すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:交渉

「譲ってあげるよ」

 すてっぷの小学生グループのみんなはブランコが大好き。公園に着くと一番にブランコに走っていきます。ただ公園に設置されているブランコは2連のものがほとんど。地域の子がいなくて空いていても、すてっぷのグループの人数では足りません。早い者勝ちとばかりに走っていく子どももいますが、最近では職員が声をかけずとも、子ども同士で「譲って」と交渉する姿が見られるようになってきました。

 先日、4人ほどのグループと職員とで、2連ブランコのある公園に出かけた時のことです。先に着いたKくんとLくんがブランコに乗って遊んでいました。遅れて到着したMくんとNくんもブランコのところにやってきました。そしてそれぞれ、ブランコで遊んでいる2人に声をかけます。MくんはKくんに「代わって」とお願いしました。まだ遊びたいKくんは「60秒したらいいよ」と答え、Mくんは了承。交渉が成立しました。

 一方のNくんも「代わって」とLくんに伝えます。Nくんはすてっぷに来て半年。この2か月ほどでグッと成長を見せ、落ち着いて交渉することが増えてきました。ですが自分の思いが通らないと泣いてしまうことがまだ見られるため、このときも職員がそばで見守っていました。「代わって」と言われたLくんは「もう少ししたらいいよ。」とNくんに答えました。NくんはLくんの言葉にしっかり耳を傾けていますが、とまどっているようでした。そこで職員がLくんに「もう少ししたらじゃなくて、KくんとMくんみたいに時間を決めたら?」と提案しました。Lくんが「30秒したら」とNくんに言うと、Nくんは「いいよ」と答えました。そしてNくんは30秒間、静かに待ち、Lくんが降りてから切り替えよくブランコに乗ることができました!

 社会性やコミュニケーションの課題がある小学生グループの子どもたちも、子ども同士で相談したり交渉したりという力が育ってきています。そこには職員のちょっとした支援に加えて、子ども同士(集団)で学び合うことが、子ども自身の成長につながっているのだと思います。

 この後、Nくんがブランコで遊んでいると、Mくんが遊び終わって空いた席をめぐって、KくんとLくんとでじゃんけんを始めました。するとNくんは2人に声をかけます。「譲ってあげるよ。」Nくんはブランコを降りました。譲ってもらった2人は「Nくん、ありがとう」と伝え、2人いっしょにブランコで遊び始めました。お礼を言ってもらったNくんの顔は、どこか誇らしげでした。

「来週のスケジュールは?」

 支援学校高等部のBくんは、すてっぷでパソコン学習や作業課題に毎回取り組んでいました。ただ、ときには気晴らしがしたいと、公園や散歩に出かけたいと職員に伝えてきました。そこで職員があくる日にお出かけを予定し、Bくんは機嫌よく公園へ出発。元気に体を動かして帰ってきました。ただ、その後でパソコン学習や作業課題に取り組んでいると、休憩時間が短くなってしまいました。するとBくんはイライラしだし、「どうしてパソコン学習や作業課題をしなくちゃいけないんだ」と職員に訴えました。

 職員としては、気晴らしに公園へ行ったのだから、いつものパソコン学習や作業課題をがんばってほしいと思い、帰ってからの課題を予定し、当日のスケジュールでも提示していました。しかしBくんにとっては、公園に行った分、休憩時間が少なくなるとは思っていなかったのでしょう。そして当日のスケジュールを確認し、そのスケジュール通りに取り組まないといけないと課題をがんばったものの、休憩時間が少なくなったことで、課題の押し付け感が生まれたのかもしれません。

 このままでは課題に前向きに取り組めなくなってしまうと、職員間で話し合いました。そして事前のスケジュール交渉に問題があったのではと考え、事前のスケジュール交渉が視覚的に捉えられるようなツールを作ることに。そして、週末に必ず来週のスケジュール交渉をする時間を作ることにしました。Bくんといっしょにツールを確認し、まずは学校から帰ってくる時間と、家に帰る時間を始めに貼ります。そしてBくんが取り組みたい課題を貼り、職員がBくんに取り組んでほしいと考えている課題もそこで提示して、交渉。翌週の利用当日、到着したら最初にそのツールを確認して、その日のスケジュールを自分で作るようにしました。そうすることでBくんの課題の押し付け感は消え、今では前向きに課題に取り組めるようになりました。

 Bくんは会話ができる分、言葉だけでのやりとりだと誤解してしまう分があります。そしてスケジュール通りに取り組まないといけないというまじめさ(=こだわり)が、自分自身のしんどさに繋がってしまう場合があります。そこで、事前にスケジュール交渉をするツールを提示することで、視覚的に意思疎通しやすい中で、今は交渉していい時間だということが分かって、Bくんは交渉に臨めるようになりました。そうすることで、課題に前向きに取り組めるようになるとともに、新しい課題にチャレンジする余裕も生まれました。今はお母さんの言葉もあり、エクセルが使えるようにコツコツと練習に取り組んでいます。がんばれ、Bくん!

「きんようび、ホットケーキ♪」

 支援学校小学部のWさんは休憩中のタブレットが大好き。お気に入りのピンク色のカバーがついたタブレットがほしいと、「ピンクのタブレットください!」と職員に伝えます。ただ友だちが使用中で、職員が「まってね」というと、「ピンクタブレット~!」と大声で叫んでしまうことがたびたび見られました。大声を出したら要求が叶った経験があったのかもしれません。

 そこで、こつこつトレーニング(2022/10/4)で紹介したVくんと同じように、「まって」トレーニングをすることにしました。最初の数秒から少しずつ長くして、職員と交渉して待っていたら約束を守ってもらったという経験を積んでいきました。30秒待つ練習の頃から「まって」カードといっしょにタイマーを渡すようにすると、Wさんには分かりやすかったようです。そこから時間を長くしていっても、じっとタイマーを見て待つことができるようになってきました。また同時に、ほしいタブレットを友だちが使っていたら、友だちに「ください」と要求を伝えに行くトレーニングを進めました。友だちとの交渉には職員が支援に入り、「〇時になったら交代ね」とホワイトボードに書いて示します。そしてWさんにタイマーを渡して、時間になったら交代して友だちからタブレットを受け取れた経験を積み上げていきました。

 これらのトレーニングを、要求が出るたびにこつこつと2年以上続けてきました。すると先日、驚きの成果が! Wさんが公園から帰ってくると、友だちがホットケーキを作っていました。Wさんはそれを見て、「ホットケーキください」と職員に伝えます。しかし材料はその友だちの分しかありません。職員が間に入り、友だちに「1切れください」と伝えてみました。うなずかない友だちを見て、職員が「また今度ね」とWさんに伝えると、Wさんは「きんようび、つくる!」と言いました。次の利用日が金曜日と分かって言ったのです。日をまたぐ交渉ができたのはすてっぷでは初めて。それも自分から! 「きんようび、ホットケーキつくろうね。たのしみ♪」と言って帰っていきました。

 金曜日、事業所に着くなり「ホットケーキつくり、たのしみ♪」と職員に伝えてきたWさん。一緒にホットケーキを作り、職員が勧めたシロップを断り(!)、プレーンのホットケーキを満足げな表情で食べて、お片付けまで完璧に終えました。「あー、おいしかった、ごちそうさま~♪」

なんでイヤなの?

 支援学校高等部のIくんは、最近スケジュール支援が功を奏し、自立的に次の活動に向かえるようになっています。先日は、自立課題のあと、公園へのお出かけの予定になっていました。Iくんは自分でスケジュールに向かい、「お出かけ」カードを次にやることの枠内に貼って、玄関に行こうとしました。すると、「じーっ」という機械音が。Iくんは大の機械好き。そこに他の子のおやつを準備しようと、職員がトーストを焼き始めたのです。Iくんはもうオーブントースターに釘付け。遠巻きにじっと眺め、玄関へ向かいません。担当の職員がIくんといっしょにスケジュールに戻り、次の予定の「お出かけ」カードをもう一度示します。ところがIくんは納得せず、好きなことができる時間のシンボルの「?」カードを取り出そうとします。職員がまた外出を示すと、Iくんは怒ったように、「外出」カードをおしのけ、自分を叩こうとします。

 そこで職員から、「トーストが焼けるまで、オーブントースターを見ますか? 見たら、お出かけします」と伝えました。すると、Iくんはうなずきます。すかさず職員は「じゃあオーブントースターを見ていいよ。ただし、この椅子に座って見てください」と、オーブントースターに手が届かない位置に椅子を置いて、Iくんを誘導しました。Iくんは椅子に座ってじっとオーブントースターを眺めます。「チン」と音が鳴って、職員がトーストを取り出すまで、Iくんは座ったまま。「焼き終わったね。じゃあ、お出かけに行こうね」と職員が伝え、オーブントースターが片づけられて目の前からなくなると、Iくんは切り替えて、職員と一緒に玄関に向かいました。

 Iくんは言葉が出ません。最近になってようやく、やさしく手を払いのけるようにすることで、穏やかに拒否を伝えられるようになってきました。ですが、一度怒りだすと、拒否が激しい動作になり、ときには自分を叩いてアピールしようとします。言葉もないので、慣れていない職員だと、どういうことか訳が分からなくなってしまうでしょう。しかし、その理由を考えると、次の対応が見えてくるかもしれません。今回の場合は、オーブントースターがきっかけの1つでした。それに気づいた職員が、オーブントースターを見てから、お出かけにしようと交渉したのです。

 交渉に応じることができ、落ち着いて切り替えられたIくん。玄関でも職員に、ピアノ本を持って行きたいと交渉します。職員は「持って行っていいけれど、車の中で見てね」と伝えると、Iくんは少し怒ったようでしたが、職員に「さあ、どっちの足から履く?」と言われ、すっと右足を差し出しながら、靴下を手に取ります。職員がすかさずほめると、Iくんは自分で靴を履いて、気分良く公園に出かけていきました。

予告をしてください

Gちゃんが公園から帰ってくると「タブレット~~~!!!」と大騒ぎし,Pちゃんが使っていたタブレットを取ろうとしていました。Gちゃんはタブレットの中でもお気に入りの物があり,それを他の子が使っていると「私が使うつもりだったのに~!」とパニックになります。

Gちゃんは今スケジュールで活動の見通しを持つ練習をしているところです。「きゅうけい」のスケジュールの時は「あのタブレットで遊ぼう!」と決めているのでしょう。

しかしGちゃんの好きなタブレットを他の友達が使っていても混乱しない時があります。「他の子が使ってるよ」と事前に予告をした時です。公園遊びが終わった後,「すてっぷに戻ったら何するの?」と聞くと決まって「おやつして,ピンクタブレット!」と答えます。その時に「あ~…でも○○ちゃんが音楽聞いてるかもよ~?その時はどうする?」と返すとGちゃんは「ポポちゃん?(人形の名前)おままごと?」と代替案を出し,すてっぷに着くと自分で他の遊びを始めます。

上記のように関係性が出来ている職員なら口頭のやり取りでも見通しが持てますが,最初は「すてっぷ」「タブレット」「友達の顔写真」「他の遊び」のカードをセットにして「帰ったらこれ(タブレット)したいんだよね。でも○○ちゃんが使っていたらどうする?この中から選んでね。」と練習をしていました。それを繰り返す内に練習に取り組んでいた職員とは口頭で約束が出来るようになったのでしょう。

Gちゃんの中では「きゅうけい」=「ピンクタブレットで遊ぶこと」になっています。(これは「きゅうけい」カードが抽象的なことも原因ですが…)それが突然崩されるとパニックになるのも当然です。Gちゃんが安心して過ごせるよう,事前の予告を徹底していきたいと思います。

友達との約束

PちゃんはiPadでゲームをすることが好きな子です。特にピンクのカバーを付けているiPadにはお気に入りのゲームが入っている様で,他の子がそれを使っているのを見ると天井に向かって「ピンクタブレット~~!!!」と大声を出してパニックになってしまいます。その度に適切な要求行動に修正をする「やり直し」をお願いしています。

U君がピンクタブレットを使っている時はPちゃんはパニックになりません。落ち着いて「貸してください」とお願いをしに行きます。ここ半年程,U君にPちゃんがピンクタブレット使いたいと適切に要求してきたら拒否しないで『17時になったら僕と交代してね』と交渉する様に取り組んでもらいました。Pちゃんには交代の練習,U君には交渉の練習と言うことで半年間積み重ねてきました。今は,PちゃんはU君との交渉の意味が分かり,U君が「時間になったから僕に貸して」と言うとPちゃんは「どうぞ,ありがとう」と言って渡すことが出来るようになりました。

すると先日,C君がピンクタブレットを使っているとPちゃんは「ピンクタブレット~!」と叫んだのですが,C君がU君と同じように「この時間になったら交代してね」と交渉をするとPちゃんは時間ぴったりに「どうぞ,ありがとう」と渡したのです。U君と約束をする経験を積んでことが他の友達に対しても出来るようになりました。これにはC君も他の職員も驚いたそうです。適切な行動をした時に褒めればその行動は強化されていきます。ABA(応用行動分析)の成果を目の当たりにした瞬間でした。

道に座り込む子

今日は座り込みエピソードが2件話し合われました。E君と初めての公園に歩いて行ったのですが、途中で以前遊んだことのある公園への道を見つけたE君は、そこから押せども引けども動こうとせず道に座り込んでしまったのです。頑として動かなかったので、しかたなく、初めての公園に行くのはあきらめてE君が目指す公園に行ったそうです。

Fさんは広い通りで横断歩道を行ったり来たりして歩くのが気に入ってしまい、職員が制止しようとすると道端で座り込んでしまって困ったという話です。おそらく、横断歩道を渡るときに車は止まってくれるのでそれが面白いので、遊びにしてしまっていると推測します。二人ともまだ低学年なので強制的に移動させたり制止することはできるけれども、それでいいのだろうかという話でした。

この場合はケースバイケースだと思います。Fさんの場合は四の五の言っている場合ではなく、公道での危険行為ですから座り込もうが何をしようが制止します。地域の方もこんな無法な光景を見せつけられたら不安になります。E君の場合は、このままでは座り込んだら要求が実現するということを教えた事になるので交渉が必要です。

E君には言葉がないので座り込むしか方法がないのですが、もしも、それが予測できるなら、行先の絵カードやご褒美を準備して出かけます。行きたがりそうな公園の絵カードも準備します。行く前に、行先の絵カードを示すことは大事ですが、新しい行先に抵抗が多い子どもの場合はご褒美も準備していることを伝えます。つまり、言葉のない子どもと出かける時は交渉のツールをフルスペックとはいかないまでも準備していきます。スマートフォンに必要な画像を入れておくのも一案です。

途中で座り込んだら、二つの公園の絵カードを示し、目的外の公園の時はご褒美がないことを伝えます。そのうえで、目的外の公園を差し出したときには要求を実現します。つまり、座り込んで実現させるのではなく絵カードコミュニケーションで要求が叶う事を教えます。転んでもただは起きぬ作戦です。もちろん、修羅場で絵カード要求や選択を求めても良い結果は出ませんから、毎日のトレーニングが交渉をうまく運ぶ担保になるねと職員で話し合いました。ピンチはチャンスです。

 

なんで?理由を聞こう

言葉のないB君が、以前は取り組んでいた集団遊びの課題を拒否したのでしませんでしたと報告がありました。そこで、B君が穏やかに拒否したのはいいことだけど、何故拒否したのか理由を聞くと「わかりません」ということでした。では、今度も拒否したら課題には取り組まないという事ですかと聞くと、そこまで考えてはいないとのことでした。理由を聞くといってもB君は言葉でやり取りできないので正確には、働きかけてあれこれ理由を探ると言うことです。

確かに、子どもが暴れたりするような不適切な行動をして、大人が指示したことを拒否するよりも、手で押しのけたり首を振って「嫌です」と穏やかに表現する方が良いです。ただ、「嫌です」「あーそうですか」で終わったら、子どもが何故嫌なのかわからないままです。もちろん、嫌だと表現しているのに無理に強いるのはもってのほかですが、いろいろと交渉することが大事だと思います。

「これが終わったら大好きなことしましょう」とか「だったら量を減らしましょうか」等といろいろと交渉をする中で、嫌が好きになることもあります。他にも、気になって仕方がないことがあるとか、単に体がしんどいとか事情が少しづつ分かってくるはずです。嫌を受入れていればトラブルは起こりませんが、それ以上双方が歩み寄ることもありません。通常の生活で言えば「それなら勝手にしてよ」と言っているのと同じです、子どもは大抵「なら勝手にするわ」となります。これでは身も蓋もありません。

交渉は、お互いを尊重し合い歩み寄るためにします。そのためには、嫌の理由を知る必要があります。言葉のない人はうまく言えませんが、交渉する中で見えてくることがあります。案外「もうその内容は飽きた」とか「つまらんねん」とかいう理由が少なくないです。マンネリに気づけば、「よっしゃ!新しい内容を考えてくるわ」と職員が捲土重来を期すきっかけにもなります。交渉は双方が学び合うと言う意味でも重要です。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」…使い方が違いますか。

 

嫌な課題をスケジュールから捨てる子

V君がペットボトル処分の作業に取り組まず、タブレットでユーチューブの動画を見ていました。スケジュール(V君は修行中でまだ2課題程のワークシステム)を見ると、「作業」カードが終了箱に落とされていました。ユーチューブが終われないというよりもう少し手が込んでいて、作業のカードを落として、なかったことにしいるのです。これはスケジュール支援のあるある事件です。

嫌なカードをスケジュールから落としてしまうのは、大人との交渉・約束の意味としてスケジュールを理解していない典型例です。報告してくれた職員は、作業が嫌なのかと思いペットボトル作業ではなく、自立課題でマッチングの簡単な一課題を作業の代わりにさせたと言います。つまり、ペットボトル処分作業が嫌ならこの短時間で簡単に終わる自立課題はどうですかという交渉をしたわけです。

それって、正しい交渉なのかという意見が出てきました。つまり、V君は動画がやめられなくて「作業」のカードを落とせば作業はしなくて良いと認識しており、ここは交渉ではなく「嫌です」表現を職員に向かって行うように教えるべきではないかという意見でした。嫌ですを大人に表現したうえで、あれこれの交渉が始まるのではないかということです。

その通りですが、この場合は動画が終われないだけの事で、本質的に作業が嫌なわけではないかもしれません。それなら、ワークシステムに「ペットボトル作業」の後「タブレット」を入れて交渉すれば、理解できたのではないかとも思います。「嫌だ」は、段階を追わないと子どもが混乱する事が多いので、計画的に教えます。

拒否は具体物を示したときに首を横に振ったり手で払いのける行動から教えていきます。確認したスケジュールを変えると、スケジュールカードとコミュニケーションカードの使い方で混乱することがよくあるので、最初からは教えません。スケジュールの変更を教えるのは、「お楽しみ」の時間に選ぶ行動や「変更します」の場面でいつもと違う事をその場で入れる等して段階を追って徐々に教えます。

V君は週に1回しか来ないので、課題は見えるのですが段階を追った支援で目標にたどり着くのはなかなか難しいですが、家庭と連携すれば学びは早まると思います。

 

約束は守る

言葉のないQ君が通所してきたので、これからすることを伝えました。絵カードで「公園」「ぶらんこ」と「事業所」「おやつ」を示して、公園でブランコした後事業所でおやつにしようという意味です。

公園に行くと、ちょうど雨が降った後だったので、ブランコの下に水たまりができてブランコができずに事業所に帰ってきたそうです。それでは、別の公園でブランコしてきたらどうかと他の職員が指示したそうです。

すると、Q君は事業所を少し出た道路で座り込んでしまいました。それをなだめすかして他の公園まで連れて行きブランコをして帰ってきたそうです。道路に座り込む理由はこの経緯を考えれば明確です。もしもQ君が喋れたらこう言うでしょう。「公園に行って帰ってきたらオヤツだって示したのに、なんでやね~ん!」です。

「いやいや、それはブランコの下に水が溜まってから遊べなかったので、ブランコができる別の公園に行こうとしているわけで・・・」そんな理屈は、すでに事業所に帰ってきたQ君には理解不能です。変更の交渉もなく無理やり連れて行かれたという理解になります。「だから大人は信用できない」とQ君が思っても仕方ないです。

絵カードを示すと言うのは言葉で約束したことと同じです。言葉のわかる子に「公園行って帰ったらおやつにしましょう」と言ったなら、必ず変更の際には、「ごめーん、他の公園行ってからおやつでいいかな?」と聞くはずです。あるいは「なんでやね~ん」と子どもが怒ったら説明して交渉をしたはずです。

言葉だろうが絵カードだろうが約束は守るもので、変更が必要なら交渉するのが世の中のルールです。もちろん変更の交渉をしたからといって、納得してくれるかどうかは分からないですが、それはどの子も同じです。言葉がわからないからこそ、「絵カードを示す大人は信用できるよ」と思ってもらえるように、約束は大事にしてほしいと思います。

 

交渉とスケジュール支援

J君がスケジュールを見てプール遊びは嫌なのでキーボード遊びがしたいとキーボードの絵カードを持ってきました。職員はスケジュールをその場で自在に変更するのは問題があると思ったので、プールの後にキーボードと交渉したけれど本人は納得しないので、外に行くのが嫌なのだろうからと推測して、プットイン(作業)課題のあとにキーボードではどうですかと交渉するとOKが出て交渉成立となったそうです。

この場合、職員が子どもの要求そのものは認めて交渉した点では良かったのですが、問題はスケジュール提示です。J君がスケジュールを理解しているのかと聞くと「課題」「おやつ」「課題」の3個提示位くらいは理解していると言います。それに対して「最初に納得した「プール」は嫌だとキーボードを要求している。スケジュールは交渉成立の証文のようなものだから、それを反故にするならスケジュールは成り立たない」という意見が出ました。

でも、スケジュールは理解しているという職員によく聞くと、最初にスケジュールを本人に丁寧には説明していないと言います。もしも、丁寧に説明していたら、その時点でプールは嫌だという行動があったかもしれないと言うのです。以前にもスケジュールは交渉の最終形だと書きました。(スケジュールの間違った使い方: 06/17)(好き好き交渉: 08/23

絵カードスケジュール支援は子どもの見通しを視覚化することで理解を促すものだという説明が多いですが、それだけでは、子どもによってはスケジュールボードに貼っておけば要求が実現すると思ったり、スケジュールボードから絵カードを外せば回避できると思ったりするASDの子どもは少なくないのです。

こうした誤解を予防するには、しっかりと2枚絵カードで交渉したり、要求物をしばらく待つことを教えるなど、要求と同時に適応行動も教えていく必要があります。その土台がある程度固まったうえでスケジュール支援は成り立ちます。ただ、お互いに了解したスケジュールであっても、大人も子どもも、何かの都合で今はダメだという表出はあって然るべきなので、それを教える段階がいつなのかは議論のあるところです。これは、みなさんに考えて欲しいと思います。

 

好き好き交渉

1年のD君の絵カード理解が進んできました。タブレットの要求。好きな種類のジュースの要求。外出の要求。と区別ができます。では、そろそろ「交渉初級編」に入る必要があります。

交渉を教えましょうと言うと、嫌なことの次に好きなことを強化子にして「~したら~」を示し子どもとトラブっている現場あるあるをよく見ます。順番に絵カードを並べるだけで交渉を理解する子もいるのですが、全く分からない子もいるのです。この場合は、最初に教える交渉の段階は、君の要求したものは後から必ず来るよという事がまずわからないと成立しません。

せっかく好きなジュースを頼んだのに、嫌いな野菜を食べてみませんかと示されたら、いくら好きなジュースが後に示されても応じる事ができません。というか、後にジュースが来ることはこの段階では理解していませんから、野菜を食べるくらいならと拒否するしかありません。これでは交渉の初級指導は失敗です。

交渉の初期は、まずは好きなものとのトレードオフです。好きなジュースとまぁ好きなジュースとか、好きなタブレットゲームとまぁ好きなタブレットYoutubeとか、まぁ、それならいいけどと本人が受け入れられるものを示します。そのあとで本人のものが来たら、そのうちに要求したものが後に示されているカード表示の意味、交渉の意味を理解していきます。

交渉の絵カード指示の意味がわかれば、徐々に本来の交渉に入っていきます。絵カード要求は分かるのに交渉ができない場合の躓きは、ほとんど「嫌い好き」提示で生じています。まずは「好き好き」提示から交渉に入っていけばうまくいくはずです。

性衝動の対処法

Z君が全裸になって床に寝転がっていたので、服を着せて座らせたと言います。おそらくマスターベーションがしたかったのだと思います。言葉で意思疎通できない人のマスターベーションの考え方については(マスターベーション: 2019/11/28)で掲載しました。

「座らせて、それからどうしましたか」と職員に聞くと、何か気をそらせるものを探したそうです。「裸で寝転がって職員が来たら服を着た」つまり、職員が来るまでは裸で寝転がってもよいと伝わりませんかと質問をすると、「でも、服を着せないわけにもいかないし」と話しがかみ合わなくなりました。

「やり直し」を教える必要があると話をしました。Z君はマスターベーションがしたいのですから、「マスターベーションがしたいです」カードを職員に示す行動が必要です。Z君は絵本が見たいとかジュースが欲しい等、PECSで言うとフェイズ3bまでできる人です。それなら「マスターベーション」も要求できるはずです。

でも、事業所ではできませんからおうちの絵とマスターベーションの絵を示して「おうちに帰ってします」と絵で伝えます。これは交渉なのです。ただ「ダメ」ではなく、ここではだめだが家ならいいよと伝えるのです。すぐには伝わらないかも知れませんが、「ダメ」の繰り返しでは介入の「ダメ」だしが出るまで続けると思います。要求と言うのはかなわない時もあります。しかし、双方が意味を共有しあうことからしか何も始まりません。視覚支援を使った交渉はそのために行います。

同じように、Z君は女の子にも興味があります。何かの拍子にタッチしたり抱きついたりします。これも、職員が「ダメ」と止めに入るだけでは、職員の介入があるまでは良いと誤解されてしまいます。「~さんを触りたい」とはさすがに絵カードに示せないので「~さんと遊びたい」に変えてやり直しして、ボール投げや対面ゲームならできることを示します。しかし、これは相手の気持ちもあるので必ず実現はしませんがその時は「また明日遊ぼう」と交渉します。

以前、Z君が女子によく触れるようになったので、女子と一緒に外出してボール遊びなどを意識して取り組んでいました。そのうちに、Z君の触る行動の頻度は減りました。ところが、「のど元過ぎると・・・」で取り組まなくなることや、この雨続きで暇も重なり思い出したように再現しているようです。とにかく早く雨やんでよ!これはみんなの願いです。

 

スケジュールの間違った使い方

新しい子どもに見通しをつけさせたいと、貼り付け式のスケジュールを使う人がいます。子どもは日課に見通しを持ちますが、このスケジュール表を「魔法の表」と勘違いする子どもがいます。対人相互性(対人関係)が弱いASDの子どもはこのスケジュールが大人との関係性で契約された表だとは微塵も思っていないのです。

スケジュールを最初に教えられた子どもたちは、この表に自分の好きな玩具遊びや公園行きのプログラム絵カードを貼り始めます。そして、嫌いなプログラムを捨てます。職員は「だめでしょ」と注意したり、動かせないスケジュール表(印刷したり上から透明板で固定する等)を使わせようとします。(使えんちゅーねん!)

スケジュールスキルは、PECSでは文フレーズを作って要求するフェーズ4以降に登場する高度な社会的適応のスキルです。PECSではコミュニケーションのトレーニング段階と並行させて移動スキルや交渉スキル、要求スキルについて段階を追って教えるようにしています。「~したら~しようね」の交渉が通じない子どもに気に入らないスケジュールを示せば、スケジュール上で混乱が起こるのは自明の理です。PECSマニュアルの243ページから30ページほどは、子どもと交渉をどう成立させるか目から鱗の落ちるアイデアが満載です。ぜひお読みください。

 

 

なんか違う

D君の絵カード要求が頻繁になってきて半年ほどですが、最近10分おきにおもちゃを要求してきます。どうも、要求はしたけど遊んでいるうちに「これじゃない」と思うのかもしれません。

拒否の仕方は以前教えていて、頭を振るのではなく手で押しのける風に教えていますが、これは絵カードと違うものを渡した場合のシチュエーションです。今回の場合は、手に入れて遊んでいるうちに「なんか違う」と思うので「いらない」でもないのです。

生活をしていくためには「欲しいものの要求」手段だけでは生活できません。なんか違う場合どうすればいいのかは、D君の場合は語彙を増やすしかないかなと言う話になりました。D君は絵カードがおもちゃとビデオと食べ物だけだったのです。

外に行きたいとき自分の靴を持ってきていたのに私たちはそれで良しとしていたのです。外出要求を出されるとちょっと待ってとか、後でねの交渉が多くなるので敬遠していた旨もあるのです。しかし、言葉のある子だって、どっか行きたいとか言うわけで、毎日大人は子どもと交渉しているわけですから、D君だけ交渉しないわけにはいきません。

外に行く場合は、車に乗る、ブランコであそぶ、お店に行く、公園にいく等外出シリーズを作ることにしました。ついに「あとでね」とか「今はダメ」をD君に教えなければならない段階に入ったわけです。さてどうなることやら。

 

交渉

W君に作業の打ち合わせで10本の空き缶つぶしをお願いすると、W君は「8本」と交渉してきました。そこで、スタッフ側も「では5本で休憩入れて2回のインターバルでお願いします。」と再交渉すると「わかった」と契約成立しました。「おやつは何がいいですか」と聞くと「グミ8個!」とさっきの「8」を引きずっている様子なので、「グミ2個を2回でどうですか」と聞くと「わかった!」とこれも契約が成立しました。

わずか10本の空き缶つぶしですが、言われたからやるのではなく、報酬も要求しながら自発的に取り組んでほしいという願いが私たちにはあります。もちろん言い値で了解するのではなく、お互いに駆け引きしながら合意していくプロセスを大事にしたいのです。今は、作業の量ではなく取り組むときの質=受け身ではなく自発性が大事だと考えています。

ご褒美制とトークン

Z君は省エネタイプで、気持ちが乗らないと車からも「降りません」といって時間がかかったり、山歩きでも「行きません」と座り込んだままだったり、事業所で作業課題があっても「やりません」と言ってソファーで寝てしまったりすることがありました。

Z君は本当にやる気がないからやらないのか、やることが十分わからないからやろうとしないのか、自分にとって価値がないからやらないのかよくわからないなぁという話になりました。でも、やる気などと言う抽象的なものは調べることができないので原因としては除外しました。何をして終わったらどうなるのかスケジュールでは示しているけどよく理解していないのではないかという議論になりました。事業所に来た時に、スケジュールの説明をするときに「~が終わったら~だよ」それでも「~しない」と言ったときは、「じゃぁご褒美にこれ食べますか」「食べます」というふうに契約を成立させて取り組んでもらう事にしました。今後は、一回一回ではなく、何回か目標が達成出来たらお気に入りのものを話し合ってボーナスを出すというトークンエコノミー法を取り入れていけるようになったらいいねと言う話をしています。

枠組みと交渉

絵カードコミュニケーションのP君が家庭で明日のスケジューリングの際に、学校の後の放デイ事業所のカードを外して、明日は行かない意思を示しました。おうちの方は、こんな要求は珍しいから何か理由があるのだとその要求を認めました。それから本人はずっとどこの事業所も行かない意思を示し続けています。

P君にしてみればたまたま要求が叶ってどこにも行かず家で過ごしてみると、なかなか快適だったのかもしれません。この場合、どういう課題があり、どういうアイデアがあるのでしょう。要求は、社会の中で一定の約束(枠組み)の中で認められます。今回は、交渉と契約、視覚的強化システム(PECSマニュアル13章)の課題とアイデアが必要になってきていると思います。(続く)