すてっぷ・じゃんぷ日記

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フラッシュバック?

みんなで向日神社に初詣に行きました。小学生が真剣に手を合わせている姿をみると微笑ましいです。神社の参道はいつもは静かなものですが、さすがにお正月期間は人出も多く、ざわついた感じです。するとB君が1年ぶりくらいに走り出しました。B君の注意喚起行動は以前は毎回のようにあって、職員の注目がなくなると事業所を抜け出して、近所のマンションのエレベーターを目的に逃げ回ると言う行動です。

このB君の行動は昨年の今頃を境にして消滅していました。職員が対応を変えたからです。それまでは、自立を目的に自分のスペースで余暇を過ごしたり自立課題に取り組んだりという大人の注目を減らす取組でした。でも、B君は注目が欲しいのですからこの方略では利得がありません。たしかにサイダーやラーメンは好きですが、強化子が大変少ないのでいつもサイダーやラーメンと言うわけにもいきません。

最大の強化子が大人の注目なのだからと思い切って彼の適切な行動はどんどん注目するという作戦に変えたのです。結局、逃げないようにマンツーマン体制が必要なら、積極的にマンツーマンを生かしていこうという作戦です。作業や課題ができたら必ず褒めるというただそれだけの事ですが、大変効果がありました。要するに私たちは、もう中3なんだから自立してよと突き放すことが多かったのですが、彼にしてみれば中学だろうと高校だろうと無視しないでよと言いたかったのだろうと思います。

良い行動に良い注目のサイクルが出来上がると、B君の飛び出し行動がピタッとやみました。お手伝いや身の回りの準備など適応行動も増えていき、B君は注目は逃げなくても得られるとわかったようです。この実践例は私たちも大変うれしかったのと、目からうろこの実践だったので、昨年の成功例の中でも何度か繰り返し報告しています。

今回の参道での飛び出しは、神社の警官詰め所の中にエレベーターが見えたのが大きな原因なのと、お参りの人出の喧噪で周囲がやかましいと言う不快感がかつての不適切行動をフラッシュバックさせたのかもしれません。他にも年末お正月をはさんでの初めての通所で新しい職員がついているというのも少し緊張感があったのかもしれません。エレベーター室が施錠されていたのと、職員も派手に追いかけるという対応をしなかったので事なきを得ました。

フラッシュバック行動のあるASDの子どもは他にもいますが、今の文脈とは全然関係ないのに、不快感情が生じると繰り返してしまうのは本人もつらいだろうと思います。適切な社会行動を増やし安心して過ごせる環境の準備と、不快な事も表現できる表出コミュニケーションのトレーニングを積み重ねていくことが最も効果的だと思います。ただ、道のりは長いです。伴走者としての支援者の腕の見せ所です。

 

 

フラッシュバック

ASDの人にはフラッシュバックを起こしやすい人がいます。多くは驚いたり、怖いことがあった時の感情や行動がずっと残っていて、何かの拍子に繰り返してしまうのです。厄介なのは、結構困った行動が多いのです。おそらく、きつく怒られたか何かで驚いた経験として行動も一緒に保存されるようです。不適切な行動を起こして怒られて驚いているので、不適切な行動と驚きや不安な気持ちがセットになってフラッシュバックするのです。

Rちゃんは車道に飛び出して車を急停車させたそうです。本人も驚いたのだと思います。その後見通しがなく不安になったり同じシチュエーション(道路が見えると)になると、わざわざ飛び出そうとします。怖かった思い出が危険行動に結びつくのです。言葉がわかるようになってくると認知行動療法やEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)等の心理療法で軽減できるといいます。

従って、年齢が低かったり、言葉が十分に理解できないASDの子どもの場合は予防が大切です。イギリスの自閉症協会の提唱するASDを育てる基本理念の【SPELL】は、Structure=構造化、Positive=肯定的な関わり、Empathy=共感、Low arousal=低興奮・低刺激、Link=連携です。不適切行動も含めフラッシュバックの予防には、この5項目に勝るものはありません。

フラッシュバック

X君がしくしく泣いています。どうしたの?と聞くとPECSで「悲しい」「泣いています」と叙述のフェイズ6でしっかり応えてくれました。ただ、原因が思い当たりません。PECSのフェイズ6は叙述ですから、「なぜですか」にも対応はしていますが、ASDの彼にそこまで深掘りして叙述を求めることはないので応えてはくれません。

ただ、これと言った理由がないのかもしれません。感情のスリップ現象とかフラッシュバック現象などと表現されますが、言葉のある高機能の人でも昔感じた負の感情が何かの拍子にわっと押し寄せることがあるといいます。それは酷くいじめられたり、嫌な事や意味の分からないことを強く押し付けられた時の感情だと言います。従って、周囲の人は、そっとしておくしか方法がありません。

「悲しいです」とPECSで教えてくれたX君は、今日もやっぱりトイレで気持ちを切り替えてから、10分後鼻歌を歌いながら帰りの車に乗り込みました。