すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:ASD

届かないカード

PECSのフェーズ2は、コミュニケーターが子どもから距離をとってすぐにはカードが渡せない設定で、カードを渡しきるトレーニングです。Lさんは、今まで渡していた机の幅が広くなって、スタッフまで手が届かなくてあと30cmを要求カードを指で飛ばして渡そうとしました。

ASDの対人関係障害に関するスタッフの理解は、こういうときに試されます。「Lさん、うまいこと考えたね~!」なのか「う~ん、表出コミュニケーションは簡単じゃないね」にわかれます。

この場合は、プロンプター(子どもの後ろからハンドリングする人)が身体を押して立たせて腕をもってあげて渡す行為を手伝います。ただ、机が障害になって立つことが分かりにくいので、机の角を使って立って渡しやすくします。徐々にプロンプターは身体や腕を支える力を抜いていき最後は肩を人差し指で触るくらいまでフェードアウトして、自立させていきます。マニュアルにはちゃんと書いてありますが、隅々まで見る人は少ないです。

学校まだかな

ASDの人たちは変化に弱いですから、新学期に不適応を起こす方が少なくないですが、今みたいにいつ始まるか分からない状態で待たされるのはもっと混乱します。A君は、楽しみしすぎるくらい新学期を待っていたのですが、あけてみると学校は休校だわ、仲のいい友達は違う組だわ、もうふんだりけったりで、この気持ちどうしてくれますか状態で毎日を過ごしています。早く始まって欲しいけど、どうやら連休明けでは難しそうな雰囲気ですが。再開を祈るばかりです。

外出時の支援心得

ASDの子どもは、名前を呼ばれたり、声をかけて呼んでも振り向かず、あたかも無視をしているよう、という特徴がみられることが多いです。ASDの子どもが無視をしているように見える原因には、音の聞こえ方が普通の人とは違うため、自分が呼ばれていることに気がつかないことも関係しています。ですから、一緒に活動していた仲間の声に注意を払う事もかなり難しいです。外出したらASD児の聴覚モードはいつもよりもっと弱くになっていると思って支援することが大事です。

ASDの人には「選択的注意の欠如」という特性があり、周囲の多様な情報の中から自分に必要な情報をキャッチし、不要な情報をカットする、ということが苦手です。そのため、様々な音が聞こえている中で自分の名前が呼ばれても、その音にだけ注意を向けることができず、その結果「無視をしている」ように見えます。また、選択性の課題だけでなく、「みんなー」という全体への声掛けでは自分にも話されているということが分からないことが多いです。自分の名前を呼ばれたら聞けるのにとASD児は思っています。

迷子になりやすいのも、ASDの子どもによくみられる特徴のひとつです。ASDの子どもは大人と一緒に外出した際に、はぐれて迷子になってしまうことがよくあります。ASD児の場合、ワーキングメモリーの働きや選択性注意力が弱いため、外出の目的を忘れたり現在の状況把握ができず、興味のあるものや刺激の強いものを見つけると大人から離れてしまい、迷子になってしまうのです。また、ASD児は、大人とはぐれて迷子になっても、泣いたり不安がったりすることが少ないです。気になるものを見つけるとそれだけに熱中してしまい、自分のおかれている状況に関心が持てなくなっている場合があるからです。

また、みんなの動きが気にならないことも原因の一つです。知らないところにきたら、はぐれないように仲間の動きに注目するものですが、ASD児は、みんなの動きが次の目的の情報とは思わないことが多いのです。だからこそ、視覚的支援で行き先や誰と行動するのかを示しておく必要があるのですが、ASD児の外出時には、人の気を引くために逃げていく人にはスタッフ全員の注意が払われますが、おとなしい人には支援がおろそかになりやすいことがよくあり、見失うことが少なくないようです。ASD児の障害特性を良く学んで外出支援にあたりたいと思います。

愛着形成

低学年のZさんを学校から事業所に迎えました。送迎の車の中で楽しそうにお話していたZさんが事業所の玄関の前で突然泣き出しました。「おかあさんが参観に来たのにさよならも言わずに家に帰った」から悲しいというのです。

「え?今悲しくなった?」とスタッフ戸惑います。ASDの子どもの感情表現は時としてかなりタイムラグがあったりします。それから「参観では、さよなら言わずに帰る母親の方が多いよね?」Zさんだけではないはずと言います。しかもZさん幼稚園ではそんなことで泣いたりしなかったと言います。Zさん、ようやく愛着形成の時機に入ったかもしれません。

お母さんがいなくてさみしいと思うのは乳児期後半からです。その後愛着形成は幼児期前半で一応完成されるとイギリスの精神科医ボウルビィは言います。でも、ASDの子どもは愛着が遅れる人が少なくないのです。小学校に入ってから急に母親にべたべたするようになったりするのがそれです。子どもによって表現の仕方は違いますが、ASD児の愛着行動は遅れるので奇妙に見えるが変ではないと押さえておきたいものです。

 

見えない約束

A君がB君に「今日の自由遊びいっしょにマインクラフトしような」「OK!」とB君引き受けます。C君が帰ってきてB君に「後で遊ぼうな」「OK!」とB君はさっきの約束は忘れて安請け合い。さて、自由時間A君とC君がバトルになります。「B君は僕と約束した」と主張を譲りません。

この人たちは見えていないことを想像するのがとても苦手なのです。「・・・なるほど僕の知らないところで約束したのだな、B君の浮気者め」と想像できないのです。
心の理論課題の「サリーとアン課題」を下図に掲載しました。
1 サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいる。
2 サリーはボールを、かごの中に入れて部屋を出て行く。
3 サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移す。
4 サリーが部屋に戻ってくる。
上記の場面を被験者に示し、「サリーはボールを取り出そうと、最初にどこを探すか?」と被験者に質問します。正解は「かごの中」ですが、心の理論の発達が遅れている場合は、サリーは「知らない」ことが想像できず「箱」と答えるのです。 通常5歳を超えると直感で「知らないこと」がわかると言います。ASDの人たちは高学年にになって理屈で理解すると言います。

相手の心を読むのが苦手なので、それがいじめの原因になったり、就労のつまづきになったり、社会生活上の対人関係の誤解・こじれにつながります。

 

 

スクラッチアート

スクラッチアートとは、アメリカをはじめとする海外でブームの新しいお絵描きです。子どもたちに大人気となり様々なシリーズが発売されていますが、大人向けの本格的絵画をスクラッチするものもあります。

黒いスクラッチ面を専用ペンでけずると、キラキラ光るホログラムの線や、美しい色の線を描くことができます。子どもの頃、クレヨンでカラフルな下地をぬり、さらに上から黒でぬりつぶし、黒い面をけずる「スクラッチおえかき」を体験した人も少なくないと思います。それと同様のしくみを、最新の印刷技術で商品化し、手軽に楽しめるようになったものが「スクラッチアート」です。こういう細かい作業はASDの人の方がダントツに上手です。冬の夜長にこつこつ削る(描く)のもいい感じです。