで、脳科学と心理学の知見と、ゲームの芸術を結集してワーキングメモリトレーニングを開発し、ワーキングメモリの改善と脳のネットワークに起きる変化(可塑的変化)を科学的に証明し、結果はNature Neuroscienceに掲載されました。さらに、このトレーニングがワーキングメモリの改善とともに、知能など他の認知機能の改善や、不注意や多動など行動・症状面の改善効果があることを科学的・臨床的に証明し、結果はJournal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatryに発表されました。こうして、クリングバーグ教授らは、ワーキングメモリは伸ばすことができ、知能(一般知能、流動性知能)、問題解決能力や集中力・不注意・多動などへの効果があるという答えをだしました。

読み書き障害向けデジタル教材

Switch『読むトレGO!』1980円の月額レンタル版がスタート。ゲーム形式で学習ができるトレーニングアプリ

2020.12.02 17:30【ファミ通.com】

サムシンググッドは、2020年12月2日より、医学博士平岩幹男監修のトレーニングアプリ『読むトレGO!』の月額レンタル版の展開を1980円でスタートした。本作は、ゲーム形式でトレーニングができるため、勉強に抵抗がある子どもも苦手意識なく取り組めるとのこと。
以下、リリースを引用

ディスレクシア(読み書き障害)、学習障害向け【読むトレGO! for Nintendo Switch】1,980円の月額レンタル版を開始
Edtech企業のサムシンググッド(東京都港区、代表取締役 脇坂龍治)は、2020年12月2日に、ディスレクシア、学習障害向けトレーニングアプリ【医学博士平岩幹男監修 読むトレGO!】の月額レンタル版を1,980円で発売開始致します。

文字を読み書きするのが困難な「ディスレクシア」。日本で小1の段階で100人に2人、小2以上では100人に7〜8人の確率で発覚している、身近な学習障害(LD)のひとつです。

月額レンタルの仕組み
読むトレGO!公式ページからお申し込み頂くだけで、ソフト、チケット、マイクがご家庭に到着。家にいながら平岩先生の「読み」トレーニングメソッドを気軽に受ける事ができます。月額料金は1,980円(税込)。解約はいつでも自由。解約に伴う手数料などもありません。

読み書きトレーニングのベストセラー著者が監修
ディスレクシア向け書籍のカテゴリーでベストラセラーの「ディスレクシア 発達性読み書き障害トレーニングブック」の著者である医学博士・平岩幹男先生がNintendo Switchで行えるゲームタイプのトレーニングを開発したのが「読むトレGO!」です。

理論に沿ったトレーニング
平岩幹男先生が実際の治療でも行っている、1:文字を見て声に出して読む、2:文字を音のまとまりとして認識、3:音を聞いて文字を選ぶという3つのトレーニングの理念がベースとなっています。

すべてのトレーニングを平岩先生が監修。病院の診断を受けるのを迷っている方でも、購入した日からトレーニングが始められます。

音声認識エンジンでゲームのように取り組めます。
テレビに接続し出題される文字を音声で答えます。机に向かうのが苦手なお子様や、教科書やトレーニングブックが苦手なお子様でも、Nintendo Switchで音声クイズのように取り組めるので、苦手意識なく取り組んでいただけます。

実際のユーザーの声を元に開発
普段から平岩先生からアドバイスをもらい文字を読む練習をしているお子様方に、テストユーザーとなっていただき開発。テストは実証実験として行われ論文として発表されました。参加した67%のお子様が1.25倍も読みの速度が向上した結果が出ました。

トレーニングアプリ
トレーニングはゲーム形式なので、勉強っぽくなくスタートできます。Nintendo Swithcなので、寝転びながらや、テレビの前で立ちながらなど、自由なスタイルでトレーニングできるのも特徴です。

教科書やトレーニングブックなどに抵抗があるお子様でも積極的に取り組んでいただけています。

学び直しもしっかり行えます。
ひらがなの読みから漢字まで学びの度合いに沿ってトレーニングができます。

-----------------------------------------

学習は自学自習が一番効果が上がります。人についてもらって学習が進んでいるように見えますが、違う見方をすれば人がいなければ学習ができない姿です。学習に興味があるというより、人に励ましてもらうことが利得となって学習をしているのです。自学自習が成立するのは学習内容そのものに利得があるからです。デジタル教材のいいところは自学自習です。もしも、自学自習ができないデジタル教材を大人が励ましてやらせているなら、その教材自身は少なくともその子にとってはあっていないのです。

放課後デイ再編 子ども本位のサービスに

社説:放課後デイ再編 子ども本位のサービスに

12/19(日) 【京都新聞】

障害のある子どもが通う「放課後等デイサービス」などの通所支援について、厚生労働省が事業所のタイプの再編など制度の見直しを進めている。保護者のニーズの高まりを受け、事業所数、利用者数は近年、ともに急増している。半面、質が低かったり、習い事のような特定のプログラムに偏ったりしたサービスも問題となっている。

支援を受ける子どもの視点に立った見直しとなるよう議論を深めてほしい。

障害児通所支援サービスには、未就学児向けの「児童発達支援」と、小中高生向けの「放課後等デイサービス」がある。関連法の改正で2012年度に制度化された。療育手帳や身体障害者手帳が必須ではなく、発達障害などの子どもも受け入れる。全国で計約40万人が利用している。事業所の設置基準が緩やかで株式会社など営利法人も参入し、子どもが身近な地域で支援を受けられるようになったのは歓迎されよう。

一方で、利益優先の事業者や不適切なケアが後を絶たない。給付金の不正受給や、職員による子どもへの虐待行為も発覚している。サービスの質の向上に向け、厚労省は、事業所のタイプを、運動や認知、コミュニケーションなど多様な面で発達を促す「総合支援型」と、理学療法士によるリハビリなど専門性の高い「特定プログラム特化型」の二つに再編する方針だ。

テレビを見せるだけなどの単なる預かりや、塾やピアノなどの習い事のような支援は公費の支給対象から外すという。ただ、事業所からは「サービスからの除外の線引きはどうするのか」「必要とする保護者もいる」などと困惑の声も上がっている。ジム機能や音楽療法など独自の特徴を打ち出したサービスを提供し、子どもの発達支援につなげている施設もある。適切な支援の在り方について、現場の実態や専門家の意見も踏まえて判断する必要があろう。

国や自治体による継続的な監視、指導も求められる。

今回の見直しでは、サービスの利用上限日数に自治体間でばらつきがあるのを是正する方向だ。現在は、障害の状態などに応じて市町村が判定しているが、平均で月5日しか認めない自治体もあれば、20日以上のケースもあり、不公平感が出ている。このため、全国共通の判定の指標やガイドラインを新たに設けるという。

負担額は、児童発達支援が19年10月から無料化され、放課後デイサービスも原則1割で上限が決められている。学校や自宅との間の送迎を行っている事業者も多く、利用しやすい。そうした背景もあってサービスの需要が高まっているとみられるが、保護者の意向だけでサービスを多く利用することは子どもの主体性を損ねてしまう、との指摘もある。子どもの利益のため、家庭と事業所、計画作成の担当者が連携をより深められる制度を目指してもらいたい。

------------------------------------
地元紙も社説で取り上げるくらいですから、先日の厚労省の検討会議の報告は通常の改定を通り越えた提言だったのだと思います。しかし、まず改定ありきという焦りが見え具体性に乏しいので、地方行政にしてみれば、類型をどこで線引きするのかはっきりしません。放デイ利用者の中に占める理学療法士を必要とする肢体不自由児の絶対数そのものは少なく、最も多いのは発達障害の子どもです。ここへの、専門的なプログラムができるのは理学療法士ではありません。行動療法士や言語聴覚士も必要な職種だとは思いますが、子どもに対応する人材を育てる養成学校は少なく、そもそも児童に対応するにも、教育や保育の専門性に対応した経験をもつ人材は少ないです。いったい何を想定して専門的プログラムと言っているかはっきりしないままです。

放課後デイは、小規模ですから何人も専門家は雇用できないので大きな発達療育センターのように先輩からノウハウを教えてもらう機会もありません。検討会の言っていることは理想的ではありますが、絵に描いた餅とも言えます。専門的な療育を提供するうえで資格は確かに必要ですが、資格があれば適切な療育が提供できるわけではないからです。こうした、専門家周りの環境も同時に考慮していく丁寧さが必要です。そして何よりも、給与が低すぎる事が、専門性の高い人材が集められない理由でもあります。

学習塾と学習障害支援の違いをどう見極めるのかも不明です。そもそも、学習の問題は学校に任せるべきだと言う、発達障害に学習障害が明記されていることも知らないような自治体職員もいる中でこの区別が科学的な視点で行えるとは思えません。学習障害支援は、自前で知能検査や発達性読み書き障害の検査を行ったアセスメントを前提にして、個別に療育の支援計画が実施されていることが最低条件だと思います。こうした障害支援のルーティンを踏まえたうえでの適切な線引きが行われることを期待します。

一番の問題は、9割は税金を使う公的な支援なのに、サービス利用回数があまりにも違う不公平と、その違いについて地方行政が説明責任を果たさないことです。利用者増が先か新規事業者参入が先かは鶏卵の堂々巡りですが、質の良い支援ならニーズに応じてどんどん提供すれば良いのです。児童期の質の良い投資は必ず未来に納税で返ってくるからです。

大事なことは監督する行政が低品質な放デイを認めず、質の高い放デイを優遇する方略を持つことです。国のレベルで言えることはせいぜい専門資格を持つものがいるかどうかまでしか言えません。しかし、現場を知る行政なら、何が適切な支援かどうかは見ればわかるはずです。現場に足を運びマニュアルの字面に頼らない確かな視点が行政に求められています。質が低い放デイがあるのは民間参入が原因ではなく、行政に見抜く力が不足していたと言うべきです。

体力低下

2019年度の全国体力テストでは、小学5年と中学2年の「体力合計点」が低下に転じたことが明らかになった。スポーツ庁はスマートフォンなどに時間を取られ、運動不足の傾向が強まる可能性を指摘し、「さらに体力が落ちるのではないか」と危機感を募らせている。

スポーツ庁はスマホやゲーム機、パソコンなどの画面を見ている時間を調査。平日に1時間以上使っている子どもの割合は、小5は男子83.3%、女子73.1%、中2は男子90.3%、女子87.6%に上った。いずれも16年度より多く、中2女子は6.3ポイント増加していた。同庁では、子どもが運動していた時間が、スマホなどに費やされている可能性を指摘。「小さいうちから使用時間が長くなり、幼児期からの累積の運動時間が減ってきたのではないか」と話し、長期的な影響が及んでいるとの見方を示した。

運動やスポーツの好き嫌いと、スマホ使用時間の相関関係も浮き彫りとなった。小5男子では「嫌い」と答えた児童のスマホ使用時間は「5時間以上」が33.7%で最も多かったが、運動好きな児童で5時間以上は13.7%にとどまった。中2男子もそれぞれ31.4%、9.1%で、女子も同様の傾向が見られた。同庁は運動の楽しさを味わってもらうよう体育の授業を改善する必要性を強調する。授業以外でも「仮想現実(VR)技術で疑似体験しながら体を動かす」といった例を挙げ、運動時間の増加につながるスマホなどの活用を模索すべきだとした。【時事】

運動の楽しさとは、小学生の場合は友達と遊びで身体を動かすことです。大人みたいに、マシーンで筋力アップとか、ランニングして健康度アップして楽しいという子はいません。放課後や休日のわずかな時間、みんなで走り回るから楽しいのです。だから本事業所では、お天気さえよければ、外に出かけます。部屋の中にいてはPCやらタブレットやらの誘惑が強すぎるからです。

本事業所でも山は嫌だ公園は飽きたという子どもは少なくありません。本当は落ちている枝だって楽しい工作物になるし、穴掘りだって遊びになります。水の流れは冬でも惹きつけられるし、堰止めしたりものを流したりして関わりたくなります。そこに仲間がいれば外はなんだって楽しいのですが、そのことを伝えるのは簡単そうで難しいです。

はやぶさ2カプセル帰還

カプセル 7日夜にも日本へ出発

12月07日 07時43分

日本の探査機「はやぶさ2」の、小惑星の砂が入っているとみられるカプセルが地球に帰還し、オーストラリアで回収されました。JAXA=宇宙航空研究開発機構によりますと、カプセルは早ければ7日夜遅くに飛行機でオーストラリアを出発して日本に向かうことになっています。

探査機「はやぶさ2」のカプセルは、日本時間の6日未明、オーストラリアの上空で流れ星のような火球として観測され、地球に帰還しました。カプセルはパラシュートを開いてオーストラリア南部の砂漠地帯に着地し、現地に入っていたチームが回収しました。

カプセル回収を受けて、JAXAは記者会見を開き、「はやぶさ2」の津田雄一プロジェクトマネージャは「ただいま帰ってきました。カプセルは完全な状態でパーフェクトだった。100点満点で1万点だ」と喜びを語りました。カプセルには小惑星の砂が入っているとみられ、JAXAは7日、カプセルの中のガスを現地の本部に設置した装置で分析することにしています。

そして、早ければ7日夜遅くに、カプセルは飛行機でオーストラリアを出発し日本に向かうということです。オーストラリアから日本まで10時間以上かかると見込まれていて、到着後は神奈川県相模原市のJAXA宇宙科学研究所に運び込まれることになっています。

------------------------------------------

6年の歳月をかけて帰ってきたはやぶさ2カプセル。オーストラリアの夜空にその一筋の閃光が流れる動画に胸が熱くなりました。先日のスペースX の感動とはまた違うものでした。別に日本びいきと言うわけではないのですが、あの巨体70mの一段目ブースターロケットが帰還した時よりも、直径40㎝のカプセル帰還のほうがはるかに感動したのは、宇宙ファンとしてはやぶさ2スタッフのチームワークをスペースXよりはよく知っていたからかもしれません。

スペースXは15トン=バス一台分を宇宙に荷揚げしますが、はやぶさ2のカプセルは16㎏。この56万キロかなたの玉手箱と言われるカプセルの中に何が詰まっているのか楽しみです。

発達障害の子が相談に回答…ネットで開設、悩む親に

発達障害の子が相談に回答...ネットで開設、悩む親に「当事者の思い」代弁

2021/12/20 【朝日新聞】

発達障害がある子どもが「先生」となって、同じ特性の子を育てる親の悩み相談にネットで応じる「でこぼコ・ラボ」が、今秋始まった。我が子には聞けない当事者の思いを知ることで、特性への理解を助け、親子間の関係をさらに深めてもらう狙いがある。

「ゲームがやめられず、取り上げるとけんかになる」。発達障害の息子を持つ親が「でこぼコ・ラボ」のウェブページに投稿すると、「先生」から「ちゃんと勉強した時間の分、ゲームができるルールを作る」「取り上げるのではなく、他のもので興味を引く」などの助言が返ってきた。

回答するのは、発達障害の子どもの学習支援教室「よつばCOLORS」(奈良市)に通う児童・生徒約100人。教室のスタッフだった 綾(あや) 美津子さん(53)らが今年10月、親が子どもの気持ちを理解するのを支援しようと、会員制ウェブサービスとして始めた。

背景にあるのは、発達障害のある子どもが周囲の理解が得られにくく、親も孤立しがちという現状だ。綾さんは「親は我が子の特性を自分で何とかしないといけないと、思い詰めてしまう」と指摘する。

全国の自治体では、発達障害の子を育てた経験がある親らが相談を受け付ける「ペアレントメンター」制度を導入しているが、綾さんは「子どもから思いを聞くことで、納得できることもある」と、サービスを思いついたという。

多く寄せられるのは、宿題や不登校など、学校や日常生活に関する悩み。子どもたちの回答は、それぞれの心情や経験に基づいたもので、利用した親たちからは「元気が出た」などの声が上がっている。

回答する子どもは、学習支援教室の言語能力トレーニングの一環として、質問に答えている。回答に「いいね!」と反応を返す機能もあり、「人の役に立てた」という達成感から自信を得る効果もあるという。

 綾さんは「子どもたちもしっかりと考えていることを知ってもらい、子どもの主体性に任せてみようと思ってほしい」と期待。発達障害に詳しい楠凡之・北九州市立大教授(臨床教育学)は「子どもの意見を聞くことで、我が子への見方や関わり方を冷静に振り返る機会になる」と評価している。

会員登録は無料。問い合わせは「でこぼコ・ラボ」を運営する「アンラベル」(06・6136・5609)。

発達障害  脳機能の障害で、対人関係を築くのが苦手な「自閉症スペクトラム障害」、衝動的に行動しがちな「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」、読み書きや計算が難しい「学習障害(LD)」などがある。「こだわりが強い」「順番を待つのが難しい」などが特性。文部科学省の2012年の調査では、公立小中学校の通常学級に通う児童生徒の6.5%が、発達障害の可能性がある。

---------------------------------
事業所の中でも、大人にとって困った子ども行動の原因を、あれこれ大人の立場から話し合うのではなく、本人はどう思っているのか聞いてみるようにしています。とても、いい取り組みだと思います。もちろん、回答する子どもは当事者ではないので確実な答えではないけれども、子どもがどう考えるのかという視点に立ち戻れるので、とても参考になると思います。

回答する子どもは子どもで、親と言うものはそんなことを心配したり、考えたりするものかと第3者的な支援で考える事ができます。普段は自己フィードバックの弱い子どもで、家ではうまく行かない事でも、このサービスでは上手く回答できるかもしれません。そういう意味で双方で学び合えると言う対等の関係がとても素敵だなと思います。

こうした関係は、事業所内でも作れたら良いなと思います。利用者の親子の考えていることが全然違う事は良くあることです。これは別に障害のありなしは関係ないことですが、親同士で話すと少し客観的に子どもが見られたり、子ども同士で話し合うと「うちの母親もいっしょや」という共感も得られます。それが他人の子だが、よく似た特性の子どもならその論理は参考になるし、腹を立ててばかりいたのが冷静に見られるなと思います。こんな素敵なシステムを考え出した綾さんも素晴らしいと思います。

記憶障害

発達障害の記憶の問題をあれこれ書いてきましたが、老化していく人にも個人差はあるけど記憶の問題が横たわっています。名前が思い出せず、事物の現象を概念化した言葉がなかなか思い浮かばず、「あれこれそれ」と指示代名詞が多くなってきます。厄介なのは、物忘れによる思い違いです。これは周囲の人も巻き込むので影響が大きいです。記憶が衰えないという人は数少なく、多くの人は記憶の問題が年齢とともに進行します。

これを予防するのは難しいですが、記憶障害の被害を最小限に抑える方法はあります。IT機器が記憶の代行をしてくれるように自分の生活や作業パターンを変えることです。自分の記憶を信用せずデジタルデバイスに記録されたものを頼りに生きていくのです。こう書くと味気ないですが、若年層で記憶の課題を抱える高次機能障害の方等で、うまく生きている方はこの方法を多用して生きています。ただ、老化によって思考の柔軟性も落ちてきているので、これまでのやり方が変えられない方がいますが、それは周囲の方の構造化支援によってIT機器を使わざるを得ない環境に仕向ける協力が大事です。

一般的に、「記憶障害=物忘れ」だと思われがちですが、記憶障害には物忘れ以外にもたくさんの種類があります。記憶とは、外からの刺激(経験)を情報として脳にインプットし、脳内に残しておいて、必要に応じて思い出すことです。記憶には、短時間だけ覚えておく記憶、長期間保持される記憶、出来事に関する記憶、知識に関する記憶、運動や技術に関する記憶など、様々な種類があります。

記憶は、主に記憶のプロセス、記憶する期間、記憶の内容によって分類されます。
記憶のプロセスによる分類:記銘、保持、想起
記憶する期間による分類:感覚記憶、短期記憶、長期記憶
既往の内容による分類:陳述記憶(エピソード記憶、意味記憶)、非陳述記憶

記憶は、記銘、保持、想起という3つのプロセスに分類され、それぞれの段階で記憶障害が起こります。記銘とは、外からの刺激(経験)を感覚器官で知覚し、情報として脳に送ってインプットする段階です。記銘が障害されると、情報が脳へインプットされないため、脳内に記憶が残らず、思い出すこともできません。つまり、「経験そのものを覚えていない」という状態です。認知症を発症すると、新しいことを記銘することが困難になり、経験そのものを忘れてしまう(そもそも情報を脳にインプットしない)ようになります。保持とは、送られてきた情報を脳内に保存しておく段階です。記憶は、想起されないままだと時間の経過によって薄れていき、思い出しにくくなります。また、他の記憶とごちゃ混ぜになって保持している記憶が変容し、元の刺激とは異なる情報が想起されることもあります。想起とは、脳内に保存された情報にアクセスし、その情報を思い出す段階です。想起が障害されると、脳内に保存された情報にうまくアクセスできず、思い出すことができなくなります。一般的な物忘れは、覚えていたことを思い出せなくなるという現象で、想起の段階がうまくいかないことで起こります。加齢による物忘れで多いのが想起の障害です。

記憶は、記憶する期間によって感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3つに分類されています。
また、長期記憶については、記憶の内容によってさらに陳述記憶(エピソード記憶、意味記憶)と非陳述記憶(手続き記憶)に分類されます。いずれの段階でも記憶障害が起こります。

感覚記憶とは、目、鼻、耳などの感覚器官に刺激が入力された時に一瞬だけ保持される記憶です。感覚記憶のうち、注意が向けられた情報だけが短期記憶に保持され、他の記憶は意識すらされないまま消失します。感覚記憶が障害されると、そもそも周囲の刺激に気づかず、注意を向けることがなくなります。

短期記憶とは、感覚器官に刺激が入力された後、数秒から数十秒間だけ保持される記憶です。最近は、作業に必要な間だけ覚えておく記憶という意味で、ワーキングメモリー(作業記憶)と呼ばれる記憶も含めていうようです。短期記憶は、短時間だけ記憶されるという時間的な制限に加え、短期記憶として一度に保持できる容量にも制限があることが分かっています。例えば、計算途中の数字を記憶しておいたり、電話番号を確認してダイヤルするまで番号を覚えておいたりして、必要なくなったら忘れるのが短期記憶です。短期記憶が障害されると、計算や料理など複数のことを頭の中に留めながら作業することも困難になります。

長期記憶とは、数分間から一生まで長期間にわたって保持される記憶です。短期記憶と違い、容量制限がないことが特徴です。なお、神経学上は、記憶を保持する期間が数分から数日程度の近時記憶と、それ以上の遠隔記憶に分類されることもあります。長期記憶は、記憶の内容によって、エピソード記憶、意味記憶、手続記憶に分類されます。

エピソード記憶とは、経験した出来事に関する記憶です。エピソード記憶は、経験した出来事そのものに加え、時間、空間的文脈、身体や心の状態も記憶しているという特徴があります。例えば、「昨日、○○のことで、△△の、メモをした」、「普段は○○だけど、今回は△△に変えた」などの記憶が、エピソード記憶です。エピソード記憶が障害されると、経験したこと(エピソード)を忘れて行動してしまいます。ひどくなると自分の家族との思い出などをエピソードに付随する情報と一緒に忘れてしまい、話がかみ合わなくなります。

意味記憶とは、物や言葉の意味、対象同士の関係性、社会のルールなどに関する記憶です。意味記憶は、同じ経験を繰り返し積み重ねることでできあがり、エピソード記憶のように記憶した時間や場所などの情報は残りません。例えば、キュウリという単語の意味に関する記憶(大きさ、色、形、味、野菜に分類されるという知識など)が、意味記憶です。意味記憶が障害されると、人や物の名前や意味などを忘れてしまうため、「これ」、「それ」、「あれ」などの指示代名詞が多くなり、会話による意思疎通も難しくなります。

手続記憶とは、学習や練習を繰り返して身につける技術などの記憶です。手続記憶は、一旦記憶ができると無意識のうちに機能するようになる上、長期間にわたって保持されるという特徴があります。例えば、サッカーをする、泳ぐ、ギターを弾く、絵を描く、自動車を運転するなどの記憶が、手続き記憶です。認知症による記憶障害では、手続記憶が失わることはあまりなく、失われたとしても軽度に留まる傾向があります。

認知症による記憶障害は、まず、近い時期の出来事に関する記憶から障害されていきます。新しいことを記銘できなくなって、つい先ほどの経験したことを「まるで経験していないかのように」忘れるようになり、症状が進行するにつれて、過去にさかのぼってエピソード記憶や意味記憶が障害されていきます。手続記憶については比較的維持されますが、加齢による運動機能の低下により、「覚えていても実行できない」ことが増えていきます。

認知症による記憶障害への対応は、薬物療法による治療と、家族や周囲の人の関わりが重要です。認知症の記憶障害は進行性であり、症状を完全に治療する方法は見つかっていませんが、薬物療法によって症状の進行を遅らせることはできます。医師が処方した薬を用法用量を守って正しく使用できるように周囲の人が協力します。

認知症の人は、記憶障害の自覚はありません。周囲と話がかみ合わなくなるにつれて「何となく変だ。」という感覚を抱くようになりますが、自分の認識している世界が周囲の人と違うことには気づかないため、周囲の人が客観的な事実を伝えても受け入れようとしません。それどころか、「周囲の人が嘘をついている」、「自分をだまそうとしている」、「自分のことを否定された。」などと感じ、被害感や不満を募らせていきます。そのため、一旦は客観的事実を置いておいて、本人の意見や気持ちを受け止めてあげることが大切です。また、毎日のスケジュールを紙に書いて目立つ場所に貼っておく、新しいことを覚えてもらうときは何度も繰り返し伝える、身振り手振り、図示など、本人が記憶障害によって日常生活に支障を感じずに済むよう配慮することも欠かせません。