すてっぷ・じゃんぷ日記

タグ:自尊感情

自力通所と自立

V君は小学校を卒業したので、すてっぷは卒業です。中学校では読み書き困難の学習支援を得るためにじゃんぷを選択して4月から通所することになっています。じゃんぷは放デイですが送迎支援はしません。認知特性に適した自立学習や自己認知を療育の柱とするじゃんぷは、学習を柱にして療育が成立します。

すてっぷなど遊びを柱にして療育を展開する放デイと違い、じゃんぷは通所しようとする本人の意志が重要です。良くなりたい、頑張りたいという思いは行動から作る必要があります。自力通所する中で療育に向かう姿勢が作られていくと考えています。

親に送迎されても本人自身に変わりたいという思いがなければ療育は成立しません。高学年になれば、自立性や自発性を引き出して自尊心を自分で育てていく自我の確立期に入ります。大人から指摘されて反発するのも自我の発動です。しかし、自分が独立した存在であるという具体的な拠り所=自立感がなければ、自我は空回りします。

私たちは一人で通所することが自立心や自尊心の育ちにつながると考えています。じゃんぷの場合は乙訓全域から利用されるので電車通所や自転車通所が必要となります。今までは、校区周辺だけを生活圏としていた子どもが習い事などで目的をもって遠方に一人で移動するのは自我の確立には良いことです。

さて、V君は、帰路は1回で覚えたのですが、往路の西向日駅からじゃんぷまでの道がどうしても覚えられません。わずか5分の距離で駅から2回曲がるだけの往路なのですが、空間認知の苦手な彼には帰路からの道とは別物に見えるらしく、どうしても覚えられないようです。道に迷う事を職員は想定済みなので、大事には至りませんが、本人は流石にうんざりしています。

「V君が道に迷うのは、見たものの位置を記憶するのが苦手だからだね」「知ってる」「だから、迷った時に混乱しないように地図とメモを用意したよね」「でも、2回とも家に忘れてきてん」「なんでかな」「忘れたらアカンという事を忘れた」「では、次回のためにリュックの中に地図は入れたままにしよう」「わかった」と下を向いて不安そうに頷きます。でも、一人で電車に乗る自分にはV君は結構満足しています。3回目の再テストはきっと成功するはずです。

内省と自尊感情

職員会議で「今日は感動しました」とY君の報告がありました。Y君はこれまで人が困っていても我関せずで、友達のために助けてあげてと言っても「なんで俺がやらなあかんねん」と文句を百倍にして返して、自分が客観的にみんなにどう見えるかなど考えもしてないようでした。そしていつもぼやいているのは「俺なんかあほやし」「働くところも将来ないし」と自己イメージも大変悪い子どもでした。

ところが、先日1年生のZ君がお気に入りのタブレットをしようとしたらみんな貸し出していてなかったので、職員が誰かZ君に貸してあげて欲しいと全体に声をかけたのです。結局、他の子どもが使い終わったのでZ君は泣かずに済んだのですが、Y君があとで職員に向かって、しみじみと呟いたそうです。

「あんな、Z君にタブレット貸してくれる人って聞こえた時、6年の俺が貸してあげなあかんと思ってん。思ってんけど、でもまだ使っている最中やったし、『貸してあげる』って言えなかった。あかんなって分かっているのにできなかった」と職員に伝えたそうです。「君の揺れる気持ちは良くわかったよ。今度頑張ろう」と職員は言葉を返したそうですが、Y君はまだ内省を続けている感じでした。

Y君は近頃「ありがとう」をいつも言うようになっているのが職員の間でも話題になっていました。「Y君、ディスるのがなくなって柔らかくなったね」と言われていたのです。これまで叱られてばかりだったのが、簡単な約束でいいので、できたらご褒美あげるのと同時に思いっきり褒めようと言うのがこの半年の支援方針でした。それが効果があったのかどうかは分からないですが、環境変化として大きく変わったのは約束した行動を褒めることを半年積み重ねたことです。

自尊感情の低い人は、そもそも褒められ経験がありません。しかも、発達障害があると、他の子どもには簡単なことでも、不注意や忘れ物で悪気はないのにいつも叱られる事が続きます。そんな彼らに、活動の前に「○○をしよう」と約束をして成功したらご褒美と共に強く褒める事を続けていくと、自尊感情は少しづつ高まっていくのです。ただ、年齢が高くなればなるほど、叱られ体験が多ければ多いほど自尊感情の積み上げに時間がかかる人は多いようです。

ご褒美について訝られる方もいますが、他者感情の読み取りの苦手な人にはご褒美の嬉しさ(感情)と褒め言葉を結びつける連合の過程が必要だと考えられます。これは失敗に罰や叱責を与えるより、永続的な効果があることが科学的に証明されています。褒められて嬉しい感情体験で徐々に彼らの心は快復していきます(感情を学ぶ:2019/11/05)。そうして自尊感情が高まれば、「良き自分」がどういう自分なのかわかってきますから、自分の課題も見えてくることになります。Y君の言葉は「良き自分」を目指した内省の言葉だったのだと思います。

私たち抜きに私たちのことを決めないで

以前、お買い物でリマインダーの重要性について掲載しました。コンビニでお買い物03/19 自分で選ぶこと決めることの重要性03/25  コンビニ作戦04/06 結構このシリーズはたくさん掲載しています。

さて、ℤさんは今回はもうスパゲッティー弁当って言うに決まっているから、スタッフがお決まりのスパゲッティー弁当のリマインダーを持たせて買い物に行きました。そうすると、突然以前の「コンビニ→飲み物」モードが蘇って、お茶を買わないと帰れなくなりました。

突然の行動で考えられることは二つです。Zさんが、お弁当買うならお茶も買おうとたまたま思いついたか、もう一つは、いつものスパゲティーだからと選択の機会を奪われて納得がいかなかった上の行動かの、どちらかです。しかし、今となっては証拠がないので何とも言えません。

従って、以下のスタッフの思いは全くの憶測ですから、正しいかどうかはわかりません。Zさんのたまたま思いついた行動かもしれないというのも否定できません。しかし、あえて、Zさん達の支援をするときに心にとめておきたいことだから書いておきます。

リマインダーは記憶を助けますが、それは自分で選んだものを記憶して購入できたからこそ自立心や自尊感情が育つのです。言われるがままに自分が食する弁当を買っても、それが結果的には自分の欲しい同じものであっても、選ぶと言うプロセスが抜けているのです。「私たち抜きに私たちのことを決めないで」というのは障害者権利条約の肝ですが、これは日々の彼女らの自尊感情の育ちにも大きく影響していることだと考えています。

 

 

 

 

絵カードスケジュールは何のために貼るのか

V君が久々に通所してきました。V君はトイレの個室が苦手です。原因は分からないのですがドアを開け放っておくか、人が付いていく必要があります。今日も、声掛けなしには行けなかったので、どうすればひとりで行けるんだろうと話し合いました。

考えられることは、トイレへの拒否感もあるが、その繰り返しから大人が促してトイレに行くと言う行動ルーティンが形成されおり、自分で尿意を感じて一人で行ったり、外出の前に自発的に行く行動は形成されていないのではいかという話になりました。それなら、まずはスケジュールにトイレタイムを設定して通所時に示して意識してもらい、忘れているようならトランジッションカードを渡してトイレタイムにまず自ら気づいてもらうことが大事だと話し合いました。

トイレに一人で行くかどうかの前に、まず自分でトイレの時間に気づくことが必要で、大人が必要ならついてきて欲しいと言ってもいいということにしました。ついでに、話はそれたのですが、スケジュールはASDの方のためだけではなく、記憶できない子だからと大人に頼るのではなく、一人で日課を過ごす自立性と自尊感情を育てたいと言う目的から使っているという話もしました。

自尊感情と山のぼり

Y君が、山登りはしんどいから嫌だ」と朝から予防線を張ってきます。今は全日プログラムなのでずっと室内と言うわけにもいかないし、ずっと公園と言うのも芸がないので、お天気の日は朝一西山に登りに行きます。と言っても、近所の光明寺までは車で行くので、往復2キロ30分で高度差200mもありません。山登りと言うよりは散策に近いです。

今日は保育所の年長の子どもたちとも出会いました。保育所から全て徒歩なので往復4キロは歩いています。なのに小学生高学年にもなって坂道が耐えられないのです。トホホ。

でも、小さい時を思い出すと、マラソン大会とか山登りとか嫌でしたと言う人はたくさんいます。あの嫌さ加減はイケイケの大人が、自分のペースを崩してくるのでしんどいのです。だから、決してイケイケとは言わないのですが、それでもしんどいことは嫌なのだそうです。「もうちょっと、もうちょっと」と思って歩いて、必ず行きつく山だからこそ、だんだん強くなっていく自分が分かるので、自尊感情の形成には最高なんですが、やっぱだめですかー。困りました。

 

冬休みの宿題

小学校も今日から冬休み。学校の先生方とも良いお年をと言葉を交わして「お迎え」をしてきました。子どもたちは「早く宿題を終わらせて楽しく冬休みを過ごしたい」とそわそわしています。その一方で「どうせまた苦手な繰り上がり下がりの計算問題があるから憂鬱やねん」「憂鬱なものからさっさと終わらせたいねん」と話します。

学校は相変わらずドリル一本やりの宿題が多いです。それがワーキングメモリーの弱い子どもたちに学習性無力感を与えるものだとは知らないようです(知ってたら問題ですが…)子どもの嫌うドリル学習をいくらやってもワーキングメモリーは鍛えることはできません。脳は楽しいという情動で学習が成立するからです。

もちろん速音読や暗算やNバックトレーニングはワーキングメモリーを鍛えます。ワーキングメモリーを鍛えることは物事の段取りや見通しの力というプランニングの力も伸ばしていきます。つまり人に頼らないで過ごせるのですから、生活の自由度は増大します。自由に生活ができれば、自尊感情は当然高まります。

しかし、ここで、鶏が先か卵が先かの話をしていてもしかたがありません。要するに苦手な音読や暗算とは思わせずにワーキングメモリーを鍛える楽しい学習をどう演出するかです。デジタルデバイスを利用してゲームのようにトレーニングする機器も出ています。高額ですし、誰にでも効果があるのかどうか確認できないので、お勧めはできないのですがいくつか商品化されているものもあります。http://www.cogmed-japan.com/

ワーキングメモリー 05/07」でも書きましたが、この力は生活に欠くことができません。ワーキングメモリーのピークは30歳だそうですからどの子も伸ばせる可能性があることは確かです。

赤が改善状態の悪化したもの 黄色が不変 緑が更に良くなったもの

私けっこう得意かも

ニットクイックルーム(大型リリアン編み)を手芸に提供してみたら、結構うまく編めました。にんまりして「私けっこう得意かも」とどんどん編んでいくBさん。手にマヒがあってもこれなら編んでいけます。とっても誇らしげです。

おやつにオムレットを作ったのですが、不自由な手で粉を計量してると後ろから「もうちょっと」「あー多かったかなぁ」と外野がうるさいのでBさんしょんぼり。一人でできること=大人に介入されないこと=自尊感情が高まること、その逆は一人でできないこと=大人にしょっちゅう指示されること=自己否定感が高まること、を学んだ一日でした。