掲示板

1. 保護者の子どもの障害受容

投稿日時: 2020/01/14 staff2

早期の気付きと、早期からの支援が後の子どもの成長発達に効果的なことは言うまでもありません。子どもに何らかのつまずきがあるのではないかと気付いた場合は、早いうちに専門機関等に相談し、場合によっては診断を受けておくことが望まれます。LD、ADHD、高機能自閉症は、全般にわたり発達に遅れがあるわけではないので、気付くことが難しいと言われることがあります。しかし、その一方で、親の会の調査によれば、言葉の遅れ、特定のものへのこだわり、動作がぎこちない、集団行動が取れない等の特性から、大半の保護者は3歳位までに子どもに何らかの障害があるのではないかと気付いています。LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちは、幼児期には診断が難しい場合や、その状態が成長に従って変わってくる場合もありますが、保護者は子どもが得意なこと、苦手なこと等、子どもの特性をきちんと把握し理解した上で、それに合わせた援助や療育に将来を見据えて取り組んでいくことが大切です。

一般に、保護者が子どもの障害に気付き、受容に至るまでには、下記に示すようなプロセスを経ていく傾向があるとされています。多くの保護者から、もっと早く対応しておけばよかったという声があがっています。障害を受容していくことは難しいことですが、結果として子どもにもよい影響を与えることにつながります。
1 疑念・混乱
LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちは、乳幼児期には育てにくかったり、逆に手間がかからなかったりする場合もありますが、通常の発達とずれを示すことがあります。幼児期には、何か気になるという思いを多くの保護者が感じるようです。落ち着きがなかったり、集団行動が取れなかったりする場合には、育て方の問題として責められる場合もあります。原因が分からないために、子どもの様子に心配を抱きつつも否認したり、混乱に陥ったりしてしまいます。
2 ショックと安堵
こうした葛藤の時期を経て診断を受け、LD、ADHD、高機能自閉症といった診断名が付いた時には大きなショックを受けます。一方で、育て方の問題ではなかったことが明確になったことで、多くの保護者が一瞬ほっとした気持ちになります。
3 努力・挑戦
そして何とか発達の遅れを取り返そうという取組が始まります。親子ともに目の前にある課題や行動等に対して一所懸命取り組みます。
4 障害の受容
以上のような段階を経て、子どもの状態を正面から受け入れられるようになります。目の前の課題に背伸びして取り組むのではなく、将来を見通して現実的な対処への取組を始めます。適切に支援・療育を重ねていくと、苦手な部分を克服したり、得意な分野で補うことにより問題を克服したりして、目立たなくなるケースもあります。しかし、各種の支援や療育を重ねても、どうしても克服できない苦手な部分が残り、生涯にわたり何らかの困難を伴うケースもあります。

LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちは、一所懸命やっているのに勉強がうまくいかない、周囲から仲間はずれにされ、忘れ物をして先生から叱られる等、成功体験が少なくストレスを貯め込んで、自信を失ってしまったりする場合があります。こうしたことの積み重ねで意欲を失ってしまったり、いわゆる二次的な障害に陥ったりする場合もあります。家庭内では、小さな成功体験の場を作ったり、よいところを誉めたり、好きな遊びの時間を作ったり、自信を付けさせたり、精神的に解放される場面を作ったりすることが大切です。

また、本人が自分は他の人とはどこか変わっていると気付き、思い悩む時が来ます。子どもがそのようなサインを出して来た時には、子どもの不安を解消するために、子ども自身の自分への気付きに添って説明することが必要です。子どものよい点を話題にし、人はそれぞれ個性や違いがあり、得意なことや苦手なことがあること、障害や困難は子ども自身のほんの一部に過ぎないこと、苦手な部分を補うためには努力が必要なことなどを、子どもの自尊心を尊重しながら、理解できるように説明することが大切です。さらに、保護者は親として子どもの養育に取り組むだけでなく、よき支援者であることが求められます。時として叱ったり、厳しく教えたりすることも必要となりますが、そうした中にも子どもが常に保護者の愛情を感じ取れるよう心がけ、子どもの心を支え続けるよき理解者として、共に歩んでいくことが大切です。

LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちは「中枢神経系に何らかの機能不全がある」と推定されていますが、原因は完全に解明されているわけではありません。また、医学的に根本的な治療をする方法もないというのが現状です。これらの子どもたちには、医学的な診断が必要な場合がありますし、医療からの支援が有効な場合もあります。特にADHDについては、子どもによっては症状の抑制に高い効果を示す薬があり、薬物療法が用いられることがあります。

ADHDの薬物療法はあくまでも症状を一時的に抑制するものであり、根本的に治療するものではありません。しかし、注意集中困難などの主症状を一時的に抑制することにより、療育に効果が出てきたり、本来もっている能力を発揮したりすることが期待できます。

子どもに自信をもたせ、自己の存在感、生きがい等を育てていくことが、二次的な障害を未然に防ぎ障害を克服する力となっていきます。保護者は、時には叱ったり、厳しく接したりすることが必要ですが、その場合でも「私は貴方が可愛くて、好きで、誰よりも愛している!」というメッセージを絶えず送り続けることがとても大切です。子どもの困難を克服していくためには、子どもと保護者が信頼関係を築き上げ、一緒になって取り組んでいくことが必要です。そのためには上述の愛情のメッセージとともに子どもを認め信頼している姿勢を示すことなどから、家庭の中で子どもとの信頼関係を築き上げていくことが、人間として人生を豊かに送るための土台づくりになっていきます。特に知的に高い子どもほどLD、ADHD、高機能自閉症かどうかの見極めが困難な場合があります。性格の偏りなのか見極めが難しい場合もありますが、発達のアンバランスを生活全般にわたって観察することにより見分けることができます。早期に発見し、適切にかかわっていくことが、将来の社会生活をスムーズに送れるようにするために何より大切です。

勉強面や生活面など不得意な部分の改善に一所懸命取り組んでいると、いつも注意をしているような状況に陥ってしまいがちです。こうなると、かえって逆効果になり、子どもと保護者がともに精神的にまいってしまいます。これだけはというポイントに絞り、細かいことはあまり注意しないことが時には必要です。LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちの中には、学校の勉強は何とかこなすものの、基本的な生活習慣が身に付かないまま、成人期を迎えてしまう場合が多く見受けられます。整理整頓、金銭管理、身だしなみ、忘れ物をしない等は自立に欠かせないスキルであり、将来を見据えて幼少期から日常生活の中で計画的に取り組んでいくことが大切です。また、家事などの手伝いに取り組ませることも大切です。洗濯物たたみ、食器洗い、部屋の掃除、風呂の掃除など、子どもが一人で行うのが難しいことは、最初は一緒に取り組み、徐々に援助を減らして、一人でこなせるようにしていきます。やり方を覚えた時や、手伝いができた時は必ず誉めるなど、意欲を高め、楽しく取り組めるように心がけます。

こだわり、自分勝手、強迫観念、対人関係の形成の困難さ等、子どもたちがもつ特性は、周囲の理解を得ることが難しく、学校生活だけでなく将来自立し社会生活を送って行く際にも問題になってきます。この子どもたちは、経験のないことについて頭では判っていても実際の場面でうまく対応できないことがあります。本人の特性を生かしながら、社会に適応していくためには、人間関係をスムーズにしていくための対応の仕方を身に付けていくことが大切です。様々な経験や体験学習をする中で考えさせながら、対処方法を身に付けさせたり、行動の自己調節、自己制御の心を育てたりすることも必要です。子どもが自己制御を身に付け、多動、パニック等の行動面の問題を克服していくことは簡単ではありません。無理じいや周囲の焦りは、かえって逆効果になることもありますので、じっくりと取り組むことが必要です。本人がストレスを少しずつ発散でき、親子ともに精神的に解放できる場を作ることも忘れてはならない大切なことです。

LD、ADHD、高機能自閉症の子どもたちは、全般的には知的発達に遅れがなく、周囲から学習面の遅れを本人のやる気のなさや努力不足と思われがちです。しかし、視覚・聴覚等の認知特性や注意集中等に困難があるために、子どもそれぞれに、得意な分野、不得意な分野があります。学校の先生とも相談しながらその特性に合わせた取組が必要です。家庭で勉強に取り組む時にも、学校の先生に相談しましょう。また、専門機関を利用している場合は、担当の先生とも相談して、役割分担をしながら、一貫性のある指導となるよう心がける必要があります。

不得意な分野については、子どものつまずきを把握し、スモール・ステップで取り組みます。不得意な分野で追いつめたり、無理に努力を強要したりすると逆効果になりかねません。小さな成功や努力を誉め、自信や意欲を高めるように心がけます。例えば計算については、電卓を使うなどの補助具を活用することにより、その問題を克服していく方法もあります。机上の勉強では理解が難しいことでも、身近なことや実体験に結び付けると理解しやすくなります。例えば、今日学校であったことを話す、旅行に行く場所を一緒に地図で調べる、アルバムの写真を見ながらその時の話をする、買い物の計画を立てて金額を計算してみる等、実体験と結び付け、楽しみながら取り組めるようにすると効果的です。不得意な分野にばかり目を向けるのではなく、得意な分野を伸ばすように心がけることが大切です。得意な分野が伸びてくると、やればできるという気持ちが育ち、本人の自信にもなります。また、このことによって不得意な分野をカバーすることや、自立に生かすことにつながりますので、うまく支援していくことが大切です。