すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:ワークシステム

「ただいま!まずはくつ!」

 すてっぷでは、帰ってくる子どもたちに「おかえり」と声をかけています。「ただいま」と答える子どもはすてっぷではそう多くありませんが、あいさつをする子はあいさつをし、到着後の活動に入っていきます。帰ってきた子はまず、靴を脱いで靴箱に片づけます。次にICカードをタッチして出席確認をして、かばんから連絡帳を取り出してかごにしまいます。最後にかばんも棚に片づけ、自分のスケジュール確認に向かいます。子どもによっては順番が変わるかもしれませんが、これらのことは到着後にしてほしいこととして職員から子どもたちに提示しています。このとき、すてっぷでは子どもが自立的にできるように、到着後にすることをイラストと文字で視覚的にわかるようにしています。これが以前から紹介しているワークシステムです。

 このワークシステムの表ですが、最近新しく2パターンのものを作ってみました。1つは、することを一つずつ1枚にイラストと文字で描き、リングでまとめて1枚ずつめくれるようにしたものです。すてっぷではおやつ作りや工作をするときの手順書を、これと同じめくり式にしていました。もう1つは、上からすることが並んでいるのですが、一つずつカードにして、輪ゴムでくくるように固定することで、1つ終わるごとに1つずつめくれるようにしたものです。めくったらカードの裏が白紙なので、せっかくだからとはなまるのイラストをつけてみました。

 新しいワークシステムの表を作ってから1か月ほど経ちましたが、変化が少しずつ見られます。Kさんは以前の表だと流れがわからず、職員が先に示すことで、次の活動に向かっていました。ですが今はめくり式を使っていて、靴を片付けたら靴のカードをめくって、次の活動を確認。ICカードだとわかって、ICカードを取りに行きます。その後も一つずつめくって次の活動に向かうことを繰り返し、職員が何もしなくても、自分だけですることを全て終えられるようになりました。またLさんは、以前の表でも流れを理解しているようでしたが、他に興味を持ったことにどんどん転導していきます。結局は職員が表ですることをLさんと一緒に確認しながら、Lさんが終えるまで側にいるという形で、到着後の活動をしていました。それが一つずつめくってはなまるが出てくる表にしてみると、Lさんは打って変わったかのように、自分から次の活動に向かいます。そして終わったら「はなまる」と嬉しそうにカードをめくります。はなまるが出てくることを楽しみに、自立的に到着後の活動ができるようになったのです。

 普段使っているワークシステムの表でも、振り返って評価してみることで、子どもがうまく活用できていないことに気づけます。「PDCAサイクル」(Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(確認)→ Act(改善)の4段階を繰り返して業務を継続的に改善する方法)という言葉が「放課後等デイサービスガイドライン」にも載っているように、福祉の現場でも意識されています。今回は改善からの計画、実行がうまくいったというケースでしたが、また次の確認のため、職員で振り返りと評価をしていきます。

おやつのワークシステム

小学生のグループ指導でのおやつタイム。じゃんぷのおやつタイムは、栄養補給や休憩という意味合いより、自己選択やコミュニケーションの指導の機会です。とはいえ、子ども達にとっては楽しみなひと時。皆、このときばかりは遊びからの切り替えも良く、イソイソと用意をしてくれるのですが。自分のお皿を取って、水筒を用意して、おやつを選んで、手の消毒も…。と、おやつの準備には意外にたくさんすることがあります。

…となると、待っているのは、それぞれの動線が錯綜する、ぶつかる、腕が当たる、順番の小競り合いになる、手順が抜ける、気が逸れる…おやつが口に入るまで、長い道のりです。コロナ禍の中、接触が増えるのも避けたい。消毒など、忘れてほしくない手順もあります。

そこで、おやつの準備が、子ども達にわかりやすく、スムーズにできるように、ワークシステムを導入しました。といっても、用意したのは、机の上に敷ける布製の長いキッチンマットだけ。そこに、左から右に数字を書いて、準備の順番を示しました。あとは、実際に使うものを、そのマットに並べるだけ。このアイデアは、以前、TEACCHプログラムのインストラクターの方が講師をされた講習会で、『コンテナ式』というやり方を聞いたのをアレンジしたものです。就労支援などでもよく使われているそうです。

これは、子ども達にとてもよく理解してもらえ、①消毒 ②お皿を取る ③自分の水筒を取る ④おやつ選び、という流れが、順良く、抜けず、スムーズにいくようになりました。指導員の注意や声かけも激減し、自立的な準備場面になりつつあります。実際には、④番の、箱に入ったおやつは、指導員と一対一でチケット引き換えで選択してもらうので、4番目の手順というよりは、『終わったら次に何をするのか』というワークシステムの4つ目の要素、次の見通しのための手がかりとなっています。子ども達は、④におやつの箱が置いてあるのを見ると、『最後はおやつを選ぶのだ』とわかって、座って静かに職員の説明を待っています。

準備に余裕が出来たので、最近は、トークン制で“お手伝い”もしてもらっています。布の上に並べる物を、元の場所から集めてきてもらったり、机ふきをしてもらったりしています。布の1枚で楽に準備できるワークシステムは、準備する側にも、準備してもらう側にも、とても便利だなあと思いました。

支援の流儀

Cちゃんの登所時の様子を報告してもらいました。絵カードを示して「靴入れて」「カバン入れて」の指示をするけど、ちっとも従わないので、声をかけすぎかと思うと言う報告がありました。「でも、Cちゃんは、帰りの用意はカバンに連絡長を入れたり、着替えを片づけたり、なんでもできるんですけどね」と帰宅用意が自立しているのに、登所で自立してないのは不思議だというふうに報告されます。

帰宅行動は絵カードを見て準備しているのではありません。保育所で教えてもらった通りのルーチン行動が身についているのです。ところが、登所場面、好きなことに目が行くようでちっとも定着しないのです。おそらく、保育所時代から登所場面はモデルになる子どももいないし、保護者が対応するので、教えられなかったのではないかと思います。

そして、繰り返しの行動で身に着いた習慣と、ワークシステムを見ながら自分の行動を統制するのでは意味が全く違います。後者は視覚認知の力や今やりたいことを保留して行動する自己統制の力が必要です。その際に注意しなければならないのは、声掛けも絵指示も、ひとつづつ大人が従わせようとするなら、言葉で言っているか絵で指示しているかの違いだけで、従わせられると言う本人の気持ちは同じだという事です。

ワークシステムは自立性を目指します。そうであるならばフェードアウトの方法まで考えて教える必要があります。身体プロンプトで目の前のワークシステムを指ささせて行動するようにします。そうすると声掛けは少なくて済むし、大人の介入も黒子のようになって最小限で済みます。

将来の自立した姿を思い浮かべて、最初は靴入れ程度だけど、これが学習や作業場面に応用されて、自立して行動できるようにすることが目的だと考えれば、小さな子どもへの支援の仕方も変わってくると思います。これがプロフェッショナル支援の流儀なのです。

 

嫌な課題をスケジュールから捨てる子

V君がペットボトル処分の作業に取り組まず、タブレットでユーチューブの動画を見ていました。スケジュール(V君は修行中でまだ2課題程のワークシステム)を見ると、「作業」カードが終了箱に落とされていました。ユーチューブが終われないというよりもう少し手が込んでいて、作業のカードを落として、なかったことにしいるのです。これはスケジュール支援のあるある事件です。

嫌なカードをスケジュールから落としてしまうのは、大人との交渉・約束の意味としてスケジュールを理解していない典型例です。報告してくれた職員は、作業が嫌なのかと思いペットボトル作業ではなく、自立課題でマッチングの簡単な一課題を作業の代わりにさせたと言います。つまり、ペットボトル処分作業が嫌ならこの短時間で簡単に終わる自立課題はどうですかという交渉をしたわけです。

それって、正しい交渉なのかという意見が出てきました。つまり、V君は動画がやめられなくて「作業」のカードを落とせば作業はしなくて良いと認識しており、ここは交渉ではなく「嫌です」表現を職員に向かって行うように教えるべきではないかという意見でした。嫌ですを大人に表現したうえで、あれこれの交渉が始まるのではないかということです。

その通りですが、この場合は動画が終われないだけの事で、本質的に作業が嫌なわけではないかもしれません。それなら、ワークシステムに「ペットボトル作業」の後「タブレット」を入れて交渉すれば、理解できたのではないかとも思います。「嫌だ」は、段階を追わないと子どもが混乱する事が多いので、計画的に教えます。

拒否は具体物を示したときに首を横に振ったり手で払いのける行動から教えていきます。確認したスケジュールを変えると、スケジュールカードとコミュニケーションカードの使い方で混乱することがよくあるので、最初からは教えません。スケジュールの変更を教えるのは、「お楽しみ」の時間に選ぶ行動や「変更します」の場面でいつもと違う事をその場で入れる等して段階を追って徐々に教えます。

V君は週に1回しか来ないので、課題は見えるのですが段階を追った支援で目標にたどり着くのはなかなか難しいですが、家庭と連携すれば学びは早まると思います。

 

就労支援

P君にASD(自閉スペクトラム症)の子どもたちに使っているジグ(作業を進めやすくする補助具)を使って自立課題に取り組んでもらいました。「できました」と言ってくれたので点検すると、不揃いな「完成物」が出来上がっていました。使った課題はボルトワッシャーナットをビニール袋に入れる20セットほどの組み立て包装です。

あっちの袋にはワッシャーが2枚入ったセットやら、こっちの袋はナットが入ってないセットやらでバラバラでした。完成品モデルは目の前に示していたし、何回かセット方法は教えはしたのですが、やっているうちになんとなくイメージで作ってしまった感じです。これはASDの子どもたちにはほとんどない間違い方ですが、短期記憶が弱く注意集中が持続しにくい人たちにはよくある間違い方です。

P君は人懐っこくて、指示に対しても「はい」と丁寧に答えてくれる高等部生です。簡単なものであっても作業が正確にできることは就労に結びつきつきます。これからP君に合いそうなジグやワークシステムを工夫して就労に結びつくように支援していきます。

主体性を育てるワークシステム

H君がワークシステムを途中で投げ出してしまい、やろうとしないという報告がありました。40ピースほどのピクチャーパズルをやろうとしないので6ピースのピクチャーパズルをかわりにやってもらったというのです。確かに、H君にとっては毎日同じピクチャーパズルは飽きたのかもしれないし、6ピースでもやったからいいじゃないかという見方もあります。

私たちはワークシステムで何を教えたいのか?H君にはどうなって欲しいのかという事を抜きにして、できたかできないかということを議論しても意味がないのです。私たちがH君に望んでいることは、今日のスケジュール内容についてやれるかどうか最初にご褒美も含めて選択し、選んだものは自立的主体的に完成させて達成感を持って欲しいのです。大人が選んだものを機械的にやれば良いとは考えていないのです。

例え構造化して視覚的にやる事がわかっても、やっている意味が分からなければ子どもはワークシステムにやがて従わなくなって当たり前です。しかし、せっかく理解したシステムなのに、本人が途中で投げだしたからと言って、スタッフが忖度して簡単な内容にしてしまうというのは、ワークシステムを続ければいいというスタッフ側の論理であって、そこで彼が何に困っていたのかはわからないので問題は解決しません。

ワークシステムはASDの子どもにとってたいへん便利なシステムですが、「仏作って魂入れず」のワークシステムは子どもの困り感を覆い隠してしまいます。