すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:約束

古墳に行けるかな?

 支援学校中学部のIくんは、誰にでも話しかけてフレンドリーな性格。ただ、話しかけるときに相手との距離が近すぎたり、相手が活動中でも話しかけるなど相手の状況が見えなかったりで、適切に話しかけられるようになることを課題にしています。

 そういうことが見られたときは、近くにいる職員が話しかけるときに気をつけることを伝えるのですが、なかなか積み重なりません。やはり友だちが大好きなIくんにとっては、マナーを守ることの意識よりも、友だちに話しかけたいという気持ちが勝るのかもしれません。また、言葉だけでは意識しづらいため、視覚的に分かる方がいいのでは、と職員間で話しました。

 そこで、I君本人が目標に対して自分で考えて動けるようになれたり、目標を意識しやすくなったりためのツールとして「古墳行けるね表」を作りました。

I君は古墳巡りが好きなので、古墳やはにわをモチーフに作成しました。

①    友達や職員とちょうどいい距離で会話や活動ができた(距離が近くなりすぎない)。

②    遊び道具や活動の準備・片付けができた。

③    帰る前に職員と一日のふりかえりができた。

の目標1つができるたびに、はにわカードがゲット! はにわカードが3つ貯まると次回、すてっぷに来た時に古墳に行けるようになるというものです。

 職員がこの表のことをIくんに説明すると、Iくんはよく理解して、はにわカードの実物を見て喜びながら「頑張る。できそう。」と意気込んでいました。さてI君は、目標を達成できて、古墳にお出かけできるのでしょうか。また紹介したいと思います。

 

信頼関係を作るとは?

Tちゃんが、怒ってヘッドホンを破壊したと報告がありました。理由を聞くと、Tちゃんのスケジュールを無視して公園に連れて行こうとしたのが原因です。何故スケジュールを無視したのか聞くと、タブレットで遊んでばかりさせないで公園で体を動かした方が良いと職員が思ったからだそうです。そして、ヘッドフォンを壊した後はやり直し行動(別の穏やかな方法を教える)もさせなかったと言います。不適切な行動をしたTちゃんには、エラー修正より謝らせることが大事だと言いたそうです。

これをTちゃんの視点から考えてみます。「通所してきたら先生がスケジュールを示して今日の内容が分かったので嬉しいな。他の場所では、何が起こるかわからないので、好きな事だったらいいけど突然嫌なことが始まるとドキッとしてムカムカするからいやなの」「今日は公園に行って遊んで、帰ってきておやつを食べて、タブレット遊びだ、わたしタブレットで踊りの動画見るの好きなんだ楽しみー」。

タブレットで動画を見ていると突然職員が公園に行こうと言います。「えーっ!来た時にスケジュールでタブレットって約束して貼ってあるじゃん。なんで約束やぶるのー?しかも突然だし、交渉もないし、あムカムカしてきた!えーい ヘッドホン潰しちゃえ!」

「なんか外に連れ出されてヘッドホン潰したらだめっていうけど、ごめんなさーいって言ったら中に入れてくれた。そうか、ごめんなさーいと言うと中に入れるんだ。いいこと覚えたっと」「ヘッドホン潰したら、またタブレットで動画見る事ができたよ。うれしーなー。これから、タブレットを止めさせられてムカムカしたらヘッドホン潰せばいいんだ」

私たちは、子どもとの信頼関係を結んでこそ療育成果があがるとよく言います。子どもとの信頼関係とは指導者の一方的な思い込みではありません。子どもとの約束を守る中でしか信頼関係は結べません。大人が一方的に決めるのは約束ではないのです。子どもに説明し子どもが理解をしてこそ約束なのです。どんなに素晴らしい療育も子どもとの信頼関係が崩れてしまっては効果は上がりません。逆にやればやるほど子どもの信頼を失います。スケジュール指導は子どもとの信頼関係(お互いの約束・交渉)の中で成立するものですし、ASDのスケジュール表は信頼関係そのものと言っても過言ではありません。

約束は守る

言葉のないQ君が通所してきたので、これからすることを伝えました。絵カードで「公園」「ぶらんこ」と「事業所」「おやつ」を示して、公園でブランコした後事業所でおやつにしようという意味です。

公園に行くと、ちょうど雨が降った後だったので、ブランコの下に水たまりができてブランコができずに事業所に帰ってきたそうです。それでは、別の公園でブランコしてきたらどうかと他の職員が指示したそうです。

すると、Q君は事業所を少し出た道路で座り込んでしまいました。それをなだめすかして他の公園まで連れて行きブランコをして帰ってきたそうです。道路に座り込む理由はこの経緯を考えれば明確です。もしもQ君が喋れたらこう言うでしょう。「公園に行って帰ってきたらオヤツだって示したのに、なんでやね~ん!」です。

「いやいや、それはブランコの下に水が溜まってから遊べなかったので、ブランコができる別の公園に行こうとしているわけで・・・」そんな理屈は、すでに事業所に帰ってきたQ君には理解不能です。変更の交渉もなく無理やり連れて行かれたという理解になります。「だから大人は信用できない」とQ君が思っても仕方ないです。

絵カードを示すと言うのは言葉で約束したことと同じです。言葉のわかる子に「公園行って帰ったらおやつにしましょう」と言ったなら、必ず変更の際には、「ごめーん、他の公園行ってからおやつでいいかな?」と聞くはずです。あるいは「なんでやね~ん」と子どもが怒ったら説明して交渉をしたはずです。

言葉だろうが絵カードだろうが約束は守るもので、変更が必要なら交渉するのが世の中のルールです。もちろん変更の交渉をしたからといって、納得してくれるかどうかは分からないですが、それはどの子も同じです。言葉がわからないからこそ、「絵カードを示す大人は信用できるよ」と思ってもらえるように、約束は大事にしてほしいと思います。

 

知らんし…

P君が、以前、パソコンで遊ぶ時間はタイマーで決めようとスタッフと約束(契約書)したのにタイマーをかけずに遊んでいました。スタッフから「一緒に約束したことなのに契約違反だよ」と指摘されているのに、P君が「知らんし」と言ったので、「契約書もあるのに、その言い方はないだろう」とスタッフが叱ったという報告がありました。

契約書を作るのは、P君が約束そのものを忘れてしまうので作るのですが、今回のP君の「知らんし」発言は二つの意味があります。「約束を忘れてたのだから、その場面では知らなかった」「契約書を見せられたら、思い出したけど、だからどうしたらいいか知らない(わからない)」ということです。スタッフが思うほど、指摘したスタッフへの挑戦的な気持ちは、P君にはさらさらなかったと思います。

P君に悪意はないと思われるので、叱るのではなくエラー修正でいいと思います。「知らん」というのではなく「忘れてごめんね」「忘れないようにするにはどうしたらいいか一緒に考えてほしい」と言えばいいことを教えることです。併せて、指摘してくれた時に「知らん」というのは相手を誤解させるからNGワードだよと教えればいいと思います。真意を伝えるコミュニケーションは双方難しいものです。