すてっぷ・じゃんぷ日記

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「ラーメン美味しいね」

 支援学校高等部のHくんは、すてっぷでトークン・エコノミー法を活用しながら、生活自立や対人コミュニケーションのトレーニングに取り組んでいます。トークン・エコノミー法は行動療法のひとつで、トークン(疑似通貨のことで、支援の場ではシール・コイン・スタンプなどがよく使われています)を使うことで、がんばったこと、褒められたことが視覚的見て分かります。さらにトークンを溜められたら好きなことが出来るという約束を大人(支援者)と事前に決めておき、より自分でがんばれることを増やしていけます。

 Hくんがトークン・エコノミー法でがんばっている行動目標は以下の通りです。

・準備や片付け(友だちとの活動の中で)

・適切な対人距離(具体的に何歩の距離で会話するなど)

・休憩時間に適切に過ごす事(暇だと感じた時に、室内でボール遊びをするなどの不適切な行動をするのではなく、座って遊べることや職員と会話することなどを選んで要求できるように)

これらの行動目標をすてっぷに来たら職員と確認し、帰宅前に振り返って、達成できた項目はチップを貰って貼っています。この支援を半年ほど続けてきました。

 最近のHくんは、適切な対人距離を保てたり、準備や片付けを率先して行ったりする中で、友だちとのコミュニケーションが以前よりも適切にとれる姿が多くなっています。以前は、Hくんとあまり話すことが少なった友だちも、Hくんが準備や片付けを行う姿や、Hくんが「お茶、欲しい人?」とお茶汲みの手伝いをする姿を見て、「Hくんありがとう。」とお礼を伝えています。友だちからHくんに話しかけることも増えてきました。もともと自分からコミュニケーションを取ろうとするHくんですが、人からのアクションを受け止めて応えることは苦手で、一方的なコミュニケーションになりがちでした。なので、友だちと双方向でコミュニケーションが取れる機会が増えたのは、とてもいいことだと職員は感じています。

 さて、職員とトークンを溜めた時のお楽しみを約束していたHくん。最初のころは大好きな古墳巡りに行っていましたが、先日行ってきたのは来来亭。Hくんは事前に何を注文するかを調べたり、来来亭公式の配信動画もチェックしたりなど、気合を入れて準備してきました。楽しみにしていたラーメンを食べるHくん。いっしょに食べている職員に「美味しいね。美味しい?」と尋ねます。いっしょに味わえたということも、ご褒美のうちだったのでしょう。また次の楽しみに向けて、日々の目標を頑張っていきましょう。

「○○ありますか?」

 リリアン編みにチャレンジ(2022/8/2)で紹介した支援学校高等部のRくん。利用日に少しずつ取り組み、1mほど編んで筒状の生地編み物を作りました。それからまた新しく、リリアン編みを開始したのですが、前とは比べ物にならないほどのスピードで、もう2m以上も編み続けています。これにはとある理由が。

 もともと車が大好きなRくん。以前からも、家に帰るときにこの車に乗りたい!と「ノアありますか?」と職員に尋ねることがありました。そしてRくんがリリアン編みにチャレンジしていた昨冬、すてっぷの送迎車として新しくルーミーがやってきました。さっそく興味津々のRくん。「ルーミーありますか?」と職員に尋ねます。このときのRくんはリリアン編みや作業課題に毎日取り組んでいたものの、切り替えが悪かったり手が止まったりすることがありました。そこで職員は、トークンエコノミーシステムの目標にルーミーに乗れることを設定し、そのためにリリアン編みや作業課題にがんばろう!と提案しました。

 すると効果てきめん! Rくんはしっかりと目標を持ち、スピーディーに取り組むようになりました。切り替えよく課題に向かい、手が止まることもほとんど見られません。最初は苦手だったリリアン編みの毛糸のセット。職員に見本を見せてもらいながらも「いーやー」「てつだって」と職員にセットしてもらっていました。ところが編む回数の目標も増えて、早く取り組みたいRくんは職員にセットしてもらうよりも自分でセットしようとチャレンジ! 職員に教えてもらいながらだんだんと自分でできるようになり、ついにできたときは「やった!」と喜んでいました。

 今では自分で次々と毛糸をセットし、一巻きするごとの回数も自分でペンを使ってチェックし、確認できるようになったRくん。課題が終わったらトークンシールをもらい、喜んで表に貼っていきます。表が貯まったRくんは念願のルーミーで帰宅。満足しながらも次の目標もルーミーに乗ることを選んで、日々の活動を頑張っています。やりたいことを要求できたRくんに、すぐにトークンエコノミーシステムで支援をしたことで、Rくんは自発的ながんばりを見せてくれました。子どもの要求は最大のチャンス、すかさず支援していきます。

古墳に行けるかな?

 支援学校中学部のIくんは、誰にでも話しかけてフレンドリーな性格。ただ、話しかけるときに相手との距離が近すぎたり、相手が活動中でも話しかけるなど相手の状況が見えなかったりで、適切に話しかけられるようになることを課題にしています。

 そういうことが見られたときは、近くにいる職員が話しかけるときに気をつけることを伝えるのですが、なかなか積み重なりません。やはり友だちが大好きなIくんにとっては、マナーを守ることの意識よりも、友だちに話しかけたいという気持ちが勝るのかもしれません。また、言葉だけでは意識しづらいため、視覚的に分かる方がいいのでは、と職員間で話しました。

 そこで、I君本人が目標に対して自分で考えて動けるようになれたり、目標を意識しやすくなったりためのツールとして「古墳行けるね表」を作りました。

I君は古墳巡りが好きなので、古墳やはにわをモチーフに作成しました。

①    友達や職員とちょうどいい距離で会話や活動ができた(距離が近くなりすぎない)。

②    遊び道具や活動の準備・片付けができた。

③    帰る前に職員と一日のふりかえりができた。

の目標1つができるたびに、はにわカードがゲット! はにわカードが3つ貯まると次回、すてっぷに来た時に古墳に行けるようになるというものです。

 職員がこの表のことをIくんに説明すると、Iくんはよく理解して、はにわカードの実物を見て喜びながら「頑張る。できそう。」と意気込んでいました。さてI君は、目標を達成できて、古墳にお出かけできるのでしょうか。また紹介したいと思います。

 

高すぎた目標

W君の指導の事後評価を行いました。W君の目標は、仲間に誘われたら遊べるとか、自分の思いを伝えられる等、社会性やコミュニケーションについて支援学級の子どもによく見られる目標設定でした。けれども、W君はASDの対人相互性の発達に課題があり、目標が高すぎて「達成せず」と評価せざるを得ませんでした。もちろん、あてずっぽうに書いたのではなく、相談事業所から送られてきた資料を基に作成した支援計画で、五月に職員みんなで検討をしたものです。

しかし、今読むとどう見ても支援学級でお友達と話すことが楽しいと感じる子どもの支援計画にしか読めません。W君は、言われたことはある程度理解するし、少しおしゃべりもしますが、応答のおしゃべりがほとんどで自発の表出コミュニケーションが弱いです。人を特定して話しかけていないなど、コミュニケーションの基本のところで課題があるようです。公園遊びでも、誘われれば後ろからついてくるし、みんなと一緒にいるのは楽しいのですが、友達のしていることには興味がないので未だに一人遊びのままです。順番等友達の行為に着目することを目標にするべきだと話し合いました。支援学校の子ども達中心に取り組んでいる的あて等の少人数遊びの方がやるべきことがはっきりして達成感もあり楽しめそうです。

初めて通所利用する子どもの場合、学校や学級在籍、以前の情報を頼りにしてしまい、本人の実態と違う目標を設定してしまうことがあります。間違いを修正するために、相談事業所のモニタリング制度はあるのですが、相談事業所の抱える件数が多すぎて、丁寧に検討できないのかあまり役に立ちません。もう少し、検査結果などフォーマルデーターを提供してもらえれば良いのですが、子どもによってデータの提供量も違います。身辺自立が確立しており顕著な行動問題がないことは、とても良いことですが、療育目標を設定する際には認知特性の情報が欠かせません。周囲が困らないことを基準にするのではなく、本人の特性に応じた目標精度の高い療育を提供していきたいと思います。