すてっぷ・じゃんぷ日記

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計画的無視の誤解

応用行動分析で使う「計画的無視」について誤解されていそうなやりとりを目にすることがあります。というのも、なんとなく「無視だけで問題行動が収まる」かのように誤解されている方が多いのです。A君がイライラしてものを投げているのに無視。Bちゃんがスケジュールカードの意味が分からなくて床に落しているのに無視、などです。その結果、「無視は効かない」「あの子には合わない」と結論づけたとしたら、それは計画的無視を誤解していることが原因です。

「計画的無視」は、名前が有名な割に単独で主力になる場面はそんなに多くありません。少なくとも、無視だけで効果を出そうとすることはあまりないです。なぜなら、無視のみでは重要な視点が抜けている上にリスクもあるからです。計画的無視というのは基本的に「それはダメだよ」ということを伝える側面が強いです。しかしそれだけでは「じゃぁ何はOKなのか」が伝わりません。そのため、「こうすると良いよ」の部分をきちんと伝える視点が大事です。子どもが低年齢だったり自閉傾向が強かったりすればするほど非常に重要な視点です。

応用行動分析でいう「何がOKかを示して促す」というのが、歌で言えば『こっちの水は甘いぞ』と比喩できます。そして、『あっちの水は苦いぞ』に当たるのが応用行動分析で言う「計画的無視」なのです。この二つの対応のコントラストが効けば効くほど、無視されるような行動よりは、褒められたり要求が通る行動に移っていくことを狙っているのです。要するにやる事(お得な事)がわかってないのに無視しても意味がないのです。

例えば、事業所の集まりの時間などで、「がおー!!」などの奇声をあげて注目が得られている状況では、「不適切場面での奇声は相手にしない」のような方針が出てきます。そうして何をどうやって無視するかといったことが議論されます。勿論これでも「無事にやりきれれば」効果は出るでしょう。条件次第で万事解決も十分あり得ます。しかし、極端な話、これでうまくいってもそれは「たまたま」や「子ども頼み」に近いと言わざるを得ません。

計画的無視のみで対処することには以下のような最低3つのリスクがあります。
①最終的には収まるが、無視を始めて一旦奇声が悪化する際の程度が激しい(→踏ん張れないとエスカレートの危険)
②奇声はなくなるが他の問題行動が出る
③本人にはきつそうで自傷や通所しぶりなどがみられる
等です。

そこで、そうしたリスクを下げつつ更に成功率を上げるため、先程の「何ならOKかを示す」という視点から一工夫加えます。「奇声は相手にしないけど、その時の話題に関係のある話だったら少し譲歩してでも話を拾う」この後半部分が、「じゃぁどうしたらOKなのか」の視点による対応です。むしろ、実際はそちらがメインで、【無視はあくまでサブ・補助】と考えた方が良いです。

大きなポイントは以下の3つです。
ポイント①:「これならOK」とした行動は本当に今の本人にできそうなものか
ポイント②:特別扱い過ぎないか。自然に認められる範囲を逸脱しすぎていないか
ポイント③:その行動をして本人にとってのいいことはあるか⇔ただ大人側に都合の良い行動をさせようとしていないか

もし、相談機関など専門家に【問題行動を無視することばかり強調された場合】にはぜひ「代替行動(だいたいこうどう)についてはどうしたら良いですか?」と聞いてみましょう。「代替行動」というのが先程の「何ならOKか」の部分にあたるものです。おそらくこれを聞けば、今回の話にあたる内容を説明してくれると思います。逆に言えばこれを検討もしていない専門家だとすると、それはちょっと心配な方です。